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ツクモツクモノ ー 付喪憑者ー  作者: jenova
裏組織 神の選抜
17/25

17話 倉科家で一休み

だいぶと久々の投稿です。

洋館の扉が重低音を奏でながら開き中へ入ると、天井には豪勢なシャンデリアの吊られていて、正面には二階へと続くゆるやかな曲線を描いた階段のある大広間が姿を現した。俺達はそのとてつもない広さに圧倒され、思わず立ち止まってしまった。


「……フッ、屋敷へようこそ。部屋の用意が出来るまでは来客室で待っていてくれ。こっちだ、案内しよう」


倉科は驚く俺達に満足げな表情を浮かべそう言うと、真っ直ぐ歩き始め、俺達はそれへ言われるがままについていった。二本階段の間を進むと扉があり、それを開けると左右に進路のある長い廊下が現れる。俺達はそこを右折して、そのとてつもない長さの廊下を横列になって歩いた。そして五分ほど進むと、倉科が一つの扉の前で立ち止まった。


「少しここで待っていよう。さ、入りたまえ」


その扉を開けるとそこへ入り、俺達にも入るよう促した。中へ入るとこれまた豪勢な部屋になっており、シックな造りの家具で統一されたその落ち着いた雰囲気はどこか見る者を魅了するようだった。


「そこのソファにでも掛けていよう」


俺達は倉科に指示されるがままに動き、いかにも高級そうなソファへと座る。そしてそのフカフカとした座り心地にはただただ驚く事しか出来なかった。


「お前、マジですげぇんだな……」


「ま、御曹司だからね。僕は生まれた時からここにいるからもう慣れっこだけど」


「ワンルーム暮しの俺にゃまるで想像もつかねぇ様な生活なんだろうな、お前……」


かなり羨ましいのだろうか。先生は辺りをキョロキョロと感嘆のため息を洩らしながら見渡している。俺も先生程ではないが、やはりこんな豪邸暮しというものには憧れがある。かといって、今の暮らしに満足していないわけでは無いが。


「……失礼します。紅茶の御用意が出来ました」


皆が落ち着かない雰囲気で座っていると俺達の部屋へノックが3回鳴り響き、先程中に入る前に出会った老執事の声が聞こえた。


「入ってくれ。 ……フッ、きっと紅茶も気に入ってもらえると思うよ。楽しみにしていたまえ」


俺達が倉科の屋敷に驚いているのがそんなに嬉しいのか、倉科はいつもより高めな声でそう言った。そして部屋の扉が開くと紅茶の芳醇な香りと、クッキーの香ばしく甘い匂いを俺の嗅覚が感じ取った。そして老執事は、その匂いの発信源である紅茶とクッキーをホテルマンが使っているような荷台に乗せて運んできてくれた。


「わぁ! 美味しそぉ! ありがとうございます! えっと……」


「失礼。私、松本 と申します。このお屋敷で執事をやらせていただいております」


「ありがとうございます、松本さん!」


色島さんが名乗った老執事に満面の笑みで感謝をした。その笑顔はとても眩しく、松本さんがとても羨ましく思えた。


「御坊ちゃん、夕飯の支度等、もうしばらくお待ちくださいませ。……それでは、それまでの間ごゆっくりとなさっていてください」


松本さんはそう言いながらテーブルにクッキーと紅茶を並べると、俺達に一礼をしてそそくさと部屋を後にした。


「さて、頂くとしようか。松本の淹れる紅茶を飲んだら、他のは飲めなくなるだろうがね」


そう言うと倉科はそっとティーカップの持ち手を指三本程度で摘み、静かに口へ近づけた。そして僅かな量を口に含み、味わった後飲み込んだ。その可憐な一連の動作に思わず見とれていた俺達は、その後に続くように口へとティーカップを運んだ。


「わ、美味しい……!」


「お前の言う通りだな……。確かに他は飲めなくなっちまう旨さだ」


今この部屋に居る人物が口を揃えて「美味しい」と言った。鼻に抜ける紅茶の素晴らしい香り、そして特有の高貴で華やかな味わい。この二つがあの老執事の手によって最大限に引き出され、いつも飲んでいるペットボトルの紅茶とはまるで別種類の飲み物なのではないのかと言う位に感じられた。


「フッ、僕の言った通りだろう? さあ、クッキーも食べたまえ。こちらも絶品だからね」


紅茶がこれ程までに美味しかったのだ。クッキーが不味い理由が無い。倉科が進めると、待ってましたと言わんばかりに皆がクッキーの皿へと手を伸ばし、口へ運んだ。


「っ!? う、旨すぎる……っ!」


「あのお爺さん、只者じゃないなこれは……」


サクサクとした食感、気品の漂うバターの香り、大き過ぎず一口でパクリと食べれてしまう、消費者の事を考えられたサイズ。正にこれは最高のクッキーだった。俺は思わず2、3個続けて口へ放り込んでしまった。


ーーーー


「フッ……。……さて、夕飯まで、皆で話し合いといこうか。これからの計画を」


俺達が談笑しながらティータイムを楽しんでいると、倉科は今までの満足そうだった顔を一変させ、口を開いた。紅茶とクッキーの驚きですっかり忘れていたが、俺達は大事な戦闘の真っ只中にいるんだ。俺を含め皆は気持ちを変えるためか、紅茶を同じタイミングで口へ運んだ。


「……一番大事なのは、やっぱその、ウオノメだかミズヲノメだかって兵器の話だろ?」


「もうっ! 先生、ミズハダメですよ! 間違えないで下さいよぉ」


全員が楽しい気持ちをリセットし、いざ話し合おうとなると、先生が笑いを誘った。なんとか堪えねばと我慢をする。しかし、色島さんの追い打ちで、俺の「シリアスムードで笑ってはいけないゲージ」上昇に拍車がかかる。俺はその場で肩を震わせ笑い始めた。


「……そう、ミズハノメの所有者が、今回の戦いの要となるだろうね。

どちらにせよ、やつらとの衝突は避けては通れないだろうが」


だが、そんな俺達をお構い無しに倉科は話を続けた。そして兵器の名にスムーズに訂正が入り、二人は言い間違いをした事を恥ずかしそうに苦笑する。そして倉科は次々と話を展開させていった。


「兵器の件は我々の屋敷の方でも調査を進めている。手当り次第政府の重要建造物周辺や内部を捜しているが、まだ未発見だ。大方捜し終わっているはずだがそれでも見つからないという事は、恐らく金口達もそうだろうね」


「政府のガードはかなり堅いだろうからねぇ。実際、警察にもあるという情報すら与えられて無かった訳だし……」


倉科の話が切れると、多川さんは落ち込んだ表情でそう言い、大きな溜息を吐いた。


「まぁ無理もねぇ話だ。こんな事、一般の刑事なんかの耳にゃ届く内容な訳無い。重要機関のトップでやっと知ってるか知ってないかのレベルだろうよ」


そして白金先生が、落胆する多川さんに追い打ちをかけるようにそう言うと、案の定多川さんの顔は更に暗くなった。


「しかし、そこまで捜して出んというのは妙な話だ。政府が保持しているかすら怪しいな。自己愛者ナルシストよ、政府の建物以外も捜してみてはどうだ?」


暗黒面に堕ちそうな彼を俺が心配そうに見ていると、俺の右隣で先程までムシャムシャとクッキーを食べていたジュリエッタが口を開き、倉科へそう提案した。


「フッ……。やはり貴女もそう思うかジュリエッタ。恐らく八割がたその説が濃厚だろうね。だが、一体何処を探せば良いのだろうか……。全く検討がーー」


ジュリエッタの意見に倉科が賛同し話を進めていると、その途中でか弱いノックの音が三回なり、自信のなさそうな女性の声が聞こえた。


「く、倉科お坊ちゃま! 御夕飯のご用意がで、出来ましたぁ……!」


「……あぁ。ありがとう、海玲。すぐに向かうから、そこで待っていたまえ。……さぁ、皆で夕食ディナーといこうか」


倉科は女性にドア越しでそう伝えるとすっと立ち上がり、俺達に笑顔で夕飯へと誘う。部屋にあるであろう時計を探し時刻を見ると、六時をまわっていた。少し早めだがお腹は空いている。俺はそれに軽く頷き、立ち上がった。


「いやぁ、実は僕お腹ぺこぺこでさぁ。うーん! クッキーがこんなに美味しかったんだ。晩御飯も期待しちゃうぞー!」


「私も楽しみだなぁ! ね、ジュリエッタちゃん!」


「うむ! 自己愛者ナルシストよ、吾輩の食欲を満足させてもらおうかッ!」


ほかの人達もわくわくしながら立ち上がり、一斉にドアへと向かう。そしてドアを開けると先ほどの声の主であろう、可愛らしいメイド姿の女性がおどおどと立っていた。


「わわっ! 初めましてです皆様! 私見習いメイドの海玲って言います! ここ、これから御夕飯のお部屋へ案内させて頂きましゅ……! 皆様私についてきてくだひゃい……!」


メイドさんは俺達が部屋から出るやいなやテンパりながらそう言うと、顔を林檎の様に赤くさせ、さっさと歩き始めた。しかし四、五歩進んだところで、豪快に転び、半泣きで立ち上がった。これは典型的過ぎるほどのドジッ娘さんだな。


「す、すいませんですぅ……!」


「フッ……。落ち着きたまえ、海玲。僕達は急いでいないのだから、ゆっくりで構わないよ」


「ふぁ、ふぁい……!」


倉科が優しそうな口調でそう言うと、海玲さんは恥ずかしそうに返事をした。そして立ち上がると慎重に歩み始めた。若干不安だが、俺達はその先導に付いて行く。たかだか道案内だ。これくらい失敗するわけーー


「ね、ねぇ海玲? 食事の部屋は左ではなかったか?」


「はわっ! 申し訳ございませんですぅ……! まだまだ場所把握しきれてなくって……!」


あった。廊下が左に曲がる道が出現したとき、海玲さんは躊躇せずにまっすぐ進んだが倉科がすぐさま指摘を入れ、海玲さんが間違いに気付く。本当に大丈夫なのか。俺達はメイドさんに若干の不信感を抱きつつも、それに付いて行く。


ーーーー


ひやひやしながら海玲さんの先導へ付いて行くと、行き止まりに大きな二つ扉が現れ、そこで立ち止まった。


「着きました! こちらになりまぁす!」


「ご苦労様。海玲、よく頑張ったね」


「ひ、ひゃい!? ありがとうございますぅ……!」


倉科は海玲さんの頭をポンと撫で、労いの言葉をかける。そして扉の目の前へ行き、力強くその扉を開いた。


「さぁ皆、夕飯の時間だ!」


倉科が扉を開けた瞬間に広がる料理達の香り。俺達はそれに釣られ自然と足を動かし、その部屋へ入っていった。長いテーブルに純白の布が敷かれ、その上に高級そうな料理がいくつか並べられている。スープ、サラダ、肉料理。テーブルの中央にはパンが置かれている。その全てから気高き気品が感じられた。


「旨そうだな! てか俺こんな飯何年ぶりだ?」


「知りませんよそんな事! ささ、ちゃちゃっと席ついちゃいましょ! 僕待ちきれませんよ!」


多川さんが急かしたこともあるが、俺達は感情を高揚させながら早足で用意された凝った装飾のされた椅子へと腰掛けた。そして全員が座った事を確認して手を合わせる。


「いただきます!」



ーーーーーー




「ふぅ、美味しかった。親が出張してからインスタントばっかだったから、なんか新鮮だ」


「俺もだぜ歌川。1人だとどうもまともに飯食わねぇからな」


倉科が用意してくれた夕食をペロリと完食し、しばしの余韻に浸る。料理たちは共通して何口食べても飽きがこず、ただひたすらに美味しかった。やはり流石豪邸だ。何につけてもレベルが高い。


「フフッ、喜んでもらえて良かったよ。……さて、そろそろ個室の準備も出来た頃だろう。イヴ、デザートを頼む!」


またもや満足げにしていた倉科はそう言って手をパン、と叩いた。すると、海玲さんとはまた別のメイドさんが部屋へ入ってきた。ここまでくればデザートもかなり一級品なのだろうか。期待が膨らむ。


「……お坊ちゃま、“例の果実”でよろしいのですね?」


「ああ、すまないが頼む」


「……かしこまりました。……禁断ロスト果実エデン


例の果実と言われ、何が出てくるのかと思っていると、その少し憂いを帯びた感じのメイドさんは、身体を木のように変化させた。


「なっ!? 破壊者カタストロフィ……!?」


「どういうことっ……!?」


そして変化させた身体の木の枝には果実が丁度人数分実っており、メイドさんはそれを採り俺達へ渡した。


「……驚かせてしまい申し訳ございません。私の能力、禁断ロスト果実エデンは、食したものを完全回復させる力を持っています。しかし、食べてから丸二十四時間、誰とも会ったり、話してはなりません」


「も、もししてしまったら……?」


「死にます」


「な、なるほど……」


俺の質問へメイドさんは言葉を選ばず、直球でそう言った。


「……皆様は戦わなければならない身。通常の治療ですとお時間が勿体ないという事で使用させていただきました。ですので、これより皆様には完全個室へご案内します。その中へ入り、一人になった瞬間それを食べ、そこから二十四時間お好きなだけ時間を潰してください。その二十四時間内は排泄や食事は全てしなくてよくなっておりますので、気兼ねなく時間を潰してください」


メイドさんは淡々としたトーンで説明をする。俺達はそれをしっかりと聞き、ちゃんと理解する。そうでなければ死ぬかもしれないからだ。


「……それではご案内致します。必ず注意事項をお守り下さいますよう……」


とてつもなくクールな彼女はそう言うと、俺達が立っていようが座っていようがお構い無しに扉へと歩きだした。俺達はメイドさんを見失わない様にと急いで立ち上がり、彼女について行った。


ーーーー


「……貴方で最後ですね。こちらになります。……では、ごゆっくりと」


「あ、ど、ども……」


全員が指定された部屋へと入っていき、気付くと俺が最後の一人になっていた。そしてようやく俺の指定された部屋の前に案内されると、電源を入れると二十四時間後丁度にアラームがなるという目覚まし時計を受け渡されて部屋に入る。室内はやはり落ち着いた雰囲気で、本棚には難しそうな本や、外国語で書かれた雑誌などが並べられている。これで時間を潰せという事なのだろうか。


「読めるわけないっての……。お?」


そんな本ばかりで落ち込んでいると、その本棚の隣のデスクに、見馴れた形の黒くて四角い俺の友達があるのを見つけた。


「あるなら最初から言っててくれよ。……さて、と。ここから二十四時間か……。短すぎるな」


俺はパソコンの電源をつけると、貰った果実をむしゃむしゃと体内に取り込み、完食したと同時に目覚まし時計をONにする。するとどうだろう。しばらくすると見る見るうちに傷が塞がり、疲労感やストレスが嘘のように消え去る。これはすごい。


「完全復活! 二十四時間経つまで“楽園”だな」


俺はそう呟き、パソコンで動画サイト「ニヤニヤ動画」を起動させる。ネトゲは誰かと話してしまうので渋々やめておく。そんなことで死んだら洒落にならない。何だよ死因がチャットって。悲し過ぎるだろ。


いつもの様に、まるで日常が戻ったかのように俺はパソコンを触る。


残り二十三時間四十五分。その時間が過ぎた後、何が起こるかなんて考えもせずに。








続く

もっとペース上げれるように頑張ります。

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