5話 謎多き少女ジュリエッタ
日常回でございまする。
「んじゃ、おつかれさん。ジュリエッタの事、頼んだぜ」
「は、はい。んじゃ、さよなら」
俺達は自分達の街に帰ると、駅で別れ、自宅へ向かった。無言のまま家へ着くと、ジュリエッタが、
「ふおぉ!大きな家だな!っ!?まさか其方、王国の王子……っ!?」
ととても目を輝かせ言った。
「いやいや、た、確かにちょっと大きいけど、親の仕事のお蔭だよ。どっちとも大手で働いてるんだ」
「む、そうなのか……」
俺はこう言って王子であることの疑いを晴らすと、家の鍵を取り出し、家の鍵を開錠した。
「さてと……。俺だけんなってちょっと中汚いけど、入ってくれ」
「むむ……。では、じゃ、邪魔するぞ」
俺は扉を開け、今日から彼女が住むことになる我が家へと入って行った。
「ごめん、ジュリエッタ。先にシャワー浴びてくる。先生が着替えくれたけど、まだ体に血付いてるし。あっ、リビングあっちだからね」
古川の一件で汗をだらだらとかき、更に血がついている。汚れを全て流そうと思いそう言ったが、少しして邪な事を考えてしまった。そう。この言い方ではまるで、ベッドに誘っているみたいではないか。そう思うと俺は彼女が否応を言う前に、
「あっ、えっと、そういう意味じゃないからね?勘違いしないでね?」
と慌てて付け加えた。しかし、
「??……まぁ良い。待っておるから早くしてきたまえよ」
と不思議そうに言い返した。意味を解っていなかったみたいだ。しかし数秒黙り込みはっ、とすると
「ななな!何を考えておる!馬鹿者!そんなはずあるわけなかろう!ささ、さっさとしてこい!」
と顔を赤らめ大きな声で言った。
「ごご、ごめんごめん。んじゃ、待ってて」
そう言って俺はバスルームへと向かった。
脱衣所で服を脱いでいると、エリフが姿を現した。俺は突然なのと脱いでる時という事で少し驚いた。
「わわっ!なな、なんだよ、シャワーするんだけど」
「おっと、すまない。陶馬、少しいいか?君と私の事でいくつか解った事がある」
エリフは謝りながらとても気になっていた事を言った。
「本当か?教えてくれ」
俺はすぐに脱ぐ手を止め、パンツ一丁でエリフの話を聴くことにした。
「まずは以前、君が言っていた様に私の能力があったという事。その能力は“学び”。どうやら戦いの最中の使用者の記憶や一度見た事等を忘れないようになるらしい。今日の戦闘中君も気になったはずだ」
確かに、古川との戦いの時、間合いや動きなどを完璧に覚え、把握する出来た。
「ああ、そういえばそうだな」
「うむ。そして次は我々付喪霊の事。君が私を使えば使うほど強くなるらしい。今日も前回より微量ながら補助力を上げる事が出来た。」
「そうなのか?気が付かなかった」
こう言った後、いつもの真面目な顔だったエリフが僅かに頬を緩め、
「あぁ。実はな。ふっ、これは君の言い方で言うレベルアップというヤツだな」
と言った。そう言われるととても解りやすかった。そしてその後息を吐くとまた真面目な顔に戻り、
「そして最後。君の事だ。君は覚えた事を上手く吸収し利用することが出来る。つまり私ととても相性が良い。恐らく君は戦えば戦う程様々な戦闘の知識を学び、それを更に活かすことが出来る。君には戦闘の才能があるんだ」
「ま、マジっすか……」
予想外だった。確かにネトゲの戦闘の才能は有る。しかし、現実ではプレイ初日の無課金並に酷い。だが今日まともに戦えたのがそのおかげなら解らない話では無い。何故なら俺は今日、長年親しんで来たゲームのキャラの動作を真似して戦ったからだ。そのキャラの事など嫌という程覚えている。ならばそれを戦闘の中で上手く利用できていたのなら、合点が行くからだ。
そうこうエリフと話し込んでいると脱衣所の扉が開き、ジュリエッタがこちらを見た。
「おい家主、騒がしいぞ。一体誰とはな……し……」
「うおあぁぁ!!な、なんで入ってきた!?」
俺の貧相極まりない体を見るより先にジュリエッタは、
「誰だその男!?まさか其方の守護霊か!?」
とエリフの方へ反応を示した。よし、なんとか……と思ったがその後すぐに、
「ぬあぁぁ!!すすす、すまない!騒がしかったものなのでつい、な……。でで、では失礼するっ!」
と俺のパンツ姿をみた彼女は、林檎のように顔を赤らめ脱衣所を大急ぎで後にした。
「か、間一髪……。ってかお前の事見えてたぞあの娘」
「うむ……。用が済んだら説明せねばならんな」
「だ、だな……」
少し面倒に思ったが、痛い厨二な彼女の事だ。すぐに嘘でも真でも信じるだろう。そう思いながら俺は浴槽へと入り、汚れを流すことにした。
水が傷口に染みてとても痛かったりしたが、なんとかシャワーを浴びた俺はジュリエッタの待つリビングへ向かった。するとテレビがついていてアニメがやっていた。そしてジュリエッタはソファで横になり寝てしまっていた。
「どうしようか……」
俺は彼女を起こすか起こすまいか悩んだ。しかし彼女は疲れているのだろうと思い、起こすのを止め冷蔵庫へ飲み物を取りに行った。するとすぐにジュリエッタは目を覚ました。
「む……。眠ってしまっていたのか。おい君!やや、疚しいことはしとらんだろうな!?」
流石厨二。そういうとこに敏感なお年頃だ。俺は誤解されてはならんと速攻で言葉を返した。
「だだ、大丈夫だって、何もして無いからさ」
「むぅ……」
ジュリエッタは立ち上がると、疑いに満ちた目でこちらを見上げている。その表情はとても可愛く、俺は目を反らした。
「ああ、えと、あのぉ、さっきの白髪のやつ、見たよね?」
悟られてはまた何か言われてしまう。そう思い俺はすぐに話を切り出した。
「む?先程のあれか。そういえばここに居らぬようだが、あの者は一体?」
この娘とは当分同じ屋根の下で暮らす以上、隠し事は良くない。
そう思い俺はエリフや先生に教えられた事をジュリエッタに伝えることにした。すると彼女は終始目を輝かせながら俺の話を聞き、話が終わると、
「そそ、其方にそんな力が合ったのか!!なんとも素晴らしい!ええと、名はーー」
と興奮しながら言うと名前を訊いて来た。そういえば結局色々有り名乗る暇が無かった。
「あ、ごめん。歌川陶馬だよ」
「トーマ……うむ!トーマス!君は私の守護兵にしてやろうぞ!」
名前を言うと俺に「トーマス」と名付け、ナイトだのなんだのと言ってきた。要するに護って欲しい様だ。
「な、守護兵って……。ま、まぁ、今日からジュリエッタとは家族みたいなもんだし、良いけど……」
そう言うと彼女はとても喜んでくれたのか、
「おお!本当かっ!では、よろしく頼むぞ!トーマス!」
と俺の手を握った。俺は恥ずかしくなったが、彼女に会わせてあげようと柄でもない冗談を言った。
「えっと……。悦んで護らせていただきます。ジュリエッタ。なんてね……」
「う、うむ。こ、これから頼らせてもらう……ぞ?」
俺が小っ恥ずかしい事を言うと彼女は握っていた手を離し、頬を少し染めた。そして尻すぼみにそう言った。俺の冗談は成功だったようだ。恋愛ゲームで言うバッチリ好印象な選択肢と言った所か。
「こ、こほん!君の秘密を言ってもらったのだ。かか、家族同然の君には私も隠し事は出来ぬ!」
咳払いをし、そう言うとジュリエッタは自信満々にこう言った。
「私の特殊能力をお見せしよう」
うーん痛い。やはりバリバリの厨二病だなこれは。一体どんな設定をーー
「はぁっ!」
俺は目を疑った。目の前のバリバリ思春期な少女が両手を広げるとその小さな手には黒い物が渦巻いた。そして、俺の身体がズッシリと重たくなった。
「これが吾輩の能力ッ!“重力は我の手中! 半径2m以内の重力を操る事が出来るのだ!」
彼女はドヤ顔でそう言うと手に纏った重力的な物を抑えた。すると重かった身体は軽くなり、いつもと変わらなくなった。
「能力って……。どうやってそんなのを?」
俺は厨二病が一線を越えてるこの状況に堪らなくなり、すぐに質問をした。
「クックック……。さあな。気が付けばもう使えていたのだ。あの瓦礫がきた時はこの能力を使って無傷で済んだという理由だ」
「気が付けば、か……。で、でもなんであいつらに使わなかったんだ?それ使ったら逃げれたろ?」
「あまり人には見られたくない。騒ぎになりたくないからな。だから、その……トーマスに見せてやるのは特別だっ!かか、家族同然……なのだろう?」
「そ、そっか……。ありがとう」
破壊者の様な特徴は無し。見た目は何の変哲もない少女。本人も何故か分からず使える力。こんな謎が多すぎるジュリエッタだが、家族同然という言葉が随分と嬉しかったのか、俺を信頼してくれているらしい。そしてこの不思議な能力を持つ事。これは能力の効果もあり、悪用されればとても危険な力だ。そう思い俺は彼女が誰であろうと守ろうと思った。
その後は他愛ない話をし、日が暮れてくると夕食を食べ、俺達は疲れた体を休ませる為早く寝る事にした。こんなに疲れているのに明日は学校があるのだ。ああ面倒臭い。彼女はどこで寝かせようと悩んだ挙句、両親の部屋を使ってもらうことにした。
「お休み、ジュリエッタ。あ、何かあったら隣俺の部屋だし、呼んでね」
「うむ。ではな、トーマス」
各々の部屋に入り、俺は布団に入らずコンピュータの前に向かった。
「疲れててもこれは別だよなぁ」
過酷な現実。もう限界だという時も、これがあれば生き延びられる。無しでは生きていけない。お待たせもう一人の俺。今起動して動かしてあげるからな。
一時間ほどゲームに勤しんでいると、エリフが姿を現した。
「その動作、今日の君と似ているな」
「ああ。なんたってこれを真似して戦うのが俺の作戦だったからな
」
「なるほど、いい考えだ」
「こんなにゲームが役に立つなんてな。考えたことなかったよ。……よっしゃ!落ちた!」
エリフに返事を返しながらコマンドを打っていると、敵が欲しかったドロップアイテムを落とした。
「一時間かぁ、割と早いな。ふぅ、今日はそろそろ寝ないと……」
出ないならもう少し粘るつもりでいたが、早めに出たので俺は寝る事にした。
「……れるぞー!!陶馬ー!!生きてるかー?」
……誰だ。俺の睡眠を妨げるのは。全く、疲れているのだから少し位休ませてくれたってーー
「学校!ヤバイって!!遅刻すんぞー!」
「っ!!漆平!?まっじぃ!うおぁ!?」
俺は家の外から聞こえる学校と言うワードに反応し、飛び起きた。
すると俺の部屋の床には布団が敷かれていて、ジュリエッタが寝ていた。
「ん……。騒がしいぞトーマス……」
「いやいや!なんで居るんだよっ!?」
俺の大声でジュリエッタは起き、立ち上がるとこちらを指差し、
「君は私の守護兵であろう?近くに居ないと守ってもらえないではないかっ!」
と言った。
「確かにそうだけども……。ってかヤバイヤバイ!悪い、学校行ってくる。留守番よろしくね」
「む……。は、早く帰ってくるのだぞ」
「あーうん!じゃね!」
俺は速攻で用意を済ますとすぐに家を出た。夜中にゲームなんてせず素直に寝ていれば良かったと後悔しながら。
「悪い、寝坊しちまった」
「ったくー、またゲームか?ほどほどにしとけよ?」
家の前に出ると漆平が待ってくれていて、笑いながらそう言った。
そして俺達は学校へ向かった。
談笑をしながら歩いていると、校門の前にまた刑事さんが立っているのが見えた。この前の多川という男だ。
「また何かあったの?」 「しっかりしてくれよ刑事さーん」
「俺達怖いよーう」 「てか彼女とかいんの?刑事さん」
「いい、いや君達……。えっと……参ったな……。はは……」
数人の男女に囲まれおちょくられている。情けない姿だった。
「大変そうだなぁ。平和なご時世にご苦労さんなこった」
「ほんとだよな……」
多川さんに同情しながら門を通ろうとすると、俺だけが呼び止められた。
「あああ!君、ごめんちょっと来てくれるかな?」
そう言われると多川さんに腕を掴まれた。俺は露骨に嫌な顔をして、
「ちょ、なんなんですか……。困ります」
と腕を振り払った。
「ごめん。学校には許可取ったからさ。どうしても聞きたいことがあるんだ」
刑事特権、というやつだろうか。ここで断ると公務執行妨害だの何だのになってしまう気がした。そして彼の必死さがこちらに伝わってきたのだ。
「わ、分かりました……」
俺は渋々多川さんに付いていくことにした。漆平にはごめんと伝えて先に行ってもらった。
付いていくとパトカーに乗せられた。まさか現役高校生でパトカーに乗る事になるとは思ってもいなかった。そして十数分乗り進むと警察署に到着した。嫌々入っていくと、ドラマでしか見た事の無い取調室に案内された。多川さんの他にも人が二、三人いる。
「ま、まあ座って」
「は、はい……」
なんなんだこの状況。いったい何を俺に聞く事があるんだ。様々な不安に駆られ、変な汗がどっと噴き出してきた。
一分ほど静寂が続き、強面の刑事がそれを破り、一枚の写真を胸元のポケットから取り出した。
「この写真、知らないかな? 君だとこの多川がうるさいのでな。すまんな、一応確認だ。仕事上見逃せんのでな」
写真に目を配ると、確かに俺に似た男が廃工場に入って行っている。俺だ。しかし、面倒だ。昨日の出来事を信じるはずが無い。それに話すと厄介が増える。そう思い、
「ち、違うと思います……。その日ゲームしてたんで……」
と嘘をつき逃れる事にした。
「……ありがとう。んじゃ帰っていいぞ」
「ああ、僕送ってきますね!」
すんなりと帰っていいと言われほっとすると、多川さんがかなり食い気味にそう言った。
「あ、歩いて帰ろうか」
多川さんはどこか落ち着きの無い様子。なにかあるのだろうと提案を受け入れ、歩いて帰る事にした。
刑事さんととても気まずい空気の中通学路の道を歩いていると、左方向の道から罵詈雑言が聞こえた。
「あんた生意気なんだよ、一々真面目ヅラして。いろんな男と仲良いし。この尻軽女!ビッチ!アバズレ!」
「な、何言ってるの……」
「とぼけんなよ。あんたさ、気に入られてんのよ。誰にでも仲良くしてさ。ほんとウザイのよ。生徒会だから先生にも気に入られてるみたいだしさ」
「ご、ごめん……」
言われてる事が耳に入り、俺は立ち止まった。
「ん?どうしたの?……あ、この悪口ね……。酷いよねぇ」
「…………。」
「歌川……君?」
「……。あ、すません。俺ちょっと行ってきますね」
「ちょ、待ちなよ!」
俺は聞いているのが辛くなり、すぐさまその聞こえる方向へ向かった。言われているのはこの前プリントを持って来てくれた可愛い子、色島さんだった。悪口を吐いているのは髪を染めたいかにも悪そうな女だった。どうやら一体一の様だ。俺がその近くまで行くと、その女がこちらに気が付いた。
「何?まさかこいつのカレシ?キモいんだけど。私たちの問題だから。ほっといてくれる?」
キモイという言葉が俺に突き刺さる。だが俺はめげずに勇気を振り絞って言い返すのだった。
「あ、あの……。やめてやれよ……。」
「はぁ?マジキモイ。あーあ冷めたじゃん。もう。あんた、覚えときなよ」
そう言うと彼女はすたすたと去って行った。
「ありがとう……。また助けてもらっちゃったね……」
色島さんは今にも泣きそうな表情でこちらにお礼をした。
「いや……いいんです……じゃ……」
「待って!お礼したいから、ちょっと付き合って?学校は……。うん!休んじゃおっと!ね?」
色島さんは気丈に振舞っている。この気遣いを断るわけには行かない。
「あ、はい……」
「あ、ここにいたんだ……。もう、探したよ……」
そう言われ後ろを振り向くと多川さんが居た。
「あ、刑事さん?すいませーん!ここから私達だけで大丈夫です!帰って頂いて結構ですよー」
「あ、ああ、うん。分かったよ。んじゃあ、気を付けてね」
「はーい!じゃ行こっか」
「は、はい……」
俺は彼女の言うがままになり、色島さんと学校をサボって遊ぶ事になってしまった。
続く
少しペースが遅れそうです。