8.若帯彦と武内宿禰-2
大王・大帯彦の朝の食事会も、今日からまた賑やかになる。――そう思いながら武内宿禰は起き上がった。
「王族たちがまた帰ってきたなぁ。」
そう言いながら、彼は身支度をすると家を出て宮殿の大食堂へと向かった。
「武内宿禰殿、久しぶりだな。」
大食堂へと向かう道中、とある男性の声がした。
「神櫛王様、お久しぶりです。」
そう言って武内宿禰は頭を下げた。別の派閥の人間とは身分は相手の方が上だ。
「噂によるともうすぐ兄上も帰ってくるそうだな。」
(あ、敵意が無くなっているな・・・・。)
武内宿禰は頭を上げて神櫛王の顔を見ると、そう感じた。
「大和建様の帰還が待ち遠しいですか?」
「そうだな。60年近く会ってはいないとはいえ、彼は私の同母兄だからな。」
そう言うと神櫛王は「では、また」と言って去っていった。
「おお、武君!」
「あ、若様!」
次に武内宿禰に声をかけてきたのは若帯彦だった。
「よし、今日も一緒に行こうか!」
「そうだな。」
そういって二人が一緒に歩こうとすると
「お兄様!」
という声が聞こえた。
(うん?どこかで聞いたことのある声だが・・・。)
そう思って後ろを振り向くと銀王が「彼氏」らしき男性と一緒に居た。
(うん?待てよ、「兄」と言っていたよな?)
武内宿禰は人間のオーラを察知する力があり、銀王と一緒に居る男性が一瞬彼氏か夫に見えたが、何かの間違いだと思うことにした。
「いや、もう夫だと思ってくれていいんだよ?」
「じゃあ、大枝王様!一緒に朝食に行きましょう!」
「ああ、久しぶりに朝食会に顔を出そうと思ってここまで来たんだ。」
「それって、私に会いにですか?」
「そうに決まっているだろ?俺はお前のことが大好きだ。」
「ありがとう!超嬉しい!」
後ろの方から聞き捨てならない声が消える。
「ちょっと、若さん?」
砕けた話をする際には、太子であっても敬語は使わないことがある。
「どうした?」
若帯彦の方も口調から砕けた話であると思ったが、なんとなく武内宿禰の様子から大声でしたくない話だと判断し、声を潜めた。
「大枝王って確か迦具漏姫様の息子だよな?」
「ああ、そういえばそうだったよな。それがどうした?」
どうやら若帯彦にはあの二人の会話は聞こえていないようだった。
「いや、ちょっと気になっただけだ。」
そのまま二人は食堂に入る。
若帯彦と雑談をしながらご飯を食べていたが、途中で先ほどのことがどうしても気になってふと銀王の方を見た。
すると、先ほどの男――大枝王と二人で仲良く一緒に居る。それを見た武内宿禰は神櫛王の方へ向かった。
「ちょっと、お話しできますか?」
「どうしたんだ?」
「すみません、ここで話すのも何なので・・・。」
そう言って神櫛王を外に連れ出した。
「一体、どうしたんだ?」
「大枝王と銀王の二人、どういう関係なんですか?」
「あ・・・・。」
神櫛王は「困った」というような顔をした。
「もしかしたら、表にできない関係なのですか?」
「うっ・・・・。」
神通力を持っている武内宿禰はウソを言ってもすぐに見抜く。
「・・・・御明察の通りだ。」
神櫛王はそれだけ言うと、武内宿禰と目を合わせないようにして中に戻って言った。
「大枝王、か・・・・。私の可愛い銀王を獣の道に連れ込むとは!」
神櫛王が去った後、武内宿禰は吐き出すかのように独り言をつぶやいた後、自分も中に戻っていった。