18話 休息、団結、そして
超久々です。
ーーーージリリリリリリ…………!!
「! もう終わりかよ……」
備え付けられていたパソコンのすぐ隣に置いておいたアラーム時計がしつこくけたたましく鳴り響く。俺はとんでもなく耳障りなそいつの停止スイッチをのろのろと押した。
「そういえば着替えてないな……。……ん?」
大きな欠伸をした後そう独り言を言い放ち、もう一度部屋を見渡す。すると、素人目で見ても高価そうなガラスのテーブルの上にメモ用紙が一枚置かれているのを確認した。俺はだらけて猫背のままそのテーブルへ近寄り内容に目を通す事にした。
「えーっと……。お着替えはドレッサーの中にございます。か……」
声に出してメモを読むと、俺はその場でもう一度辺りを見た。俺は真っ先にパソコンに目を付けたので何があるか把握出来ていなかったのだ。これがネトゲ廃人の哀しき性なのだろうか。
「これ……だよな?」
そしてそのドレッサーを見つけ中を開けた。するととても華美な服が中から現れた。流石金持ちだ。俺は少し着ることを躊躇ったが、その如何にも高級な襟付きのシャツに袖を通した。
「これでよし……っと」
ドレッサーの扉の裏にある鏡で自分の全身を確認しながら他の服も次々と着装し、俺は着替えを終えた。するとタイミング良く部屋のドアを叩く音が聞こえた。そして入るぞ、と一言聞こえると同時に扉が開き、ジュリエッタが部屋へと入ってきた。
「全く、君がラストだぞ、トーマス? 他の皆はもうディナーをした場所に集まっておる」
「あ、ご、ごめんごめん。……あ、ジュリエッタも着替えたんだね」
丸1日ぶりの人に少々戸惑いを隠せなかったが、相手が彼女だったのであまり問題は無いようだ。と思い俺は鏡からジュリエッタの方へ視点を切り替えた。すると当たり前の事だが彼女も着替えており、黒と赤で統一されたゴシック調の服を身に纏っていた。俺はその可愛さに動揺を隠せずに彼女から目線を逸らしつつ、その後すぐに目的地へ向かおうと提案をした。するとジュリエッタはムスッとした表情を浮かべたので、部屋を出る直前に
「に、似合ってりゅ……」
と聞こえるか聞こえないかの大きさで呟き好感を上げようとしたのだが見事に噛んでしまった。しかし、その後何も言わない彼女の恥ずかしげな表情を見るに言葉と意味はしっかりと伝わったようだ。しかし、言ってみたはいいものの、死にたくなる程の気まずい雰囲気が漂い、部屋を出ると互いが微妙な距離感を保ちながら急ぎ足で目的の場所へと向かった。
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夕飯を食べた部屋へ向かうこと数分、急ぎ足で会話のないまま進むと目の前に一度見たことのある二枚扉が現れた。俺は気まずい空気がやっと軽減されると安堵し、すぐに扉を開ける。そしてすぐに他の人達がいるのを確認し、急いで白金先生の隣席に座った。
「おう、歌川。すんなり全員集まってよかったぜ。……しっかしまあ、あの実はとんでもねぇな。疲労やら何から何まで無かったみたいに回復してやがる」
俺達二人が座ると先生が一番に話し始めた。俺はどうやらそんなに遅れてきていたわけでもないようなので少し安心する。
「フッ、素晴らしいだろう? これで奴等と万全を期して戦えるというわけだよ」
「そうだね! どこからでもかかってこい! 金口!」
色島さんは自分の体の前で拳を構え、溢れんばかりのやる気を見せている。他の皆も恐らくは表には出していないが彼女と同等のやる気をうちに秘めていることだろう。何故なら俺もそうだからだ。
「つーかよ、なんでお前ら顔赤いんだ? やる気ありすぎか?」
数秒前までの決戦前のようなかっこいい雰囲気を無かった事にするかの如く先生が俺とジュリエッタにそう言い放った。俺は先生のデリカシーのない発言に多少怒りを覚えたが、黙っているのもおかしいので
「い、いやぁ、ちょっと暑くて……。ジュリエッタもだよな?」
しっかりと彼女の分まで誤魔化せる様に返した。それにジュリエッタも静かに頷いて返し、なんとかその場を凌ぐことが出来た。
「二人して暑いってまさか……」
しかし次の瞬間、色島さんが爆弾発言をーー
「そんなに走ってきたの? なんか急がせちゃったみたいでごめんね!」
するのかと思い一瞬焦ったがそんな事は無かった。勿論そんなことはしていないのだが、言われると反応に困る。彼女が健全な思考回路の持ち主で本当に助かった。
「い、いや、大丈夫だよ。暑いって言っても身体がポカポカする程度だからさ」
決して運動後等の暑さでは無いがここは無難に返しておく。
「ま、とりあえず今後について話しません? 争奪戦みたいな感じになりそうだし」
「珍しく真面目じゃねぇか多川。どうしたんだ?」
「いやぁ、一応僕には“仇討ち”なんで。気合い入ってるんすよ。僕自身はあんま役に立たないですけどね、はは……」
俺とジュリエッタの二人が平常心を取り戻し始め落ち着いてくると、丁度いつになく真面目な表情で多川さんが議論を展開しようとし始めていた。先生への返しの中の笑顔も、戯けているのではなく、その真面目な表情と内に秘めた苦しさを隠す仮面のような笑みだと捉えることが出来た。
「気にすんなよ。今や多川や俺達だけじゃねぇ、日本の危機だからな。付いて来るその勇気だけで役立たずなんかじゃねぇよ」
「白金君の言う通りだよ。君はここに居る時点でもう強いのさ」
俺達を見渡す多川さんに俺も力強く頷く。確かに戦力ではないかもしれないが、多川さんは強い気持ちと抗う意志を持っている立派な仲間だ。
「あ、有難うございます! 無力なりに頑張るっす!」
皆の気持ちが伝わり、多川さんはうるうるとした表情で元気よくそう言った。俺は人生で経験する事がないと思っていた熱い展開を目の前に、自分もその一員なんだということを実感する。痛いし辛い戦闘だが、仲間となら乗り越えて行ける、と胸にやる気と情熱の炎を燃やした。
「ガドンッ!!」
仲間の団結力が強まりこれからだ、という雰囲気をぶち壊すが如くとても大きな音が鳴り、一斉に音の発生元へと目を向ける。
「なんだあッ!?」
俺とジュリエッタが入ってきた大きな分厚い扉が派手に開かれ、それと同時に開かれた戦場の入口へ俺達を招き入れる案内人が一人立ち塞がっていた。
「ーー邪魔するぜ? 敵さん達よォ」
続く
ペース早めていけたらいいなと思ってます。頑張ります。宜しくお願いします。