19話 実力発揮
戦闘の幕開けです。
「真島君か……! なぜわざわざ僕の屋敷へ? 裏切りへの報復かい?」
突然の事態に俺達は一斉に立ち上がり、倉科はキッとした目付きで男を睨み付け、馬鹿にした様な声色でそう言った。すると倉科に「真島」と呼ばれたガタイのいい男は大きく笑い、
「そんなねちっこい事やるわけねぇだろ! 俺達は信念を持って戦ってんだからなぁ! ガハハハハ!」
堂々と前で腕を組みそう言った。
「何が信念だぁ? 寝言は寝て言え脳筋野郎!」
先生は真島を挑発する様にそう言うと定規を取り出し双剣を構えた。それに続いて俺と色島さんも各々の装備を手に持つ。
「おうっと、気が早ェこった。 もうお前達は俺の“闘技場”内なんだぜ? ゆっくり楽しもうや!」
挑発に乗ったと言わんがばかりに真島は形態を破壊者へと変え、勢いよく地面を蹴り俺達との距離を詰める。その動きに咄嗟の反応を見せ、俺達の最前列へと出た倉科が同じく形態を変えてそれへ対応する。
「真島君、この事態を我が家の召使達が許すとお思いかい? 戦力はこの場の者達だけでは無いのだよ?」
倉科は真島の繰り出す見るからに重そうなパンチを自らの右腕を大盾の様に変化させ防ぐ。両者の樹の様な腕がぶつかり合うとミシミシと音がなり、その後直ぐに倉科が弾き返すと真島は少し体勢を崩し後方に下がる。
「ガハハ! んな事ァ百も承知だぜ! その為の俺なんだからなぁ!」
真島はギザギザとした歯を見せながら悪どい笑みを浮かべる。遠目で見ていた時は気付かなかったがその見るからに危険な歯と、耳と鼻の横に着けられた悪趣味な銀のピアス。俺の中の「生活の中で関わってはならない人ピラミッド」の上層部にランクインしている風貌だ。
「俺の能力“俺空間”はその場に対象者と俺のみ存在する空間を作り上げる! つまりお前らは俺を倒さねェ限り外には出れねぇのさ! ガッハハハハ!」
見るからにDQN風の彼は倉科の質問に答える。さすが脳筋、ご丁寧に自分から能力をバラしていく。
「……ほう? それなら話が早い。君達は下がっていたまえ! 僕の力を見せる最高の好機だ……!」
いつもの様にキザに笑いながらそう言うと、倉科は俺達に背中を向けたまま片手で「下がっていろ」ととれるジェスチャーをした。
「おい、倉科! 負けたら僕が許さないからな! 戦力になるってとこちゃんと見せてみろ!」
「フフッ、多川君のご期待に添えるように頑張らせてもらうよ」
俺達は倉科の指示に従い、前を向いたまま10歩程後ろへ下がる。あのキザ男に見せ場を作らせるのは少々癪だがその反面、どういう戦闘をするのか少し楽しみでもある。
「……一戦目はテメェか倉科ァ。ちょっと前まで仲間だった誼だ、楽に逝かせてやるぜ? ガハハハ!」
「仲間? 皆して警戒していた癖によく言うよ、全く……。まあいいさ。真島君? 君は二回戦を楽しみにしているようだが……。無い試合を望むなんて、余程戦うのが大好きなんだねぇ」
その距離約2m。倉科の煽りがゴングとなり、真島との戦いが開始された。先に手を出したのは真島。余裕が無くなったのか、怒りの表情を露わにしながら倉科目掛けて地を蹴る。しかし先程と同じくガードされ、真島は即座にもう片方の腕で二撃目のパンチを打つ。これは盾部分を避け、倉科の腹部へと命中してしまった。
「ガハハハハハ! どうだ俺のパンチはよォ!」
「クッ……! 中々効くね……ッ! でもーー」
モロに重撃を喰らってしまった倉科は少しよろけつつも後方へ飛び
軽く距離を取る。すると真島の背後に直径20cmはあるだろう、太い樹の根の様な先端の尖った触手が現れ、ヤツの腹部を刺し穿つ。
「グッハ……ッ! クソがァ……!」
「ーー君は目の前の獲物に集中しすぎだ。ちよっとした設置罠にも気が付かないなんて、能力を過信して周りへ気を配るのを疎かにしていないかい?」
その一撃が合図になったかの如く、次は真島の前方から十数本の細い根が地面から次々と顔を出す。その触手は素早く真島へと向かい、身体を滅多刺しにする。後方からの大きな一撃に加え、前方全てから放たれた連続攻撃はヤツの身体を蜂の巣にし、その凶器達は直ぐに地へと潜っていった。
「わ…………な……なん……で?」
「戦う際は広い視野を持たないと必ず身を滅ぼす結果になるよ? もし聞こえているのなら、この助言を来世で役立ててくれたまえよ、真島君」
倉科は穴だらけになった真島にそう言い放つと、怪物から人間へと姿を戻す。その直後に真島は倒れ、それと同時に灰と化し消え去った。戦闘が終わった事を確認すると、倉科は衣服に付いた汚れをサッと払った。そして振り向いてこちらにウインクをする。どこまでもキザな奴だなこいつは。
「さて、倒せたみたいだね。どうだい? これで少しは認めてもらえるかな?」
「お、おう……。流石に認めざるを得ないっつーか、とんでもねぇのを仲間にしちまってたみたいだな」
「そ、その強さは認めてやる! 戦力として!」
先生と多川さんの言う通りだ。敵勢力の幹部の男をいとも簡単に殲滅してみせたのだ。この戦力はかなり心強い。
「問おう、自己愛者よ。あの“木霊槍”が貴様の能力なのか?」
ジュリエッタは腰に手を当て、キラキラと目を輝かせ倉科に指を指し、厨二病特有の独特な言い回しで彼に質問を投げ掛ける。俺以外の人達は何を問いているのかが分からず困惑気味。分かってしまう自分が嫌だが、俺はすぐさま翻訳を入れた。
「……えっと、さっきした槍みたいな攻撃が倉科の破壊者としての能力なのか聞いてるみたい」
「ああ、なるほど。あれは単なる応用技だよ。ほら、馬鹿と鋏は使いよう、と言うだろう? 破壊者の姿は色々あるみたいだけど、僕の形態は植物に似たタイプみたいだから、それを活かすために試行錯誤した結果って所だね」
相変わらずこいつらの構造やら能力やらは理解できそうもないが、だからこそそういう事が可能なのだろう。俺はそう思っておく事にした。
「さっきのは殴られて距離を取った時に足裏から根を張ったんだよ。それを背後まで伸ばしたのさ。二回目も同じ要領で一回目で動きが落ちている間に用意しただけだよ」
「じゃあトラップ云々言ってたのって嘘だったの!? 敵にそんな嘘ついても意味無いでしょ?」
「フッ、僕はただ“完璧”に勝ちたかっただけさ。彼は自分の能力で設置物の無い空間が出来た、と思っていた。そこの意表を突けば精神的なダメージにもなるかな、と考えてみてね」
色島さんは、聞いた私が馬鹿だったと言わんがばかりの大きな溜息を漏らした。恐らく倉科の言う“完璧な勝利”というのは、精神的にも物理的にもダメージを与えた上での勝利、と言う事なのだろう。性格の悪いやつだと思うと同時に、味方になっていて本当に良かったと思った。こんな奴と戦うなんて考えたくも無い。
「ま、戦い方には口出ししねぇでやろうぜ。……ところでよ、アイツが言ってたその空間てのは解除されてんのか?」
先生がそう言った瞬間、目の前がぐにゃぐにゃとした感覚に陥り、すぐさま元に戻った。これはここに居る皆が体験したようで、
「うわっ! なんだぁっ!?」
「な、何今の!? ってあれ? 扉が直ってる……?」
と全員が謎の現象に戸惑いを隠せないままでいた。
「恐らく今ので出られたのだろうね。壊された扉はあの空間の物だった、と解釈出来る」
倉科の言う事が本当なら、捻じ曲がって見えていたのは錯覚などでは無く、本当に空間が変化したという事なのだろうか。と考えていると、大きな音がなり、グラグラと地響きが起きた。
「確認する必要はねェみたいだな……。おい、急ぐぞ! あいつらが攻めてきやがったんだ!」
今の地響きと先生の言葉で確信する。俺達の“休息所”になっていた倉科家の屋敷は、“戦地”へと姿を変えたのだと。
俺達は全員で走り出し、夕飯を楽しんだこのホールを後にするのだった。
続く
投稿一週間以内目指して頑張ります。
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