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ツクモツクモノ ー 付喪憑者ー  作者: jenova
裏組織 神の選抜
20/25

20話 “イタダキマス”は血と死の香り

最近、色々な本を読んで、文章、語彙力向上を試みております。

俺達は一目散に扉へと駆け寄り、全員が扉に体重を掛けると素早く開き、国会議事堂の時と同様の、蠢く壁が視界に現れた。


「うわ気持ちわり! 何なんだよこれ!?」


「これが組織の頭脳、“大森兄弟”の技術さ。詳しくは知らないが、そうだとヤツらに聞いているよ」


どうやら連中は姿だけでなく、頭脳も化け物じみている様だ。さっきまでの華美で荘厳な屋敷の面影を全く残さずにダンジョンへと変貌させるなんて事をするのだから。もし世界が違えば不思議のダンジョンだなこれは。


「とにかく急ぎましょう! 金口も来てるかもしれない!」


多川さんは辺りの変化を諸共せず、すぐに標的を探すことを提案した。狼狽える俺達はその言葉で我に帰り、気合を入れ直す。


「僕は屋敷の様子を確認したい。メイド達が心配だ」


「んじゃ僕はこいつと行きます! 裏切らない様に見張ってやるからなっ!」


倉科は多川さんの執拗な疑いに苦笑いで返す。そしてその後一番に走りだした倉科を追う形で多川さんが出発して行った。


「ったく……。おい、歌川。ジュリエッタは任せた。色島、行くぞ」


それに続き、先生が俺に指示を出した後駆けて前進した。いきなり同行にたじろぐ色島さんは、


「ええっ!? ちょっ、先生、待って下さい! もぉ……!」


先生を目で追いながら呼び止めるも聞き入れてもらえず、溜息を漏らした。そして俺達の方を向いて親指をグッと立て、元気いっぱいに「また後でね!」と言い残し、先生の跡を追っていった。


「レンティーヌよ! 使命を果たせし時、また逢おうではないかッ!」


ジュリエッタはそんな彼女をそう見送り、色島さんの姿が見えなくなると、


「行くぞッ、我が守護兵ナイトよ! 今こそ吾輩たちが奴等に審判ジャッジメントを下す時! 化け物どもを駆逐し尽くしてやろうではないかッ!」


このようにやる気の表れを見せ、走りだした。それに応えるべく、「一緒に頑張ろう!」と返し、俺もその後に続く。そして追い付くと彼女の前に出て、護るという意思表示を見せた。遂に戦場へ向かうという事で俺は大きな不安を抱く。しかし、それと同じ程の胸の高鳴りを感じ気合が更に増す。


「アアアア! イタダキマァスッ!」


やる気を漲らせ、刀を持つ手に力が入る。そんな俺の気分のいい疾走を遮るかのように右前方の開かれた扉からおかしな声が聞こえ、通り際にその入口から飛散してきた液体が俺の頬へ付着し、急いで扉の前で足を止めた。すると、俺の鼻が血と油の入り混じったなんとも形容し難いおぞましい香りをキャッチし、脳に拒否信号を送る。


「どうしたのだ、トーマス? ……ッ! 何だこの地獄の様な瘴気は!? 臭う、臭うぞ!!」


俺の急ストップを疑問に思い、連られて止まったジュリエッタだが、俺が止まった意味を直ぐに彼女は理解した。そして俺は、渋々右頬に付いた液体を親指の腹でなぞり、目の前に持って来て確認する。正直予想はついていたが、案の定血液だった。


「どうする、陶馬。中を確認するか?」


「当たり前だろ……。急いでるにしろ、放ってはおけない」


俺の正義感が働き見過ごす事は出来なかったので、俺は恐る恐るその内部へと足を踏み入れた。


(吐きそうな臭いだ……。んなっ!? 何だよこれ!?)


中は暗く、完全に見える訳では無いが、包丁やコンロ、鍋等の調理器具が目に止まった事から、調理室だと辛うじて認識する事が出来る。が、それ以外にあったのはそのイメージとは真逆の物だった。


(信じたくなかったけど、そういう事何だよな……)


暗がりでも分かる程、ただでさえ不気味な壁一面を、それに拍車をかけるが如く染め上げる鮮血、ものの数分前まで生きていたであろう、地べたに無残に放置された無数の手、足、胴体、そして雁首。中にはもはや人なのか何なのかすら判別不能な肉塊までもがそこら中に転がっている。俺はその惨状を目の当たりにし、思わずその場で嘔吐してしまった。


「トーマスッ! 大丈夫…………か?」


目の前の地獄に頭が追いつかず、混乱していると、後ろから彼女の声が聴こえ、はっと後ろを振り向いた。するとジュリエッタもこの光景を視界に入れてしまい、あまりの惨たらしさにか、気絶してしまった。俺は急いで彼女に駆け寄り、転倒を防ぐ。


「クソッ!! ごめん、ジュリエッタ。外で待ってて」


俺はこの子にあの惨状を見せてしまった自分と、あの場所を作りあげた犯人へ怒りを覚え、気を失った彼女を外まで運ぶと、多少躊躇ったが、この不気味な壁へもたれかけさせるように座らせた。そしてそれを終えると直ぐに中へ戻り、なるべく死体達に目をやらないようにして捜索を続ける事にした。


「……なんと惨たらしい。陶馬、何としても原因を絶つぞ」


「ああ、分かってる」


付喪霊であるエリフも、この現状に怒りを見せる。まともな考えなら、立ち向かう事はまだしも、犯人に対し怒りの感情等は必ず持つに決まっているはずだ。俺は憤怒と恐怖で震える足をゆっくりと、確実に進ませ、奥へと進む。すると再び開かれた扉を見つけ、そこへ様子を観つつ近づいていった。すると近づくにつれて、その調理場の隣の食物倉庫らしき部屋から、怯えきった女性の声と、頭の悪そうな男の声が聴こえてきた。


「だれか…………助けて……」


「ンアァ? 誰に言ってるんダァ? 俺かァ? オマエの友達かァ? 友達だったとしたらオマエ、もう居ねェじゃんかよ、ハハハハハハ! あ、もしかしてジョークかァ? おもしれェナァ、オマエ」


まだ生存者がいる。この中に生きている人が居る。俺は聴こえた声でそう思った瞬間走り出し、その場所へ突入した。


「その人は殺させないッ! 俺が相手をしてやる!」


「ハアァ? 人間タベモノの声? おかしいなァ?」


倉庫に入ると、目の前では、俺がもう一足遅ければ命は無かったであろうメイドさんが壁際まで追い詰められていて、その彼女のすぐ先まで迫っていた高身長のヒョロヒョロなもやし体型の男が、俺の声を聴くと、頭をポリポリと掻いた後、首だけを180度後ろへ回転させ、俺の方を向いた。


「誰だァ? メガネにカタナァ? アアア! オマエ、うたがわとうま、だなァッ!?」


そこからだけではないが、首の周り具合で速攻ただの人間でない事が分かるこの不気味な男は、俺に指を指しそう言った後に、ノーモーションでこちらへと突っ込んで来た。


「うわっ!? っぶねぇ……!」


間一髪俺はヤツの攻撃を避ける。すると勢い余った男は、止まれずにそのまま調理場の方へ行ってしまい、ガシャン、と何かが物にぶち当たった様な音が隣から聞こえてきた。


「あ、あ、あのぉ…………!」


そんな形で一時的にヤツがその場から去ると、襲われかけていた女性が、力を振り絞って俺に声を掛ける。


「ありがとうございますぅ! も、もう駄目だと思いました……」


「早くここから出て下さい! えっと、出たら女の子が居るので、その辺で待っててくれますか? 化け物は俺に任せてください」


「わ、分かりました! くれぐれもお気を付けてっ!」


辺りを見渡しながら女性の声を聴いていると、俺が入ってきた扉とは別の扉を倉庫の中に見つけ、今がチャンスだ、と思った俺は、彼女に指示を出し、逃がすと同時にジュリエッタを任せる事にした。それに同意した彼女は、若干の安堵を表情に出しながら扉へと真っ直ぐ向かい、外に出る事を成功させた。


(よし、これで一先ずは安心だな……。にしてもーー)


普通なら、攻撃を避けられたなら、直ぐに追撃を仕掛けてくる筈。だがしかし、ヤツは一向に戻ってすら来ない。女性を逃がすタイミングになった事は良かったが、中々次手を繰り出さない男に疑問を持った俺は刀を構えつつ、警戒しつつも踵を返す。


「ンオオ!? こっちもこっちもこっちもオォ!! こんなに喰い残してたのかオレェ!? 勿体無いぜエェッ! サイッコオオオウ! Yeeeeeeeah!!」


(え……? 何、してんだ? あいつは何なんだ!?)


理解が追い付かない。目の前の狂った光景と、その中をあたかも日常の一部かの如く平然と存在し、それが寧ろ当たり前だと思うくらい平然と散らばった肉片肉塊を貪り食う男。ヤツは次々周りの死体に目移りさせているのか、食べ放題感覚でその行為を行っている。


「なんなんだよこれェェェッ!」


俺の頭の中は真っ白になっていた。そして気が付くと叫んでいた。少し前から非日常に足を踏み入れている自覚は勿論あった。だが、この狂ってクルってくるいきった、余りにも現実離れし過ぎた“それ”を、直ぐに受け入れる事は出来なかった。


「うるせェんだようたがわとうまァ! 食事中は静かにしろってがっこの先生に教わらなかったのかよォ!?」


何が“食事中”だ。全く意味が分からない。国会議事堂戦の時は、扉があってもその中に入る事は無かった。しかし今なら分かる。あそこでもこんな事がいとも容易く起きていたんだろう。議事堂で戦った悪魔も充分におかしなヤツだったが、こいつは頭のネジが数本程度じゃ済まない位おかしい。


「黙れよサイコ野郎が! 意味わかんねぇんだよッ!」


「陶馬、落ち着け! 冷静さを欠いては駄目だ。確実に奴を仕留めればこの行為は止められる。せめてこれ以上悪化する前に終わらせよう」


思わず無心で攻撃をし始めようとしたのを察してなのか、エリフが俺を宥めてくれた。俺は首を小さく縦に振り、深呼吸をする。恐ろしい事に、もう血腥い異臭は気にならなくなっていた。


「アアァ、満足ゥゥ。さてさて……。でざーと、食べるかなァ」


男はいきなり手を止め、またもやグルグル首を回転させ、俺の方を見る。そしてただでさえ気持ち悪い外見に化け物要素を自らプラスさせ、破壊者カタストロフィと化す。


脳味噌プリンは踊り食いに限るからなァ」


歯や爪が肥大化し、骨に似た白い物体が身体の至る所からトゲトゲと連なっているその容姿は、まるでゾンビゲームの異形生物クリーチャー。しかし、正直下手に人の姿を保たれるよりよっぽどそっちの方が受け入れられる。


「なァ、うたがわとうま。うたがわとうま味って美味いのかァ? イヤァやっぱり答えなくていい! わくわくが薄れるからなァ!」


異形生物クリーチャー駆逐なんて、パニック映画まんまだな……。まあ、レーザーでサイコロカットよりましか……」


某映画の様な事になるのも嫌だが、あんなやつに喰われるのも勿論嫌だ。俺は絶対に生き延びてやる、と強く想いながら、臨戦態勢を整える。


「行こう、エリフ。絶対に勝つ!」


「勿論だ主よ。全身全霊で補助させてもらう」


俺と化け物。両者が睨み合い、屍が四方八方に転がる狂気の調理場にて、死体の仲間になるのは、俺か、化け物か。





続く

この調子でペースアップ頑張ります。


良ければ応援してください。

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