7話 作戦開始
投稿ペースがバラバラですみません。
俺とジュリエッタは歩いて目的地の有る、今朝色々あったデパートの近くまでやって来た。店の前にはもう漆平が居て、近づくとこちらに気が付いた。
「お、うぃーす。ってどうした!?痣だらけじゃねぇか!」
「店ん中で話すよ。とりあえず入ろう」
「おう。ってかその子可愛い~!俺葛飾漆平。君は?」
「ジュリエッタだ。今はこのトーマスと同棲しておる」
「どどど同棲だぁ!?おい陶馬!いつからそんな奴になった!?」
「それも話すよ……」
こいつは親友だ、俺の一人しか居ない大切な。だから変するな隠し事はしたくない、そう思い俺はここ数日の事を漆平に洗いざらい話す事にした。
「んじゃ、食べるかぁ!」
「ああ」
俺達がご飯時の混み混みな寿司屋へ入ろうと自動ドアを抜けた時、こちらに視線があるのに気が付き俺は後ろを向いた。
「ん?どうかしたか?」
「いや、悪い。気のせいだったわ」
不思議でどこか見透かされた様な視線だったが、俺は気のせいだと自己暗示をかけ、久々の友達との時間を大事にする事にした。
平日だからまだ良かったものの、人の多いこの時間帯だ。俺達はだらだらと十数分待ち、ようやくテーブルへと通された。
「あーあ、時間調節すりゃ良かった。ごめんねジュリエッタちゃん」
「いや、構わんよ。このような所に来るのが初めてなのでな。退屈はしておらんよ」
この子は一体何者なのだろう。回転寿司屋に来たことが無いとなると、極端な貧乏か富豪かもしれない。いや、もしかすると本当に厨二とかじゃなくそういう所の存在なのかも知れない。
「うっし、食べようぜぇ!」
俺があれこれ考え込んでいると、漆平が皿を取り始めた。
「さっきの事は食いながらテキトーに話そうぜ。ジュリエッタちゃんの事もさ」
「分かった。最初に言っとくがノンフィクションだからな?かなりぶっ飛んでても気にすんなよ?」
「お、おう……」
俺は寿司を食べながら約二十分程に渡って今までの経緯を説明した。ジュリエッタとの出会い、怪物の事、エリフの事等々様々な非現実的な事を。
「ふーん……。なーんか信じちまえるなぁ……。実際お前見つけた時とか現場かなり荒れてたもんなぁ。それに爆破事件の犯人?そりゃその説明正しけりゃ確実だろうし……。あー!わけわかんねぇ!」
「悪い。でも、全部事実だ」
「んー、まあいいや!とりあえずヤベェって事だろ?用心しとくよ」
漆平は満面の笑みでこちらにグッと親指を立てた。相変わらずの楽天的な性格だ。
「うーん!しかし、この回転寿司は旨いな!トーマス!」
「うん、この値段でこれはいいよね」
説明の最中黙っていたジュリエッタが口を開くと、回転寿司をベタ褒めした。彼女が食した皿の枚数の合計は知らぬ間に十皿を超えていた。お金は両親が置いてったものの、二人分寿司の料金を払うのはかなりな出費だ。だが嬉しそうに頬張る彼女を見ていると、そんな事はどうでも良くなった。
「さってと、なんだかんだしてるうちに結構食ったし、そろそろ行くかぁ。ありがとな、今日」
「ああ、こちらこそありがとう」
俺はいつ最後になるか分からない平穏を噛み締め、漆平達と会計へ向かった。
寿司屋を出ると、見たいテレビがあったと言って急ぐ漆平と別れ、ジュリエッタと二人で自宅を目指していた。しかし、見慣れた住宅街まで来た今も誰かの視線を感じる。まさかストーカー?いや、何故だ。俺なんかの跡を付ける奴なんて相当物好きな女だ。最悪男の可能性もあるのか?いやいや駄目だ。そうだとしたら俺の貞操が危ないじゃないか。もし俺じゃないとしても目的はジュリエッタになる。そうなるとまさか追手か?この子は謎に包まれている。その可能性も否めない。
「ちょっと歩く速度早めようか」
「む?構わんが……」
俺は様々な事でとても心配になり、急遽ジュリエッタにそう指示した。すると、速度を上げてすぐに後ろから大きな物音が聞こえた。
「わわっ!?痛ったぁ……」
「何者だ!?」 「だ、誰だ!?」
俺達が一斉にそう言い振り向くと、そこにはマスクにダサい普段着
の男が居た。
「ぼぼ、僕だよ!多川!ごめん、どうしても君に言いたい事があってさ……」
「た、多川さん!?ど、どうしてこんな所に……」
視線の正体は今日警察に俺を連行した男だった。何故刑事さんがこんなストーカー紛いな事をしているんだと不思議に思っていると多川さんが立ち上がり、神妙な顔でこう言った。
「話があるんだ。君が戦っている怪物の事。そして僕の彼女の事。」
後半部分はどうでも良かったが、この人は俺の事をどうやら知っている様だ。かなりまずい。
「ええっと……。わかりました。場所、変えましょう」
「あ、そうだね。近くに公園あったでしょ、あそこにしようか」
このつまらない家の森の中にある唯一の子供達が楽しめる自然。俺達は多川さんに着いて行き、公園へ向かうことになった。
歩いて数分、公園へ着くとジュリエッタはつまらなそうだからと言ってブランコへと走っていった。そして残された男二人でベンチを探してそこで話す事にした。
「君、あいつらと戦えるんだよね」
座るとすぐに多川さんが話し出した。
「は、はい……」
「頼む!敵を討ってくれ!!奴等は……僕の彼女を殺めた……っ!許せないんだっ!君にしか出来ないんだろう!?」
多川さんは急に声を荒らげた。そしてそう言うといきなり冷静になり泣き始めた。
「僕は、ある男を怪しいと思い、上司の意見も聞かずに単独で捜査を始めた。それが間違いだったんだ。僕が捜査を始めて数日した時、僕の彼女が惨殺された。その男に。警察にはすぐ言ったが信用してもらえず、未だ犯人を捜索中だよ。そんな時、廃工場で戦っていた君を見つけたんだ。ほんとに偶然だった。だから、頼む。情けないけど、君に頼るしか無いんだ……っ!」
俺は彼の熱意に圧倒され、承諾をするしかなかった。
「わ、分かりました……。だけど、その男って?」
「ほ、本当かい!?ありがとう!……男の名前は金口。警察はノーマークだけど、今かなり勢力を伸ばしてる裏社会のボスだ」
なんとその男というのは、今日俺が会ったあの男、金口だった。俺はますますやらねばならない気になった。あんなヤバいカルト集団、放っておいて良い訳がない。
「もうこんな時間か……。ごめん、仕事しないと。あー、そうだ!これ渡しておくよ。また何かこっちでも分かったら連絡するよ」
そう言うと彼は涙を拭い立ち上がった。そしてこちらに数列の書かれた紙を差し出した。十一桁、多川さんの携帯番号だろう。
「君たちも早く帰りなよ~。未成年は夜間出歩きは無し!はい、これで警察の仕事終わりー、なんつってね、ははは……。んじゃ、またいつか」
こんなのが警察で大丈夫なのだろうか。と心配だが、これから情報源では重宝する存在になってくれるであろう人物が仲間に加わった。
「は、はい。また」
俺が手を振ると多川さんは夜の闇の中手を振り返し、街灯に照らされながら駆けて行った。
「終わったかー?トーマスー!」
話を終え、呼びに行こうとした時、丁度良くジュリエッタが元気に走って来た。
「うん、丁度終わったよ。もうくたくただ……帰ろうか」
署での取り調べられ、変な奴らに拉致され、潰されそうになった挙句女子の同級生が弓持って助けてくれる。今日は色々ありすぎた。というか、最近休めていない。帰ったら必ず、今日はゲーム無しでさっさと寝てしまおう。そう思いながら俺は彼女と共に家へと向かうのだった。
ふらふらと踉く身体を懸命に動かし、なんとか自宅へ戻ってくることが出来た。そして俺はすぐに二階へと上がり、
「あああ!! もうつかれたああああ!!」
とへたりこみながらベッドに転がり込んだ。
ーーーーーー
「ふぁぁあ。あれ、まだ夜か?何時だろ」
窓の外を見ると疲れて寝ていたはずなのにまだ夜の帷が落ちていた。不思議に思い、スマホを手に取って電源をつけ、時刻を見ようとした時、俺は目を疑った。
「五月一日……!?9時だぁ!?」
この時間を信じると、俺は約三週間目を開けないで眠っていた事になる。だがそれは本当のようで、身体は思い通りに動かず、立ち上がっても立ちくらみで邪魔をされる。だが身体の傷は癒え、治療が施されている。ジュリエッタがやってくれたのだろうか。いや、あの娘に出来るはずはない。あの娘が包帯を巻いてもミイラになるのがオチだろう。
色々考えながらもとりあえずスマホを弄って指を慣らす事にした。すると俺の部屋の扉が開いた。そして無精髭が生え、タバコを咥えた男が入ってきた。先生だ。
「…………!?のわぁぁ!?起きたのか!?」
「先生!? ええ……まぁ……。てかなんで俺んちに!?」
吃驚しながらそう言うと先生は焦った表情で、
「話ゃ後だっ!お前が寝込んでた間に大変な事が起きてんだよ!今ここにいた多川って野郎を捜査に向かわせてる。もうすぐ帰ってくっから、そんとき話す!取り敢えず用意しろ!話済んだら速攻出るぞ!」
と答えた。どうやらかなり急ぎの様だ。一体何があったのだろうか。そして俺の家にはいつの間にか色々な人が来ていたようだ。ジュリエッタが全員入れたのだろう。あの娘にはもう少し俺から躾をせねばならんようだ。勿論、如何わしい意味ではなくて。
「お水持って来ましたよ。おっ!陶馬君!目覚ましたんだ!良かったぁ」
先生が開けっ放しにした部屋の扉から入って来てそう言ったのは、色島さんだった。本当にかなり人数が来てしまっている。一体何人入れたんだ。
「色島……さん? 来てくれてたんだ」
「うん!葛飾君も昨日まで来てたよ。今日、家族旅行らしくて来てないけど」
「そう……なんだ」
「うん!あ、あとジュリエッタちゃん?あの娘と仲良くなったよ。いい子だよねー。それと、私も一緒に戦うから!宜しくね!」
「う、うん……。そうだね。よろしく……」
「色島も同族だったみてぇだな。その辺の話は聞いたし、こっちからも説明は済ませた。危険なことも分かった上での同行らしい。まぁ、戦力は多いに越したこたねぇ」
俺はとても混乱していた。起きたら約三週間後で、自分の家には知り合いがいっぱいいる。更にその知り合い同士で仲良くなってる。そして何やら一大事が起きている。こんな状況、素早く飲み込めという方がおかしいくらいだ。一大事。そういえばジュリエッタが居ない。まさかその関係なのだろうか。と心配していると家の扉を開け、どたどたと男が自室へやって来た。多川さんだ。
「帰りました!はぁっ……。一大事っす!遂に作戦決行されたっぽいです!街中大騒ぎで!」
「多川、うるせぇぞ!ジュリエッタ寝かしてやれ。下で寝てるからよ」
「ああっ!すません。すぐ伝えたくてつい……」
良かった。ジュリエッタは寝ているようだ。俺の世話をしてくれていたのだろう。本当にありがたい事だ。しかし、一つ安心できたと思えばまた複数心配が増える。なんなんだこれは。
「さてと……。んじゃ俺達も動くか……。歌川、よく聞け。一週間前、組織“神の選抜”は政府に手紙を出した。いつか我々がこの国を指導する、と。これを受けて警戒態勢だった世の中で、組織は国会議事堂に攻め入り、今日遂に火蓋が切って落とされたって訳だ。つまり日本がやばい。このまんまだとあの金口とかいう野郎の思い通りだ。」
どうやら俺達の標的、神の選抜が動き出した様だ。
「分かりました。それを止めに行けばいいんすね?」
俺は親指を立て、ドヤ顔決めてそう言った。
「そういうことだ。行くぞぉ!」
「「「「おう!!」」」」
俺達の掛け声は俺の部屋に響き渡り、俺の気分を高揚させた。
「吾輩も出撃するぞ!」
この声を聞いてか、寝起きのいつもより少し低い声でジュリエッタが扉からこちらを見て言った。
「わかった。けど、俺から……は、離れるな」
一度言ってみたかった台詞だ。こんなの乙女ゲームでしか聞けないと思っていたが、まさか自分が発言するなんて。
「あ、当たり前だ!トーマスは吾輩の守護兵だからなっ!」
「ああ!」
「仲良いねぇー!ヒューッ!……っと、肝心のあいつらの場所だけど完全に神出鬼没かな。国会以外もお構い無しに攻撃してるみたい。僕の帰りは大丈夫だったけど、都心はもうヤバイみたい。どこから行く?」
「とりあえず外出よう。いいかお前ら、この騒動の鎮静は恐らく俺達にしか出来ねぇ、初の大作戦だ。ぜってぇ勝つぞ!」
「はい!私の弓道部エースの実力、見せてやりますよ!」
「俺も頑張ります!」
俺は場の空気に流され、完全にやる気全開になっていた。今なら何でも出来そうだ。コミュ障も治ったかと錯覚する位絶好調。この調子が続くことを切に願い、俺達五人は俺の家を出るのだった。
続く
神の選抜って名前、考えた人が言うのもなんですがダサいですね。
まあ逆にダサさがいい感じにヤバい宗教っぽいっていうか。