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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
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24.大枝王と銀王-14

「武内宿禰、かぁ。」

 銀王は武内宿禰のことを思い出しながら高木姫に指定された場所へ向かう。

 最近はぶつかってばかりいるが、彼への好意は消えていない。

 やはり、初恋の人への想いはそう忘れることはないのだろう。

 今でも、銀王の心の中では武内宿禰は「理想の男性」だ。

 そして、その「理想の男性」が銀王の敵に回っているのだ――少なくとも、恋愛に関しては。

 彼は二度も銀王の恋愛を邪魔した。一度目は、銀王が武内宿禰を好きになった時。二度目は、銀王が大枝王と結婚しようとしているのを、今まさに妨害していることだ。

 何の後ろ盾もないまま王族として育った銀王にとって、臣民で唯一優しく接してくれる武内宿禰は大きな支えだった。

 恋愛を除くあらゆる場面で、武内宿禰はとても心強い味方であった。

「しろちゃん?」

 ふと自分を呼ぶ声がする。

「たけさん?」

 銀王は前の方を見た。そこには武内宿禰が立っていた。

「良かった。しろちゃんに会えて嬉しいよ。」

「私も。」

「そうか。」

 しばらく、沈黙が二人を覆った。

「・・・・もうすぐ、筑紫に行ってしまうんだよな。」

 先に口を開いたのは武内宿禰の方だった。

「そうね。」

「寂しいが・・・やむを得ないのだな。」

「ええ。」

 言いたいことは山ほどある。しかし、銀王の口からは出てこなかった。

「私も、寂しいけれど仕方のないことです。」

「そうか・・・・。」

「私がたけさんと初めてであった頃、私がまだ幼かったころですよね。」

「そうだな。まだ10歳だったよな。」

 倍数年暦での10歳は数えでの5歳だ。

「そうですか・・・・。懐かしいですね。」

「あの頃に戻りたいか?」

「え?――そう言われてみれば、あのころが一番幸せだったかも。」

 まだ5歳の銀王を20代前半だった武内宿禰はよく可愛がってくれた。

 あの頃がなんやかんやで一番幸せだったのかもしれない――そう回想した。

「私はしろちゃんが好きだった。」

「恋愛感情ではなかったのでしょ?」

「まぁ、年の差もあったしな。」

「そうですよね・・・・。」

 20代前半の若者と5歳の幼女の間に恋愛が成立するわけはない。

 そのことを頭では理解できても、一度好きになった感情は整理できない。

「正直、今でも銀王が好きで筑紫には行って欲しくなかった。というよりもしろちゃんが大枝王と仲良くなった時点で嫌な予感がした。しろちゃんが私から離れていってしまうんじゃないか、って。」

「私は――私は、たけさんなら私の新しい恋愛を応援してくれると思っていたのに。」

「申し訳ない。ましてや二人は兄妹だ。最初二人が仲良くしていても、まさか恋愛関係だとは思わなかった。」

「そうか・・・・。」

「私からしろちゃんが離れていくんじゃないか、という予感は的中してしまったな。――この前、足鏡別(あしかがみわけ)王と五十狭茅宿禰(いさちのすくね)からその提案を受けた時は仰天したよ。」

「筑紫に行くことですか?」

「うん。」

「ふふふ、私の方がたけさんよりも一枚上手だったとしたら少し面白いですね。」

「最初会った時から、しろちゃんはただものではないと思っていたよ。」

「え?」

「たくさんいる王族の子弟の中からしろちゃんに声をかけた理由は、しろちゃんの目が一番輝いていたからだ。それに私は伊賀で修行してある程度は神通力を身に着けているから、少しは人間の素質を見破れる。」

「そうですか、それじゃあ見込み違いだったとか思ってます?」

「いや、君が道を踏み外すことは最初から予想していた。」

「え・・・・。」

「確かに、こういう形になるとは思っていなかったが、まぁ良い。しろちゃん達が一度結婚するとやがてはそれが当たり前になるのだろうしな。」

「そういうものですか?」

「そうだろ。話を戻すと、少々道を踏み外してもしろちゃんは大物にはなると思う。歴史に名を遺すぐらいにはね。」

「それは悪い意味で?」

「いや、良い意味で業績を残すだろ。」

「そう。なら良かった。」

「もうすぐ出発なんだよな・・・・。」

「ええ、そうですね。」

「父親のこと、どう思っている?」

「え?」

「大帯彦さまの事をどう思っているんだ?」

「え?アハハハハ。」

「え?」

「私や他の王族にはタメ口を聞いても父には敬語を使うのね。」

「そりゃあ、大王は特別な存在だ。」

「そう?私は別に何とも思っていないわ。」

「そうなのか?父親を嫌っている?」

「いや、好きでも嫌いでもないわね。」

「どちらでもない、というのが良いのか悪いのか・・・・。」

「あんまり父親と接した記憶はなかったからね。」

「そうか・・・。だけど、最終的に大王様も悩みながらも二人の婚姻を了承したんだぞ?」

「筑紫に行く条件付きで、でしょ?」

「それは大和の分裂を回避するためには仕方のないことだ。言っておくが、兄妹婚に反対しているのは私だけではない。」

「そうかもしれないわね。」

「いつか、私も筑紫に行きたいと思っている。その時にはよろしく。」

「へぇ、たけさんも筑紫に来るの?」

「いつになるかはわからないけれど、私は筑紫に行きたいとずっと思っていたんだ。」

「そうなんだ。それじゃあ待っているわね。さようなら!」

「さようなら!じゃあ、おやすみなさい。」

「ええ、おやすみなさい。」

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