16.若帯彦と武内宿禰-3
「大枝王と銀王との縁談は大和姫様が認められたものである、との話が広まっているが。」
若帯彦が武内宿禰にいう。
「それは言葉の綾でしょうね。」
武内宿禰は微笑みながら返した。
「兄妹が夫婦として結ばれるというのは、やはり正常な形じゃないと思いますよ。」
「それはそうなのだが・・・・。」
「大和姫様が何といったのかは知りませんが、伊勢の斎宮ともあろう方が獣の道に堕するようなことを王族にさせるとは思えません。」
「う~む・・・。」
「若さんが決断しないのであれば、私としても止むを得ないですね。可愛い銀王の事ではありますが、手加減をするわけにはいきません。」
「何をするつもりなのだ?」
「別に何か手を下すわけではありませんよ?」
「武さん、お前が凄い人間であることは認める。お前の実力は王族を上回っている。だからな、王族としてではなく一人の友達として言いたい。」
「何ですか?」
「お前はあれだけ銀王を愛していたのに、今のお前はなんか変だ。」
「今でも私は銀王を愛していますよ。」
「わかった、じゃあこう訊こう。ずっと気になっていたのだが、銀王に求婚された時のお前はどういう気持ちだったんだ?」
「――あの女からの求婚ですか?」
武内宿禰の声が少し低くなった。
「寂しかった、かな。正直、迷惑という思いもありましたよね。」
「迷惑?」
「私はね、銀王を女性として愛したことは一度もないんですよね。だいたい、銀王を妻に迎えたところで私に一体、何の得になるというのですか?」
「まぁ、微妙な立場の女王を妻にすると大王家を乗っ取ろうとしているんじゃないかとか、色々と疑念を持たれるもんな。」
「ええ。確かに彼女は素晴らしい魅力の持ち主です。しかし、恋愛感情が理屈で説明つくのかはわかりませんが、銀王が私に恋愛感情を抱いたことは銀王のためにはならなかった。」
「そうか・・・・。」
「私ではなく別の男を好きになっていたら、銀王ももっとちゃんとした人生を歩めたでしょうに。まさか、自分の兄を好きになるとは、ね。」
「それだけ君に振られた傷が大きかったんだろうな。大枝王以外、彼女の傷を癒してあげることは出来なかったわけだ。」
「それでも、兄妹婚等という忌々しいことを認める気にはなれませんね。私が銀王をあそこまで可愛がって育ててきたのは、彼女を獣の道に歩ませるためではないんですから。」
「ふ~む、そういうものか。」
「ええ。一歩間違えれば彼ら、大和建を大王にしようと企むでしょうしね。まぁ、それは無理ですけど。」
「うん?どういうことだ?」
「大和建の寿命はそこまで続きませんよ。私には、わかります。」
「ほう、そうなのか?」
「恐らく、彼が生きて大和に帰ってくることもないでしょう。ただ、懸念すべきは大王様があたかも大和建が後継者であると解釈できるかのような発言をしたことです。あれだと大和建が亡くなっても彼の子供が王位を狙うでしょうね。」
「では、どうすればいいのだ?」
「簡単ですよ。大和建の子供の一人を若さんの次の大王に指名すればよいのです。そうすれば全て丸く収まります。」
「お前がそう言うということは、既に準備は進んでいるのだろうな?」
「ええ、後は若さんの決断次第ですよ。」