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ツクモツクモノ ー 付喪憑者ー  作者: jenova
裏組織 神の選抜
22/25

22話 歪んだ愛のカタチ

戦闘描写にもっと緊迫感を持たせたいと切に思います。

ーーーーーーーー倉科家廊下 白金、色島チーム



「おい! もう十分は走ってんのに、化け物っ子一匹いねぇぞ? どうなってやがるっ!」


他の奴等と別れた後、俺と色島は、元々迷宮みてぇなこの屋敷を奔走していた。行けども行けども同じような気色の悪い壁。そしてやけに入り組んでやがる廊下。それに加え、俺の脳が体内のニコチン不足をお知らせしている。俺は内心とてもイライラしていた。


「あの爆発音とか何だったんでしょね? 何も無いならそれでいいーー」


「ドォンッ!!」


「ーーそんな事無かったみたいですね、あはは……」


流石に教師のおっさんと運動部の女子高生でも、こんだけ走れば疲れる。だが、あいつらは俺達に息をつく暇なんて与えちゃくれなかった。地面に伝わる轟音と衝撃が俺達を足止めし、真横から吹き飛ばされた大小様々な木片が、俺たちに降り掛かる。俺はすぐさま色島の前へ出ると、手に持った武器の形状を変化させ、RPGの主人公なんかが喜びそうな段平の大剣を身体の前で盾のように構えた。


「ゲホッ、大丈夫か、色島? ……ったく物騒だなオイ!」


どうやらその木片の原型は扉だったみたいだ。舞い上がった埃が収まると、その歪に開けた空間に大量の書物が見えた。図書室、もしくは資料室ってとこだろう。あまり気は進まねぇが、俺は剣の構えを解き、持ち運びやすい長さに再び姿を変えさせ、爆発元を探るため瓦礫を踏み越えその部屋へと侵入する。


「ま、待って下さいって! もぉ、そんなんじゃ娘さん元気になっても嫌われますよ!?」


「ああん? ったく……、悪かったな」


後ろから聴こえる色島の小言を耳に入れながら前進を続け、片手で白衣の内ポケットからタバコを一本取り出して火を付けた。結婚三年目の時、俺の誕生日に家内がくれた特注の白衣だ。内ポケットにタバコを一本づつ収納出来る様に工夫されてて、やはりどんな時でも手放せない。着替えてきたとはいえ、これは置いて来なくて正解だ。


「しっかしまあ、えげつない本の量だな。大学の図書館並だこりゃ……」


俺はその本の多さに思わず圧倒され、足を止める。とてつもない本の多さと古書特有の香り。タバコを吸い始めた事と相まって気持ちを落ちつかせてくれる匂いだ。


「ちょっと先生! そんな事より今は爆破の正体でしょ!?」


「おうっと、そうだったな。おい! さっさと出てきやがれ!」


こういう時は探すより、相手から出てきてもらうに限る。俺は大きな声で呼び掛け、敵の登場を待つ。


「俺達は逃げも隠れもしねぇ! 来いよクソ共!」


「もおぉぉっ! 五月蝿いのよっ! 黙りなさいよォォ!!」


見事、と言うべきだろう。俺の挑発に乗ってくれた敵は、同じ部屋に居ますよ、と言わんばかりにそう叫んだ。ヒステリックな甲高い声。女のものだろう。


「あーもう、姉さん落ち着いて! はぁ……、おじさん何? 邪魔しないでよ」


横にズラリと並んだ本棚。10m程先のそこから姿を現したのは、二名の白衣を着た少年少女だった。


「あちゃ……。さっきので仕留め切れてなかったみたいだね。姉さん、どうする?」


「そんなの当たり前よッ! アタシと瑠緋ルビーの二人の大切な時間を邪魔するクズは始末しないと……!」


鳴麗メリー姉さんならそう言うと思ったよ……。あ、でも、殺っちゃう前に一つ聞いておかないと。姉さん、ちょっと待っててもらっていいかな?」


「わ、分かったわ。瑠緋がそう言うなら……」


さっきの、仕留め切れなかった、等と言っている所を見るに、こいつら二人が爆発を起こしたって事で間違いないだろう。そして二人共が白衣を着ていること、爆発を発生させられること、年齢の近い男女という三つから考えるに、こいつらが倉科の言っていた組織の頭脳、「大森姉弟」だと考察する事が出来た。


「あのー、おじさんと女の人? ここに“ミヅハノメ”についての資料とかってあったりするのかな?」


「ああ? なんでこんな所にんな兵器の情報なんかがあるってんだよ? 俺達はなんも知らねぇぞ!」


「そっか……。じゃ、おじさん達にもう用はないや。姉さん、始めよっか」


「ええ、瑠緋。早く終わらせて二人きりになりましょ?」


俺はあいつらが尋ねた事に疑問を持ったが、今は気にしてても仕方無い。姉弟あいつらは完全に俺達を殺す気だ。男の方は恐らくさっきの扉を壊した物であろう、太いバズーカ砲のようなものまで構えていやがる。


「準備出来てんな、色島? あいつらの無力化を優先させっぞ」


「勿論です! やってやりましょ!」


「アアァ、始まるのね! アタシと瑠緋の力、見せてあげるわァ!」


あいつらが二人いっぺんに身体を変化させ、辺りに緊張感が張り詰める。すると、何が起きているのか、弟の方が身体を姉に吸収され始め、直に一体の大きな破壊者カタストロフィへと変体した。


「ウッフフフフ! アアッ……! 瑠緋と瑠緋の作った兵器オモチャ達がアタシのナカにィィ…………ッ! 素晴らしい……、最高だわァ!!」


「な、何なのあれ……ッ? 合体しちゃった!?」


「どうやら、一筋縄では行かねぇみたいだな……。気合入れて行くぞ!」


俺と色島は武器をしっかり構え、訳の分からない目の前の合体生物の出方を窺う。


「お別れよ邪魔者共ォ! 瑠緋の兵器オモチャで消し飛びなさいッ!」


「まずい避けろぉっ!!」


「言われなくともそうしますからっ!」


バケモノの右腕に備え付けられた、如何にもぶっぱなしそうな見た目の筒の銃口が俺達に向けられた。俺達は慌てて回避行動を取り、放出される極太レーザーを避ける事が出来た。


「アアァッ! 最高よ瑠緋ッ! なんて威力なのォ……!」



「ゲホッ、ゴホッ、クッソ危ねぇもん携えてやがんな……!」


「先生、私がいいよって言うまで時間稼いでくれますか? 策があります!」


あんな高火力の馬鹿みたいな攻撃、命がいくらあっても足りない。色島の言う“策”とやらで手っ取り早く済んでくれると俺も御の字だが……。


「俺がくたばったらそん時は全部任せてやるからな! 死ぬまでに用意しやがれっ!」


「ありがとうございます、先生! 任せてくださいっ!」


俺には何も考えがない以上、色島のそれに賭けるしかない。そう思った俺は、決死の覚悟で時間を稼ぐ事にした。俺より先に立ち上がった色島は、立ち込める土埃の中へと駆けていった。期待してるぜ、その策とやらに。


「さてと…………。おぉい、メンヘラ女ぁ! どこ狙ってんだ? そんなんじゃ弟に嫌われちまうぞ!」


土埃がある程度地に落ち辺りが見渡しの効く状態になると、俺は覚悟を決めて立ち上がり、思う存分バケモノを煽り立てた。


「アンタに何が分かるってのよォォォッ! 世界でアタシを愛してくれているのは瑠緋と金口様だけッ! この二人だけはアタシを嫌って裏切ったりしないッ!」


どうやらかなり効いている様子。身体が赤錆びた色の鉄に浸食されているが、辛うじて人の部分を保った顔の表情からだけでも、激昂しているのが良く分かる。


「さっさと消えなさいよッ! 目障りなのよヤニカス男ッ!」


そんな怒りの込めた形相のまま、アイツは直進して俺との距離を一気に縮める。そして目の前まで来ると、レーザー砲とは反対の腕にある大きな鉤爪を俺の元へ走らせた。


「死ね死ね死ね死ね死ねシネェッ! アタシと瑠緋の時間を奪ったアンタらは絶対に殺すッ! 許さない許さないユルサナイッ!」


「組織の頭脳だか何だか知らねぇが、まるでそうとは思えねぇ女だなっ!」


素早い片腕での連撃に、俺は双剣で応戦する。赤銅色の鈍そうな乱撃と俺の二対の刃がぶち当たる度に、頭の奥まで届く鉄と鉄が擦れる気色の悪い音が鳴る。


「チィ……ッ! そっちが二本ならこっちだって! 行くわよ瑠緋! アタシ達の愛情を魅せてやりましょう!」


女は一瞬連撃の手を緩めると、右肩から新たな腕を生やし、再び行動を開始させる。弟のもんだと主張はしているが、完全に意識は姉部分だけだろうに。俺は攻撃を防御する中、僅かだが弟に同情した。


「ウフフフフフッ! これが愛の力よッ!」


「ッ!? あっぶねぇ…………!」


加速する連撃の最中に敵の一部に同情なんぞしていたからか、数あるうちの一撃が俺の咥えたタバコを掠め取ったのだ。俺は即座に身体をのけ反らせてその致命傷を避け切り、間一髪でそれを受けずに済んだ。

俺はその一撃に思わず最前線を離脱し、後へ飛ぶ。もう少し反応が遅ければ、俺の身体は原型を留めていなかっただろう。想像していまい、変な汗が額から落ちる。


「ハァ、ハァ、クソッ! 色島ぁ! まだ時間かかんのかっ!?」


左右に目をやり、色島を見付けてそう怒鳴り散らすも、あいつは自分の準備に夢中で返事すらしやがらねぇ。大きな溜息を漏らして視界を前に戻すと、敵は二撃目のレーザー砲を俺に構えていた。


「ウッフフフフ! よそ見してんのが悪いのよッ!」


「んなっ!? うおおおおっ!!」


俺は身体中の反射神経をこれでもかと働かせ、気合でその砲撃を何とか忌避した。身体は無傷で済んでくれたが、避ける際に白衣だけには当たっていたようで、直撃した部分がチリチリと焦げてしまっていた。


「ハァ、ハァ……。も、もう流石にしんどいぞ! さっさとしろ色島!」


単なる時間稼ぎなだけなのに、こんな様では命がいくらあっても足りない。俺はもう我慢ならんと色島をかなり急かす。


「これでよし、っと! ありがとうございます、先生! さぁて、選手交代っ!」


どうやらあいつの言う策とやらの準備が整った様だ。そう言った色島は、遠距離から一本だけ矢を射ち、矛先を自らに向けるよう仕向ける。そして思うがままの結果になり、バケモノは色島の方を睨み付け、そっちの方角へ飛んで行く。俺はそれを心配ながらも見守り、色島の考えを信じる。


「今だっ! はあぁっ!」


女が接近を始めた刹那、色島はなんと上を向いて弓矢を弦を引いた。すると見事な半円を描き、移動速度や力学を計算され放たれた矢はヤツの上空で分裂を始め、そのまま雨のように落下していく。


「色島琉弓術“射染雨イゾメノアメ”……なんてね!」


その容赦なく降り注ぐ矢の雨を浴びた女は、次第に色島との距離を縮める速度を遅め、色島の前で前かがみに倒れていった。


「私の武器の力は、矢の命中場所を“円で描く”能力! 時間はかかっちゃったけど、まさか本当に私が地面に描いた円の場所まで来るとはね」


「アガッ……、瑠緋、金口様、ごめん…………ね」


女はさっきまでの威勢を失い、他の破壊者カタストロフィ同様、徐々に原型が無くなっていくと、その場所には鉄粉の山と、ヤツが取り込んでいたレーザーガン、色島の放った無数の矢が遺された。そしてよく目を凝らしてみると、その周りは薄らとした大きな丸で囲われていた。


「ったく、おっせぇんだよ色島! ……まあ、何はともあれ倒せたから良しとしてやるか……。」


俺は目の前から脅威が消え去った事を確認すると、タバコを取り出し、火を付けて口に咥える。そして色島の元へ歩いていき、「良くやったな」と労いの言葉を掛けてやった。すると途端にヘタリ込み、


「はぁ、上手くいって良かったぁ……。ほんと死ぬかと思ったぁ……!」


と弱気になり始めた。まあ無理もないだろう。俺はそっとしておくことにした。


「臭い気になるだろうし、この部屋物色がてらお前から離れて吸う事にするぜ。色島はここでゆっくりしとけ」


「ありがと、先生。じゃお言葉に甘えてゆっくりしまーす!」


色島はその場に寝転び、伸びを始めた。全く、せっかく着替えたってのに、汚れるのは気にならないんだろうか。多少気にはなるが、俺はそんな事より気になる事、ヤツらの言っていた兵器の資料だ。俺は本当にあるかも知れないと思い、この部屋の捜索を始める事にした。




続く

感想等、いつでもお待ちしております。気が向いたら書いて頂けるととても嬉しいです。

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