レキオの歴史
『セジ』――それはこの星に生きる全ての生命に宿る霊力。
生命が朽ち果てると『セジ』は星へ還り、生まれるとまた『セジ』を宿す。
そうして『セジ』は巡り輪廻転生を繰り返すのだ。
神話ではこう語り継がれている。
――『創造神マユン』が降臨したる時、星に与えし力が『セジ』なり。
我ら全ての命の根源は『セジ』から生まれている――
こうした神話はマユン教の間で語り継がれているだけでなく、世界各地にマユンにまつわる遺跡や伝承が今だに多く残っているため、マユンの存在はどの種族も信仰されている。
一部の種族では、体内に流れるセジを利用して霊術を使う事ができるため、生活や身を守る手段として利用されている。しかし術によっては村や町を破壊する程の威力があり、使い方によっては莫大な影響を与えるが故に、強力な術が使える霊術師は、特権階級として国の防衛に関わる事が多い。
強力な霊術が使える者は特に王族や士族に多いが、民間や奴隷でも術が使えれば特権階級として扱われる事もある。それほど国にとって、霊術師は重要という事なのだ。
――そして話はクブラバリ大陸へ
マユン歴5015年、クブラバリ大陸には魔族により建国されたクブラバリ帝国があり、大陸の八割の領土を支配していた。
皇位種族である魔族達は、各種族よりも『セジ』の力が強く、より強力な霊術が使えるからだ。
例えば、通常霊術を使う際は体内に流れる『セジ』を体外へ放出する為に、媒介となる石、『勾玉』を使ってセジを取り込む事で何とか霊術が使える程度だ。
しかし皇位種族は、その『勾玉』を使わずに直接体内からセジを取り出し、さらに高度な霊術を使う事が出来るため、勾玉を必要とする霊術師と、皇位種族の魔族の間には圧倒的な力の差があった。
魔族の襲来・領土拡大により、他種族は魔族と戦うための『勾玉』の大量造成を行っていたが、『勾玉』の元となる石はとても貴重なうえ数が少ない。加工にも時間がかかる事や、元となる石が発掘できる場所もほとんど魔族に抑えられてしまった事から、次第に魔族達の強力な霊術と武力を前に、為すすべもなく他種族は侵攻されていった。
魔族にとって他の種族は家畜や奴隷でしかない。逆らった種族は皆殺しにされ、降伏した種族は死ぬまで過酷な労働を虐げられる。非常に冷酷非道・残忍な性質から各種族の間では、魔族に捕まったら最後、自ら死を選ぶしか救われる道はないと恐れられていた。
そんな誰もが恐れる魔族に対し、戦いを挑んだ一人の青年がいた。
名をポルといい、彼は人族でありながらも強力な霊術を使い、魔族に占領された種族の領土の解放を成功させた。
解放された種族は、恐ろしい皇位種族を倒す人族の姿を見て、皆歓喜し希望を抱いた。全てを諦め、生きる意味すら見い出せず考える事を放棄していた種族達にとって、ポルは英雄そのものであった。
やがて民から民へと、ポルの存在は嘘か誠か風を伝って噂が流れはじめ、少しずつ広がりをみせていく。
ポルが解放した種族が増えるにつれ、中位種族でありながら皇位種族に戦いを挑む、人族の英雄の噂が一気に大陸全土に広がると、魔族によって占領された各領土で反乱が起き始めた。
まさに、これまで虐げられていた種族に「希望」という一筋の光が差し込んだのだ。
小さな火種だった反乱の芽が噂と共に徐々に大きくなり、反乱を起こした種族、解放された種族、様々な種族が英雄の元へ集まりいつしか連合軍が結成された。たった一つの小さな領土の解放から、これまで互いに干渉する事のなかった種族同士が魔族と戦うために集まり、魔族の脅威になる程の力をつけていったのだ。
もともと魔族は、本拠地である西の地から少数精鋭のみしか侵攻しておらず、占領した各領土に数十人ほどしかいなかった事も幸いし、連合軍は人海作戦で次々と領土を取り返し解放していった。
反旗を翻し口々に自由を叫ぶ種族らは、輪をかけるようにさらに連合軍の数が増えていき、勢いの増した連合軍の快進撃は続いて行く。
――十数年後(マユン歴5034年)
ここは、クブラバリ大陸の中央付近に位置する谷、通称『クブラバリの谷』。
はるか昔、地割れにより大陸が東と西に分断されて出来た巨大な谷は、幅が1kmほどあり、大陸を繋ぐ大きな鉄の橋だけが唯一の道だった。
東の大陸には、ポルを筆頭にした数百万の連合軍が列をなし、希望の光を意味した太陽を描いた旗が、風で強くはためいている。
対峙する西の大陸には、魔族達の本拠地『クブラバリ帝国』があり、既に結界を張った状態で数万程の魔族らが連合軍を待ち受けていた。
最初の抗争からおよそ十年以上、各領土で繰り広げられていた戦争はいよいよ最終局面に達し、この戦争は両軍にとって初の大規模な戦争であった。
朝日が昇ると同時に、両軍が鉄の橋に向かって走り出す。乾いた土埃を巻き上げながら攻撃を仕掛け合い、互いが自軍の陣地に攻め込まれないよう、橋の上の攻防は昼夜問わず3日間続いた。
しかし連合軍は徐々にクブラバリ帝国軍に押されはじめ沢山の負傷者を出し、ついに東側の陣地まで後退させられてしまう。この圧倒的な力の差に連合軍は士気も下がり始めていた。
だがその時、ポルが協力を要請していたある種族が連合軍側に到着する。それは上位種族のマヤ族(猫族)であった。この者達は『クブラバリの谷』付近に領土を持ち、強力な防御結界を得意としている種族である。マヤ族(猫族)の『霊法陣』は、魔族の中でも将軍クラスである魔人ですら結界を破壊する事が出来ず、これまで一度たりともマヤ族(猫族)の領土に足を踏み入れる事が出来なかった程だ。それ故に、実はポルはずっとマヤ族(猫族)と結界の調整をしていたのだ。
連合軍が見守る中、大勢のマヤ族(猫族)の詠唱と共に『霊法陣』を発動させる。帝国軍の結界が小さく感じるほどの巨大な結界は、青く美しい光を放ちながら、一枚の壁で全てを阻むかのようにクブラバリ大陸を東西に分断させた。
こうして史上最大規模の戦争と言われた『クブラバリ革命』は、互いに手を出せない状況になった事でそのまま停戦状態に入るのである。
――マユン歴5035年
中位種族を中心として構成されていた連合軍は、ヨナ王国を建国する。
ヨナ王国国王は、連合軍を率いてきた実績から満場一致でポルが務めることになり、民から英雄王と呼ばれる様になった。
英雄王ポルは、万が一谷の結界が破られ、クブラバリ帝国軍が再び攻めてくることに備えるため、各種族と共に国力を強化する事を決める。しかし、元々種族同志で干渉し合うことがほとんど無く文化や考え方の違いから、話し合うことすら難しかったため、国力強化は苦戦を強いられていた。このままだと、いずれ国は崩壊し再び魔族の手に落ちると考えたポルは、文化や考え方の違う種族に領土を任せ、領土毎にルールを変えるという地方分権の仕組みを作った。
そして代表的な領土の士族は定期的にポルがいる中央政府へ集まり、『種族協定会議』として国の行く末を話し合う統治調整を行うようにした。
だが、それだけでは国力を強化する事は出来ないため、ヨナ王国の首都に戦術や学問を教える機関、『トゥールズ学園』を建設した。
『トゥールズ学園』には、主に各領土の霊術を扱える子供達が集められ、戦術や学問のほか、種族同士の交流も行われていた。
そうして、クブラバリ大陸だけでなく他国との貿易や技術を取り入れる事でヨナ国は発展していった・・・・・・
――そして30年後、物語は始まる――
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