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ゴーレス〜失われた歌姫〜  作者: 琉球芸夢村
第1章 猫種族編
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マヤ族編Ⅱ

夜のひんやりとしていた空気が変わってきた。

背中から汗がじんわり滲み出してきたので走っているからだとも思ったが、木や草、風、周りの森全体がチリチリと温い空気に変わり始めている。


 隣で飛んでいたキジムカも暑くなったのか時折雷牙の右肩で少し休んでは、また飛び始めるを繰り返している。


(夜の森とは思えないぐらい生暖かい風が吹いているな、しかしこの人、マヤ族の集落から来たと言っていたがこの人自身はマヤ種族では無さそうだし、なぜ一人しか居ないんだろう、この子は一体誰なんだ)


 キジムカに目線を寄せると、同じ様なことを思っていたらしく雷牙の肩を足で突っついて来た。


「あー、そーいえば名前を聞いてなかったな。俺は雷牙、そして隣にいるこいつはキジムカだ」

「あ……私ったら名前も言わずに……! 私はビスカス、よろしくね」


 ビスカスはキジムカにも顔を向けて少し微笑んだが「どうも〜」とだけ言って、キジムカは雷牙の後ろに隠れてしまった。


「おい、態度悪いぞ! ごめんな、こいつ今機嫌が悪いみたいで」


 いえいえと手を少し振りながら微笑するビスカスをよく見ると、身体中が傷だらけになっている。


(それにしても一体集落で何が起きたんだろうか。それに確かマヤ族には……)


「ビスカスちょっと聞いていいかな」

「なに?」

「マヤ族には戦闘に特化した戦士タイプがいて凄く強いと聞いている。小鬼程度であればその戦士達で十分倒せるはずだけど……」

「そうね、小鬼が相手ならマヤ族の戦士が遅れを取ることはないわ。ただ小鬼達が20体……いえ、もっと多くの数が攻めて来て、さらに戦士達より先に商人や作業員、戦闘を得意としない者達から襲ってきたの」

「そうだったのか……」


(今の話だと、まるで小鬼達はどう戦うか事前に計画的に行動しているよな。それに20を超える数なんて、集落に近づいた地点で気づくはずだけど……)


「集落にも見張り台はあると思うけど、それだけの数の小鬼達であれば直ぐに気づくんじゃ……」

「それが……小鬼達はラジャ鉱山の結界の内側から現れたの」

「結界の内側から!? どういう事だ?結界の内側には霊獣以外は誰でも入れるのか?」

「まさか!マヤ族しか結界の内側には入れない様になっているわ。それに鉱山の入口には鉄の橋があってそれを渡らないと入れないの。 だから誰にも気づかれる事なく侵入するなんて無理なはずなのに……」


(厳重な警備の中、入口が一つしかない橋を渡ればすぐに気づかれるはず。それを考えるとラジャ鉱山内で小鬼が再発し集落を襲ったと可能性も考えられるけど本当にそんな事が……。もしそうなら小鬼は今も増え続け集落を襲っている可能性も考えられるな)


 雷牙は小鬼が出現した方法を色々考えてみるが、あまり良くない考えばかりがよぎる。


(あと、可能性はあまり考えたくないけどマヤ族の誰かが結界内で召喚術を使った可能性もある……。だた今の時点で可能性の話をしてもビスカスを混乱させるだけだし、この話はもう少し後にしておこう)


 会話の途中で黙ったまま走っている雷牙の険しい表情が気になったのか、ビスカスが雷牙に声をかけた。


「どうしたの?」

「あ、いや何でもない、早くレルタという人を助けないとな」

「うん、必ず助ける。待っててレルタ!」


 今は色々考えてもしょうがない、とにかく急ごうと、雷牙は手に力を込めてさらに早く走り出す。


 しばらくして、ふと、山道の奥に大量の黒い煙が立ち込めているのが見えた。


 ビスカスの顔に目を向けると、その立ち込める煙を見て不安そうな顔をしている。


 煙を追って森を抜けると石の城壁と大きな門があり、集落を囲っている城壁の中側から黒い煙が流れて来ている様だった。


(中が燃えていた? なるほど、どうりでさっきから暑苦しいはずだ)


 ずっと走って来た雷牙たちは息を整え、他の小鬼らがいないか警戒しながら恐る恐る門へ近付く。

 門を見上げると赤い瓦屋根と木造で出来た(やぐら)が門の上に建っており、そこに設置されている「マタタビ」と書かれた看板は何事も無い様な雰囲気で掲げられていた。

 火の手が上がっていた様だだが、両扉の門は片扉は開いているだけで特に破壊された様な痕跡はなかった。


(ここがマタタビ集落か……。門が無事なところを見ると外からの襲撃は無かったようだ。ビスカスが言っていた通り結界の中からやってきた奴らだけのようだな。ただこの静けさ……)


「キジムカ! 今から中に入るから念のため俺の懐に入ってな!」

「わ、分かっているわよ!」

「それにしても、入口の門が無事という事は確かに小鬼は内側からしか攻めてないようだな。よし、ビスカス中へ急ごう」

「ええ!」


 二人は木が燃える音しか聞えない集落に違和感を感じながらも、片方だけ開いていた扉から門をくぐり中に入ると、ビスカスは息を飲んだ。


 集落にある家屋や畑、建物の全てが炎で焼き尽くされ黒煙だけが立ち込めていた。


 ビスカスは唇を噛みしめながら少し早歩きで歩き出す。

 右を見ても左を見ても全てが焼かれ、灯り一つないが殺されたマヤ族の戦士達の遺体の影も見える。

 段々と鼓動が早くなってきた。胸が苦しい。

 不安を振り払うようにビスカスは走った。


「はあ、はあ、はあ」

(きっと隠れているに違いない。あの角を曲がれば……そこで待ってるはずーーー)


「!」

「そんな……間に合わなかった……」

「なんて事を…」


 ビスカスの足が止まった先に、横たわっている女戦士の姿があった。

 刃が折れた剣を握りしめたまま、うつ伏せですでに息絶えていたレルタだった。


ビスカスは重たい足取りで一歩ずつレルタに歩み寄る。


「嘘でしょ……ねえ……」


 レルタの前で膝から崩れ落ちたビスカスは、レルタの身体を抱き寄せ大声で泣き始めた。


「レルタ…ごめんね…。うぅ…ぅ…。レルタ〜ッ!!」


 泣き続けているビスカスと死別した戦士を目の間に、何も出来なかった雷牙は拳を強く握りしめた。


(何も出来なかった……誰も助けられなかった!!)


 ただここで見守ることしかできない、そして何も出来なかった事に対し自分自身に腹が立ってしょうがなかった。

 雷牙の気持ちを察してか、顔を覗かせたキジムカも、心配そうに雷牙の顔を見つめていた。


ガゥゥゥーー


「小鬼の声だわ。雷牙、まだ近くにいるみたいよ。早くビスカスを……」

「……ああ、そうだな」

「ごめんビスカス………すぐまた奴らがくるかもしれない。いったんここを離れないと」

「ぐすん…ぐすん………レルタ、ごめんなさい…」


 ビスカスはうずめていた顔を上げると、レルタの身体を仰向けにゆっくりと寝かせ、レルタの手を祈るような形で組ませて胸元にそっと沈める。

 別れが名残惜しいのだろう。

 少しだけレルタの頬を優しく撫でたあと、自身の涙を拭いながらスッと立ち上がった。

 雷牙にとっても辛かった。

 せめて簡単にでも弔おうと腰に巻いていたサムレーのマント外し、レルタの身体に被せる。


「ビスカス、行こう」


 雷牙とビスカスは、城壁が一部壊れた瓦礫を駆け登り、再び森の中へ逃げて集落を後にした。


 それから二人は振り返りもせず歩き続けた。


 何処に向かっているかも分からないが、何も喋らず俯いて歩いているビスカスに雷牙は声をかける言葉も見つからず、ただ後ろから付いていくだけだった。


 顔は見えないが、肩を少し震わせ微かに鼻をすする音が聞えてくる。

 まだ泣いているのかもしれない、そりゃそうだろう。

 集落ごと殱滅され大事な人を目の前で亡くしている。

 肩に座っているキジムカも悲しげな表情をしていた。


 集落の様子を思い浮かべると、遺体を見る限り戦士タイプのマヤ族がほとんどだった。

 きっと集落の人を逃すために最後まで戦ったんだろうと、悔しさが込み上げてくる。


(レルタもビスカスを守るため死ぬ覚悟で戦っていたはずだ。戦士達の死を無駄にしないためにも、ビスカスと生き残ったみんなを必ず守らなければ)


 雷牙は改めてそう心に誓った。


 どのくらい経ったろうか。

 しばらく沈黙が続いた中、先頭を歩いていたビスカスが立ち止まって振り返る。


「ジジ様の所へ行かなきゃ……」

「ジジ様?」

「ええ、レルタの最期のこと、ジジ様に伝えなくては。それに逃げたみんなも隠れ里へ逃げているはず……」

「雷牙、一緒に行くわよ!分かってるわよね?」

「ああ、分かってるってキジムカ」

「えっ、二人ともいいの?」

「当たり前よ!」


 そう言ってキジムカはビスカスの元へ飛んでいき、頭の上をトントンと2回優しく叩いた。

 彼女なりに慰めようとしているのだろう。


「二人ともありがとう……」


 まだ辛そうだがビスカスが少し微笑んだのを見て、キジムカも優しく微笑み返した。


 それからやっぱり女の子同士だからか、気が合っている様で二人とも歩きながら静かに色んな話をしていた。

 マタタビ集落のこと、レルタのこと、レルタと過ごして来た思い出など。


 雷牙は二人から離れた後ろの方で護衛しながら様子を見ていると、隠れ里は私と一緒じゃないと辿り着けないから隣で歩いてね、とビスカスが駆け寄ってきた。


 しばらく三人で森を歩き続け、煙の匂いや暑苦しい空気が無くなったころ、森の様子が変わったような気がした。

 木々の葉が重なり合う音をたてながら、涼しい風が吹き抜けていく。

 何が変わったかと問われても答えることが出来ない、空気が変わったと言えばいいのだろうか。

 不思議と落ち着くいい気分だ。隣で歩いていたビスカスの表情も和らいでいるように感じた。


「うっわ!? なんだ急に壁が!」


 突然、雷牙の目の前に視界を覆い隠すほどの大きな壁が現れた。

 しかしよく見ると壁ではなく巨木だった。

 幅は4、5mほどあり高さは15mぐらいはあるだろうか。

 その根はしっかりと力強く地面に生やし、他の木よりも遥かに太く、枝は四方に分かれて木葉が辺り一帯を影にしていた。余りにも大きいせいか周りには木が一本も生えていない。


「あれ?確かに前を見て歩いていたし、さっきまで何もなかったはずなのに……。一体どうなってるんだ??」

「ここはキーヌシーという霊獣達が住み着いている木で、自分達の住処を守るために人避けをしているの。ジジ様の話では目で見えるもの、全てに興味が無くなるみたい。だから見ようとしないものは”見えていない事”と同じって言ってたわ。私にはよく分からないけど」

「どーりで途中から妙な違和感を感じていたんだ、これは霊獣の仕業たっだのか」

「きゃっ!雷牙、木の枝に何かいるー!」

 キジムカが指を指している方向へ顔を見上げると、緑色で全身水々しく頭の先が双葉になっているプルプルした霊獣が木の枝に立ちながら、こちらを伺うようにずっと見ている。

 特に害は無さそうだ。

挿絵(By みてみん)

「あれが霊獣キーヌシーよ。この子との契約に使われたセジ石が『契約の勾玉』になっていて、それを持つ者を主人として認めてくれるの」

「それじゃその『契約の勾玉』を持っていれば誰でも使い魔として従える事ができるのかな?」

「そうだけど、『契約の勾玉』を作れるのは『召喚士』だけだし、キーヌシーも人避けの術を使うから持っている人は少ないと思うわ。さぁこっちへおいで」


 ビスカスは腰帯から紫の勾玉を取り出しキーヌシーへかざすと、キーヌシーは勾玉に気づきふわふわと飛びながらゆっくりビスカスの元へ近付いてきた。

 そして勾玉の手前で止まると、その小さな手で勾玉に触れる。

 すると薄っすらと白い霧がかかった巨木の中央に大きな裂け目のような入口が現れ、先ほど目の前にいたはずのキーヌシーはいつの間にかいなくなっていた。


(これはすごいな。確かに知っていなければ気づかれる事はないだろう)


 雷牙は隣にいるキジムカを見ると、キジムカも口を開けたままびっくりしている様だ。


「これで入口を認識出来るようになったわ。さぁ急ぎましょう」


 先にビスカスが巨木の亀裂の中へと入り、それに続いてキジムカ、雷牙と入って行った。

 出口を抜けると別の森に通じているのか、先ほどまでの暗い森とは違く、全体的に黄緑色の大きな木が一つ一つまばらに生えており、月の光も十分に照らされているが木の間には灯り玉の街灯ランプが等間隔で設置されて柔らかい温かみのある隠れ里が目の前にあった。

 里の中心には入口の木よりもさらに広大な巨木があり、木の枝らが重なっている上に木造の家々が建てられている。

 巨木の下にも家が幾つかあるが、円柱の形に三角の赤い瓦屋根で猫の置物が屋根に2つ飾られていて可愛らしい。

 マヤ族は木のまわりに住む種族のようだ。


 本来なら素敵な里という所だが、今や傷ついたマヤ族達やそれを看病する者たちが集まっており、家々の戸も引き開けられ階段やはしごを慌ただしく上り下りし里全体が騒々しい状況だ。

 建物の中に入りきれない者たちは建物の壁に寄りかかるように座ったり寝そべっている者もいる。

 時折切迫した悲鳴のような音や声が、あちらこちらから大気を渡って入口まで響いていくる。


 ビスカスはみんながマタタビ集落から避難出来たのを見て、胸に両手を当てながら少しはホッとしている様だった。


(あの集落の悲惨な状態のを見た時、もしかしたら生き残った者はいないのかも知れないと思った。だけどこんなにも生き残っていてくれたのか戦場で散ったマヤ族の戦士達よ、あなた達の命はしっかりとここに繋がれている後は俺に任せてくれ、こんな卑劣な真似をする奴がいるなら絶対に許さない!)


 雷牙はこれまで目にしてきた悲惨な情景を思い出しながら拳を強く握りしめ、心の中で自分自身に誓った。


「動くな!何者だにゃ!」


 二人のマヤ族の男戦士が両隣から槍を突きつけられ、ゆっくり両手を上げた、巨木の出入口を警備していたのだろう両隣にいる事に全く気づかなかった。


「ん?お前、まさかビスカス……ビスカスにゃ! 生きていたのにゃ」

「森で小鬼に襲われている所を雷牙に助けてもらったの」


 マヤ族の戦士はビスカスの話を聞くと雷牙に向けていた槍を降ろした。


「あんたがビスカスを助けてくれたのか、恩人にすまない事をしたにゃ」

「いや、いいんだこんな状況だし里を守るための当然の行動だよ」

「そう言ってもらえると助かるにゃ、ところでビスカス、レルタの姿がないがレルタはどうした?」

「……レルタを逃がすために小鬼たちに……」

「……そうか、レルタもやらてれしまったのにゃ……ビスカスはこの事を急いでジジ様に報告するのにゃ」

「……」

「ビスカス悲しいのは分かるが今は皆んな同じ気持ちにゃ、だから今は自分がやれる事をやるにゃ」

「ごめんなさい、そうね、こんな事をしていたらレルタに怒られちゃうジジ様の元へ急ぎましょう!」


 雷牙とビスカスは、家と家の間の細い道を抜け、ジジ様の家へと走って向かった。


 しばらく走ると、村の中でも一番真っ赤な屋根の家の前に着く。

 その家は他と比べてひときわ古く、玄関前のランプも真っ赤に灯され、なんだか怪しい雰囲気だ。

 どうやらここがジジ様の家のようだ。ビスカスが先に向かい、玄関を開ける。


「ジジ様! ジジ様ー!」


 ビスカスは声をかけながら家の中へ入り、雷牙も後ろに続く。


 祈祷部屋に入ると、ジジ様が上座に座っていた。

 ジジ様は背が低く、頭に猫耳が付いているがほとんど毛で覆われ、目の半分まで毛で隠れている。

 恐らく100歳は超えるであろう。


「……」

(入ってきた時からそこに座っているだけで反応ないけど、大丈夫かこの爺さん……)


「ジジ様、村が襲われました。突然ラジャ鉱山からもの凄い数の小鬼達が現れ、みんなやられました、そして…。ジジ様ごめんなさい!私…何も出来なくて…!」

「ビスカス慌てるでにゃい、おおよその話は聞いておる。ゆっくりでいい、お主が見てきた事を話すのじゃにゃ」


 ジジ様へかけ寄り、少しうつむきながら話すビスカスの表情は暗く泣きそうな声を必死で抑えながらマタタビ集落での出来事を話した。


 ジジ様は少し間をおいて、ゆっくり話だした。


「そうか、レルタは戦士としての役目を果たしたか。ビスカス、お主にとってレルタは母親のような存在であったであろう、大切な者を失い悲しいじゃろうが。今は、すぐにでもやらねばならぬ事があるにゃ、お主らがくる少し前に調査に行ってもらっていた者から連絡が入り西ヒョウの森から小鬼の軍勢がマタタビ集落へ進行しているようなのじゃにゃ」


 小鬼の軍勢の話を聞いた2人は驚いた表情を見せた。


「小鬼達はラジャ鉱山の勾玉を奪う気ですね…」

「ラジャ鉱山の勾玉?」


 ビスカスとジジ様の会話に、雷牙は首を傾げた。


「ラジャ鉱山っていうのは、セジ石を取り込める上質なセジ石が取れる場所なの」

「その石を加工して他種族との貿易や、この里の結界として使ったりと、マヤ族にとっては太古から代々守って来た大切な資源なのじゃにゃ」

「ああ、確か、飛空艇が飛ぶのにも使われてるってやつか」

「そうなの。ラジャ鉱山以外ではほとんど取れないから希少で、かなり高価なの」

「そうなのか……。でも、なんで小鬼がそんなもの狙うんだ?お金なんか興味……というか、使うかすら分からないやつなのに」

「恐らく、狙いは新たな小鬼を生み出すためなのにゃろう。小鬼はセジ石に死者の魂が宿って生まれた魔物。殺された同胞達の魂を、セジ石に宿すのだにゃう」

「あいつらそんなこと考えてるのか」

「いや、小鬼にそのような知能はなにゃい。小鬼を率いている者がいるはずじゃにゃ」

「マジか。それじゃあ、急いでここにいる戦士たち集めて小鬼達を倒さなきゃ!俺も手を貸すし……」

「残念じゃが、今この集落に戦えるものは少にゃい。小鬼になるのを防ぐため、同胞達の遺体を移動させているのじゃにゃ」


 雷牙はマタタビ集落の様子を思い出した。


(それで深い傷をおって動けない戦士が多かったのか、実際ここに来る時に見た戦士で動ける戦士は巨木の出入口にいた二人だけだった、つまり逃げるだけで精一杯で遺体を移動させる事自体がリスクだ、それにこの隠れ里が見つかればそれこそ終わりだ。反撃なんで出来る状態じゃない…)


 雷牙が二人の話を聴きながら考え混んでいると、ジジ様が話しかけてきた。


「おぬしは、人族かにゃ?」

「私が小鬼に襲われて逃げている途中、彼に助けてもらいました。雷牙といいます」

「雷牙よ。それは世話になったようにゃのぅ、こんな状況でなければ何か持て成していたのにゃが」

「よしてくれそんなの事、気にする事じゃなし助けるのは当然さ!」

「すまないのぅ、じゃが、なぜ人族がこのような場所へきたのじゃ?」


 ジジ様は、雷牙の顔を見つめ問いただす。


「それは……」


 すると突然、誰かが玄関を叩く音が聞こえる。


 ドン!ドン!ドン!


「?」

「!」

「奴らか!!!」


 雷牙は身構え、剣を抜きかけながら言うと、ビスカスが雷牙に向かって手を上げた。


「大丈夫。この隠れ里は結界が張られているから小鬼には見る事さえ出来ないはずよ」


 再度、玄関の叩く音と声。


 ドン!ドン!ドン!


「俺が、確かめてこよう」


 雷牙は玄関へ向かう。


 小鬼ではないのは確かだが、その代わり、向こうに何がいるのか分からない。

 いつでも刀を抜けるようにしながら、恐る恐る玄関を開けると、そこに立っていたのは……。


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