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ツクモツクモノ ー 付喪憑者ー  作者: jenova
崩壊してゆく日常
3/25

3話 無愛想な教師の愛ある願い

やっとこさ女の子の登場です。

次からも出てくる事をお楽しみに。


世話になったマンションを出ると俺はスタスタと速足で自宅へ向かい、中へ入るとすぐに二階の自室へと向かった。そして速攻パソコンの電源を入れ、カバンをベッドに投げた。


「やってられっか! 何が破壊者カタストロフィだよっ! どこの漫画の世界だよ! クソがぁ!」


信じるしか無かったが、昨日から今日にかけての訳の分からぬ事、一歩間違えれば死んでいた事等、不満が爆発し、大声をあげた。その後もブツブツ独り言を吐いていると後ろから、

「君、騒がしいぞ。もう少し大人しい者だと思っていたが……」

と落ち着いた声が聞こえた。件の訳の分からぬ事の一つ、付喪霊のエリフだった。


「なっ!? 自主的に出れんのかよ!? てか聞かれてたし……。恥っずいなぁ……」


ヤツが勝手に出てきていることより、俺は普段誰にも見せることの無い一人の時の自分を見られた事に驚き、次第に顔が熱くなってきた。許すまじ付喪霊。


「あぁ、すまなかったな。実は私にも自身の事は解らぬ事だらけなのだよ。なので色々試していたと言う訳だ」


「そ、そうなのか。まま、まぁ助けてくれた命の恩人?って事だし今のは無しにしてやる」


エリフが謝ってきたので、俺は昨日の事も有るし、と許す事にした。と言うか聴かなかった事にしてくれないとまた黒歴史が増えてしまう。なんとしてもそれだけは避けたかった。


「そう言えば私の自己紹介だけで、君の名はまだ聞いていなかったな。名は?」


「ん? あ、えと、歌川陶馬、です……」


名前を聴かれ、何故か俺は咄嗟に敬語でそう答えた。


「陶馬 か。いい名だ。おっと、そう言えば説明の途中で君は寝てしまったんだったな。続きを話そう」


「えっと、破壊者カタストロフィが何とかってのは白金先生から聞いたんだけど、まだ他にもあるのか?」


これ以上謎を広げないでくれ、と思いながらもそう質問した。すると俺の願いも虚しく、まだ何かあるらしい。


「そうだったのか。いや、実はその怪物についてなのだがな。我々付喪霊達に捜査を命じられていてな。それに協力して欲しいんだ」


「協力って……破壊者カタストロフィとやらと戦えって事か?

俺を守るために来たんじゃ無かったのかよ……」


そう言うとエリフは一層真剣な顔になり、

「頼む。攻撃は最大の防御。君を守るには共に戦って貰うしかないのだよ」

と答えた。確かにこいつの言う通りだ。もし仮に襲われたとして、戦わなければ自分の身は守れない。


「んー……。生きるためには仕方ないよな……。わわ、解ったよ。んで捜査って、誰に命じられたんだ?」


こうなったら自ら謎に踏み込んでやろうと覚悟を決め、俺は再び質問をした。


「恩に着る。共に頑張ろう、陶馬。――捜査は我々の世界の上司からの命令だ。我々には、独自に住む世界があってな。人々を守りたいと言う上司の意見により、破壊者カタストロフィを調べてこい、との事だ。」


謎に踏み込むと覚悟を決めたはずだったが、予想外だった。エリフは冷静に異世界があるという事を話した。ここまで来ればもしかして魔法やら異能力やら使えるのでは!? と俺の中に封印されし厨二心が囁きかける。

「な、なぁ。戦うにあたってもしかして憑依して強化するの他に特殊な能力とかってあったりするのか?」


「特殊能力……か。先ほど私自身も自分をあまり解っていない、と言ったが、本当にそうなんだ。まぁ、可能性としては無きにしもあらず、と言ったところか」


この貧弱な俺が戦うとなった以上、能力でも無ければ勝てない。少しだけ、次戦う時への期待が高まった。


「……私からの話は以上だ。これから宜しく頼むぞ、陶馬」


「あ、あぁ。よよ、宜しく。」


俺はぎこち無くこう言い、何か凄い事が始まることを実感しながら生きる希望でもある大好きなネットゲームを始めた。



――――



「ん……。ふあぁ……。寝落ちしちまってたか」


俺はカーテンから差し込む光に照らされ目が覚めた。すると目の前には「1時間未操作の為、強制ログアウトしました」という文字がパソコンの画面に書かれていた。後ろを向くと昨日エリフの居たベッドには、鉛筆が転がっている。また変身しているようだ。放っておいても大丈夫だろうと思い、俺は支度と朝食のために一階へ降りた。


適当にパンを焼いて食べていると、ピンポーン、と家のチャイムがなった。


「誰だよ朝早く……って、もう昼じゃねぇかよ!」


時計を見ると時刻は十一時を示していた。疲れもあり、かなり眠っていたようだ。


「寝起きに人と会話はレベル高いって……」


俺はそう呟きながら渋々玄関へ向かった。


「えっと……どちら様で……?」


玄関を開けるとそこには俺と全く無縁な、セミロングのとても可愛い女性が立っていた。瞬間心拍が急激に上昇。


「わわっ!? あ、えっと、君、歌川くんで合ってるかな?」


「あっ、はい。そうですけど……何の御用で……?」


まさか告白? 否。絶対有り得ない。学校で同学年にすら認知されているかも怪しい俺だ。そんな訳あるはずはない。ましてやこんな可愛い子が俺なんかを選ぶはずない。一体どういうことだ。


「私生徒会の色島憐香。学校から同学年にプリント配布任されちゃってさー。こうやってそこらじゅう回ってるの。はい、これね」


俺のチェリーボーイ丸出しの妄想は見事に砕かれ、俺はプリントを受け取った。


「あ、ども……」


「んじゃ。あ、急にごめんねー。失礼しましたー。…………うわわ!」


彼女は帰ろうとして後ろを向くと、勢いよく転んでしまった。


「っ!?だだ、大丈夫ですか!?すぐ色々持ってきますんで……。玄関にでも座っててください」


「いったた……。あ、ありがと。ごめんねー」


俺は駆け足で救急箱を取りに行き、彼女の元へ運んだ。どうやら膝を擦りむいただけらしいので、俺は消毒薬と絆創膏を取り出し、治療を施した。


「ほんとごめんね! 助かったよー。そろそろ大丈夫だから帰るね。優しくしてくれてありがとね! んじゃ!」


元気いっぱい俺に感謝をし、彼女は俺の家から出ていった。そう言えば何年ぶりに親族以外の女性と話をまともにしたのだろうかしかもあんなに可愛い子だ。今日はついてるのかもしれない。少し気持ちをわくわくさせ、俺は朝食を食べに戻った。


さっきはテンションが上がっていて貰っていた事があまり関係無かったが、一応学校の事のようなので残っていたパンを食べながら目を通す事にした。プリントには通り魔事件の容疑者が逮捕されたので、明日から学校があると書かれていた。うーん、面倒臭い。先ほど高揚していた気分が少し下がり、俺は朝食兼昼飯のパンを完食。その後、先生との約束を思い出し外に出る支度をし、自宅を出てせせらぎマンションへと向かった。



先生の住むマンションまで歩いてしばらくすると、

「おはよう陶馬。ん?どこに向かっているのだ?」

と声が聞こえた。エリフだった。


「えっと、先生のマンション。ってか人目につく所で出てきていいのかよ?」


「安心しろ、我々は霊体。君のように霊感がある者にしか見えないからな」


「そういう問題じゃねぇっての……。ま、まあいいや。おい、今度からは人多いとことかではあんま話しかけんなよ」


「む……。承知した」


そう。問題は見られるとかではない。他の人には誰も居ない空間と俺が会話をしているという事だ。小学生の俺はまだ純情で、ここまでコミュ障ではなかった。その時道案内をした人が実は幽霊で大恥をかいた事がある。小学生だからまだ許されたものの、この歳でそれはヤバい。何としても避けたかった。恐る恐る辺りを見渡すと誰も居ない。よし、どうやら助かったようだ。



十分後、少し迷いながらもなんとか着く事が出来た俺は、言われていた部屋のインターホンを押した。


「す、すません。歌川です」


「来たか。玄関は開いてる。まぁなんだ、入ってくれ」


俺はそう言われると扉を開け、2度目の先生の部屋へ入った。すると昨日の食事の時と同じ椅子に座って先生が居た。


「とりあえず座れ。なんにも無くて悪いな。茶でいいか?」


「あ、お、お構いなく……」


俺はできる限りの作り笑顔を作り、大人な対応を見せ、言われた通り椅子へ腰掛けた。


「……ふぅ。早速だが本題に入るぞ。単刀直入に言う。お前の力を俺に貸して欲しい。頼む」


先生はいつになく真面目な顔でそう言うと頭を下げた。


「ああ、えっと……。協力は全然良いんですけど、なんのですかね……?」


俺がそう言うと先生は頭を上げ、

「おおっと、悪い。協力して欲しいってのは奴ら破壊者カタストロフィ達の討伐だ。続けていればもしかしたら俺の娘が救われるかも知れないんだ! 頼む!」

と、いつもの気だるそうな様子とは全く違う、熱意のある顔でそう言った。


「娘さんが……? どういうことですか?」


一体それとこれとどう関係があるのか疑問に持ち、訊くことにした。


「実は俺の娘、愛奈は破壊者カタストロフィになってしまっているかも知れないんだ。今は外国の病院で、医者である俺の妻が治療してる。原因不明の病、って事になってるが、肩から変な鉄みてぇな棘が出てたり、色々合致するんだ。だからもし、ヤツらを生み出してるのがどこかにいて、そいつを倒せたら、愛奈を治せるかもしれないんだ」


すると先生がそう熱弁した。そういう事なら余計協力をせざるを得ない。それに、一人より二人の方が安全だ。


「わ、分かりました。一緒に頑張りましょう」


「あぁ! ありがとな! よろしく頼むぜ!」


こうして愛煙家で俺の担任、白金刃也先生が新たな仲間となるのであった。


「んじゃ、早速で悪いが、これとこれ見てくれ。」


先生が見せてきたのは、今日の朝刊とノートパソコンだった。新聞には「爆破事件、二日連続。次は芸能事務所か」という見出しで事件が、ノートパソコンには俺もよくお世話になっている巨大匿名型スレッド板「みりおんちゃんねる」の一ページが映されていてそこには、

[速報]俺が国内の悪を爆破させてやる。おまいら何がいい?

と言うふざけたスレッドが建っていた。


1.誰がいい?


2.≫1 釣り乙。 あ、でももし本当ならリアリー食品で。


3.≫1 俺も2と同じ。会見の仕方腹立ったし、俺自身あそこの商品に世話になってたし。騙された事は絶許。


4. ≫2、3 そこも大概やが、やっぱり枕してたアイドルのルキティやろ。 俺らの夢を奪った罪は大きいやで


5. 皆イッチを信じるピュアさに草生える ワイはDQN達。ほんとに邪魔。害悪でしかないよあいつら。




…………とまだまだ次々と続いているようだ。俺が提示された記事にどちらとも目を通し終えるのを見計らい、先生が話を始めた。


「二件の爆破事件、俺はこのスレ建てた奴が怪しいと思ってる。通常なら釣りだろう。だが、実際に事件は起きてる。しかもここに書いてある通りに……だ。偶然なはずねぇ」


確かに、これを偶然で纏めるのは無理がある話だ。


「それに爆破って所。常人じゃそんなこと出来っこねぇ。間違いない筈だ。だからこいつの先回りをして見ようと思う。だが問題が一つある。それは――」


「3件目にも同じように起こるなら、個人か不特定多数……?」


先生が続きを言いかけた時、俺はそれに被せる様に答えた。


「あぁ。二つともそこらじゅうに可能性がある以上、場所を絞ることが出来ない。なので俺達はできる限りの事を尽くそう。昼からも暇なら今から都心へ向かって見回りしたいと思う。行けるか?」


「は、はい。まぁ大丈夫ですけど……」


本当なら帰ってゲームをしたい所だが、とても断れる雰囲気では無い。


「うっし決まりだ。運賃やらは俺が出しとく。んじゃ、行くか」


先生と俺は各自鉛筆と定規をすぐ出せるようポケットに忍ばせ、最寄りの駅へと出発した。





――――俺達が駅に着くと、電車を待つ暇なくすぐに乗ることが出来た。そして十数分電車に乗り、住んでいる場所から一番近くの繁華街の駅で降車した。


「ふぅ。久しぶりだぜ、こんな賑やかな所。折角だし何か食ってくか?」


そういえば俺が先生宅を訪問したのが十二時頃。その後すぐに出発したため先生の昼飯はまだだった様子。なので俺は断る事なく、

「あ、先生の好きなのでいいっすよ」

と答えた。


「おお、そうか。わりぃな。んじゃ、行こうぜ」


そう言って駅を降りると、先生が向かった先は少し歩いた先にある丼物屋だった。しかし時間帯もあり、店先まで来ると行列が作られていた。


「っち……。しゃあねぇ。諦めるか」


先生は少し悔しそうにそう呟くと立ち止まり、胸元のポケットからスマホを取り出した。この辺りの食べ物屋を探しているようだ。

その間俺も周りを少し周りを見渡し、何処か食べれる場所は無いか物色していた。すると一人少女がパチンコ屋の前で何やら数人の男達と揉めているのが見えた。そのすぐ後、そこにダサいTシャツに下はスウェットのいかにも頼りなさそうな男が仲介に現れた。が、やはり駄目だったようで、パチンコ店とその隣の建物の間に少女諸共連れて行かれるまでを一部始終目撃した俺は、先生に一連の出来事を伝えた。


「せせ、先生!あそこ。なんかヤバそうです! 女の子と男が連れてかれちゃって!」


事が起きた場所を指差しそう伝えると、

「何ぃ!? 急ぐぞ歌川!」

と俺の腕を掴み、乱暴に現場へと走り出した。




続く

今回からようやく物語が始動します。


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