記憶泥棒2
「絶対お前ズルしただろう...」
「往生際悪いですよ♪」
「じゃあ何であの時一瞬意識が飛んだ。最初男が入って来たんで慌てて入れ替わって俺の意識飛ばしたんだろ。んで女が入って来た瞬間元に戻した。そうだろ!」
「だったら近くに先に入ってきたと思われる男の人は居ましたか?」
「負けたショックであの時ちゃんと回りを見渡して無かった…クソッ!失敗した。時計位は見とくんだった」
「勝負ごとするなら不公平が無いか、まずルールを確認しましょう♪確認を怠った時点であなたの負けは決まっていました♪」
「だいたいオマエだけズルいぞ何で乗り移れる。無くした記憶返せよ」
「私だって意識を共有出来ないこと多いんですよ♪朝だって危うく桜さんを見落とすとこでした♪」
「桜なんかどうでもいいだろう!」
昼休み。さっきから自分の机に突っ伏して、寝たふりをしながら頭の中で会話をしている。
俺は頭の中のコイツの言う通り、この体をコイツと共有している。普段、俺が意識有るときは自分で体を動かし、コイツは頭の中で会話してくるだけだが、たまにコイツに体を乗っ取られたりする。その時は俺の意識は一切無い。だからコイツが乗り移ってる時の記憶は俺には無いのだ。しかも俺の記億を消したりする操作も出来るみたいで、長い時は何ヶ月分も消すから残念ながら俺には修学旅行の楽しい思い出が無い。
コイツがいつから現れたのか余り定かではないが、小学生の頃には頭の中にいた。最初は人間皆こんなものだと気にもせずにいたのと、友達も少なかったので誰にも打ち明けず今に至っている。お袋に話そうかと思ったことも有るが、コイツに心配するといけないからと止められた。確かに只でさえ心労耐えないのに子供が何か解らない状態だと可哀想だ。
昔は話相手が居なかったので、苦にはならなかったが最近どんどんコイツの思考が女っぼくなるので困っている。
だいたいこコイツは何なんだ?宇宙人か妖怪か?俺は生まれつき霊感が強くてイタコになって憑依されてるのか?
「だからあなた本人ですって♪私の意識が有るときに考えごとしても筒抜けですよ♪コイツ、コイツって♪」
「でも俺はオマエの考えてることが読めない。これって不公平じゃないか...」
「その代わり体の所有権の大半はあなたなんですからお互い持ちつ持たれつじゃないですか♪」
「解せん」
突っ伏した状態で目を開けた。
クラスメイトは幾つかのグループに分かれて談笑している。
正直俺は、同じ中学出身の仲間が居なかったのも有って、クラスに溶け込むタイミングが遅れてしまっているのだ。
スマホも持ってない俺は共通の話題のネタも乏しく、虫媒花の如く向うから話しかけて来るのを待つしかない。
「俺、もうすでに浮いてる?変な奴って思われてるかな?」
「何故すぐそうパッシブになるのですか?高校生活から変わる、アクティブに成ると決意したんでしょ♪」
「そう!高校入ったらバイトや部活頑張って、新しい友達沢山作って、念願の彼女作って、経験値上げて、男子力上げて!男らしく成るんだ……ってオマエ完全に足引っぱってるよな」
「女子力も上げて♪漫画の画力も上げて♪」
「いや、いらない。いらない」
このクラスに同じ用に頭の中に声を飼ってる人は居ないのだろうか。
皆隠しているだけで本当は頭の中で会話しているのではないだろうか。
自分の記憶が消されてる奴が言うのも何だが、人の頭の中が見たい。自分はやっぱり変なのか、自分はどう思われてるのか、気になって仕方ない。
自分と同じ立場の人がいたらすぐ仲良くなれるだろうに。
人の頭の中が解る機械は無いのか?超能力や魔法が有れば便利だろうが流石にそれはコイツの好きな漫画の世界だけだろう。
「あーそんな頭の中が覗けるだけの能力なんて団塊世代の漫画ですよ♪今はやっぱりファンタジー系で魔法が当たり前の世界観、敵は魔物やドラゴン♪そしてツンデレ主人公にヤンデレヒロインです♪」
「………なぁ漫画部ってアニメとかゲームとか皆詳しいんだろ?俺、絶対話しついて行けない自信有る。てか漫画読むのは好きだけど描くのはちょっと……やっぱり将棋部にしない?2人がかりだから得意だったろ…芹沢先輩にもいつも圧勝してたじゃないか、挟み将棋だったけど…」
「まだ蒸し返すんですか?男らしく成るんでしょ♪負けたんだから潔く決意して下さい♪」
「ハィ……」
「それよりこの〝本日の山田さん情報〟って何ですかね♪」
「何のこと?」
「今放送で流れてました♪昨日のお昼休みにも流れてましたよ♪いつも〝目撃情報は有りませんでした〟ですけど♪」
「さあ…?」
放送は中学でも聴き慣れたクラシックに変わっており、気に止めることはしなかった。
仕方ない。漫画部で友達作ろう。何とかなるだろう。序でに彼女も。いや、彼女作りが本当はメインで。駄目ならバイト先で出合いを求めたらいいだろう。
うん。学園生活は始まったばかりだ。もっとボジろう。
「部活で彼女、バイト先で彼氏を作るっていうのはどうでしょうか♪」
「黙れ」