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ツクモツクモノ ー 付喪憑者ー  作者: jenova
崩壊してゆく日常
2/25

2話 始まる非日常

戦闘やらファンタジー要素が入ってきます。


「……!? どうして生きてるんだ……?」


俺は死んだはずだった。

目の前が真っ白になって、最後に見たのは光る鉛筆。あれに何かあるかもしれない、と思い、鉛筆を探そうと目を下にやると、俺の手には黒い刀身に深緑の持ち手と鐔の付いた刀が握り締められていた。


「な、なんだよこれっ!?」


生きていることよりもまず、こんな物騒な物を持っているという事に驚いた。一体何が起こったんだろうか。鉛筆は辺りに無く、倒れているのは俺じゃなくてヤツの方だった。そして俺の手には刀。何がなんだかさっぱりだ。

だが一つだけ解る。逃げるなら今だ。と思った瞬間、目の前のヤツが動き始めた

「うぐっ、グっ、なニヲっ……ジダっ! オまエ、ゴロずッ!」

立ち上がったと思うとこうして支離滅裂な言葉を発し、頭を抱え始めた。


(っ……!?様子がおかしい!)


《グオオオオオオオオオオ!!!! ごロス……じャマだ……オマえ……ギエろ…………!》


ヤツの胸部付近が緑に光り始め、体が次々と樹木の様な物質に覆われていく。


《グオオアオオオ!!!! ギゲ……ゴオオオオ!!!》


「……っなんだよこれっ!?」


体を完全に包み込んだと思うと、それを核に次々と根の様な触手を絡み合わせ、次第に二、三倍の大きさになった。


「マジっかよ……」


これは俺がネトゲの世界で嫌と言うほど見てきた物だろう。いや、それ以外になんと表現すべきだろうか。間違いない。こいつは


「怪物……!?」


俺が目の前の光景に圧倒されていると、怪物は巨大なムチの様に左腕をしならせ振り下ろした。攻撃を仕掛けてきたのだ。


《ヴゴオオオオオ!!!》


「何をもたついている! 避けろ!」


俺が攻撃を目前に硬直していると、どこからか男の声が聞こえた。だがその声は一足遅く、俺は怪物の攻撃に直撃した。


「ぐあぁっ!!」


真っ直ぐ後ろに吹き飛ばされ、ビル壁のコンクリと俺の体がぶつかり重い音を鳴らす。だが不思議と痛みは少ない。何故か軽傷で済んだようだ。


「私が居なければ君は即死だったぞ。感謝したまえよ」


まただ。何かが聞こえる。


「はぁっ……。誰だよ……お前……っ!?」


「説明している暇などない。今君は私の指示に従い彼奴を倒すことだけを考えておけ、良いな?」


「っち……仕方ねぇ……。解った。か、勝てるんだろうな!?」


絶体絶命の今、この何か解らない声を頼りにするしか無い。


「任せておけ 私と君で、必ず勝つ!」


不思議な声を信じ、俺は覚悟を決めて刀を構えた。すると怪物がまた腕を振り上げた。


《グガァァァアア!!》


「来るぞっ! 初撃と同じ攻撃だ! 右に避けろ!」


「了解!」


俺が右に避けるとすぐに地響きがした。ヤツの左腕が地面にぶち当たった音だった。


「良し、隙が出来たぞ! 飛べ!」


「はぁ!? 飛ぶつっても限度が……」


「いいから飛ぶんだ!早く!」


俺は声に急かされ、言われるがままにジャンプした。するとどういうことだ。地上がみるみる遠くなり怪物の頭の上空辺りの四、五メートル付近まで飛べているではないか。


「うおおっ!? すげぇ!」


「今だ! 攻撃! 行けぇ!」


「お、おう!うおおおおお!!」


怪物の上空より繰り出された俺の攻撃は、ヤツの体を見事に真っ二つにした。


《グルオオアオオオオ!!!」


怪物は悶え苦しみ、二つに裂けた体をツタのように絡め、縫合をし始めた。しかしその前に体が段々と枯れてゆき、回復は失敗に終わった。


「ううっ……がっ……!」


怪物の体だった植物の様なものはさらさらと砂のようになり、その消えた体の中から犯人の男が姿を見せた。確かに切り裂いたはずなのに、体が覆われていた為か、出血はしていない様だ。


「やった……んだよな……はぁっ……」


「あぁ 良くやった 我々の勝利だ」


「ふぅ、やったぜ……」


なんとか終わったんだ。そう思うと急に恐怖や緊張が解れ、突如目の前が眩み、その場に倒れた――――――









――――――目を開けると俺の横には見覚えのある男が2名椅子に座っていた。

「うぅっ…………。 ん? 漆……平か……?」


「おおっ!目ェ覚ましたか!ったく心配させやがって!」


病院、なのだろうか。俺は手当をされ寝かされている様だ。


「まったく……なぁにしやがったぁ? お前はよぉ……」


もう1人の男の声が聞こえた。タバコの臭いがきついのですぐに解った。クラスの担任の白金先生だった。


「先生……!? なんでここに……?」


「なんでって……。俺が俺の家に居ちゃ悪いか?」


なんとここは先生の家だったらしい。どうりてタバコ臭い訳だ。それに俺の寝ているベッド、ほのかにおっさんの香りがする

「そこにてめぇが寝てっから俺が寝れねぇんだよ。っち……もう十時じゃねぇか。葛飾ァ! お前はさっさと気ィつけて帰りやがれ!」


「ヤベっ怒られる……! すません、へへ、先生、世話んなりました! んじゃな陶馬! 早く良くなるといいな!」


漆平はそう言い残すと、駆け足で部屋を出ていった。


「余程お前の事心配だったんだろうな、葛飾のやつ。こんな時間まで」


どうやら漆平は、門限も無視して居てくれたらしい。後で謝っておかねば。


目を覚まし五分程すると、意識が徐々にハッキリしてきた。それと同時に俺はあの時起きたことを思い出した。


「えっと…………、あの、先生、どうして俺の場所わかったんですか?」


俺が質問すると、

「俺が買い物帰り、お前らのいたファミレスの前を丁度通ってな。したら葛飾にお前が居なくなったから探してくれって頼まれて、俺が連れて帰って来たって訳だ」

と答えた。

そして、それに続けるようにこうも言った。


「んじゃ、次は俺からだ。お前、何処でこの鉛筆手に入れた?」


予想外の質問だった。そして先生が持っていたのは紛れもなく

俺の拾った鉛筆だった。


「何処にあったんですか?」


「歌川、質問を質問で返すな。答えろ、何処で手に入れた?」


先生の表情はとても真面目だった。何か知っているのかも、と思い素直に答えた。


「家の前です……。そのまま置いとくのもなんだし、とりあえず、と……」


「家の扉の前、か。また変なとこに落ちてたもんだなぁ……。ま、可能性はアリだな……」


「先生、何か知ってるんですか?」

と聞くと、

「さぁな。ちょっと待ってろ」

そう言って立ち上がり、部屋の机の上にあった短めの定規を持ってきた。


「おら、出てきやがれ、メア」


先生は再び座り、物に向かってそう言うと、先生の定規は姿を変え、黒髪でメガネをかけ、くの一の様な格好をしたとても美しい女性が姿を表した。


「……何? 急に呼び出して」


「わりぃわりぃ。おい歌川、こいつ見えるか?」


「え、ちょ、は、はい、はっきりと」


メア、と呼ばれた女性は先生の後ろに立ち、吃驚する俺の方を見て、

「刃也、この人誰?」

と言った。すると先生は俺に鉛筆を返し、

「今から教えてやる。 歌川、その鉛筆にどんな感じでもいいから俺がやった様に呼びかけてみろ」

先生が意味不明な事を指示した。


一瞬訳が解らなかったが、とりあえず言われた通りにしてみた。


「お、おーい。おわっ!?」


すると、先生の定規がそうなった様に、俺の鉛筆も姿を変え、白髪長髪に和服、整った顔立ちの男が登場した。驚くしかなかった。


「――――先ほどの君の戦い、見事であった。感謝しよう」


「は、はぁ……。ども……」


何処か神々しい雰囲気を持つこの男は、漆平の座っていた椅子に座り、何故か俺に感謝をする。聞いたことのある声に話し方、ここから察するにどうやら戦闘中の謎の声の正体はこの鉛筆男だったようだ。


「自己紹介がまだだったな。私の名はエリフ。付喪霊だ」


当然の用に“ツクモレイ”などと自己紹介したが、俺には何のことだかさっぱりだ。すると、困った俺の様子を見兼ねたのか先生が助け舟を出した。


「お、おい、まずは付喪霊やら何やらをこいつに説明してやってくんないか?」


「おっと、すまない。付喪霊とは、古来より物に宿り幸福を与える、付喪神のその後の姿」


エリフと名乗ったこいつは、こう話し始めた。


「その後……?」


「あぁ、何百年単位で使用されてきた物が役目を果たした時や、鉛筆の様な消耗品が最後まで使い尽くされた時、それに宿っていた付喪神は我々付喪霊へと姿を変える」


「は、はぁ……なるほど……。で、でも何でわざわざ俺の所に?」


「それは私の持ち主であった者が君の先祖にあたるからだ。我々は君達、祖先を守る為この世に降りた。大事に使ってくれた人へのせめてもの恩返し、という事だ」


まるで何処かの物語の様な話。だが、怪物に襲われたり、それと戦ったり、おかしな事が次々と目の前で起こっている今、俺はこの話を信じる事にした。と言うよりは信じなければ自分の中で整理が付かなかった。


「ってことはあん時の刀って……?」


「ああ、私だよ。私の君を守りたいという意志が形になったものがあれだ。君が攻撃に対し軽傷で済んだことについては、私が君に憑依し力を与えたから、という事だ」


「へ、へぇ…………。ぐぅあっ!?」


奇想天外な話をここまで聞いた所で俺の体全身を激痛が襲った。


「おい大丈夫か? 無茶しやがって……」


「軽傷で済んだんじゃ、無かったのかよ……。くっ……!」


「あくまで私は力を貸しただけに過ぎない。飛躍力、守備力、攻撃力などの補助や、衝撃等は緩和したりは出来るが、君の体なことに変わりはない。つまり強化して尚耐え切れない君の身体が悪い、違うか?」


「アッ、ハイソッスネ……」


ぐうの音も出ない正論だった。確かに考えてみれば俺の体は休日のネトゲ三昧で培った貧弱モヤシボディ。運動も苦手でろくにしたこともない。どう考えても耐えれるはずが無い。


「仕方ねぇ、今日は俺ぁソファで寝る。てめぇは俺のベッドでありがたーく寝やがれ!」


先生は、俺の体調を気遣ってなのか、ため息混じりではあるがこう言った。思ってたより優しい先生じゃないか。

その後俺はよっぽど疲れていたのか、目を閉じると数秒で眠りについた――――――







「…………です。数谷容疑者は意識が戻っておらず、警察は回復を待って一連の通り魔事件について取り調べを行う予定です。それでは次の…………」


俺は次の日、ニュース番組の声で目を覚ました。


「ふぁぁ……。ん?」


朝一に俺の嗅覚はタバコの嫌な臭いと卵の焼ける匂いを同時にキャッチした。


「お、起きたか歌川。メシ用意してやるから待ってろ」


「あ、ありがとう……ございます……」


先生はこちらにタバコを咥えながらそう言い、手馴れた手つきで朝飯を用意している。嗚呼、これがヤニ臭いおっさんではなく、甘い香りのする美少女ならどれだけ心が踊ったのだろうか。これではまるで、BLゲームの一節ではないか。根暗眼鏡と無愛想喫煙家。誰得だよ。

俺がしなくても良いような妄想をしていると、白い皿にふわふわ黄金に輝く物体が置かれるのが見えた。


「おら、出来たぞ。立てるか?歌川」


「っと……。あっ、はい。なんとか」


そう小さく答えると、俺はまだ少し重たく痛い身体を起こし、料理の並ぶ机へ向かった。

茶碗の中には真っ白な米。そして隣の皿にはふわふわのオムレツ。

文句の付けようが無い完璧な朝食だった。普段は面倒くさがりのこの教師がとてつもなく家庭的だと知り、俺に衝撃が走った。


「いただきます、っと。 ん、どうした? 食べないのか?」


驚きを隠せぬまま突っ立っていると、食べ始めた先生が不思議そうに尋ねた。


「い、いえ、いただきます」


椅子に座り、オムレツを口に運ぶととても美味しい。ここで俺は昨日から何も食べていないという事に初めて気がついた。白く艶やかなお米と、黄金のオムレツの絶妙なコンボが、お腹を空かせた俺の全身に染み渡る。


黙々と朝ごはんを食べ続けて数分。俺は周りがふと気になり、食べる手を止め部屋を見渡した。他の部屋は見当たらず、窓からはビルや、住宅の頭が見える。どうやら二、三階層以上のマンションらしい。

俺は部屋を観察し終えると再び食べ始め、テレビに視線をやった。するとテレビの横の小物入れの上に、恐らく家族写真であろう、白金先生とその右には女性、そしてその間には小さな女の子がー人、皆笑顔で写っている写真が目に入った。それを見ていると先生がこちらに気付き、

「おい、勝手にジロジロ見るな! プライバシーの侵害だろうが、まったく……」

とこちらを睨んできた。俺は慌てて謝り、すぐに視線をテレビ画面に戻した。すると起きた時に聞こえていたニュース番組がまだ続いていた。


「……という事です。次のニュースです。現在、食品偽装の疑いを噂されている大手企業リアリー食品ですが、今朝、その本社の一部分が爆破し、ビルが倒壊しました。警察は事件性が極めて高い為、何者かの犯行と見て捜査を進めています。また、近隣住民に……」


この報道を見て白金先生は、

「まずいかもな……」

と呟いた。一体何がだろうと思い、俺はすぐに質問した。

「な、何がっすか?」


「ん? あぁ。そういやお前、昨日の説明まだ途中だったんだな。飯食い終わったら俺が続き話してやるよ」


どうやら先生はこの不思議な出来事について知っているようだ。先生も説明を受けたのだろう。そうでなければ一体何者なんだこの担任教師は。

そういえばエリフやメアが居ない。俺が寝た後一体どうなったのだろうか。


「あの、エリフ達って?」


また先生に質問すると、次は無言でベッドの横にあるミニテーブルを指さした。指した先を見ると、テーブルの上には鉛筆と定規が置かれていた。元の姿に戻ることも可能らしい。全くもって不思議な文房具達だ。



少しすると、先生はご飯を食べ終え、その数十秒後に俺も食べ終わった。俺が完食したのを見て、先生は自分と俺の食器をご飯を食べていたテーブルの奥にある台所へ運び、片付けを始める。


片付けが終わるとテレビを消し、一度溜め息を付いてから話をし始めた。


「昨日お前の鉛筆から聞いたが、怪物に襲われたんだってな。あいつらが言うには、あの怪物の名称は破壊者カタストロフィ。人の強い憎しみや苦しみ、強い欲望や絶望等に反応し、その人の感情に反応して取り憑き、それを糧にし姿を変える悪魔みたいなもん、らしい。話を聞いた限り、お前が戦った奴は恐らく取り憑かれて間も無いやつだったんだろう。本来、破壊者あいつらは力を次第に制御できるようになり、己の目的のままに動き始める。俺もこの説明メアから聞いてから数回戦わされたが、強ぇやつから弱ぇやつ、鉄のやつやら骨のやつまで多種多様に居やがったぜ」


「は、はぁ……。そうなんですか」


先生の話を聞き俺の中では、嘘の様な出来事の真実がより展開されていく。だが誰よりも自分自身が体験した事である以上、先生や付喪霊達の話を全て鵜呑みにする事しか出来なかった。


この後しばらく無言が続き、俺の「面識の少ない人と接するゲージ」が我慢の限界を超え、変な汗がたらたらと額から湧き出した。ここまでの長い間よく頑張ったぞ俺、と心の中で褒めてやる。


「あ、そそ、そろそろ失礼しますね……。長居しても迷惑でしょうし。ああ、あえと、ご飯とか、看病とか、色々して貰ってありがとうございました……」


そして最後の力を振り絞って俺はもごもごと声を発した。


「ん……?あぁ、気にすんな。んじゃ、気ぃ付けてな。玄関あっちだかんな」


先生はタバコをポケットから取り出し火を付け、玄関の方を指差しそう言った。

俺が自分の鞄を取りに行き玄関から出ようとすると、先生が俺の事を呼び止めた。


「おい、休校中お前暇か?何時でもいい、話がある。する事無い時にでもまた家来てくれ。せせらぎマンション、二階の203号室だからな。頼んだぞ」


「あ、はい。分かりました」


くそう、休校中はオンゲ三昧しようとしていたのに。しかし、色々世話になった身だ。断る事は俺の良心が許さなかった。

渋々約束をし、俺は先生の部屋を出てマンションを後にした。





続く


更新はなるべく早めに出来たらしていきたいと思います。

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