11話 暗木再び
シリアスと思いきやそうでもないです。
俺達の進撃に気付き、次々と奴等の視線がこちらへと集まる。
「ん? 敵だっ! 中には入れるなぁっ!」
一人が号令を掛けると奴等は一斉に怪物になり、戦闘態勢を整える。一瞬で生成された異形生物の群れに向かって俺達はひたすら走る。
「オラオラオラァッ! どきやがれぇ!」
先手はこちら側。先生が走りながら双剣を振り回し、路を切り開く。双剣で切り刻まれた無数の化け物の肉片があちらこちらへと飛び散り灰になっていった。いきなりの猛攻に流石に戸惑ったのか、奴等の動きが鈍っている。チャンスだ、と思い俺は飛ぶ斬撃を塊になっていた奴等へと繰り出した。
「はぁぁっ! 邪魔だぁ!」
敵達は吹っ飛ばされ倒れていき、いつもならここで俺も後ろに吹っ飛ばされていくはずだが、急に身体が重くなり、実質無反動で技を使う事が出来た。後ろを見るとジュリエッタがニッコリしている。
「クックックッ、どうだ吾輩のサポートはっ!」
「最高だよ、ジュリエッタ」
俺が後ろを向き、ジュリエッタにグッと親指を立てていると、前から奴らが飛び掛ってきた。
「隙あり! 死ねぇ!」
一瞬やばいと思ったが後方から矢が放たれ、正確無比にその者を穿った。
「へへ、私の援護も忘れないでよね、歌川くん!」
「ありがとう、色島さん。 助かったよ」
年下の少女と同い年のJKからサポートをして貰えるなんて俺はなんて幸せ者なのだろう。戦うって素晴らしいかもしれない。
「おわぁ!? うおっ!? た、助けてくれぇぇ!」
俺が下らない事を考えていると多川さんの情けない声が耳に入った。その方向へ目を向けると、4m程先で5匹ほどの破壊者に囲まれている。あの人はなんでついて来ているのだろうか。すぐに向かおうとしたがその必要は無いらしく、すぐそこへ駆け付けた先生が剣を乱舞させ怪物を一瞬で蹴散らした。
「離れるなっつたろが、このタコ! お前だけ一般人なんだからよ、すぐ死ぬぞ?」
「す、すいません……。 で、でも! ここまで来たなら金口のところまで!」
「ったく、仕方ねぇ……。ってか、あっという間に殲滅完了か? やけに少ないな……。歌川! 作戦変更だ! とりあえず皆で中入るぞ!」
「わ、わかりました!」
嵐の前の静けさ、なのだろうか。門兵は思っていたよりも少なく、容易に突破することが出来た。どこかおかしいが楽できるなら良いと思う事にし国会の入口へと行こうとすると、そこから人が拍手をしながら現れた。
「見事だな、歌川。やはり見込みは間違ってなかったようだな」
聞き覚えのある声だ。そして段々とはっきり姿が見え、帽子を深く被っているのを確認できた。マフィア風の男、暗木だ。
「先生! こいつ厄介ですよ! 攻撃が通らないんです!」
そう、俺が一ヶ月程前に対峙した際には暗木の不思議な力で全く歯が立たず、色島さんの射撃でなんとか九死に一生を得たのだが、その能力を解明することは出来なかったのだ。
「ふん、その言葉から察するにお前は俺の能力が結局分からずじまいなのだな。良いだろう、俺は戦闘を楽しみたい。貴様等に教えてやろう、俺の能力は一定時間無敵能力を使う事が出来る、だぁ!」
そう言い終えると暗木はこちらへと走り出し腕を変化させると、それをこちらへと伸ばし攻撃を仕掛けてきた。
「落ち着くんだ陶馬。無敵と言っても必ずどこかに穴がある筈」
「いや、勝負はもう決まってる……」
そう、俺の中でもう“勝負”はついていた。伸ばされた巨大なツタの様な腕は、自由自在に空をうねると俺の無抵抗な体にぶち当たる。
「くっ……!」
「何をしている、トーマス!」
ジュリエッタの重力で吹き飛ばされることは無かった。だが俺は反撃を繰り出すこと無く、奴の元へ掃除機コードの様にしゅるしゅると戻される腕を見送った。
「クフフ……。戦意喪失か? 歌川ァ!」
暗木は再びこちらへ走り、2m位近くへ来ると飛び上がり、腕のツタを絡めあわせると一瞬で大木を生成した。そしてその丸太の様な腕は俺へと振り下ろされた。
「歌川!」 「「陶馬君!」」 「トーマス!」
「死ねェ!」
皆が息を飲み焦る中、俺は自分を信じて一か八かの賭けに出る。まずは刀を構える。そして思い切り丸太へとぶつかりに行くように上へと飛ぶ。
(頼む……!)
「クフフフ……! 終わりだ……」
叩きつけられ地を鳴らす奴の腕、土埃煙る地面。そしてその上には俺が居た。
「なんだとっ……!?」
「おまっ!? 生きてやがる!」「良かった……」 「ぬおっ!? 流石だ! トーマス!」
敵味方共に困惑している。大成功だ。俺はニヤリと空中で笑い、一気に暗木の方へと滑空するように降りる。
「たぁぁぁ!」
「ぬがァ…………ッ!」
混乱に乗じての攻撃。暗木に俺の刀を防がれることなく命中させた。
「ウッ……何故…………だっ……?」
俺の一撃で左肩から腰へと大きく溝が出来た。奴はそれの縫合を試みながら後ずさりをする。ここしかないと、俺は自信満々に言い放つ。
「お前の敗因は一つ! 能力を教えたからでもない、お前が弱いわけでも無い。俺が、ネトゲ廃人だからだっ!」
……決まった。こんな事をする余裕が無いのは分かっている。だが格好をつけたいのだ。だってこんな事、一生に生きてて有る方がおかしい程の体験だ。自分の事をよく思ってくれている女の子が2人。そして俺は絶体絶命。それを切り抜ける俺。惚れない筈ない。ましてや俺はコミュ障。人前で目立つ事なんて嫌な思い出しか無い。良いことで目立つなんてこれが初めてだった。ここで目立てばワンチャンある。
「ふざ……けるなっ……!」
「お前の無敵時間は防御用ではなく錯乱用。攻撃の時にそれを使用して間合いなどをずらすのが目的だろう。それなら俺が剣を構えた時、咄嗟にお前は自分の腕へと能力を使うはずだ。そこには一瞬あらゆる判定が無くなる。いわばラグだ。ネトゲではラグやら無敵時間なんてもんは計算しながら戦うのが普通。その計算なんざ俺には朝飯前だ! 残念だったな、暗木!」
「クフッ……! まさかこんな奴に負けるとはな……。だが楽しませて……貰った……ぞ…………」
再生は失敗したのだろう。そう言うと静かに倒れ、俺達の前から姿が消え去り、残った奴のトレードマークでもある帽子が飛ばされていった。
「勝ちやがった……。すげぇな、おい」
「陶馬君すごい! かっこ良かったよ!」
勝ちを確信しホッとしていると、喜ぶ皆が俺の元へと駆け寄ってきた。
「な、なんとか勝てました……。さぁ、中へ行きましょう!」
ここで俺はあまりすごくないアピールをする。これで株が上がるはずだ。頼む、ジュリエッタ達と出逢うまで母以外の女性と話をしていなかった俺に春を……っ!
「素晴らしいなトーマス、君はやはり吾輩を守るものに相応しい! ……してねとげはいじん とはなんだ?」
まずい、それを聞かれる事は想定外だった。流れでかっこいいとなってくれると思っていた。俺の馬鹿め。
「それ、私も気になってた! どういう意味なのー?」
「え、えーと……。と、とにかく強いって事だよ!?」
とんでもなく慌てふためきながら必死で誤魔化す。
「そ、そうなんだ! やっぱすごいね、陶馬君は!」
「は、はは……。ありがとう……」
なんとか女子たちは信じてくれたようだ。しかしここで先生の方を向くと、呆れた顔をしていた。
「はぁ……。ったく、かっこつけやがって……。さっさと行くぞ、ネトゲ廃人さんよぉ」
先生は意味をわかっていたようだ。俺がかっこいいと思い、あんなタイミングでやった行為が一瞬で黒歴史一つへ早変わりする。何やってんだ、俺。
「中入ったらさっきのグループ分けだ。いいな?」
「わかりました!」
「白金さん、命預けますよ?」
「まかしとけ、んじゃ行くぞぉ!」
俺の恥ずかしさが急に高まる中、俺達は再びスタートラインに立ち、敵の本拠地へと足を踏み入れる事になったのだった。
陶馬君実は結構モテようと努力してたりします。