23.大枝王と銀王-13
銀王が大和の大王の宮殿がある纏向の町を歩いていると、一人の女性が声をかけてきた。
「お姉様?」
「え?」
銀王に同母妹はいない。怪訝に思って振り向くと、一人の少女が立っていた。
「あ!高木姫じゃない!」
「良かったぁ、覚えていてくださって!」
「忘れる訳ないじゃないの!」
そういいつつ、内心ではあまり接点のなかった異母妹の登場に困惑していた。
「久しぶりね。父上の朝食会では会っていたはずだけど、なかなか話はする機会がなかったわね。」
「それはお姉様がいつも大枝王様と一緒に居るからでしょ?」
そう言いながら高木姫はニンマリとした。
「まぁ、私の夫になる人だからね。」
「そうだったわね・・・。お姉様はもう結婚されるのよね。」
「ええ。」
「結婚するために筑紫にまで行かれるのでしょ?」
「そうよ?さすが、よく知っているわね。」
「今日纏向に来られたのもそのための準備?」
「そうね。」
「ちょっとだけ時間とってもいい?」
「ちょっと?」
そう言いながら銀王は苦笑する。
「う~ん、しばらく!」
「正直でよろしい。」
「まさか、異母兄と結婚されるとは思いませんでした。王族の間では二人のうわさでもちきりですよ?」
「兄妹が結ばれて何が悪いのかしら?」
「そう言うと思った。昔からお姉様はそうでしたもんね。『我が道を行く銀王』として有名でしたもん。」
「え?そんな評判、立ってたっけ?」
「え?ご存じなかったのですか?」
「私がどういう風に有名だったか、教えてほしいわね。」
「なぜか浮いている女性。」
「は?」
「ちょっと、真顔で言わないでしょ!お姉様怖い!」
「それじゃあ高木姫、さっきの言葉の真意をどうぞ?」
「いや、ほら、あの、お姉様って少し浮いていたじゃない!五百野王様とは仲が良かったけど他の人とは若干距離を置いている感もあったし?」
「距離を置いていた?どこが?」
「え、ちょっと、怒らないでよ!」
「別に怒ってないわよ?」
「本当?」
「とりあえず、教えてくれない?」
「――お姉様って色々な人と仲良くしているように見えて、本当に心を許していたのは五百野王様だけだったように思う。」
「ああ、確かに。気の置けない友達?いや、姉よね、それは五百野王だけだったわね。」
「そうでしょ?」
「だけど、それはみんな一緒なんじゃない?だいたい、80人も兄弟がいて本当に兄弟としての自覚をもてると思う?」
「え?私は80人全員家族だと思っていたけど・・・・。」
「そうか・・・。そういう意味だと貴女は幸せね。」
「ほとんどの兄弟が大枝王様と銀王様の結婚を祝福しているし。」
「本当?みんな武内宿禰に媚びを売る王族ばかりじゃない。」
「――お姉様、あんなに武内宿禰と仲が良かったのにね。」
「そうねぇ。私も仲良くはしたいわよ、彼と。」
「それじゃあ、今晩は空いてる?」
「え?」
「今晩はお姉様、時間を取れますか?」
「どういうこと?」
「――ふふっ、武内宿禰がお姉様と久しぶりにゆっくり話をしたいんだって!」




