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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
52/61

31.剣のヤマトタケル-11

「判っていたこととは言え、哀しいわね・・・。」

 大和姫はそう五百野王に語る。

「判っておられたのですか?」

「ええ。彼はいつか自分の力を過信すると思っていた。だけど、それでも彼は精一杯頑張ったのだからそこは褒めてあげないとね。」

「・・・・そうですか。」

「こうなることはみんなわかっていたのよね・・・・。」

「どうしてですか?」

「彼ね、自分でも自覚していなかっただろうけど、父親を常に疑っていた。」

「そうだったんですか・・・・。」

「無論、誰でも親に反抗することはあるけれど、彼の疑いようは尋常じゃなかったわ。しかも本人は無意識にそのことを自分でも気づかないように隠していた。これは酷かったわね。」

「ああ・・・。」

「だけど、それでも彼は精一杯頑張ったのも事実。やっぱり彼は人間の魂ではなかった。だから辛かったのでしょうね。」

「神様、ということですか?」

「ええ。彼は紛れもない神々の魂だった。」

 そう話しながら二人は大和建の亡骸のある鈴鹿に向かった。




 大和建の亡骸は腐敗もせずに残っていた。

 大和の妃や子供たちがその周りに集まって泣いている。だが、そこには幼いことから大和建を支え続けた両道入姫(ふたじいりひめ)の姿はなかった。

「まるで彼の人生を象徴しているわね。」

 遠巻きに様子を見守っていた大和姫がつぶやく。

「しかし、それでも貴方は人ならざる神。そのことをみんなに見せてやりなさい!貴女にはその義務があるわ!」

 そう言って大和姫が声を張り上げると、いきなり大和建の遺骸が白く光りだした。

「え?」

 そこにいた一同が啞然とした顔になる。

 すると、大和建の遺骸が白鳥に姿を変えて飛び出した。

 大和建の妃や子供たちは慌ててその白鳥を追いかける。白鳥は竹林の中に飛んで行った。

 竹の切り株によって足を痛めても、まだまだ彼らは追いかけて行った。

 すると、白鳥は海の方に向かい磯に泊まった。大和建の妻子は足の傷が海水を浴びながらも彼を追いかける。


濱つ千鳥 濱よは行かず 磯傳ふ

(大意:歩きやすい浜を飛んで行かずに、歩きにくい磯を飛んで行くことだ)


と、足鏡別王は泣きながら歌った。それを一同も泣きながら聴く。

(お父さんは死んでも私たちのことは無視されるのですね・・・・。)

 足鏡別王の歌にはそんな気持ちが込められていた。

「お前の気持ちは痛いほどわかるよ。」

 建貝児王も泣きながら言った。

「だけど、それでも父を信じるんだ。でないと、誰が父を信じるんだ?」


 最終的に、白鳥は磯伝いに飛んで行き河内の羽曳野に留まった。

 そこでそこに大和建の陵墓を築くこととなりその陵墓を「白鳥の御陵」と名付けた。

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