24話 託された想いと共に
不定期ですみません
ーーーーーーーーーー屋敷廊下 歌川、ジュリエッタチーム
改めて決意を固め、俺達は金口を探す為にこの屋敷を当ても無く歩いていた。
「はぁ……。あ、あのぉ、心あたりとか無いですかね? どこが狙われやすそうだ、とか」
全方位に警戒を怠らぬよう前へと進んでいたが、怪しい場所は一向に見当たらない。俺はこの屋敷に仕えてる人なら分かるかもしれないと、先程助けたメイドさんに尋ねてみることにした。
「私新入りでお屋敷の事あんまり分かってなくって……。しかもこんなおかしな事になってて……。お役に立てずすみませんですぅ……。」
「ですよね……。地道に探すしかないか……。」
無理も無い。ただでさえ迷いやすいような屋敷で、それをダンジョンの様に改造されてしまっているのだ。余程ここに長く居る人じゃないと分からない筈だ。しかしこの女性、さっきまでは気にしなかったが見覚えがある。なよなよとした口調に可愛らしい容姿。俺達を夕食の場所に案内してくれたメイドさんかもしれない。
「あ、えっと、もしかして海玲さんですか?」
「はわっ! 覚えてて下さったんですね! そうですよ!」
そうだったからどうという訳はないが、正解だったようだ。どうやら海玲さんは、俺が覚えていた事がとても嬉しかったらしく、俺の方を見ながら高めの嬉しそうな声で喜んだ。がその後、俺の方を向いた事によってなのか、「きゃっ!」とその場で派手にこけてしまった。
「いたた……。なんでこんなにコケちゃうんだろぉ! うぅ……」
「だ、大丈夫ですか? なんかすみません……」
何も無い所でこけるのは、ドジっ子属性を与えられた者の使命なのだろうか。勿論、そんな事を言うと怒られるので言わなかったが、使命や因果律の運命だとしか思えない。
「なかなかの転倒ぷりだな、全く……。ん? おい、トーマス! あれを見るのだ!」
俺が転倒した彼女の起き上がるのを手伝っていると、ジュリエッタが俺の肩を二回叩き、前方を指さした。なんだろう、と思い、海玲さんが立ち上がった後、俺も前方に目をやる。すると、こちらに全速力で走って向かってくる女性の姿が見えた。近づくにつれ容姿が判明し、すぐに色島さんだと認識する事が出来た。
「色島さん! 良かった、無事だったんだ……!」
俺達に走り寄る彼女に声を掛け、気付いているということをアピールする。俺は彼女と再開できた事に思わず頬を緩め安堵したが、色島さんの表情はそうでは無かった。
「どうしたのだ、レンティーヌ? そんなに眉をしかめて。重喫煙者の姿も見えんようだが?」
「ハァ、ハァッ…………! 歌川君、ジュリエッタちゃん! 先生が一人で先に行っちゃって……! 多分金口の所なの! お前は他の人達を集めてこいって言われて、やっと見つけれたよ……」
色島は俺達の近くに到着すると、息を切らしながら状況を説明した。しかし、彼女自身をあまり分かっていない様子。どうやら先生が何かを突き止めた様だ。
「先生はどこに?」
「2階の部屋なの! なんか隠し扉みたいなのがあってね? 私に指示出したらすぐそこに入ってっちゃったの! 急がなくちゃ!」
「分かったよ。で、でも……」
すぐにでも走って向かいたいところだが、そんな事をしたらこのドジっ子さんがすぐこけてしまうに違いない。かといって置いていく訳にもいかないが。
「トーマス、この者は吾輩に任せるが良い! 後を付けるから君達は気にせず先に向かうのだ!」
俺の困った表情から察したのか、ジュリエッタが俺にそう言った。俺は「ごめん、ありがとう!」とジュリエッタに返し、色島さんに「行こう!」と言った。色島さんはそれに頷くと駆け出し、俺もそれと同時に足を踏み出した。
ーーーーーー
「ハァ、ハァ、ここに先生が?」
「うん! この部屋の中にある通路だよ!」
急ぐ色島さんに連れてこられたのは、二階へ続く階段を登った先にある、他の部屋よりも少し豪華な部屋だった。俺達は部屋の前に着くと、間髪入れずにその部屋に入った。中には分厚い本が連なる本棚があったり、いかにも高そうな絵画が飾られていたり、豪華な机に山積みの書類が置かれていたり。今の不気味な内装ではミスマッチでしか無いが、普段ならとても威厳のあるものなのだろう。俺はそんな事を考えながら隠し通路とやらを探し始めた。
「えっと確か……。これだ! これをこうして……っと!」
しかしその必要はなく、すぐに彼女がそれへと至る仕掛けを作動させた。それはあまりに典型的で、本棚の一部の本を抜くと隠し扉が奥から現れるというもの。かなり王道の隠し通路だ。
「ーーほう、驚きだ。まさかこんな事になっていたとはね」
開けっ放しにしていた入口から、聞き慣れたキザな声が聞こえ、俺はすぐに視る方向をそちらへ変える。するとそこには、いつもの余裕のある表情ではない倉科が立っていた。
「すまない、君達には残りの召使達を頼みたい。僕は先に行く」
「倉科っ! 待てよ、俺達も一緒にーー」
「ごめんよ歌川君。これはもはや僕の問題なのかもしれないんだ」
そう言った彼は、我先にと開かれた通路へと足を運び、俺の呼び止めも空しくこの場を去った。
「あいつ、なんだか様子がおかしかったよ? どうしたんだろう……」
その点には確かに疑問が残るが、気にしている暇はない。早く倉科を追わないといけない。だが、それを止めるかのように、次は入口から大勢の足音が聞こえ、3人が俺たちのいる部屋に入ってきた。
一人は俺達の後を追ってきていたジュリエッタ。二人目は多川さん。三人目は昨日俺達を迎え入れてくれた、執事の松本さんだった。
「トーマス! 君達を追う過程でこの者達と遭遇してな。自己愛者は何処へ行った!?」
「えっと、この通路の先に行ったよ。俺達も今行くつもりだったんだけど、足音で警戒しちゃって……」
「クソッ、あいつ先に行ったのか……! ごめん皆、僕も先に行くよ!」
「ああっ、もうっ! 待ってくださいよ!」
俺は次々と色々な事が起きすぎて混乱しかけていた。倉科が先に行ったと思うと、次に入ってきた多川さんがそれの後に続き、更に多川さんを色島さんが追って奥へと進んでいってしまった。そもそもジュリエッタと一緒に来ていた海玲さんは何処にいるのだろうか。何故多川さんはあんなに急いでいたのだろうか。どうして倉科はあれ程までに余裕をなくしていたのだろうか。様々な疑問が脳裏を駆け巡り、理解出来ない事が山積みになっていく。
「訳わかんねぇ……ッ!」
「どうか落ち着いて下さい。海玲も、私以外の執事、メイド達も部屋の外にて待機しております。歌川君、お坊ちゃんは今、先程の戦闘にて我々の仲間をお亡くしになり、復讐心で前が見えておらぬご様子。どうか、お坊ちゃんに協力して差し上げて下さい。そして、どうか生きて善十郎お坊ちゃんの仲間でいて差し上げてください。」
そんな俺に声を掛けたのは松本さんだった。俺の気持ちを察してか、状況を説明してくれ、願いと共に俺に頭を下げた。俺の解釈が間違っていなければ、倉科は仲間を失うのを恐れ、一人で復讐を果たすつもりなのだろう。自分が負けて居なくなるという可能性を考えもせずに。もしそうなってしまえば、こんなにも想われている召使の人達が悲しむというのに。
「……分かりました。松本さん達はここで待っててください。あいつと一緒に必ず帰ってきます」
「ありがとうございます……! くれぐれもお気を付けて」
俺は深呼吸をし、金口との最終対決への覚悟を決める。大丈夫だ、こちらは協力して挑むことが出来る。ヤツが一人なら、十分に勝ち筋のある戦いだ。
「ジュリエッタも待ってる?」
「勿論待つはず無かろう? 守護兵と共に前線に出てこその護られるものだからなっ!」
護られたいならここに居ればいい話だが、彼女の言い分はなんとなく分かった。前衛を任された俺としても、近くにいてくれた方がありがたい。
「じゃあ、行ってきます」
「善十郎お坊ちゃんを頼みましたぞ……!」
俺は大きく松本さんに頷き、少し皆よりは遅れてになるが、隠し通路の奥へと一歩を踏み出すのだった。
続く
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