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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第一部 乱始変局篇
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13.天界の議論-2

「こう言っては悪いが、あまりにも計画が稚拙すぎる。」

 波限建(なぎさたけ)は猿田彦に向かってそういった。

「というか、こう言っては失礼だが優柔不断なお前がこのような計画を立てるとは信じられない。」

「いや、五十鈴姫(いすずひめ)に頼まれましてねぇ。」

「そうか、お前は他人からの頼みは断らない神だもんな。」

「ええ、ましてや色界天(しきかいてん)の方ですから。」

「本音は?」

「美人な女神とデートできるのは嬉しいです。」

「素直でよろしい。」

 神々の世界にもランクがある。

 人間を含む多くの動植物と同じく「欲界」という世界に住んでいる神様を「欲界天(よくかいてん)」という。

 欲界は食欲と性欲から逃れることのできない世界である。欲界天は神なので通常は肉体を持たないが、それでも人間が神社等にお供えした食べ物を「美味しい、美味しい」「供え物はまだか」と言って楽しみにする程度には、欲望が存在する。

 欲界のワンランク上に色界と言う世界がある。この世界では食欲や性欲からは解放されるが、感情はなくならない。

 色界天が抱く感情とは、恋愛感情や正義感である。もっとも、色界においては性別の概念が異なるため、欲界の神や人間とは恋愛感情の中身はかなり異なる。色界天は必要に応じて男性の姿も女性の姿も現すことが出来るからだ。

 そのさらに上の世界が「無色界」であり、この世界に行くともはや感情すらなくなる。

 なお、「天界」は色界・無色界と欲界の内、欲界天の住む世界の総称である。

 波限建は色界天、猿田彦は欲界天である。

 ちなみに、「天界」や「色界」というと「人界」や「欲界」とは別の時空間にある世界のように感じるが、それは違う。これは仏教用語で、仏教に於いては例えば「人界」と「畜生界」(動物の世界)を別に扱っているが、実際には人類と畜生は同じ時空間に過ごしている。ただ、人間とそれ以外の動物は同じ空間にいても、世界の見え方が違うので別の世界に分類さえているのだ。

 同様に、人間と神様も同じ時空間で過ごしているのであるが、その世界の見え方は違う。また、神様同士でも欲界天と色界天の見る世界は違う。

 いくら動物愛護の精神を持った人間でも動物の感情を完全に理解することは難しいように、人界の衆生を救おうと考えている神様も天界にいるだけでは人間を救えないことがある。そこで、欲界天や色界天の中には人間の肉体を持って人界に生れてくる霊魂もいる。

 これは人間にとって利益になるだけでなく、神々にとっても人間を救うことは善業を積んだとして大いに利益になる。神々の力の源泉は、自分が積んだ善業と人間たちからの崇敬の念だからだ。

 甕依姫(みかよりひめ)と言う人間として生を受けていた玉依姫も、人間の肉体を持って産まれていた色界天の一人だった。

「うん?デート?五十鈴姫は地上に生を受けていたはずだが。」

「あ、いや、一緒に遊びに出かけただけで、デートと言うのは冗談――」

「そっちじゃない!五十鈴姫の分霊(わけみたま)が天界に来ていたわけだな?」

「あ、はいはい。そういうことです。」

「なるほど。う~む、五十鈴姫も色界天の割には私並みに欲界に顔を出すな。お前が五十鈴姫のことをそんなに好きだとはおもわなかったが。」

「いや、恋愛感情はありませんよ。やっぱ俺、理想の女とは結ばれないんだと思います。デートと言うのは冗談ですよ、本当に。」

「ハッキリ言うが、私はお前がいつまでも欲界にいることに疑問を抱いている。閻魔(えんま)大王を怒らせでもしたのか?」

「いやいや、そんなことはしていないですよ。」

「なんか怪しいな。」

「失礼ながら、自分が色界の存在であることに(こだわ)っている波限建様も私には謎ですね。」

「うん?」

「欲界にいようが、色界にいようが、究極的にはみんな同じ一つの神の命の現われだと思うのですけどね。欲界にいるものには欲界での使命が、色界にいるものには色界での使命があるのですよ。」

「・・・・ええと、とりあえず、この計画は五十鈴姫の発案なのかな?」

「そう言うことになりますね。」

「五十鈴姫の計画を拒絶することは私にはできない。だが、五十鈴姫の計画の成功を保証することも、できないな。」

「五十鈴姫は貴方による保証など求めていないと思いますよ?」

「うむ。確かにそれはそうだが・・・・。」

「で、協力してくださるのですか?」

「まぁ、協力はしよう。」

「あと、この計画には磐余彦(いわれひこ)様も関与していますので。」

「・・・・そうか、いよいよヤマトが動き出したわけだな。」

 そう言いながら波限建はため息をついた。

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