1話 崩れる日常
注意 戦闘は次回からです。
2050年、日本の人々は大きな誤ちを犯した。
事の発端は2048年、都市部の急激な成長の為である。十数年前は、都市部とそれ以外の地域が協力し食物や資源、製品等を作っていた。しかし、都市部の人間は協力より効率を求めた。全てをプログラム化し、人を雇ってこなしていた仕事全てを自動で行うようにしたからだ。
この頃から、都市部以外の人々の雇用は減り、過疎地域が急激に増える一方、都市部及びその近郊付近のみが成長し始めた。
そして2050年、都市部以外の人々の不満は頂点に達した。遂にその人々は協力し、都市部に攻め入ってしまった。それはとても容易なものだった。発展都市の人々は全てを機械に任せていたが故に自ら考えるという能力が低下していたのである。その上に急な襲撃とあって、防ぎようが無かった。この様な事が日本各地で起こり、全てが同じ結果となった。これが国内対立化戦争である。
vivikipediaより 2075年版 昇神高校1年 春休み課題
戦争について調べる 2年 歌川 陶馬
「いってきまーす、って誰もいないけど……」
両親は3日前から海外出張。俺の虚しい出発の言葉は1人で住むには大きすぎる家に反響して消えていくだけだった。
とんでもなく短い春休みが終わり、春の日差しが眩しい今日から俺の通う「昇神高校」の二年生だ。
結局クラスに馴染む事なく終わった一年間が終わり安堵していたのも束の間、また地獄のような一年が始まると思うと今から胃に穴が空きそうだ。
俺「歌川 陶馬」は黒髪眼鏡で顔は普通。一般的な青春ライフの真っ最中!……だったら良かったのだが。
目つきの悪さ、オンラインゲームのし過ぎで発生した目の下のクマ、コミュ力の低さ等から友達が1人しかいないのである。なので、その数少ない友人とクラスが一緒にならないと去年の様に一年間が空気で終わるのだ。そう、これは言わばギャンブルだ。倍率は同学生分の一。かなり低い。がしかし、ネトゲ廃人である俺からすればこの程度の確率など百に等しい。超鬼畜な小数点以下のドロップ率を昨日1発で引き当てた俺からすればこんなもの引き当てて当然なのだっ!
嗚呼、神様どうか俺に希望を与えてくれ……。
色々考えながら通学路の住宅街を五分位歩いていると後ろから軽快に走る音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おいーっす陶馬!」
茶髪で癖毛のイケメン、案の定俺の唯一無二の友達「葛飾 漆平」だった。
「うぃーす、どうしたんだ?朝から急いで」
と俺が問うと、
「いやぁ、今日学校って忘れててな。普通にテレビ見てたぜ」
と苦笑いしながら返してきた。そこから数秒すると顔色を急に変えて話を切り出した。
「あ、そうだ。陶馬、朝ニュース見てきたか?」
「なんだよ急に、見てないけど?」
俺が少し驚いて返すと漆平は慌ててスマホを取り出し、何かを調べてこちらにそれを見せてきた。
「これだよこれ!やばくないか?やばすぎないか?」
漆平が見せてきたのはニュースの記事だった。
「えー何何、昇神高校付近で……通り魔事件犯人未だ逃走中だぁ……?」
事件発生時間は四月七日の十一時。どうやら昨日の夜の出来事らしい。
「そうだよ!通り魔だぜ!?怖くね!?」
と慌てふためいた後、
「ったく……。なんでこんな時なのに学校あんだよ……」
と漆平はため息をつきながら言った。
「確かに怖いけどさ、あー、ほらあそこ、警察だっているしそんな慌てなくて良いんじゃないかな」
どうやらニュースは本当らしく、学校まであと少しの所には警官達が居る。漆平はよほど心配らしく、いつも高いテンションが嘘のように低くなっている。
俺も落ち着いて振る舞っていたが内心は心臓バクバクだった。頼む、どれだけ物騒になってもゲームだけは安心して出来る世の中であってくれ。
テンションの下がった俺達はその後あまり口を開くことなく学校に向かって歩いて数分、校門を越えた辺りに人だかり見えた。恐らくクラス発表紙配布が始まったのだろう。その人だかりを見るだけで俺は気分が悪くなった。
するとさっきまでうなだれていた漆平が急に元気になり、
「そうだっ!クラス発表があんだ!せめてそれだけでもっ……!」
と言った。まったく、喜怒哀楽の激しいやつだ。
でもまあ、こいつは俺と違ってコミュ力がとんでもない。だからまだ希望が多い。羨ましい限りだ。
「ああっ、君たちちょっといいかな……?」
俺達が校門を潜ろうという時情けない男の声が聞こえた。
「えっと……なんすか?」
笑顔で気さくに答える漆平。そして焦る俺。
「聞き込みなんだけど、いいかな?あ、僕警察官の多川っていいます。」
そう言うと彼はドラマやらでよく見かける「警官のパカッとするやつ」を胸元から出し、こちらに提示してきた。
「すんません、ちっと急いでるんで」
と言うと漆平は早足で俺を置いて校門に入っていった。後で覚えてやがれイケメンテンパ。
「あ、えと、ご、ごめんねぇ。すぐ終わるからさ」
多川さんは冷や汗を垂らしながら作り笑顔で接してくれる。その良心で心が痛かった。
「あっ、はい、ど、どぞう」
俺がぼそぼそと発した言葉は聞こえるか聞こえないかギリギリの声量だった。一秒ほどあちらも戸惑って、
「あ、ありがとね えっと、最近この辺で怪しい人、とか怖い人、とか見なかったかな?」
と返してくれた。
「えっ、あー、わかんないです。す、すません。」
頼む早く終わらせてくれ。察してくれ多川さん。
「あっ、そっかぁ いやぁ、ありがとね。えと、学校頑張ってね」
良かった。俺の気持ちを察してくれたのか会話を切ってくれた。しかも応援までされちまった。
「は、はい」
と言うと俺は逃げるように学校に入っていった。
校門を潜るとすぐ横にあの裏切りテンパが立っていた。
「や、やぁ 捜査に協力なんて陶馬くんはえらいなー」
とちゃらけた表情で言ってきやがった。だがだんだん苦笑いになり謝った。
「わわっ悪かったって!昼飯おごっから!な?な?」
「ったく……わぁったよ」
渋々承諾し、俺達はクラス発表紙を貰いに職員室に行った。
「失礼します。クラス発表紙貰えますか?」
漆平が言うとタバコ臭い白衣の先生が俺達に紙をくれた。
「あざっすー。失礼しました」
職員室の扉を閉めてすぐ俺達は自分の名前を探した。
「伊藤、上西、歌川、大久保、葛飾……おっ!俺達一緒だな!」
「おおマジ?宜しくな。組は……っと3組か」
とりあえずクラス替えと言う名の博打に勝利した。これで一年安泰だ。やったぜ。
「やっべぇ!もうすぐチャイム鳴るぞ!」
漆平に言われ、時計を探して見ると授業3分前まで来ていたので、俺達は走ってクラスに向かった。
「ふぅ、間に合ったぁ!」
ざわざわとしている教室に入り、自分達の机を見つけて座っても先生はまだ来ていなかった。
俺がいつもの様に机に顔を伏せるとすぐにチャイムがなり、クラスが黙り始めた。そしてその後すぐ教室の扉が開き、俺の鼻腔をタバコの臭いが刺激した。
先ほど職員室に居た白衣の男「白金 刃也」先生だった。するとまたクラスがざわつき始めた。
「担任白金かぁ」 「うわタバコ臭っ!」 「今年は寝れないなぁ」
「うっせぇぞお前ら! ったく……。一応自己紹介。3組担任の白金刃也だ。教科担当は科学。一年間よろしく」
無愛想で、授業中眠る者には容赦なく本の角で叩き起す、面倒なことは嫌いで黒板にあまり文字を書かない。とんでもない先生だ。
「はぁ……。早速だが始業式だ。廊下でて並べ」
先生が気だるそうに指示を出した。事件の事や学校の事でガヤガヤと騒がしいが、なんとか全員並び終えると体育館へ向かった。
校長のひたすらに長い話を聞き終え教室に帰るとすぐにチャイムが鳴り、白金先生が話し始めた。
「校長の言う通り今日は事件やら何やらあるんで即下校だ。寄り道しない様に頼むぞ! んじゃ、解散」
校長の話だと「保護者と話し合った結果」らしいが、恐らくは「P.T.A」がごねたという事だろう。今日の即下校に併せ、危険な為一週間ほど休校になるらしい。こういう時はありがたい限りだ。
「なんか慌ただしいよな」
俺が帰る用意をしていると漆平が俺の机にきた。
「そりゃな。早く帰さないともし在校生が被害にあったら学校の責任だ。とりあえず帰ろう」
「お、おう そだな」
――――学校の指示もあり、俺達は真っ直ぐ自分達の家に帰った。
「んじゃなー」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
漆平と帰ると俺の家の方が先に来るので家の前で別れた。家に入ろうとすると、家の扉の前にスタンダードな緑色をした、自分のものではない鉛筆が落ちているのに気がついた。
「なんだこれ? なんでまたこんなとこに……」
謎の鉛筆をどうしようかと悩んだ結果、とりあえず持って置くことにした。
――――次の日、俺は暇だったので漆平を呼び出し、一駅向こうの商店街にあるイタリアンファミレス「トラゼリア」に行こう、と誘った。
「おっすー てかどうした?急に飯行こうなんてよ」
忘れたとは言わせねぇぞテンパ野郎。俺が優しい警察の人とキョドりながら話した、と言う俺の黒歴史の一部をな。
「昨日の昼飯の件だ! 昨日はそんなん言える感じじゃ無かったから日を改めてと思ってなぁ……?」
「あ、なるほどな……そんな気はしてたけど……」
漆平は財布を取り出し中身を見ながらため息を漏らした。
「……約束は約束だろ?」
親友よ、俺に見知らぬ人と話させた罪は重い。慈悲はないぞ。
「わかったっつーの! 払うよ!払いますよーだ!」
店内に入るとまだ人は少なかったので、すぐに席に案内された。
店員さんに食べ物を頼むのもしんどいのでそこら辺を漆平に全投げし、頼んだ物を待っている途中昨日の鉛筆の事を漆平に話した。
「家の前に鉛筆ねぇ……不思議なこともあるもんだなぁ。んでその鉛筆はどうしたんだ?」
「そのまま置いとくのも変だし、家にあるよ。どうすりゃいいか解んないしさ」
話をしながら俺は自分のカバンからスマホを取り出そうと探していた。するとコロン と音がして床に昨日の鉛筆が落ちた。
「っ!? 言ってた鉛筆だ……。用意ん時にでも入ったか?」
驚いて鉛筆を拾うと漆平が、
「なんかこえぇな……鉛筆の呪い……!?なんつってな!」
と笑いながら俺に言い、続けて
「あ、呪いで思い出したけど、昨日の恐怖映像のやつ見たか?すごかったぜ!」
と話をし始めた。相変わらず好奇心旺盛でとても楽しそうに話している。こういう奴がモテるんだろうなぁ。羨ましい。
「あ、そういやお前、霊感あるんだっけ?すげぇよなぁ……。って事はもっとすげぇの見た事あったりして!?」
こいつの言う通り、確かに俺には霊感がある。と言っても数回、しかも大人しいのを見たことがある程度だった。
「んなことはないよ テレビでやってるような恐ろしい体験はまだしたことないし、そんなとこ別に自ら行きたい訳でもないしな」
と言うと漆平は少し気を落とし、
「なんだぁそうなのかぁ。つまんねーの」
と唇と鼻の間にストローを挟みながら言った。
こうやってバカやる子供っぽい所も女にモテるんだろうなとしみじみ思った。こいつといると、いつも自分のモテない理由がわかる気がする。などと考えていると頼んでいた品々が運ばれてきた。
頼んでいた料理を食べ終え、ゆっくりしていると漆平が話を切り出す。
「なぁ、この後暇か?どうせなら遊んでいかね?」
「んー、そうだな……。ゲーセンでも行くか」
次の行き先が決まった俺達はファミレスを出て、ゲーセンに向かうことにした。
「んじゃ、会計よろしくなー」
「はいはい っと、はぁ……」
漆平に会計を任せて俺は先に外に出た。奢ってもらうってなんて気持ちがいいのだろう。
にやけ顔でトラゼリアの外に出ると、その笑みは一瞬で消え去り、血の気が引いた。
「んだよこれ…………」
三、四メートル先に鮮血を腹部から垂れ流す人が倒れていて、その人の前には真っ赤に染まった服の男が立っている。周りには叫ぶ者、踞る者、泣きわめく者。俺は目の前の状況が殺人現場だと解り、恐怖を感じた。だがその恐怖が討ち消える程更なる恐怖が俺を襲った。鮮血の滴る服を着た男がこちらを向いたのだ。俺はアニメやゲームでしか聞いたことの無かった「殺気」を現実で感じた。ヤツは俺を殺す気だ。そう感じると俺は一心不乱にその場から逃げ出した。
やはり予想は的中していた。俺が逃げ出した後すぐに後ろから走る音がした。
だが幸いにもヤツはあまり速くなかった。全力で、とにかく全力で走った。死にたくない。ましてや殺されるなんてことになるなんて、嫌に決まっている。怖い、死にたくない。これ以外の事は考えられなかった。
だが俺はここで、命に関わる選択を誤る事になった。
逃げている内、何処が西で何処が南かすら解らなくなった。そして俺はビルとビルの隙間に入り込んでしまったのだ。ビルの森を駆け抜けに駆け抜け、遂に進んでいた先は壁だった。終わった。
「はぁっ……はぁっ……ここで……終わりかよ……」
完全に追い詰められていた。完全な路地裏。人がいるはずも無い。そして自分を守るものは何も無い。 俺の前には殺人鬼。背中には壁。今置かれている状況は猿でもわかる。
「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」
叫ぶ他無かった。俺は、死ぬんだ。
目の前が、真っ白になった。
俺が最後に見た景色は、鉛筆の光る姿だった。
続く
初めましてJenovaです。
練り上げていた構想が少しずつ固まってきたので、文字にまとめて行こうと思い始めました。
これから頑張って投稿していくつもりですので、気に入った方は是非見届けて下され。
戦闘は次回から始まります。
ただの日常じゃねーかと思った方、すいません。
もう少し我慢して頂ければ出てきますので、次回安心して見て下さい!
感想等頂けるととても嬉しくて100m位飛び上がっちゃいます。
批評、酷評等もどんどんして下さい。次への進歩へと繋げます。
完結目指します。宜しくお願いします。