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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第一部 乱始変局篇
3/61

1.播磨の事情-1

 こんなに、戦勝の報告をしに行くのが辛くなることは、あっただろうか?

 巴利(はり)国(播磨国)の武将・建石守(たていしもり)は、重々しい気分で荒れ果てた首都・宮内を歩く。

 これから、巴利国の女主・播磨刀売(はりめとめ)に自分の戦勝報告をしなければならないのだが、そんなことを嬉々と報告できるほど、空気の読めない人間ではない。

「播磨刀売様、ただいま参りました。」

「建石守か。随分と呑気なご参上ね。」

多可(たか)での戦いで無事、讃岐彦の軍勢を破って戦勝の報告をしに参るつもりでしたから。」

「そうか。全く、幸運なこと。お前たちが勝利の美酒に酔っている間、私達は揖保川を北上してきた讃岐の兵士に襲撃されたというのに!」

 播磨刀売は、感情を隠さない様子で言った。

「まさか、狗奴(この)国王・讃岐彦が自ら率いる軍勢が陽動であるとは、さすがの私も見抜けなかったことはご理解いただきたい。」

「お前たちは敵の国王に勝って良い気になっていたのかも知れぬが、私達は辛うじて敵の軍勢を撃退したとはいえ、犠牲者は奴らよりもこちらの方がはるかに多い。全く、そんな中で戦勝の報告とは、不謹慎にもほどがある!」

「失礼ながら、播磨刀売様、私は軍人です。政治家ではありません。」

「どういうこと?」

「私の仕事は、戦で勝つことであり、国を守ることではありません。国を守るのは政治家の仕事です。」

「何が言いたいの?」

「わざわざ、巴利国の精鋭部隊を率いて多可まで行くように命令したのは、どこの女でしたっけ?」

「うるさい!」

「そんなことを言われましたも・・・・。私も播磨刀売様を御守りできなかったのには忸怩たる思いですが、そうなるきっかけを作ったのは播磨刀売様ですよ?」

「私が悪いというの?」

氷上刀売(ひかみとめ)は丹波の女。どうして、あの女を守るために私が闘わなければならなかったのか、そんな暇があればこの宮内の地を守りたかったですよ。」

「うるさい!私にとって、氷上刀売は大切な友達なの!」

「で、その氷上刀売に振られた狗奴国の王・讃岐彦が逆ギレして丹波まで攻めて来そうになったので、先手を打って、彼が丹波に行く前に播磨で潰そうとした、と。」


 氷上刀売は丹波の豪族である。刀売(とめ)は女性領主の称号で、氷上(ひかみ)の地は丹波の中でももっとも播磨に近い国境地帯である。

 そして、播磨と氷上は「多可」という土地の帰属をめぐって争っていた。播磨刀売は建石守らを率いてこの土地の支配権を勝ち取り、代わりに「今後もし、氷上刀売が困った目に遭えば、必ず助ける」という約束をしたのだ。

 そうした中、瀬戸内海を挟んだ狗奴国の王・讃岐彦が氷上刀売に求婚をしてきた。氷上刀売がそれを断ると、讃岐彦は氷上刀売に向かって宣戦布告し、力ずくでも氷上刀売を自分のものにすることを予告した。

 讃岐から氷上まで行くためには、必ず播磨を通らなければならない。そして、播磨から氷上に行くためには、多可を通らなければならない。

 そこで、播磨刀売は氷上刀売との約束を守るために、建石守に多可で待ち伏せして讃岐彦を追い返すように命じたのである。

 確かに、讃岐彦は多可にやってきた。そして、建石守は讃岐彦の軍を破った。結果的に、播磨刀売は氷上刀売との約束を守ることが出来たのである。

 播磨刀売の誤算は、讃岐彦の本当の狙いが氷上ではなく、播磨であることに気付かなかったことである。

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