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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
49/61

28.剣のヤマトタケル-9

「とにかく!伊勢へ!おばさんのところへ!もう、美夜受姫はいい!ここまでくればいいのにどうして来ているんだ!いいかから伊勢に行くぞ!おばさんに会わないと!」

 高熱でうなされながら、大和建は意味不明なことを言う。

 唯一、意味が取れることは「伊勢に行きたい」ということ、叔母である大和姫に会いたい、ということだけだ。

 部下たちは彼を伊勢に向けて運んでいた。

「ああ、疲れた。」

 大和建は小川の辺の石に腰をかけた。もはや彼の意識は朦朧としている。

「将軍、とりあえず水でも飲んでください。」

 気を失いかけている大和建に、一人の兵士が水を汲んで持ってきた。

 少々強引に大和建にその水を飲ませる。

「ああ、生き返る・・・うん?俺はこれまで何をしていたんだ?」

「やはりそうでしたか!大変申し上げにくいことではありますが、将軍は少し気が触れてしまっていました。」

「なんだと・・・あ、まさか、あの伊吹山の一件か――思い出してきたぞ。」


 大和建が伊吹山の神を退治しに行ったときのこと。

 伊吹山を上る途中で白い猪と出会った。

 この猪は牛のような大きさで、部下の兵士はすっかりビビってしまったが大和建だけは意気揚々としていた。

「お前ら、何を猪ぐらいでビビっているんだ!それでも我らが大和の兵士か!」

「い、いや、将軍!猪に食い殺された人もいるんですよ!」

「というか、この白い猪って山の神の化身か何かじゃないんすか!」

「げ、こんなに早くボスキャラの登場かよ!」

「マジか!このデカい猪が神様か!」

 兵士たちが口々に叫ぶので、つい大和建も声を張り上げた。

「お前ら大丈夫か!?見ろよ、この猪、俺たちが近づいてもまだ攻撃していないだろ!何を騒いでいるんだ!」

 確かに姿をハッキリ視認できるだけ近くにいるが、猪は攻撃態勢を整えていない。

 さすがに見慣れない人間が騒いでいることに気付いたのか、こちらを怪訝そうに見つめている。

「しかし、野生動物って怖いっすよ!」

「いや、神様だから攻撃していないだけで、こちらの意図に気付いたら・・・。」

 まだ一部の兵士が騒ぐので、大和建もつい調子に乗って言ってしまった。

「お前らなぁ、こんな猪が神様だと?笑わせるんじゃない、こいつはせいぜい神様の使いにすぎねぇよ!こんな猪は山の神を退治した後で美味しく食ってやるわ、ハハハ!」

 そう兵士たちの方を向いて大和建が語ると、兵士たちは大和建の背後を見て震えていた。

「うん?俺の後ろには誰もいないぞ?」

「いや、誰もいないんじゃなくて・・・・。」

「さっきまで、さっきまで、いたよな?」

「ああ、一体、どこに・・・・。」

「やっぱ、あの雲が怪しいよな?」

「うん?」

 大和建が辺りを見回すと最初にいた猪が姿を消している。

 そして、もう一度後ろの方を見ると――

「何だあの雲は!?」

――異様な雲が急成長していた。

 そして――

「雹だ!」

 兵士たちが叫ぶ。

 特大の雹が大和建とその兵士たちを襲った。


「と、いうわけで慌てて逃げ帰ると気が付いたら将軍の気が触れてしまっていた、ということです。」

「そうか・・・・。」

「で、うわ言のように大和姫様の下に帰りたい、と言っていました。」

 一通り事情を聴いた大和建は言った。

「そうだな。なんとなくだが、俺は無性に叔母様に会いたい。では、伊勢に行くぞ!」

 そう言って立ち上がった大和建だが、歩こうとするといきなりよろけてしまった。

「大丈夫ですか、将軍!?」

 部下たちが心配する。

「なに、気にするな。」

「とりあえず、杖を持ってきました!」

「あ、ありがとう。確かに杖があった方が良いな。」

 そう言いながら、大和建は杖を突きながら伊勢の方へと向かった。

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