2 春休みのある一日
春夏冬 愛留の中に、ボクの転生前の記憶が戻ってから二日が経過した。
最初は、お風呂に入るのにもトイレに入るのもなんだか恥ずかしかったが、二日目には、自分の体を見る事に関しては、大分慣れた。
そして、今日は昼から幼馴染の京 大樹と巫 まりん とともに近くのモールに買い物に行くのだ。
着替えていると、インターホンが鳴った。
「は〜い。」
お母さんが出てくれたようだ。
「愛留〜。まりんちゃんよ〜。」
「はーい。」
ボクは、返事を返すとすぐに姿見に向かって、着替えを進めた。
待たせちゃいけないから、急がなきゃ。
ボクは、元であっても男なので、スカートを絶対に着ないと心に決めたのだ。
なので、ちゃんとズボンをはいている。
まさか、その誓いがあっさり破られるとはこの時は、夢にも見ていなかった。
急いで着替えを終わらせて、ボクは部屋を出た。今日の服装は、フリルの付いた白のブラウスとちょっとだぼっとしたズボンで、ベージュのカーディガンを腕を通さずに羽織っている。
階段を下って、リビングへと入るとL字型のソファーに黒い髪の少女が座っていた。記憶にあった少女より
さらに可愛い。
ぱっと立ち上がって、声を上げた。
「おっはよー、愛留。久しぶり。」
「おはよう、まりん。」
快活な彼女らしい立ち居振る舞いだ。
そのときインターホンが鳴った。たぶん、大樹だろう。
「よっ。おひさー。」
「おはよう、大樹。」
大樹は、整った顔立ちをした快活そうな少年だ。
「よし、そろったね。じゃあ、しゅっぱーつ!」
「えっ。ちょ、きゃっ!」
突然思いっきりまりんに引っ張られて、ボクは、前のめりに床に突っ込んだ。何もない所で転んだ。額がひりひりする。
「う〜。」
ボクは、突如引っ張った彼女にむっとした顔で抗議する。ボクの方が背が低くて、力が弱い事は記憶に鮮明に残っているのだ。だから、こうやって抗議するしかないのだ。
「ごめんごめん。」
今回は、ボクの勝ちのようだ。
「おい、いくぞ。」
そこで、大樹が痺れを切らした様に促した。
「「おおー。」」
ボクたちはそれに呼応する様にして言った。
◇
ボクらは、家からバスに乗ってモールにやってきた。
此処は、この街の中心地で駅も隣接しているため、多くの人で賑わっている。
その中でも、服飾店が集中しているフロアにやってきた。
そのフロアに入ると、大樹とボクがあからさまに顔をしかめた。まりんは、反対に笑顔だった。
「ま、まさか。」
ボクは、まりんが浮かべた笑みに危機感を覚えた。
これの顔は、記憶の中にあった買い物に一緒に言ったときに幾度となく行われてきた、ボクを着せ替え人形にする時に浮かべる笑みだ。急いで逃げなければ...
「あ、ボク急な用事が〜。ごめんね〜、帰らないと〜。」
そう言って逃走、もとい、急用での帰宅を敢行した。
しかし、まりんは、すべてお見通しのようでボクの肩をがっちりと押さえた。力の差はこの体格差から見て最早、自明の理。あっさりと引きずられて服飾店に足を踏み入れた。
「い〜や〜だ〜。」
「愛留、小学生かっ!」
◇
そして着せ替え人形にされる事数時間。ボクは、今朝誓ったスカート履かない宣言は破られた。
う〜。すーすーするし、なんと言ってもこれは恥ずかしい。ボクは男としての何かを失ったよ。
漸く店を出る事になったボクは、ずっと店の前で待っていてくれた大樹の事を思い出し申し訳なくなった。
「ごめんね、ずっと付き合わせちゃって。退屈だったでしょ?」
ボクが謝ると、大樹は苦笑いを浮かべて言った。
「これが男の仕事なんだから気にすんなって。女は、国防とかみたいなすげー事やってんだからさ。」
サントルで、三年間の修練を受け終えたら、最後のワールドナンバーによって、優先的に就職先が斡旋されてくる。
大体は、祖国の軍務に就いたりするが、中には、母校の教師や職員などを務めたりサントル全体の運営に関わったりしているのだ。
「さあ、帰るか。おーい、まりん帰るぞー。」
「はーい。ちょっと待って〜。」
彼女は、会計を済ませると駆け足でボクたちの元に戻ってきた。
そして、バスに乗ってボクらの住んでいる町に帰った。
◇
家に帰ると、お母さんが直ぐに晩ご飯を作ってくれた。
サバの塩焼きとみそ汁、お米、白子和えという和テイストな料理だった。
ボクは、ダイニングでお母さんと向かい合って食べた。
「明後日から三年間も愛留に会えないのね〜。」
「そんなことないよー。夏と冬の長期休暇には帰ってくるよー。」
「明日は、明日から皆バラバラになってしまうわね〜。」
「うん...でもまた会えるよ。」
「うふふ、そうね。」
ボクは、明日適正審査を受けてC判定以上だったら太平洋に浮かぶ学園都市サントルに向かわねばならない。大樹は、男だから適正がないから、近くの公立高校を受験している。まりんは、親が病気なので看病するためにこの近くのバイトを認められている私立高校に入るのだ。小学校来の三人が、バラバラになってしまうのだ。
「明日...大丈夫かなぁ...」
読んでいただきありがとうございました。