12.小碓と伊勢のおばさん-4
「自然界には八百万の神々がいるけれど、その本質は一つなのか――そうは言われてもなぁ。」
小碓は五十鈴川のほとりを探索しながら、叔母の大和姫の教えを思い出していた。
「神様同士の争いを僕は幼いころから教わってきたしなぁ。」
神話の世界では神様同士の争いがやけに多い。
そういうことを思い出しながら歩いていると、一匹の鶏が近くに寄ってきた。
「伊勢の天照大御神様の使いだっけ?」
そう言って小碓は鶏に声をかける。無論、鶏から返事はない。
「鶏さん、ここで一休みする?」
小碓がそういうと鶏は首を捻った後、走り出した。
「おいおい、鶏さん、僕を置いていく気かよ!」
そう言って小碓も後をつける。
しばらく鶏を追いかけていくと、大和姫の屋敷に向かって行った。
「なんだ、おばさんの家に行くんだ。」
小碓はちょっと拍子抜けた感じになった。
「あ、小碓!待っていたわよ!」
屋敷の前では大和姫が小碓を待っていた。
「どうしたの?おばさん!」
「あんたのお爺さんが来ているの!」
「おじいさん?」
小碓の祖父の伊久米入彦――先代の大王で大帯彦の父は、既に没している。
では、母方の祖父だろうか?
「さあ、早く上がって。」
「わかった。」
小碓が屋敷にあがると、そこには彦汝がいた。
「小碓か?」
「はい。」
「お前の祖父の彦汝だ。稲日姫の父だ。お前と会うのは始めてだな。」
「初めまして。」
「噂通り、元気で強そうな子だな。それでいて顔は可愛い。まぁ、自分の孫が可愛く見えるのは当たり前かもしれないが。」
「ありがとうございます。」
「私が播磨の人間であることは知っているな?」
「知ってます。」
「お前のお母さんの故郷である播磨が大変な状態であることは、知っているか?」
「え?」
「我が国播磨、お前のお母さんの故郷でもあるこの国がだな、讃岐彦という奴に侵略されて大変なことになっているのだ。そして、驚くべきことに播磨の味方であるはずの筑紫の大王である川上健も、讃岐彦の肩を持っているのだ。」
「そうなんですか!」
「そこで、お前の力を借りたい。すでに大帯彦さまの許可ももらってある。」
「何がですか?」
「川上健を倒さなければ、播磨に未来はないのだ!どうか、祖父の私のためだと思って協力してほしい。」
そう言って彦汝は孫の小碓相手に深々と頭を下げた。
その翌日、伊勢に小碓の姿はなかった。
「行ってしまいましたね。」
太田は、大和姫に声をかけた。
あれからすぐ、小碓は彦汝の言葉を受け入れて旅立ったのだ。
「そうね。だけど、彼は必ず戻って来るのか。私にはわかるの。」
「それだとどうして泣いているのですか?」
「意地悪なことを聞くのね。彼が心配だからに決まっているでしょ?いくら戻って来ることはわかってはいても、可愛い甥っ子なんだから・・・・・。」
「彼に授けた服は、御守りですかね?」
ふと、太田は気になることを尋ねた。大和姫は小碓に自分の服を持っていくように言ったのだ。
「そうね・・・・。そう思っておくといいわ。私の服には私の霊力が込められているの。きっと、いや、必ず、小碓の役に立つわ。」