9話 束の間の休息
技名の当て字はカタカナ部分だけ読んでくださいねー
いつも見る静かな住宅街。そのはずが今は様々な悲鳴が聞こえる大惨事となっていた。建物は燃え、その火災が次々と隣隣へと広がってゆく。
「なんだこりゃあ……!? お前ら、とにかく火ぃ放ってる張本人ぶっ潰すぞ! 多川! 一緒に来い!」
「は、はい! 皆! 生きて会おうねぃ!」
「はい! じゃあ、ジュリエッタちゃんは私と!」
「うむ、分かった! トーマス、死ぬなよ!」
「うん、頑張るよ」
多川さんが死亡フラグを立てたように聞こえたが、今は気にしている場合ではない。
「よし、集合は取り敢えずさっきの駅にしよう。死体あって気味悪ぃかもしんねぇが、落ち着けねぇよりましだろ」
「わかりました。 じゃあ皆さん、また!」
パーティ編成と集合場所が決めた俺達は、それぞれ手分けをして犯人を見つける事にした。
しばらく走り回りそれらしき人物を捜していると、俺は奴等の集団を発見してしまった。なんと数は十を超えている。
「んっだよあの量!? あれ全員が破壊者かよ!?」
「だろうな。だが、恐らく雑魚。君なら勝てる」
「けどよぉ……。辛いっての……」
俺が物陰に隠れエリフと呑気に会話していると、その集団のリーダーらしき人物が俺に気づいた。
「ん?何か聞こえたぞ? 誰だっ!」
「まずい! ばれた!」
「やるしかないようだな、陶馬」
奴等がこちらに走ってきているのを見て刀を構え、過去最多の量の化物と対峙することに俺は覚悟を決めた。
「ふんっ、一人か。いい度胸じゃねぇかよ。 お前ら! 殺るぞぉ!」
奴等は全員が各形態に変化し、俺に猛襲を仕掛けた。全員が近距離攻撃で、それに対し俺は受け流しては避けを繰り返した。これも俺の力なのか、こいつら全ての間合いが解る。そして攻撃を避け続けていると、俺を取り囲むこの者達に一瞬攻撃の空白が出来た。そこで俺は、ゲームの技を真似て、一網打尽にケリをつける事にした。
「筆刀流 一掃払い!」
俺は自分を中心点として円を書くように回り薙ぎ払った。すると見事全員に命中し、切り裂いた。
「ぐぼぁっ……!」
「ふっ、流石だな」
俺を囲んでいた者達は全て倒れ消え去った。その後すぐエリフが俺を褒めた。
「俺、結構強いかもな」
「ああ。君は強いとも」
俺は自分が強くなっているのをひしひしと感じ、放火犯捜しを続ける事にした。
集団を仕留めた場所から少し行くと、破壊者と交戦中の色島さんとジュリエッタが見えた。俺はそれに参戦するためにその方向へ走り、色島さんに一声掛けた。
「応戦するよ!」
「お! 陶馬君! ありがと!」
「トーマスか! 助かる!」
「ジュリエッタ、あまり無茶するなよ?」
「分かっておる! 無理をせんでいいように君は吾輩を守れ!」
俺が戦闘に割って入ると、一時的に戦いが止まり、二人と会話していると敵が5m程先でぶつぶつと話し始めた。
「あー鬱陶しい! 何なのよもうっ! 仲良くしちゃって! イライラするのよ!」
話始めた方を向くと茶髪ロングでキャミソールに網タイツの、いかにも夜の仕事をしていそうな女が居て、髪をわさわさと掻き乱していた。
「こんな国もっと燃えるがいいわ! 妬み嫉みの王国!」
女がそれを発動させると、辺りの炎は更に勢いを増した。そして奴は自らをも火達磨へ姿を変えた。
「こいつが犯人だな……!」
「ええ、やってやりましょ!」
「キャハハ! アタシの嫉妬は全てを焼き尽くす! さあ燃えろぉ! 焼け焦げろぉぉ!」
女は体に纏った火をこちらに無数飛散させた。俺は攻撃が先程戦った織澤に似ている事を感じ、ヤツの針を避けたのと同じ要領で体をひらひらと柔軟に動かし、飛び掛かる火球を回避した。
「予習済みだな……」
俺は回避する事にに余裕すら出来たので、後ろに気を配った。だが心配は要らなかったようで、色島さんは弓を連続で放ち相殺、ジュリエッタは手を前にかざし、重力で火を落としていた。しかし攻撃を食らってはいないものの、彼女達の表情は疲れて苦しそうだった。俺は早く楽にしてあげようと思い。炎を避けつつ一気に間合いを詰めた。そして1m程近くまで来た時、片手で剣を持ち足へと力を集中させバネのようにヤツに向かって飛び、胸部に刀を突き刺した。
「筆刀流 穿ち止め」
「ごはっ……!なん……なのよ……。最後まで……イライラする……わ……ね。……がほっ!」
女が消えると同時に、周りを燃やしていた炎が消え去った。
「……すごいね、陶馬君」
「うむ…………」
彼女達は後ろで絶句している。俺はまたもや自分の強さを自覚した。
「さあ、駅に戻ろっか」
彼女等の方へ歩いて行ってそう言い、俺達はあの駅へと戻る事にした。
静かになった住宅街を三人で歩いて駅へ戻っていると、前から八人乗り程の大きな銀色の車が来て俺達の前で止まった。俺達は警戒したが、少しするとエンジンが止まり中から多川さんと先生が出てきたのだった。
「えっ!? 先生達!? どうしたんですかこの車!?」
「いやぁ、駅行ったら奇跡的に無傷の車発見してさぁ。これまた奇跡で鍵まで付いてやんの。へへへーん、すごいでしょ」
色島さんが吃驚して質問すると、多川さんが自慢げにそう答えた。
確かに奇跡的だ。だがこの状況でこれはとてもありがたい。車があれば電車が無くとも目的地まで向かうことが出来る。
「ともかく超ラッキーだぜ。雑魚しかいねぇんで仕方無く駅戻ってお前ら待ってたらよ、うろちょろしてたこいつがこれ見つけてな。とにかく、今日は遅いしこんなかで寝よう。あー、女子ら厳しいか……」
「吾輩は構わん……。ト、トーマスの隣なら……」
「あ! ずるいー! 私も! いいよね? 陶馬君」
「う、うん。いいけど……」
どうやら俺はモテモテだ。まあ、目の前で俺の華麗な剣さばきをご覧になったんだ。無理もない。いや、しかしただ単に俺が一番若いからなのだろうか。だがこんなチャンス滅多にない! 両手に華だ。俺は快く承諾した。
「ったく……。思う存分青春楽しみやがれ歌川! 幸い大型だ。後ろ寝かせて広げてやっからそっちで寝ろ。 俺と多川は前で寝る」
「僕も女の子と寝たかったなぁ……。おっと! こんなこと刑事が言っちゃダメだね、ははは……」
女子と添い寝する事を軽々と許す教師とそれを下心丸出しで羨む刑事。俺は寝る事にすごくワクワクしている裏で、あながち神の選抜の言う「この国はヤバい」的な事がほんの少しわかった気がした。
「まあなんだ。こんなとこの真ん中で寝るのもあれだし、また駅まで戻るか。ここよりゃましだろ」
「ですね。死体いっぱい転がってますけど……」
「了解でーす。さ、皆乗った乗った! この車、結構新しいみたいだよ~、新車の匂いするし」
半ば強引に駅へ行き先を決められ、俺達は車へと乗り込んだ。
車内に入りエンジンをかけ出発すると、前席の男二人が話を始めた。
「なぁ、なんか妙じゃねぇか?」
「妙……。言われてみればずっと襲撃してる奴等の数が少なすぎるような……」
「だよな。お前らはどう思う?」
確かに変だ。あんなに大規模な襲撃なはずなのに、敵陣が少なすぎる。
「ですよね。なんか、急に居なくなってるって言うか……」
「クックック……! きっとトーマスを恐れて皆逃げ帰ったのだろう!」
「へへへ、そうだといいね」
謎が多く残るが、今は考えても仕方が無い。俺はそう思い他の事を考える事にした。特に今日の夜の事を主に。
駅に着くとやはり静かで、すこしホッとした反面、いつ襲ってくるのだろうという心配が頭の中を渦巻いた。
「ふう。そのまんまの服で気持ちわりぃかも知んねぇが我慢してくれ。明日物資探しに行こう。後ろの背もたれ、寝かせりゃスペースできるからよ。歌川、やってやれ」
「は、はい」
俺はそれをする為のレバーを探し出し、それを引いた。すると先生の言ったとおり、三人が充分に寝転がれる空間が開かれた。この動作を行う中、俺は心拍数をガンガンあげ、夜への期待を膨らましていた。
「んじゃ、おやすみぃー。歌川君、変な事はしないようにねー、ははは」
「わ、分かってますよ! おやすみなさい」
したい気持ちは山々だ。しかし俺には勇気がない。なんとか美女を両隣にして寝転がる事が出来たが、こんな状況寝れる訳がない。だが両隣を見るともう寝ているではないか。それもすうすうと寝息をたてながらだ。余程疲れていたのだろうが、男の隣でそれはありなのだろうか。俺も彼女らの図太い性格を見習わねばならない気がした。いくら寝ようとしても、ジュリエッタ達の寝息が俺の耳にこそばゆく、どこか気持ちが良くて眠れない。というよりは目が覚める一方だ。ここで更に俺を戸惑わせる事態が起こる。色島さんが抱き枕のように俺にぎゅっと抱き着いた。しかも上半身に付いているあの“柔らかな部分”を俺の顔に当ててだ。俺はどうすべきかわからなくなり混乱したが、これが天国なのだと勝手に解釈する事にした。
「ふぁぁ、ん? 寝れてたのか……」
俺が目を開けると朝日が眩しく、どうやら昨日天国を体験して昇天したように眠れたらしい。しかし周りを見ると俺以外の姿はなく、車のドア窓から外を除くとタバコを吸っている先生だけが見えた。俺はそれを不思議に思い窓を開けて聞くことにした。
「おはようです、先生」
「ん、起きたか。今は朝の九時だ。多川は物資見に、女子らは見つけたシャワールーム行ってる。俺達も女性陣終わったら行くからな」
「あ、わかりました」
どうやらこの駅は結構設備が整っていたらしい。しかし辺りには少しづつ腐敗臭が漂ってきている。長居はできない。だがそれよりもシャワーだと。これはチャンスなのではないか。いやしかし、昨日俺はあんな事を体験したばかり。欲張っては良くない。
変なことを考えていると、駅の方から女性チームが戻ってきた。
「ふぅー、さっぱりしたぁ。あ歌川くん、おはよー!」
「まったく、トーマスはいつも起きるのが遅いなぁ」
「仕方ないって、疲れてたし……」
「ってと……俺らも行くか。タオルとか間に合ったか?」
「はい! 多川さんが入口付近に置いててくれました」
彼女らの表情からして、多川さんは覗かなかったのだろう。安心だ。
「そうか。んじゃ俺ら行ってくるわ。多川来たら言っといてくれ」
「了解したぞ重喫煙者! では行って参れ」
俺は先生と一緒に、昨日の汗を流しに行くため駅の中にあるらしいシャワールームへと向かった。
シャワールームへ着くと、先に多川さんがシャワーを浴びていた。そしてシャワールームの外には、食料と思われる物が色々散乱していた。
「ん?多川か? 早いな」
「いやぁ、探索中に通りがかったら女の子達の声無くなってましてねぇ。お先にさせてもらってます」
一幅2、3m程の個室が仕切りをされトイレのように連なっている簡素なシャワールームだった。隣にフィットネスクラブがある事から、そこの付属だということが読み取れた。
「しっかし、こんなにのんびりしてていいもんなのかねぇ」
「早く止めないとですけど、白金さんや歌川君倒れたら元も子もないじゃないですかぁ」
脱衣をして体の汚れを落としていると、先生達が話を始めた。俺も心配だったが、多川さんの言う事も一理あると思った。
「あ、そういえば。見てくれました? 外の食べ物。いやぁ、なんとか残ってましたよぉ、すぐ食べれそうな物」
「おお、そりゃ良かった。なんせ腹減ってなぁ」
「シャワーささっと切り上げて戻りますかぁ。僕もお腹ぺこぺこで」
俺もお腹が空いているので、その意見に乗っかり、早めに戻ることになった。
「あ、タオルやら服やらもこの中ですからねー。好きなのどうぞ」
多川さんはどうやらかなりの量を持ってきてくれたようだ。俺達は新たな服に着替えると、さっきまで一人で持ててたとは思えないような量を手分けして持ち、女子の待つ車へと向かった。
車に戻ると女子達は楽しそうに話をしていて、戻ってきたこちらに気が付くと話を止めた。そして俺達に話を振った。
「あ、おかえりなさーい! 多川さんもう行ってたんだ。 物資、どうでした?」
「いやぁ、バッチリだよ! ささ、ご飯食べよー」
ご飯を食べるため車内へ入り、食べる物を見ていると乾パン、ポテトチップス、チョコレートなどのすぐに食べられる非常食がほとんどだったが、中にはサンドウィッチや菓子パンなどのパン類があった。なので俺は女子に先に選んでもらい、それでも残った焼きそばパンを食べる事にした。
「うむ、やはりサンドウィッチは美味だな!」
「はは、喜んでくれて良かったよ。こんなのしか無かったからちょっと困ってたんだよねー」
「非常時だし仕方ねえって。 お湯やらは流石にねぇだろうしよ」
戦いも大切だが、休むことも大事。そう思い俺達は久々の飯を楽しむ事にした。
話をしながら食べていると、あっという間に食べ終わり、その後も少し話をした。そして一息付き、また覚悟を決めた。
「うっし! ちっと楽になったし、この車で本拠地いくぞ! いいな!」
「はい、頑張りましょう!」
「金口を止めましょ!」
「ああ、絶対に……!」
「吾輩も出来る限りのことはするぞ!」
改めて決意を固め、俺達は再び出発することにした。
続く
設定の方に目立たなかった敵の詳細等載せようかと思っております。