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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第一部 乱始変局篇
16/61

14.大和建の誕生-1

「小碓様・・・よくぞ来られた・・・・。」

 伊声耆(いせき)掖邪狗(えきやこ)は、小碓の姿を見て少し驚きながら言った。

「ええと、従者はその二人だけですか?」

「ええ。途中まで祖父の彦汝と一緒に居ましたが、祖父は巴利国に帰ったので。」

「それそれは・・・・幼いのに遠路はるばる、ご苦労様でした。」

 そういいつつ、内心は不安だらけになる。

(参ったなぁ、難升米(なしめ)様の計画通り巴利国経由で大和に刺客を頼んだら向こうの王族が来るというからどんだけ立派なやつが来ると思ったら、まだ16歳のガキじゃないか。)

 繰り返すが、二倍暦であった当時の16歳は今でいう数えの8歳であり、幼児であると言っても過言ではない。

(さて、こいつのことをどうやって川上建(かわかみたける)に報告すればよいものやら・・・。)

 まさか、大王である川上建を殺すための使者を公然と招くわけにはいかないから、表向きは筑紫の王族である迦具漏姫(かぐろひめ)と大和の大王である大帯彦が婚約をしたので、大帯彦の息子の小碓が迎えに来た、という形にしている。

(こんなガキがお迎えだと言って誰が信じるんだよ。まず、俺が信じられんわ!)

 等と内心では思っているが、口には出さないようにする。

「まぁ、とりあえず、今日のところはゆっくり休んでおいてほしい。私は小碓様が来たことを大王に報告に入って来るので。」

「わかった。」

 小碓の返事を聞いて伊声耆は侍女に小碓を客用の寝室に案内するように命じると、大王・川上建の屋敷に向かった。

「大王様、お忙しいところ失礼します。」

「おお、今日は何の用かね?」

 伊声耆は敵を作らない処世術に長けた人間であった。難升米は解任した川上建も、伊声耆については何の処分を下していない。

「迦具漏姫を迎えに大和からの使者が来たのですが・・・・あの・・・・。」

「うん?どうした?」

「ええと、16歳の子供なんですが・・・・。」

「は?ガキじゃねぇか!」

「ちょっと、私も信じられないので・・・・ええと、どうします?」

「ふむ、もしかしたら大和のやつ、『熊襲建(くまそたける)』との異名を持つ俺の武勇談を聞いて下手に刺激をせぬよう、あえて子供を送り込んだのかもしれぬなぁ。」

「はぁ、そうですか・・・・。」

 そこへ川上建の秘書の青年が走ってきた。

「失礼します!大和の国の大王の妹と称するものが、至急、大王様にお会いしたいということです!」

「うん?新しい使者か?良いだろう、通せ。あ、伊声耆、お前はそのまま残っていてよいぞ。」

「承知しました。」

「伊声耆も別に使者が来ることは知らなかったのだよな?」

「ええ・・・・。」

 実際、伊声耆は頭が混乱していた。小碓の年齢だけで驚きなのに、さらに大和から使者が来るとは、二度ビックリである。

「お忙しいところ失礼します。大帯彦の妹の両道入姫(ふたじいりひめ)と申します。」

 川上建と伊声耆は入ってきた女性を見て三度ビックリした。

「また子供じゃないか!」

 川上建は自分が大王であることを忘れて、思わずそう叫んでしまった。

「申し訳ございません。私は(よわい)まだ20歳にしかなっておらず――」

「だと思ったわ!・・・あ、いや、その年ではるばる大和から筑紫の地までくるとは大儀であった!」

 川上建はあわてて取り繕う。20歳は通常の暦に直すと数えの10歳である。

「ところで、君、本当に大和の大王の妹なの?」

 伊声耆が突っ込んだ。

「そう言うことを聞くのは失礼ではないでしょうか?」

 若干殺気のこもった声で両道入姫は答える。

「私は紛れもない大和の先代の大王である伊久米入彦(いくめいりひこ)の娘であります。父上は私の幼い頃に亡くなりましたが――」

「ちょっと待って、大和の前の大王はかなり高齢で亡くなったはずだけど、本当に――」

「うるさい!」

 両道入姫がかなり敵愾心のこもった目で伊声耆を睨む。

「す、すまん。」

「それではこれにて失礼します。」

 そう言って両道入姫は退室した。

「ええと・・・・。」

 伊声耆は未だ頭が混乱していた。

「大丈夫か?伊声耆。」

「ちょ、ちょっと、とりあえず、私もこれにて失礼します。」

 そう言って伊声耆も退室した。

 すると、川上建の屋敷の門のところに両道入姫がいる。

「どうしたんだい?」

「ちょっと、貴方の家に泊めてくれないかしら?」

「え?」

「小碓も貴方の家に泊まっているんでしょ?」

「あ、まぁ、それはそうなんだけど・・・。」

「私はこれでも大和の大王の妹なの。お願いできない?」

「あ、うん、わかったよ・・・。」

 この日から伊声耆は「使者」を名乗る二人の子供を居候として迎えることになった。

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