10話 謎を呼ぶ少年
少し短めになりました。
俺達が車を向かわせる道全てはもう既に襲われ、車の亡骸や動かなくなった人々が散乱していた。だがなんとか国道までは止まらずに進め、目的地までもう少しという所まで来ることが出来た。しかしここで車のガソリンが無くなり、降りざるを得ない状況になってしまった。
「ガス欠かぁ? ったく……。仕方ねぇ、ここから徒歩だな」
「まあ幸いここからだと三十分もあれば着きますよ。車はやっぱ便利だなぁ」
渋々車から降り、国道を歩いていると妙な事が起きた。
「っ!? いってぇ……」
「ん? どうした歌川、足でもつったか?」
「いえ、なんかにぶつかった気がするんですけど……」
しかし前を見ても何も無い。一体どう言う事なのだろうか。
「何か飛んできたのかな? そんなことなーー いたっ!?」
「ん? 憐香ちゃんも? みんなしてどうーー ぬあっ!?」
何も無いはずなのに皆何かにぶつかった。見えない壁の様な物なのだろうか。俺達は不気味に、そして謎に思った。ぶつかったであろう場所に手を出しても拒まれる感覚はない。本当にこれは何なのだろうか。
俺達が立ち止まってどうすべきか悩んでいると、前からこちらへジュリエッタ位の歳と推定出来る青年が歩いてきているのが見えた。深緑のフードを被っていてボサボサした白い髪に白い肌、目は赤。アルビノだろうか。
「ごめんごめん、それやったの僕だよ。すぐ解除するね」
思ってたよりも声は高め。完璧にショタっ子だ。そいつはそう言うと手をパンと叩いた。
「何者だ!?」
俺達が警戒していると、ジュリエッタがその感情をショタにぶつけた。するとショタが話を始めた。
「やだなぁ、皆そんなに怖い顔しないでよ。僕は比奈龍稀。ここで景色を観てたんだ」
「景色だぁ? んな壊れたもん観てたってどうしようもねぇだろ」
「おじさん解ってないなぁ。この世の全ては破壊されて完成系なんだよ。だからあの人たちには感謝してるんだ」
「あの人達……? まさか金口の事……?」
「そ、正解だよ。……っとごめんね。僕はもう行かなくちゃ。じゃあまたね」
「おい待ーー」
話を切り上げられ先生がそう言おうとした時、「比奈 龍稀」と名乗ったショタっ子が一瞬にして消えた。しかしその事より不思議なのはこの後だった。
「てよ! ……? なんか変じゃなかったか?」
一瞬ではあったが、先生の言葉がまるで使い古されたCDの様にプツッと切れたのだ。
「何だったんでしょうねぇ、あの子」
「謎ばっかり増えるね……」
皆が悩む中、俺はさっきあいつが言った事を思い出し前進した。するとさっきの事が嘘だったかのように進むことが出来た。
「前、進めるようになってますよ!」
「ん? 本当だ! あいつの仕業ってのマジだったんだな。何なんだあいつぁ!」
「しっかーし、訳の分からない事が次々と……。もう嫌だなぁ!」
全員が混乱し始めている。もちろん俺もだ。急に出てきたショタっ子が謎を増やして直ぐに消えていく。本当に何が起こっているのかわからなかった。だがとりあえず金口が全てに関わっているのは間違いない。俺達は止めていた足を動かす事にした。
「いやぁ、遠いですね」
「そうだな……。ったく、車は動かなくなるし変なヤツ出てくるし……。厄日だなこりゃ」
「当たり前ですよ、こんな最悪な日……。ん? ジュリエッタ?」
目的地へ向かう為皆で話をしながら歩いていると、ジュリエッタがずっと難しい顔をしていて話に入ってきていない事に気が付き、話を止めた。
「……む? いや、何でもないぞ? 本当に……」
何故かを訊いても簡単には答えてもらえないようだ。一体どうしたのだろう。
「きっとジュリエッタちゃんも疲れてるんですよ、こんなに色んな事起きて」
「悪いな、こんな目に合わしちまってよ。……そうだ! 金口倒したらパーッと打ち上げでもすっか! 俺が奢るぜ!」
「うっひょい! 白金さん、ゴチです!」
きっと皆なりの気遣いなのだろう。ジュリエッタにそう言った。
「ジュリエッタ、無理せず後ろに居ろよ?」
ここぞとばかりに俺も格好を付ける。
「う、うむ! そうだな! すまない、吾輩はもう大丈夫だっ!」
どうやら喜んでくれたようだ。やったぜ。場の空気が少し良くなり、俺達はまた一歩、一歩と国会に向かって進むのだった。
ずっと進んでいると、ようやく国道の道が別れているところまで来ることが出来た。遂に目的地まであと少しだ。
「ここ降りりゃ国会近くだな……。準備いいか?」
「大丈夫です! リング、頑張ろうね!」
「任せときな憐香ちゃん! あ、でも陶馬君に守ってもらった方がいいんじーー」
「トーマスが守るのは吾輩だっ!」
「わ、私も守られたい……かな?」
「ふぅー! 陶馬君モテモテー! あーあ、お兄さんも新しい恋探さないとなぁ……。」
先生以外皆まるで緊張感がない。大丈夫なのだろうか。
「おいお前ら! 決戦前だろうがよ! もっと緊迫感作れよっ!」
「すません、へへ……」
先生の一喝で全員の気が引き締まる。俺にもその声は響き、戦いへの気持ちを昂らせた。
「人数分けた方がいいんじゃないですか? 潜入するなら」
「ん? だな……。よし、じゃあ多川は俺とだ。女性陣は歌川に任せるぜ」
「えぇ……。僕も女の子と……」
「うっせぇ! 通報すんぞエロ刑事!」
にやにやしながら先生は俺にジュリエッタと色島さんを任せ、その事に残念がる刑事の多川さん。やっぱりこの国駄目だ。
パーティ編成をしていると、俺達の目指す場所付近から大きな倒壊音が聞こえた。
「と、とにかくそれで行きましょう! 時間無さそうですし!」
「お、おう! とにかくお前ら生き残れよ!」
「先生と多川さんも、でしょ!」
俺達は一斉に国会近くへ降りる道へ走り出し、皆で生き残ることを約束した。
国会と目と鼻の先にある大きな道路にやってくると、やはり惨状だった。機動隊の物だと思われる盾や鎧、そして機動隊の人々の遺体がそこらじゅうに落ちている。生き残っている者は誰一人居らず、増援も来ていないようだ。恐らく先ほどの物音がそうであろう、国会議事堂は見るも無残に破壊されている。その国会だったものの入口には奴等の仲間が大勢陣取っている。それに見つかっては面倒なので、俺達は一旦近くの物陰に身を潜める事にした。
「こりゃひでぇ……。おいお前ら、ここから別行動だ、いいな? 俺が入口の奴らを潰す。その間に歌川達で中入れ」
「一人で無茶ですよ! 全員で片付けましょう」
「うむ、トーマスの言う通り。無理は禁物だ重喫煙者よ」
「んじゃあ数減ったら入れ。これでいいか?」
「分かりました」
ひそひそと作戦会議を終え、遂に実行に移す。
「行くぞっ!」
武器を構え、先生の一声で国会へと全速力で駆ける。一人一人意思を心に燃やして。
続く
ぽっと出のショタっ子はのちのち出てくると思います。