15.大和建の誕生-2
「今、川上建は大王就任記念で新しい宮殿を作っている。」
「そうなんですかぁ。」
「で、君たちにはその宮殿落慶の祝賀会に参列した後で、迦具漏姫様を大和に連れて行ってもらうということになっている。」
「なるほど。」
小碓は伊声耆の話に耳を傾けていた。
「要するに、行動を起こすとすればその祝賀会だ。」
「わかりました。」
「で、どうやってそれをする?」
「う~む。」
小碓が悩んでいると、両道入姫が発言した。
「あの!私に良い考えがあるんですけど!」
「なんだ?」
伊声耆がそう問いかけると、両道入姫は自分の思いついたプランを語った。
数日後、川上建の宮殿が落慶した。
「全く、私もすっかり『過去の人』扱いだなぁ。」
祝賀会に招かれた王族の須売伊呂大中彦王はぼやいた。
彼は甕依姫の前の大王の孫で早死にした父に代わって大王位継承の有力候補であったが、当時の倭国は筑紫と讃岐の対立やかつてない冷害に襲われていたこともあり、まだ幼かった彼は大王に選ばれず、甕依姫が即位することになったのである。
もうその甕依姫も亡くなり、大王となったのは王族の中でも武闘派として有名だった川上建であった。甕依姫が無くなったころには、須売伊呂大中彦のことを気にかけるものなどいなくなってしまい、今回の祝賀会も「その他大勢」の王族の一人として呼ばれている。
いや、娘の迦具漏姫と大和の大王の大帯彦との婚約が決まったから少しは注目されているものの、それとて川上建の宮殿落慶の前にはすっかり忘れてしまい、社交辞令的な祝いの言葉すら言わない人も多い。「その他大勢」の王族の政略結婚など、その程度の扱いなのだ。
「お父様?大丈夫?」
迦具漏姫が声をかける。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。」
いつもは生意気な娘もいざ改まった場になるとミスをしない優秀な娘に代わる。普段の仕事は真面目にやっておきながらこういう祝宴になると意識が飛んでしまう父親とは対照的だ。
「招かれるのは嬉しいが、寂しいな。」
そう言って須売伊呂大中彦は酒を飲んだ。
「お父様がもう少し社交的であれば、友達もできたでしょうに。」
「最低限の付き合いはしている。だいたい、あまり私が社交的だと派閥争いに巻き込まれて、今頃は失脚だ。」
そう話している内に、迦具漏姫に一人の少女が声をかけた。
「義姉様でしょうか?」
「そういう貴女は、両道入姫?」
「ええ。初めまして、お会いできて嬉しいです。」
「私の夫になる人の妹なわけね?」
「そうです。お兄さんを宜しくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそお会いできて嬉しいわ。」
そういう二人の会話を聞いて、
(そうか、この娘ももうすぐ私の家からいなくなるのか・・・・。)
と思い、若干の寂しさが込み上げてきた。
気を紛らわせるために川上建とその弟がいる方を見る。
相変わらず、二人は周囲に自分たちの武勇談ばかりを語っていた。自分たち兄弟は人呼んで「クマソタケル兄弟」なのだという。
二人に酒を注いでいる少女に向かっても、何やら語っている。武勇談自慢だろうか?適当に相槌を打って去ろうとする少女を、川上建は腕をつかんで引き留め、自分と弟の間に座らせた。
「あの、須売伊呂大中彦王様?」
ふと両道入姫が須売伊呂大中彦に声をかけてきた。
「うん?」
「いえ、義姉様のお父様ともお話をしたいと思いまして。」
そう言いながら両道入姫は微笑んだ。