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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桜の木の秘密

作者: じょう44

 春は、たくさんお花が咲いて、いい季節ですね。今、窓の外に満開の桜が見えます。木の下で楽しそうにお花見をしている人がたくさんいます。通り過ぎる人もみな、笑顔です。

 池のほとりや川沿いに咲いている桜を、見たことがありますか?

 どれも、水面の方に枝を伸ばすように、斜めに生えているんてす。中には、もう水についてしまいそうな木もあります。

 どうしてだか、知っていますか?

 わたしが聞いたお話を、お教えしますね。


 むかーし昔の大昔、桜は今のように花は咲かせていませんでした。葉っぱだけが生えている木だったのです。

 大きな川のほとりに、その桜の木は立っていました。まだまだ若く細い幹でしたが、まっすぐ空を目指して立っている姿は美しいものでした。その国の人々は、よくこの桜の木を待ち合わせ場所にしていました。そう、この桜は、この国の目印の木だったのです。

 この国は小さく、あまり豊かな国ではありませんでした。そしてある日、占い師が王様に大変な予言をしました。

「王様!今年は作物がいつもの半分しか実りません!来年も再来年もです!食べるものが、半分になってしまうのてす!」

「なんと、なんと!いったい、どうしたものか!?」

 王様はオロオロするばかり。すると占い師は、こう進言しました。

「王様!この非常時を切り抜けるには、国民の数を半分に減らすしか、方法はありません!」

「なんと、なんと!いったい、どうしたものか!?」

 やはり王様はオロオロするばかり。見かねた大臣達が会議を始めてしまいました。

 会議は一晩中続き、翌朝早く、大臣達が王様に報告に来ました。

「王様、国民の数を半分に減らす方法が決まりました。女達を全員、川に捨ててしまいましょう。」

「なんと、なんと!」

 大臣達は、国民を半分に分ける方法を考えていました。年齢や仕事、住んでいる場所など、さまざまな分類基準が出されました。しかし、一番簡単に国民を半分に分ける基準は、性別でした。この国は、男女がほぼ同数だったのです。

 占い師の言う通り、その夏は雨が多い寒い夏で、秋の収穫はいつもの半分でした。大臣達は早速女達を縛り上げると、川の中に投げ込みました。

 一部始終を見ていた桜の木は、びっくりです。赤ちゃんからおばあさんまで、すべての女の人が手足を縛られ、次々と川に放り込まれていきます。みんな、泣いていました。中には、縄を解いて逃げようとする女の人もいました。でも、すぐに捕まってしまいます。そして、一度逃げた女の人は、剣で首をはねられ、川に捨てられるのでした。

 三日三晩、男達は女達を捨て続けました。泣き声と悲鳴、水音が辺りに響いていました。桜は、なんとか川から女の人達を助けようとしましたが、木なので人のようには動けません。それでも三日後には、これまでまっすぐだった桜の幹は、少し川の方に傾いていました。

 こうしてこの国は、国民の数が半分になり、全員が食べ物にありつくことができました。占い師の予言通り、次の年もその次の年も秋の収穫はいつもの半分でした。そうして十年立ってようやく、豊作の年が来る予言が出ました。

「王様!今年から長く豊作が続きます!今のままでは、働き手が足りませんぞ!」

「なんと、なんと!いったい、どうしたものか?!」

 いつものように王様は無策なので、また大臣達が会議で対策を決めました。

「王様!周りの国から女達を誘拐して来て、奴隷にしましょう!女達に子供を産ませれば、国民の数も増やすこともできます!」

「なんと、なんと!」

 桜の木は、また驚くような光景を目にしました。夜になると、どこからともなく小舟がやって来て、縛り上げた若い女の人達を岸に上げるのです。みんな泣いていました。中には、縄を解いて逃げようとする女の人もいましたが、そういう人は剣で首をはねられ、川に捨てられるのでした。桜の木は、今回もなんとか女の人達を助けたいと思いましが、やはり木なので動けません。それでも、毎晩誘拐されてくる女の人達を見ていた桜の幹は、さらに川の方に傾いていました。

 こうしてこの国の男達は、さらって来た女の人達を奴隷にしました。無理矢理、子供も産ませました。生まれた子が男の子なら奴隷にはなりませんが、女の子なら奴隷として売られていきます。女の子は、学校には行けませんから、文字も読めず、計算も出来ません。いつも男達の言うことを聞かねばなりません。もし逆らうと、首をはねられ、川に捨てられてしまうからです。

 桜の木が見守って来たこの国は何十年もこの奴隷制を続けましたが、ある日突然、立場がひっくり返ることになりました。とても頭の良い若い女の人が、密かに仲間を集めて、王様と大臣達を毒殺してしまったのでした。そしてその日から、この国では男の人が奴隷にさせられました。

 女達は、もう誰にも遠慮なく、好きなことをしました。農作業など力のいる仕事は、すべて男の人がします。女達は文字が読めませんし、計算も出来ませんから、面倒なことも全て男の人の仕事です。女達は、気に入った男奴隷の子供を産みましたが、生まれた子が男の子ならやはりその子は奴隷になる運命です。

 社会が逆転したので、もう残酷なことは起きないだろうと、桜の木は思いました。けれども、そうはなりませんでした。女達は、逆らう男の人達に毒を飲ませ、川に捨てるのでした。性別が変わっただけで、ひどい仕打ちはなくなりません。男の子は十才になると鎖につながれます。二十才には、半分の男の人が毒を飲まされてしまいます。

 川に捨てられる男の人達はもう息をしていませんが、桜の木はかわいそうに思って、助けようとしました。でも、桜は木ですから動けません。それでも、毎日毎日そんなことをしていたので、桜の幹はますます川の方に傾いてしまいました。

 女が男の人を奴隷にする社会は、あまり長く続きませんでした。やはり力の差が大きいので、ある日鎖につながれたまま男奴隷達が暴れて、女達を抑え込んでしまいました。こうして、また女が奴隷になる社会が訪れました。


 何百年も時間が過ぎ、桜の木はすっかり老木になっていました。幹はとてもとても太くなり、そして、今にも川に落ちそうなくらい傾いてしまっていました。

 この国の人間達は、この何百年もの間、同じことをくり返していました。男が女を支配するか、女が男を支配するか、そのくり返しです。逆らう人は、川に捨てられます。桜の木は、この何百年もの間、川に捨てられた人々を動かぬ幹で助けようともがき続けていたのでした。

 ここ数十年は、男が女を奴隷にしている時代です。

 最近、とても美しい奴隷の少女が、桜の木の側に来るようになりました。仕事の合間に桜の木に寄りかかり、川を眺めながら一休みするのてす。時には、眠ってしまうこともありました。桜の木は、かわいい寝顔をいつまでも見ていたいのですが、少女が仕事をサボっていると男達にお仕置きされるのではと、ハラハラもします。そしてある日、とうとう少女は眠っているところを見つかってしまいました。

 見つけたのは、この国の王子とその連れの男達でした。桜の木は、少女がひどい目に合わされると思いましたが、実際はそうなりませんでした。王子は美しい少女を気に入ったのか、縛りもせずに連れて行きました。少女は、王子御付きの奴隷になったのです。その後、何度も桜の木は、王子の後ろを歩いている少女を見かけました。奴隷なので鎖はつけていますが、きれいな服を着せられています。王子は、かなりこの少女を気に入っているようです。そして少女の方も、王子のことを好きそうに見えました。少女が王子を見るその目から、桜の木はそう感じていました。

 ある春の日、桜の木近くの川辺で、王族の宴会が開かれました。王子はあの少女を従え、参加していました。奴隷女達の舞が終わった後、突然、王様が王子の少女奴隷にも舞を舞うよう命じました。王子も少女も驚いたようでしたが、王様の命令は絶対なので、少女は独りで踊りを踊りました。

 踊り終えた少女が王様の前に膝間付くと、王様は少女に近づき、杖であごを持ち上げ、こう言いました。

「王子よ、この女をわしに寄こせ!」

 少女は驚いて、王子の方を振り返りました。王子は、ひれ伏したまま、顔を上げようとはしません。少女の目には、涙がいっぱいで今にもあふれそうです。王様は、大声で笑った後、もう一度少女に舞うよう命じました。

 少女は踊り始めましたが、さっきのようには踊れません。王様はイライラした声でこう言いました。

「くそ面白くもない!踊りながら、服を脱いで行け!」

 こんなたくさんの人の前で裸で踊るなど、少女に出来っこありません。とうとう少女はうずくまってしまいました。王様は、鬼のような形相です。すると、王子が何かを手に、少女に近づいて行きました。

 少女は王子を見て、泣きながらすがりつきました。しかし王子は静かに少女の手を払い、少女の服に何かをかけました。それは、油でした。

 そして王子はすぐさま少女から離れると、兵士達に炎の矢を少女に射るよう命じました。

 あっと言う間に、炎が少女の服に燃え移りました。少女は悲鳴を上げ、逃げ惑いながら服を脱ぎ捨てます。それを見た王様は大笑い。他の見物人も拍手喝采です。楽器がやかましくかき鳴らされ、炎を振り払おうと必死にもがく少女は踊っているようにも見えます。

 油をかけられた少女は、服を脱いでも炎から逃れることが出来ません。一糸纏わぬ姿になってしまった少女は、燃える髪を振り乱し、川に身を投げてしまいました。

 そのとき、あの桜の木から、すべての葉が落ちました。そして、すべての枝に美しい花を咲かせました。それは、今まで誰も見たことのない美しい花でした。王様や王子をはじめ、宴会客は驚いて桜の木の周りに集まって来ました。

 そして桜の木は、立っていた大地もろとも、川の中に落ちて行きました。王様も王子も、宴会客も奴隷も、みんなみんな桜とともに川に落ちて行きました。崩れる大地はみるみる広がり、その国は丸ごと、大きな川の中に沈んでしまったそうです。


 あの国の桜の木が死んでしまってから、世界中の桜が花を咲かせるようになったのだそうです。そして、水辺の近くに生えた桜は、無念のうちに消えた命を今でも救うかのように、幹を傾けて枝を水面に伸ばすのだそうです。

 今では、桜の木は何百年も生きません。寿命を縮めてまで毎年花を咲かせ、わたし達人間になにかを訴えているのでしょうか?

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