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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第一部 乱始変局篇
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3.筑紫の政変-1

 西暦247年3月24日、狗奴国征伐のために小倉に集結した筑紫軍を、ある現象が襲った。

難升米(なしめ)様!大変です!小倉にて皆既日食が発生、戦の前に日食が起きるのは不吉なことであると、兵士たちが次々と戦線を離脱しています!」

 難升米にそのような報告が来たのは、もう日も暮れたころだった。

「そんな馬鹿な!」

 太陽の女神・天照大御神を信仰する筑紫の軍隊にとって、戦の前に皆既日食が起きるというのは「不吉」どころの騒ぎではない。

 筑紫の大王・甕依姫(みかよりひめ)は天照大御神を祀ることによって倭国を代表する王者と認められているのである。その甕依姫の軍隊は当然、天照大御神の加護を受けているはずなのだ。ところが、その「太陽神の加護を受けた軍隊」が、戦への出陣の前に皆既日食に()うとは!

 既に、筑紫の邪馬壱国(邪馬台国)と讃岐の狗奴国の間では、倭国の覇権をめぐる争いが始まっていた。播磨への狗奴国の全面的な侵攻の前から、瀬戸内地方では親筑紫派と親讃岐派に別れて争いが起きている。その最中での日食騒ぎだ。

「これは、国家が転覆するかも、知れん・・・。」

 難升米はそうつぶやいた後、直ちに使いに向かって言った。

「夜遅くまで使いの役目、ご苦労だった。しかし、申し訳ないがもう少しお願いしたいことがある。張政殿に今から難升米が行くと連絡してくれないか?」




 筑紫国と狗奴国の戦いの知らせを受けて中国の魏から派遣されている武官・張政は、筑紫国の幹部である難升米が来ると聞き慌てて部屋を片付けた。

 そして、彼は冬にしては薄着で難升米を出迎えた。

「張政殿、お元気そうな恰好で何より。」

「これは失礼。倭国には冬がないのでは、といつも思っていますよ。」

「外では雪が降っているのですがね。」

「私の地元ではもっと雪が積もっていますからね。」

 張政は満洲南部南部で育ち、今は朝鮮半島北部の帯方郡で仕事を得ている。どちらも夏は比較的温暖だが冬はとても寒い気候なのだ。

 帯方郡を含む「幽州」(今の河北省・天津市・満洲南部・朝鮮半島北西部)は、魏の中でも北の方に位置する。張政からすると、倭国は「南国」であった。

「ところで難升米様、何の御用ですか?」

 難升米は倭国の大使として魏に来た際、魏の皇帝から率善中郎将そつぜんちゅうろうしょうという官職に任命されている。中国の皇帝は周辺諸国を朝貢国(属国)として扱うので、周辺国の使いに魏の官職を与えることは珍しいことではない。

 実は、この率善中郎将の官職は比較的高い官位で、張政の官職よりも高い。中国人は往々にして周辺諸国の民を「夷蛮の民」として軽蔑するものであるが、張政は少なくとも表向きは難升米に対して敬意を払っていた。

「我が国の軍隊が狗奴国討伐のために出発しようとした矢先に、皆既日食が発生した。これはマズい。」

「倭王の求心力が弱まる、ということですか?」

 ここで言う倭王とは甕依姫のことだ。中国は筑紫国を倭国を代表する正統な政府として承認していた。

「ああ。これを機に我々に不満を持っている勢力が一気に政権転覆を狙うかもしれない。」

「狗奴国との戦いに反対する勢力ですよね?」

「反戦勢力と言えば聞こえはいいが、その実態は魏との断交を説く呉のスパイにあやつられた集団だ。孫権が倭国侵略の野望を抱いていることは今更言うまでもないでしょう。」

「ああ、それは知っています。」

 呉の皇帝・孫権は既に倭国征服のために軍隊を派遣している。台風の影響で倭国には近づけなかったが、既に台湾まで行って現地住民を奴隷にして連れて帰っているのだ。倭国にとって呉の存在は大きな脅威である。

「そして、そのような反対勢力の中心に立つのが――」

「立つのが?」

「――川上健(かわかみたける)だ。」

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