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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
34/61

13.剣のヤマトタケル-4

 いよいよ出発の時が来た。

 大和建は副将の御鋤友耳建彦みすきともみみたけひこと共に兵士を集めて伊勢を立つ用意をしていた。

「大和建様!少しお待ちください!」

 一人の女性が駆け寄ってきた。

「うん?君は?」

「私は大和建様の異母妹です!伊勢の巫女の五百野王と申し上げます。」

「五百野王、か。名前はよく覚えておこう。で、用件は?」

「二つあります。一つは、叔母様から託されたものです。」

 そう言って五百野王は一つの袋を渡した。

「今日は物忌みなので直接の見送りは出来ませんが、もしも何かがあればこの袋を開けるように、との叔母様からの伝言です。」

「そうか。ありがとう。」

 そう言いながらこの袋を受け取った大和建はいきなり嗚咽しだした。

「え?どうしたのですか?」

「あ、いや、ごめん・・・。」

 大和建の頬を涙が伝う。

「不覚にも涙が出てしまった。」

「やはり、叔母様との別れは辛いですか?」

「そうだな、叔母様ももう若くない――」

 そう言おうとして、大和建は大和姫とのやり取りを思い出し絶句した。


『次に私が貴方と会うのは天界でのこととなるでしょう。』


 自分が帰ってくる頃には、もう大和姫はいないのだ――この言葉はそういう意味の預言として聞こえたのだが、大和建にはそれ以上の何か、言葉では言い表せない重みが込められているように感じた。

「どうなされました?」

「あ、いや、叔母様との会話を思い出していてな。」

「――叔母様とのやり取りは私には言えないこともあるでしょうから、あえては聴きません。ただ、もうあまり時間はありませんので次の要件に移っていいでしょうか?」

「ああ、いいよ、ごめんね取り乱して。」

「尾張に美夜受(みやず)姫という私の友達の女性がいます。もし良かったら彼女にも挨拶をしてくださると嬉しいです。」

「ああ、わかった。美夜受姫だな、覚えておくよ。」

 大和建がそう言うと後ろから声がかかった。

「大和建さま、もう話はお済でしょうか?私達は準備が整いました。」

「おお、御鋤友耳建彦か、ありがとう。それじゃあ名残は惜しいが出発してくる。」

「大和建様、行ってらっしゃい。」

 大和建の一行は五百野王の見送りを受けながら東方へと出発した。

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