Prologue 2
はるばると美濃の国まで行って、大碓は大根王の娘である美人姉妹に会いに行った。
見てみると、確かに可愛い二人ではないか!
「この二人が、父上の妃になる姉妹ですね?」
そう大根王に確認すると
「そうです。娘を宜しくお願いします。」
と言って頭を下げてきた。
「すみません、大根王様、少し二人で話は出来ませんか?」
「はぁ、なんでしょうか?」
そう言いながら、大根王は大碓を別室に連れて行く。
「すみません!娘さん二人を、父上ではなくて私の妻にはできないでしょうか?」
「え?」
「いや、大王の命令に逆らったらいけない、ということはわかります。そこをなんとか・・・父上のことは何とかごまかしますから、お願いします!」
話は早かった。
大根王からすると、娘が何人もいる大帯彦大王の妃の中で埋没するよりも、大碓の最初の妻になるほうが何かとメリットがあるように感じる。
何しろ、大碓は大和の大王になる可能性もある人間だ。彼の同母兄の櫛角別王は父親と仲が悪いようだが、大碓自体は父親との関係は良好だ。ここは彼に賭けてみても良いかもしれない、というわけで、大碓の申し出に合意した。
一方、大碓は父親をごまかすために、別の女性二人を「大根王の娘の姉妹」と偽って父親に差し出そうと考えた。それもあっけなく成功した。
「身分を偽ってでも、大王の妃になりたい」
という女性は、探せば意外にすぐに見つかったのだ。
そこで、大碓は大和に到着すると、大根王の娘二人になりすましたニセモノを大帯彦に献上することにした。
大帯彦の宮殿である大和の纏向の日代宮で、大碓はニセモノの姉妹を連れて父親の許へ赴いた。
「大王様、こちらが美人の誉れが高い大根王の娘である姉妹であります。」
「お、そうなのか。」
そう言いながら、大帯彦は事情を察知した。
この二人は美形ではあるものの、大帯彦の好みとは言い難い。
「ふむ、この二人が美濃の国で一番美しい姉妹か。ところで、大碓。」
「は、はい!」
「私はお前が36歳になっても妻をめとらないことを若干心配しておったのだが、お前が望むのであればこの二人をお前の妻にしても良いぞ?」
36歳といっても、当時は一年を二年と数える倍数年暦が使用されていたのだから、実年齢は数えの18歳なのだが、それでも当時はまだ妻がいないのは珍しかった。
「い、いえ、その必要はございません!」
「そうか。ならば、喜んで二人を私の妃として迎えることとしよう。」
愛されて育った人間は、愛されることに慣れすぎて、他人からの愛念を感じることが出来ないことも、しばしば。
父親の愛に気付かなかった子供たちによって、物語は始まります。