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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第一部 乱始変局篇
13/61

11.播磨の事情-4

「今日は晴天ねぇ。」

 稲日姫は青空を見上げながら(つぶや)いた。

 朝食を終えて夫・大帯彦の宮殿から退出した稲日姫は、自分の部屋に戻って庭を歩いていた。

「天界の大碓も、伊勢の小碓も、元気にしていてほしいわね・・・・。」

 稲日姫は息子たちのことを思い出した。というよりも、忘れられない。

 大碓のことも小碓のことも、どちらも稲日姫は好きだった。そして、今でも二人を愛している。

 今世では残念な結果になったが、来世では、或いは、天界では――と、いつも夢想してしまう。

「――稲日姫、元気にしているか?」

 突然、後ろから声がした。

「え?」

 懐かしい予感がしたが、確信は持てないまま後ろを振り向く。

「お父さん!」

 そこには彦汝の姿があった。

 大和に来てから一度も会えっていない。前会った時よりは若干老けている感じはする。だが、紛れもない父の姿がだ。

「ありがとう!」

 そう言って稲日姫は父親に抱き着くと、そのまま(せき)を切ったかのように号泣した。


「これまで何もしてやれず、すまなかった。」

 彦汝は泣きついている稲日姫の背中をさすりながら言った。

「大碓か・・・亡くなる前に顔を合わせることもできず、申し訳ないことをした。」

「ううん、私おそごめん。」

 稲日姫はまだ声に涙が混じっている。

「私も中々播磨から離れられなくてな。娘の顔を見られないのは悲しかったが、仕方なかったんだ。」

「わかってる。」

「小碓は伊勢に行ったのか。大和姫様にも挨拶しないとな。孫がお世話になっている、と。」

「え?」

「私には伊勢に行く用事もあってな。」

「そうなんですか・・・・。」

「それで、大帯彦さまともお会いしないといけない。」

「やっぱり、お父さんは生涯現役なんですね。」

「娘に全然、構ってやることが出来ず申し訳ない。」

「いえいえ、それより小碓のことを宜しくお願いします。」

 稲日姫は何かを察したかのような顔をして彦汝から体を離し、一礼した。

「小碓を可愛がってくださいね。」

「ああ。当然だ、私の可愛い孫だ。」

「ごめんなさい、私には小碓を素直に愛すことは出来ないんです。」

「それは仕方がない。」

「小碓を伊勢の大和姫様の下に預けるよう夫に頼んだのも私なのです。」

「私がお前でもそうしていた。直接お前が小碓に愛情を注げなくとも、お前が本当は小碓を愛しているという真実は変わらない。」

「お父様、本当によろしくお願いします。」

「私にすべて任せろ。じゃあ、また帰りにここに寄るからな。」

 そういうと彦汝は稲日姫の家を後にした。




義父様(おとうさま)、遠い播磨の地よりわざわざお越しいただきありがとうございます。」

 そう言って大帯彦は頭を下げる。

「いや、大王様、今日の私は巴利(はり)国の使者としてきたのですから恐縮されなくて結構です。」

「そうは言っても彦汝様を呼び捨てにするわけにはいきません。」

「大王様からの様付けはこちらが恐縮ですが・・・。いえ、光栄です。」

「ところで、巴利国の使者ということはどのような要件でしょうか?」

「大王様、これは機密を要する話ですので少し耳を貸していただけないでしょうか?」

「よろしいでしょう。」

 この部屋には彦汝と大帯彦以外、誰もいないが念には念を入れて彦汝は大帯彦に耳打ちをした。

「それは思い切った話ですなぁ。」

 彦汝から話の概要を聞いた大帯彦は呟いた。

「しかし、勝算のない話だとは思いませんが?」

「それで、大和がそれに協力すると播磨からはどのような見返りがあるのですか?」

「淡路島より東側の領域について、大和の支配権を承認します。」

「なるほど・・・・。」

「そもそも、この計画が失敗しても大和にリスクはそれほど大きくないと思うのですが、どうでしょうか?」

「確かにそうですね。ただ、父親としては忍びないものがありますが。」

「それは私も一緒です。どうか、今回ばかりはこの私のお願いを聴いてほしいと思います。」

 それを聞いた大帯彦は暫くの間をおいて答えた。

「大和姫が否と言わない限りは。」

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