プロローグ
皆さんは引き出しの古いノートの走り書きを見て『あれ?こんなの自分で書いたっけ?』って思うこと有りますか?
俺は毎日有ります。
頭の中のコイツが色々消すからです。
記憶を……
だからクリスマスを彼女と過ごした記憶も、バレンタインに手作りチョコをもらった楽しい記憶も俺には有りません。
コイツに記憶を消されたからです。
そういうことにしておこう……うん。
初投稿になります。
右も左も、前も後ろも、上や下も、あー自分が何者かさえ分かりません。
色々不備が有ると思うので直していきます。
ご意見ご感想があれば幸いです。
「自分は何の為に生まれて来たんだろう?」
公園のベンチに座りながら自分に問いかけた。
「あなたはこのベンチさんに座る為に生まれて来ました♪」
「えっ?」
「あなたは空気さんを吸ったり吐いたりする為に生まれて来ました♪」
「………なら特に生まれて来た意味は無いよね」
「このベンチさんは、あなたに座って貰うために生まれて来ました♪」
「?」
「そしてこの空気さんはあなたに吸い込まれる為に生まれて来ました♪」
「???」
「その小石さんやあの木々さん、あそこの鳥さんやあの雲さんは今あなたにこの風景を贈る為に生まれて来ました♪そしてあなたはこの風景を見る為に生まれて来ました。でも1秒後の未来にはそれぞれ生まれて来た理由は変わるかもしれません♪あなたの生まれて来た意味は視点を変えると沢山有ります♪そして1秒づつその理由は変化します♪つまり生まれて来た意味の答はこの先も無限に有ります♪」
「空気さんのこの先は?...今、吸い込んで無くなちゃった……」
「そうですね♪では、どうしますか?」
「空気さんの為にも頑張る………」
「いいですね♪因みに私はあなたの力になる為に生まれて来ました♪」
ベンチからゆっくり腰を上げ、空を見上げると白い雲が出迎えた。
雲をじっくり見ていると、吸い込まれるような錯覚で少し目眩がする。
耳を澄ますと無人の公園はとても静かで、どこかで小さく鳴く蝉の声しか頭に入ってこない。
ひとつ息を吐いて、足下の小石を踏まないよう意識しながら歩き出してみる。
ゆっくりとゆっくりと歩を進め、5~6メートル離れてから振り返ると、自分の座っていたベンチにさっき飛んでいた鳥が止まっていた。
「あのベンチさんの生まれて来た意味は、鳥さんの休憩所に変わったんだ」
少し微笑みながら公園を後にした。
◇ ◇ ◇
「あークソッ!入試勉強が捗らないのは全部オマエのせいだからな!」
「自分のせいにしてはいけません♪努力が足りないのです♪」
「あのな..俺は自分の通信簿を見た!小学校の時はほぼ優秀だ!だったら何でこんな簡単な漢字が出て来ない!数学もだ!九九の七段八段がすぐ出て来ない!全部オマエのせいだろが!!」
「学校で習ったことがリアルで必要になることなぞ、ごく一部だそうです♪あなたは因数分解が必要な会社に就職するのですか?」
「漢字や九九は必要だろ!!返せよ!」
「残念ながら漢字や九九だけ返す方法は有りません♪てか、返す方法なぞ有りませ~ん♪」
「ふざけやがって…何でいつもそんな楽しそうな口調なんだ!」
いいながら苦笑した。
「口調ね~……」
口に出して初めて口調って解るもんだろ...そう思ってすぐにゾッとした。
「なあ、オマエって普段もそんなしゃべり方でしゃべるのか?」
「クスクス♪」
「オマエふざけんな!高校入学したら絶対辞めてくれよな!彼女出来ないだろが!」
「恋人は欲しいですよね~♪リア充リア充♪」
「彼女だからな!!」
ふと、デジタル時計の数字が視界に入り、夜中の二時を過ぎていることに気付いた。
何かの気配のようなものを感じ、隣の部屋のふすまを開ける。父親はやはり帰ってきていない。気のせいだ。
「一生帰って来るなよクソ野郎…」
「……苦しくなったら変わりますよ♪」
「嫌いいよ」
「もう寝ましょう♪焦って勉強しなくても入試なんか二人がかりでやれぱ楽勝ですよ♪」
「それってカンニングにならないのかな?」
「正確には独りがかりですから大丈夫です♪」
「まぁ、そうだな……とりあえず、もう寝るか」
ふたつ並んだ敷き布団の奥側に入り、長いヒモが下がった蛍光灯のスイッチを二回引く。薄暗い黄色に部屋が照らされた。
「豆電球も消していいですよ♪どうせお母さんは朝まで帰って来ないですよ♪」
「幽霊が出そうだからやだ」
「えーやめて下さい♪怖いじゃないですか♪」
「お前が言うな!」
「自分をお化けみたいに言わないで下さい♪」
「…なぁ」
「はい?」
「俺、小学生の時何が有ったんだ?」
「……………」
数分間、薄目にして豆電球から流れる放射状の光線を伸ばしたり縮めたりしながら応えを待っていたが、次に気が付いた時は朝だった。
台所から包丁がまな板を小気味良く叩く音が響いていた。
◇ ◇ ◇
「これ必要ですか?」
「必要です♪」
「明日からの高校生活に必要ですか?」
「はい必要です♪」
「このスクリーントーンって何ですか?」
「それは貼り付けて綺麗に陰影や模様を付ける万能アイテムです♪」
「このインクペンは?」
「そのGペンは漫画を描くのには絶対必要ですね♪」
「この細いカッターもですか?」
「デザインカッターが無いとスクリーントーンが切れなぃじゃないですか♪」
「ふざけんな~!全部漫画描くための道具じゃないか!人のなけなしのお年玉貯金を全部遣いやがって!それに何だ!この少女漫画チックな萌絵は!男がこんなの描いたら気持ち悪いだろう!」
「あなたの物は私の物」私の物はあなたの物♪」
「何だ!その自分勝手な言い分は...いや...有ってるか..とにかく勝手に相談もせずに買い物するなよな、あとお袋の口紅勝手に使っただろ。置いてある場所が変わってたと朝言ってたぞ」
「お年頃ですから♪」
「親にも変と思われるぞ!もう変と思ってるかもしれないが..待てよ!お前口紅付けて出歩いたりして、……してないよな!!」
「ごめんなさい♪あなたが傷つくようなことは答えたく無いの♪」
「あ一終わったー!サヨナラー僕の新しい学園生活。ありがとう僕の想像の中の楽しい高校生活よ一。体験せずにサヨナラー」
「冗談ですよ♪私まだ化粧して出歩くの恥ずかしいですから♪」
「本当だろうな!てか、これからもするなよ!」
「大丈夫ですよ♪第一私はあなた………」
「ん?どうした?もしもし…切れたか。変な奴」
机の上の真新しい教科書を持ち上げるとカッターで切り刻ざまれたスクリーントーンの小さな破片がパラパラと落ちてきた。
机の表面には小さな傷が無数に出来ている。よく見るとその数は尋常ではない。
「あーこれ下に引くマットとか絶対必要だな」
明日の用意をしながら、アイツがどんなストーリーの漫画を描きたいのか興味を覚えていた。