16話 兵器《ミズハノメ》
次から少し投稿遅くなるかもです。
友のメッセージを心に刻み、必ず生きて帰ることを誓った俺が救護カーへ戻ると、皆が雑談をしていた。その雰囲気は割と良く、先程まで拒まれていた倉科も、しっかりと話に参加していた。
「ただいま戻りました」
「おう、戻ったか。……さてと。んじゃ倉科、続き頼むわ」
「ああ、分かった。では、今回の作戦“プロジェクト・ノア”について、知っている限り話そうか」
俺が戻ると空気が変わり、ヤツらのキモであろう作戦「プロジェクト・ノア」について、倉科が話を始めた。
「過去の兵器を使って雨を降らし、日本を水浸しにして綺麗にしようというのが、この作戦さ」
「過去の兵器……?」
俺達はその一言に対して一斉に問いかけた。
「ああ。25年前の国内戦争、あの時に発見されたものらしい。他にも幾つかあるらしいが、今彼らが狙っているのは、作動させれば最後、それを破壊するまで豪雨を降らし続ける兵器、《ミズハノメ》だ。勿論、豪雨と言っても並大抵のものじゃない。岩位なら簡単に削れるくらいのが滝のように、しかもそれが日本全土に、だろうね」
それを聞き、一同は絶句した。国がそんな物を隠していた事にも驚きだが、更に吃驚したのはその性能だ。確かに俺達は、国内戦争前、人々の科学技術は凄かったと教わっているが、なにせ殆どが戦争時に失われた技術の為、どれ程までかは解明されていない。しかしこの兵器が事実なら、過去の技術は相当凄かった事になる。
「で、でも、そんな物、何処にあるんだい? そもそも、そんな事実、どうやって知ったって言うんだよ」
「だからヤツらは、国会を襲ったんだろう。どうやってその情報を手に入れたのは不明だけど、兵器の場所を知りたいなら、国のお偉いさんに訊くのが手っ取り早いだろうからね」
「な、なるほど。やっぱり信じなくちゃダメか……。はぁ……」
国に使える刑事となると、やはり国に騙されたというのはショックだったのだろう。多川さんはそのまま項垂れた。
「んで、場所は分かってんのか? テメェも、ヤツらも」
「いや、おそらくまだだよ。結局、議員も、大臣も、何も吐かずに殺された。正確には、君達の襲撃があったから訊く前に殺ってしまった、かな?」
「となると、なんにも手掛かり無しか……。骨の折れる作業になりそうだなぁ、こりゃ」
確かに現状何も情報が無い以上、虱潰しに捜索するしかない。しかしこの状況は、金口達にとっても同じ状況だろう。言い換えてしまえば、先に“ミズハノメ”を見つけた方が勝ちなのだ。急いで探そうと皆に言おうとしたが、ここで先程の友の言葉を思い出し言い留まった。そして、“約束”を守る事にした。
「あー、あの、だったらまず、休む事にしませんか? 準備万端で作業した方が良いでしょうし……」
「なぁに呑気な事言ってやがる! 一刻を争うんだぜ?」
「そうだよ、歌川君。早くしないとヤツらの作戦が始まるんだよ!? 金口を今すぐにも止めないと!」
「わ、解ってます。でも、俺、親友に言われたんです。“無理せず休め”って。ほら、俺も、先生も、多川さんも大怪我ですし……。」
想定はしていたが、やはり先生と多川さんは反対のようだ。だが俺も彼等の大声に負けじと反論した。
「先生、多川さん! 無理は禁物ですよ? 私も疲れちゃったし、ほら、ジュリエッタちゃんも」
押し負けていた俺に助け舟を出したのは色島さんだった。そう言えば兵器だの、いかにも食いつきそうな話にも関わらず、俺が戻った時からずっと大人しかったジュリエッタ。彼女を見ると、俯いて目を瞑っていた。眠っているようだ。
「……そうだな。君が言う通りかもしれないね。良ければ僕の屋敷へ来ると良いよ。傷の処置も、寝る場所も提供しよう。それと、兵器に関する情報も、屋敷の者に伝えて調べさせよう」
「おいおい、大丈夫かよ……。でもまぁ、このままだと辛ぇのは事実だしな……。急がば回れ、って事か」
「ま、仕方ないか……」
「ありがとうございます。……じゃあ倉科、お前の家に向かおう」
「ああ、そうだね。……フッ、着いたらとびきりのおもてなしをさせて貰おうかな」
二人は少し不服そうだったが、何とか全員判ってくれたようだ。こうして俺の案により休む事になった俺達は、倉科の屋敷に向かう事となった。
「んー、けど困ったなぁ……。外にある車は全部ダメみたいだし、他の車もすぐに乗れるかどうか…………」
目的地の決まった俺達であったが、移動手段の事を忘れていた。行きしなに乗っていた車もガス欠。動くはずも無いだろう。
「フフン、任せたまえ。僕の身体なら、車の鍵を開けるのもお安い御用さ」
困っている俺達を見て、倉科は胸に軽く手を当てながら、自信満々にそう言った。確かに破壊者であるこいつなら何とか出来るはずだ。
「なーんだ、意外と役に立つのね! そうと決まればさっさとやっちゃって!」
「ああ。じゃあ、良さそうな車を探して来るよ。君達はここで待っていてくれ」
色島さんに命令された倉科は、すぐさま外へと飛び出していった。まだまだ疑いが残るが、そんなに悪い奴では無いのではないだろうか。俺は倉科の事をそう思った。
十分程スマホを弄ったり、色島さん達と話したりしていると、外で車のエンジン音が聞こえた。どうやらアイツが帰ってきたようだ。その音でジュリエッタも目を覚まし、全員が救護カーを出ると、そこには真っ赤なメタリックカラーのいかにも速そうな派手な車が止まっていて、その車の窓から倉科が顔を出した。
「お待たせ、格好のいい車を探していたら、丁度いいのがあったよ。さあ、乗りたまえ!」
「なかなかロマンたっぷりじゃねぇか! 見直したぜ、倉科」
「ほぉ、いいじゃないか! セ、センスは認めてやる!」
俺には分からなかったが、このボディにはどうやら“男のロマン”なるものがあるようだ。先生は助手席へ、多川さんは後ろへテンションを上げながら車へと乗り込んだ。そしてその次に俺と女性陣も後ろへと乗り込み、全員が乗ったことを倉科へ伝えた。
「よし、では我が家へと向わせて頂くよ。ここからなら、そうだな……。一時間位が妥当だろうね」
「おう、任せた。ふぁぁ……。俺は寝るぜ……」
「吾輩もまだ目を覚ます時では無い……。ねむらせて……もらう……」
「僕ももーう限界! 誰か着いたら起こしてねん……」
倉科がアクセルを踏み、進み始める頃にはもう、俺と倉科以外は全員寝てしまっていた。俺は日頃の不摂生のせいか、はたまた戦いの果て疲れてつい最近まで寝ていたからか、不思議と眠たくは無かった。なので俺は、溜まっていたアプリの更新をすぐさま行い、ソシャゲをする事にした。思えば久々のゲーム。やっていると腹部の痛みの事を自然と忘れられる。しかしあくまでソシャゲだ。ネトゲのように心の隙間までは埋めてくれない。嗚呼、俺の分身よ。無事に帰ることが出来たら、たっぷりと動かしてやるからな。
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俺がガチャを回して一喜一憂したり、新しく出ていたステージ等をクリアしていると、あっという間に一時間程度が過ぎ去り、倉科に質問を投げ掛けた。
「な、なあ倉科、もうすぐなのか?」
「ああ。ほら、前に見えるのがそうだよ。というか、今走っているのも敷地内さ」
倉科の回答に、俺はスマホの電源を落として辺りを窓から眺めた。すると、両脇には綺麗に手入れをされた木々と花々、そして車が走る白い一本道の先には、想像を遥かに超えた超巨大な屋敷が、荘厳な面持ちで鎮座していた。流石は財閥の御曹司と言ったところだろうか。
「さあ、そろそろ着くよ。起きたまえ、皆!」
倉科のその一言で全員が目を覚ました。そして眠気眼を擦り、俺と同じように窓から外を見ると、一斉に驚きの声を漏らした。
「すごい! 絵本の中みたいな屋敷!」
「フッ、そうだろ? 内装もきっと喜んでもらえると思うよ」
色島さんが思わず感嘆の声を漏らすと、ここぞとばかりに倉科が自慢げにそう言った。そして皆が目を輝かせながらキョロキョロと辺りを見回していると車が止まった。
「さあ、着いたよ。降りたまえ」
倉科に言われ、順番に降車していった。そして再び周りをぐるっと見渡し、俺達が今いる場所の大きさを再確認した。
「やはり御坊ちゃんでしたか。おかえりなさいませ」
周囲の景色に呆気を取られていると、老人の声が聞こえ、声の方へと体を向けた。すると、割と高身長ですらっとした体型の、白髪でいかにもな執事服を着た男性がそこに居た。
「ああ、ただいま。松本、すぐに食事と治療の用意を手配してくれ。それと、空き部屋の掃除も頼むよ」
「御意。すぐに手配させて頂きます故、少々お待ちください」
倉科が老執事に命令をすると、すぐさまはいと答える。そして執事は静かにこの場を去り、準備をしに行った。
「さ、僕達も屋敷に入ろうか。用意が出来るまでは、皆僕の部屋に居るといいよ」
倉科はそう言うと屋敷の方へ歩き出した。俺達はまだ若干驚きつつもそれについて行き、この某ドームが数個入る程の敷地内にそびえ立つ、巨大な豪邸へと足を運ぶのだった。
続く
倉科は残念なイケメンです。