エピローグ 「序章の終わりと闇の胎動」
引き続きグロシーン有り
今章最もグロイんでお気をつけを
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「くそっ!! なんなんだあのクズ共は!! あの女もあの女だ! この僕がやさしくしてやったというのに……!!」
カキス達がピースに着いた頃、イラプドは靴跡が残る顔を抑えながら地下への階段を降りる。
「殺し屋の男もいつの間にか逃げているし……やはり、ローブの男の言っていたことを信じるべきじゃなかった!!」
今、イラプドは地下へ向かっている。その理由は、カキスという平民が貴族であるイラプドに手をかけた映像を確保するためだ。その映像を”仲間”に広めてカキスを社会的に抹殺しようと企んでいるからだ。
「くくくっ……、待っていろぉ……」
下卑た笑みを浮かべ、カキスが使わなかった両手開きの扉を開ける。
ピチャ……。
「?」
妙に重く感じる扉を開けると、何故か水音がした。ヴィジョン関連の物は水に弱いと聞いたのてそういったものは一切持ち込んでいないはずなのに、水音がするはずがない。
扉を開けるために床に置いた灯りをとって確認しようと下を見る。ロウソクの頼りない明かりに照らされた床は……
「うひゃああ!?」
バシャン!
血によって紅く染まっていた。
床全体を覆う程の血の量に足を取られたイラプドは尻餅をつく。血からは生温かさを感じ、今浸かっている液体が否応もなく新鮮なモノだと理解させられ、頭がおかしくなりそうになる。
急いで立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
「ヒ、ヒィ! なんで、なんで立てないんだよぉ!? ……くそ、血のせいでうまく立てない。これじゃあまるで……」
「まるで、血が意思を持って纏わりついてくるよう、か?」
「だ、誰だ!?」
思ったことを先に口に出されたイラプドは、部屋の奥に向けて叫ぶ。
パシャン、パシャン、パシャン、パシャ……。
「……」
水音を立てながら闇の中から浮き出てきた人影は、黒いコートを着た男だった。仮面をしており、赤と黒のとぐろの模様で、空けられた穴から見える目は、殺意とも、悪意とも違う眼だった。まるで、感情を失くした様な眼球。髪の色は暗くて見えない。
男の黒いコートは転々と血の跡があるのに、仮面には一切付着していないのが、逆に不気味だった。
「お前がこれをやったのか!?」
「……他に誰がいると?」
男が肩を竦ませると、男の右手の何かが揺れる。どうにか目を凝らすと、殺人ギルドの男の生首だった。
「ヒ、ヒィィィ!!?」
ポタポタと切られた首からは血が滴っている。それこそ、先ほど切られたかのように。
「あぁ、コレか? コレは俺の仕事を邪魔したんでね。ホラ」
バシャン!
「うぶっ! ゲホゲホッ! ……ヒィ!?」
男が頭をイラプドの目の前に投げると、血が跳ねてイラプドの顔にかかる。投げられた殺人ギルドの男の顔は、目を見開いて驚愕している。逃げているところで殺されたのか、何かされたのか。
「し、仕事って、こんな風に家の人間に何も言わずに部屋を血まみれにすることなのか!? 大体お前は誰なんだ!?」
「……『アルテミス』」
「はぁ?」
「今の我に名など無し。あるのは王女から受け取ってやった名、『パーヂコード0・アルテミス』のみ」
「パーヂコード……ま、まさか!?」
「そう、第四王女の私兵にして、国の裏の最凶武力組織『パーヂコード』だ。……貴様のような奴が知らぬはずがなかろう?」
「僕は……なにもしていない、していない!! だから許してくれぇ!?」
「……これから死に逝くものに貸す耳を俺は持たん。自らが犯した罪の重さに飲み込まれるがいい」
「た、たのむ!? たのガボッ! ゴバァ! たす……ガ、ボ……」
イラプドの命乞いを、死しか映さぬ瞳で見下す。抵抗らしい抵抗もできずに深紅に飲まれたイラプドを最期まで見た後、男は地上への階段を上りながら通信石を取り出す。
「コード・アルテミス、先程ターゲットを粛清した。これにて特務の終了報告とす」
『了解です。お疲れでした、アルテミス。ですが、直接王女にご報告しなければ特務終了と認められません。忘れましたか?』
「クレンチのジジィじゃあるまい。そう簡単にこの激務を忘れるとでも? ……むしろ、きれいさっぱり忘れたいぐらいだ」
『私に文句を言われても、特務の内容を決めているのは……』
「解っている。だが、直接報告をする義務はナンバー0である俺にはない。姫様のお守りをしてやるためにこの場に立っているわけではない」
『その言葉、姫様に対する侮辱と受け取られかねませんよ。……まぁ、だからといって、あなたを裁ける人は、少なくともパーヂコードの中にはいないでしょうけど』
「ふん……」
男はつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「しょうがない……。姫様にこう伝えといてくれ。『せっかく会うなら、こんな鉄くさい恰好は嫌だ』とな」
『絶対よ、アルテミス! ……姫様、はしたないですから! ……だって……』
ブツッ
言い合いが始まり、長くなると判断した男は無言で通信を切る。そして、ちょうど地上に戻った男は地下への道を閉じると、床にある影に足から沈んでいく。
トプン、という音とともに、男の全身が飲まれ、あたりは静寂と血の匂いが支配し、家の主も使用人さえも存在しない廃館とかす。
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「若、あの殺人ギルドの男が失敗しました」
「……やはりな。あの程度の男では生きて情報を持ち帰ることすらもできないか」
「はい。そもそも、アレがあの程度の男にどこまで本気で戦ったどうか……」
「……もう終わった話だな。それより、次をどうするかだ。今、アイツと接触するのは控えるように伝達しておけ」
「もうすでに我々が動き始めたのはバレバレでしょう? 今更取り繕っても無駄なのでは?」
「逆に言えば、動いたら殺られるということだ。継続して動けば、そこから更に動きを読まれ、全てを潰されかねん。正面対決するまでまだまだ時間はある」
「了解しました……ですが、どうしてもアレの実力が実感できないのが不安です」
「お前に渡した資料は?」
「9~12歳までは目を通しております。単なる子どもなら神童と呼ばれてもおかしくないでしょうが、あの一族の人間ならできて当然の内容ばかりの資料でしたから」
「三年目と四年目は?」
「はい?」
「アイツが本家を出てからの三年目と四年目の資料を……ちょうど手元にあるようだな。見てみるがいい」
「はっ……、これは……!?」
「次からは資料には全て目を通しておけ」
「すみませんでした、若。……この資料に書かれていることを下層の者達には?」
「秘密にしておけ。逃げだしかねんからな」
「はい。それでは」
「うむ。………………ふっくっく。伊達に初代の名を受け継いでいないということか。まったく、楽しませてくれる……!!」