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ツクモツクモノ ー 付喪憑者ー  作者: jenova
裏組織 神の選抜
23/25

23話 次期領主と家族

寒すぎて死にそうです。

皆様もお気をつけてお過ごしください。

ーーーーーーーーーー正面玄関 倉科、多川チーム


僕とキザなこの男の二人は、一番乗りで歌川君達と離れた後、迷う事なく外へ出る大きな門扉に辿り着いていた。どうやら根本的な地形は変わってなかったみたいで、倉科の後を着いて行くとすんなりとここまで来ることが出来た。


「お、おい! まさか逃げるとか言わないよな!?」


「フッ、当たり前だろう? 寧ろ逆さ。これだけ廊下を走って来ていて、中に殆ど誰も居ないんだ。恐らく家の者がこの扉の外で食い止めてくれているんだろう。僕はまずそれに加勢するつもりだ」


どうやらこの男、かなりこの家の人達を大切にしている様だ。確かにこいつの言う通りだ。この趣味の悪い内装に仕立て上げた者、そして恐らく金口はこの屋敷のどこかに潜んでいる可能性がある。だがしかし、僕達が駅で戦った様な戦闘員達はまるで見かけていない。


「分かった。さっさと終わらせて金口を探しに行くぞ!」


「勿論。君には少し申し訳ないが、僕は僕の大切な者達を守りたい。時間を取らせて済まない」


「……気にするな。正直、もうお前が良い奴ってのは分かってきてる。だから疑ったりするのはもう止めだ! その代わり! 僕に攻撃を当てないように注意してくれよ? 僕は生身の人間なんだからな!」


僕はこれまでの事、そして今倉科が言っていた本心であろう守りたいという気持ち。それらを踏まえ、疑念を捨て去る事にした。すると倉科は僕に優しく微笑み、少し涙ぐんだ様な声で「ありがとう」と言った。


「んじゃ、加勢に行こう! ま、僕は見てるだけだけど……はは」


僕達はお互いに顔を見合って力強く頷き、協力して目の前の重たい門扉を開ける。


「ふむ、やはりか……。君は此処で待っていたまえ。これ以上は一匹たりとも我が家に侵入させないッ!」


扉が開くと、僕等が昨日見た様な風景とは真反対の、戦場がそこにあった。来た時に会ったお爺さんの執事と他の執事やメイド達、そして沢山の怪物が存在していて、マシンガンや剣をもった召使いの人達が必死に化け物と交戦している。その光景を見た倉科がじっとしている訳は無く、すぐさまその戦場に飛び込んでいった。

倉科は走り向かいながら身体を変化させ、うねる両腕をいたるところのバケモノへ突き刺し殲滅させていく。そしてその次々と敵の数が減っていくのを疑問に思った倉科の仲間達が、周辺を見渡し始めた。


「っ! 善十郎御坊っちゃん!? ご無事でしたか!」


「心配掛けて済まなかったね、松本、それに皆にも」


真っ先に彼の存在に気が付いた老執事、松本さんが倉科の元へと近づく。倉科の加勢で徐々に減り始める怪物達に他の人達も次々と攻撃の手を止め、倉科へと走り寄って、安心や歓喜の混ざった声色で喜びを伝えていた。

僕は周りが少し安全になったと思い、倉科の一時を邪魔してしまうと少し思いながらも、その場所へと駆け寄った。


「あぁ……! よくぞご無事で……っ! 御坊っちゃま方のいらっしゃった部屋に誰も居なくなっていたので一体何があったのかと……」


「フッ、安心したまえ、イヴ。この僕がそう簡単にやられる筈がないだろう?」


イヴと呼ばれた女性は、昨日の夜僕達に不思議な果実をくれた人だ。でもその時の冷酷そうな面持ちはここでは無く、心から倉科を心配していて、生きていた事に大きな安心を得ている。まるで別人のような表情だった。この男は召使いからとても信頼され、大事にされているんだな。恵まれていて羨ましい限りだ。


「お、おい、倉科? 敵の数減ってきたけど、どうするつもりだ?」


「聞くまでもないだろう? 残りも全て消す」


倉科はそう言うと一呼吸置いて、まだ残っているヤツらの方へ注目した。すると、その破壊者カタストロフィの隊列の奥から、敵味方を無差別に撃ち貫く弾丸の雨がとてつもない速さで僕達の元へと飛散し、僕等の周りにいた数十人の召使い達の約八割がバタバタとその場へ倒れた。


「何が起きたのだ!? 御坊ちゃん、ご無事ですか?」


「…………松本、イヴ、君達は多川君と生存者を連れて下がっていろ」


「ですが御坊っちゃま! 私は貴方が心配でーー」


「僕は負けないッ! ……これ以上僕の家族を失うのはもう嫌なんだ! せめて次期跡継ぎの僕が仇を打つ」


生き残っていたのは、破壊者カタストロフィである倉科とイヴさん、その二人に守られた僕と松本さん、命中はしたが致命傷にはならなかった僅かな執事やメイドの人達だった。そしておかしな事に、10m程先にあった敵の軍勢も殆ど数を減らしていた。

倉科は仲間達の鉄棘に貫き倒された最期を目の当たりにし、普段の余裕ぶった表情が顔から消えていた。今あるのは怒りの感情。その場に居る人物に恐怖すら憶えさせる様な憤怒だ。


「君がやったんだなっ!? 正直に言えば一撃で消し飛ばしてあげるよ?」


「やっとこちらを向きましたね、全く……。私を無視してお喋りに勤しんでいたご様子だったのでねぇ? うちの兵士すてごま達も君にビビって動きやしない。我慢の限界とやらですよ、これはッ!」


倉科の怒りとは180度違う、自分勝手で子供の我が儘の様な怒り。先程の無差別射撃を起こした張本人が、倉科の怒声に反応を見せた。僕と倉科以外の人達は、両者の感情で身の危機を感じ、倉科の言うように、ひとまず安全であろう距離まで離れている事にした。




「……さて、皆離れてくれたみたいだ。君は光栄に思っていい。僕が“全力”で勝負するんだからね」


「ハッハアッ! 大層な自信だァッ! お前も地獄で後悔するといい! この〈神の選抜 破壊専門戦闘部門総括〉墓間はかま砥輝とき様に勝負を挑んだ事をなぁ!!」


基本クズだと思っていたが、実は家族想いで、その為に今戦う倉科、そしてその前に居るのは、軍服と軍帽に眼鏡を身につけ、その賢そうな見た目とは裏腹に身勝手な事をさも当たり前かの様に怒る男。

両者は互いに挑発しあい、ほぼ同時に身体の部分部分を破壊者カタストロフィへと変化させる。かなり距離を取っているはずだが、僕達にもその緊迫感が伝わって来ていた。


「行くぞ倉科ァ! 蜂の巣にして差し上げよう!」


そして遂に、相手が鉄の翼を形成させ、大きくそれを広げた。先程僕達に向け発射した攻撃を再び繰り出してくるのだろう。次の的は倉科1人のみ。当たればヤツの言う通り蜂の巣になる。誰もが二人の戦いの幕開けを予想し、唾をゴクリと飲み込む。しかし、そこから始まったのは、とても勝負とはいえない、“蹂躙”の時間だった。


「…………損失ペルデール逆転ヴァンシュ


“それ”は高々数十秒の出来事だった。ヤツの両翼から幾多の鉄の槍のような弾丸が放出された刹那、常人には目視できない何かが起き、倉科は怪物の目の前にいた。そして渾身の右フックをそいつの腹部にぶちかまし、風穴を開けた。更に倉科はその後、腰の部分から四本の木の根を生やし、家畜を捌くかの如く素早く怪物の四肢をそれで切断。それだけでは足りず、周りにいた全ての敵にその尻尾を突き刺し、敵の全滅は充分に確認出来ていた。

だが倉科はその手を止めることは無かった。穴の空いた達磨同然のそいつの頭を片手で鷲掴みにし、空中まで持ち上げたと思うと、林檎でも潰したのかと錯覚するほど安易に、どこまでも無慈悲に敵の頭を粉砕した。


「済まない、一撃で決めると言うのは嘘になってしまった」


その攻撃に耐えれる筈などなく、落下した胸部は地に着くと同時に粉々に消え去った。


僕はただただ言葉を失った。仇討ちをいとも簡単に遂行させてしまった彼に。勿論、踵を返しこちらに向かう彼に掛ける言葉の一つすら思い付かない。彼の目が未だ奥底で憤怒を訴えていたからだ。その気迫は僕だけでなく、彼の家族である人達をも恐怖させていた。


「…………行くぞ。金口を、消す」


僕等が居る場所を横切る時に一瞬そう声を掛け、彼はそのまま足を止めなかった。僕も、召使いの人達も、その命令には従うことしか出来なかった。

静かなる怒りに取り憑かれた彼の後ろを、僕等はただただ追い抜かぬように、ついて行く事しか出来なかった。





続く



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