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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
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11.大枝王と銀王-7

「私は武内宿禰のことは、決して嫌いではないの――ただ、私を振った男に私を縛る権利はないわね。」

「まぁまぁ、しろちゃん落ち着いて。」

 今、大枝王と(しろかね)王は神櫛王の屋敷にいる。

 二人による事情説明を神櫛王はゆっくりときいていた。その隣には、大王・大帯彦(おおたらしひこ)の秘書官である五十狭茅宿禰(いさちのすくね)が控えている。

「要するに、武内宿禰が二人の結婚に反対しているわけだな?」

「そういうことになります。」

 神櫛王の問いに大枝王は答えた。

「しかし、このことは或いはチャンスになるかもしれんなぁ。」

「え?」

「五十狭茅宿禰殿。」

「はい!」

 まだ若い秘書官である五十狭茅宿禰が顔を上げる。

「確か今朝、大和建が軍勢を率いて大和姫のもとに向かったようだな。」

「その通りでございます。」

「その後、東方諸国を平定に行くのだろ?」

「その通りでございます。」

「そして、東方平定に大和建が成功したらどうなるんだ?」

若帯彦(わかたらしひこ)様に代わりまして、大和建(やまとたける)様が太子となります。」

「つまり、次期大王は大和建ということだな?」

「東方平定に成功して無事に帰ってくることが出来れば、その通りであります。」

「と、いうことだ。若帯彦の腰巾着(こしきんちゃく)に過ぎない武内宿禰など、恐れることはない。というよりも、むしろこれを口実に武内宿禰を失脚させることも、可能だ。」

 神櫛王が告げた事実に、銀王は衝撃を受けていた。

「そんな・・・・。武内さんが・・・・。」

「無論、若帯彦の側近であるというだけでは失脚はしない。だが、大和姫様の意向に逆らったとなると、話は別だ。」

「え?」

「大枝王と銀王の関係は大和姫公認の関係である――そういうことにして父上にも報告した。」

「そんな!それは噓です!」

「落ち着け、銀王。さっき私が言ったことが事実だ。それ以外の事実を語ることこそが、偽りを述べることになる。」

「私達の関係に大和姫様は関係ありません!」

「いや、大和姫が認めたからこそ、二人は兄妹であるにもかかわらずに結婚できるのだ。そうだよな、五十狭茅宿禰殿?」

「仰られる通りです。」

「そういうことだ。」

 神櫛王は大枝王と銀王の顔を見渡した。二人とも驚きを隠せない顔をしている。

「いよいよ私達の時代が来るわけだ。ここで武内宿禰の顔を伺う必要があるか、否かは、明白だな。」

「少し、聴きたいことがあるのですが、よいですか?」

「大枝王、どうしたんだ?」

「五十狭茅宿禰殿、貴方に聴きたい。大和建は帰って来るのでしょうか?」

「おい、大枝王、何を言っているんだ?」

「私は五十狭茅宿禰殿に聴いているのです。」

「まて・・・。」

「大枝王様、大王様はすべての子供を平等に愛しておられます。当然、大和建様が無事に帰ってこない、等と言う事態を決して望んではいません。」

「私の訊きたいことに答えてくれるかな?」

「――本来ならば、大和建様は六十年前に同母兄の大碓様を殺した件で処刑にされるべきでした。それを筑紫に派遣されたのは、大王様が息子を愛しておられたからです。」

「で、大和建に川上建を暗殺させたのは父上が望んだことだったのか?」

「大王様が望んでいたことは、全ての子供たちと平和に一緒に暮らすことでしょう。」

「それで、話を戻す。父上の願望とは無関係に大和建は今回の東国征伐から無事帰ってくることが出来るのか?」

「それは神々次第でしょう。」

「お前、中々面白いやつだな。気に入った。」

「ありがとうございます。」

「そうだとするとだな、やはり早いうちに既成事実を積み重ねるべき、ということになるな。」

 そう言いながら大枝王は神櫛王の方を見る。

「大和姫に愛されている兄上が神々の加護を受けていないとでもいうのか?」

「神々の加護を受けることと大王の位に上るのは別の話だろ?」

「もういい、お前たちは好きにすればよい。ただし、私達の邪魔だけはするな。」

「ああ、邪魔はしないよ。じゃあしろちゃん、帰ろうか?」

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