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表裏の鍛治師  作者: かきす
第三章 「狂乱を受け継ぎし者編」
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第十二話 「踏み入れる資格」

間隔が開いてしまいましたが、まだまだ開きそうです……。


 

 朝日が昇るよりも早く、俺は目を覚ました。


「……随分と、朝早くから仕事を始めるものだな」


 眠気は一切ない。不穏な気配を察知した瞬間から、もう脳は分析を始めている。

 敵はミストレスが送ってきた刺客。正確には、ミストレスが要請した覇世家の戦闘員だ。そいつらの数はざっと二十。誤認の若者を相手するにはかなりの人数だ。まぁ、原因は俺なのだろうが。

 俺は対象が起きたということに悟られる前に、再びベッドに寝転がる。当然、寝起きドッキリを仕掛けられることを知っていながら二度寝を敢行する優しさは俺にはない。

 なので、俺はベッドから動かずに戦闘準備を進める。

 まず、場所を決める必要があるこの家を中心として戦闘するつもりはない。”仕掛け人”が通ってきている方向には、木々の開けた場所がある。開けた場所といっても、隠れる場所はあるので、奴らを釣りやすい。

 そこで戦うとして、武器はどうするか。

 ベッドの下には何も隠しておらず、今手元にある武器は酸性の薬品と投擲用ナイフぐらいだ。薬品は邪魔な草木をどかしやすくするためにある。ので、人体に浴びせかけたところで大した殺傷力はない。また、投擲用ナイフも二十人を相手するには数と切れ味が心伴い。

 だから俺は、布団で手元を隠しながら短く詠唱を口にする。


「『創造バース』」


 思い描くのは、なんてことない普通の刀剣。片刃かつ細身の剣を精製し、それを右手に持つ。そしてもう一つ、同じ武器を作り出す。この程度の『創造』であれば、ほぼ魔力を消費しない。さらに、これまでの経験から、短い期間で大量に『創造』しなければ非常に簡単な武器ならリスクも小さな影響が出るだけ。例えば、


「っ。眠気覚ましにしてはちょいと刺激が強すぎるな……」


 激痛が脳内を走り抜ける。まるで、俺が描いた脳内設計図をむりやり引きちぎられたような痛みだ。こればっかりは、どうしようもない痛みなのだ。俺のお得意の痛覚遮断をしても意味はない。変わらず頭痛はうっとうしく存在を主張してくる。

 だが、これで準備は整った。

 俺は寝たふりを止め、完全に気配を消す。俺は普段から気配を薄めるようにしているが、本職の人間が注意していれば、気配が消えたことなどすぐにわかるだろう。事実、一瞬だけ向こうの動きが止まる。俺はその間に防刃コートを羽織り、窓から飛び降りた。

 音もなく着地し、作り出した二本の内一本は左手に持ち、もう一本は腰の後ろに差す。


「朝飯にも早いんだがな……」


 ぼやきの内容とは裏腹に俺の表情は至って真剣だ。これから戦う相手は赤角の取り巻きより強い。赤角ほどではないが、二十という数が赤角単体より面倒が多い。

 頭の中でスイッチを切り替える。

 それだけで俺はいつでもどこでも……。


「……敵は二十。言い換えればたかが二十。さっさとけりをつけるか」


 ――人殺しに戻れる。


 ○ ○ ○


 ――二十人の相手は結局のところ、たかが二十人だった。


「…………」


「シッ!」


「フッ!」


 左右からの同時攻撃。左は短剣、右毒塗りクナイ。その毒の即効性は先程利用させてもらった時に確認してある。一秒も経たず全身に神経毒が回り、動けなくなる。動けなくなった奴は、すでに息の根を止めてある。

 俺は後ろに下がらず前に距離を詰める。敵の数はまだ半数以上。ここで後退すれば逃げ道がつぶされていく。影身はあえて使わず、左の男の懐に潜り込み右足に剣を突き立てる。

 ズシュッと足から鮮血が噴き出ることもいとわず、腕が振るわれる。縦に一閃されるが、脇を飛びぬけ回避する。脇を抜け距離を開けただけなのですぐにでも追撃が迫るだろう。しかし、男は足を踏み込もうとしてガクンと体を止める。


「ちぃっ!」


 足に刺された剣が抜けていない。


「無理やり抜けば、もうその足であるっことはなくなるだろうよ」


 俺が刺した場所はちょうど骨の付け根だ。骨と骨の隙間に挟まり、簡単には抜けないようになっている。もし無理に引き抜けば、骨の形が崩れ歩くだけでも激痛が走り、着地のバランスも悪くなる。

 だが、こいつらはそれでも平然とそれをする。


 ブシュッ!


 無事な足で地面を蹴ると同時に、剣が乱暴に抜かれる。彼らは生きて帰ってくることを望まれていない。ここで俺たちを殺し、自分たちもすぐにその後を追う。生きて帰るということはそれだけ痕跡が残るということ。バックにある一族は、それを許容しない。

 心臓を狙う刺突は指で挟みこみ、くわえられた力を利用して相手の体を一回転させる。闇夜に紛れるように漆が塗られたナイフだが、俺の視界には十分すぎるほど映っていた。

 地面に背中をぶつけさせ追撃をしようしたが、三方向からさっきを感じ大きく飛びのかざるを得なかった。


 シュッ、キキン!


 先程まで立っていた場所に棒手裏剣が時間差で飛来してきた。正確には俺の頭部を狙ったそれらはお互いに身をぶつけあい金属質な音を響かせあう。

 俺は着地と同時にそれらをすべて回収し、身を隠している連中へと正確に投げ返す。

 当然、ただ投げ返して当たるとは思っていない。なら何故投げ返したのか。


 ボボンッボンッボンッ!


「爆薬仕込とは、古風なものを……」


 俺は木陰から飛び出してきた四方向同時攻撃を軽くいなしながら呟く。返答は期待していなかったが、返ってきたのは地面を突き破り足元から襲い掛かる炎の渦だった。連続しての吹き上げに次々と地面を飛び移る。

 地面、木、死体、合間を狙って飛来してくるクナイ。

 防戦一方の状況だが、時間がかかり不利になるのはあちらだ。俺は別に一日中この調子でも構わないが、連中はそうもいかない。明るくなれば、夜戦用の装備は逆に目立つ。いくら平地に比べ物陰が多いといっても、だ。

 更に言えば、援軍が来る可能性もある。今は俺だけだが、いずれ他の五人が目を覚まし駆けつけてくれば、相手の優勢は崩れる。

 そもそも、今ですら優勢を保てていないのだから。


「そろそろ……終わらせるか?」


 もう少し時間をかけて殺し合いの感覚を取り戻したかったが、すでに空が白み始めている。コルトならともかく、ゆりたちに来られては動きづらくなる。そうなる前に、全員始末する。

 敵からすれば大胆な発言だが、それに付随する殺気が現実味を持たせる。

 それだけで、敵全員の動きが鈍る。

 その隙を逃すはずもなく。


「流練流靭鞘じんしょうの型、其の一『羅剛らごう』」


 直近の男に全体重と魔力を乗せた県を上段から振り下ろす。守りもせずに受ければ体が二等分される一撃に、男は慌ててクナイを十字に重ね防御の構えをとる。

 人は衝撃から身を守ろうとするとき、身を固める。しかし、それは一瞬で解ける刹那の緊張であり、衝撃が過ぎれば次は弛緩する。瞬間に力をためるからこそ、反動で大きく緩む。

 渾身の力を叩き込むのなら、そこを狙うべきだ。

 俺は素早く鞘を掴み取り男が壁にしようとしているクナイにぶつける。突然視界に入ったモノに男の体が強張る。防衛本能が反応したのは威力などない鞘であり、それは簡単に弾き飛ばされた。俺の耳を掠め、朝焼けの森の中に消えていく。

 俺はそれを追うことはしない。今、目の前にある絶好のチャンスを活かすために――


「……まず、一人」


 俺が刃についた血糊を払う暇すら与えず、二人、いやさらにその後ろに一人。合計三人が押し寄せてくる。すでにその動きに鈍さはなく、殺気に慣れたようだ。


「流練流流水りゅうすいの型、其の一『斜陽しゃよう』」


 手前の男は社用で地面との口づけを楽しんでもらい、奥の男には剣を投擲する。

 キィンという甲高い音で弾かれた県は放置し、懐から投擲用ナイフを二本、片目と喉を狙って投げる。かろうじて喉を狙ったナイフは叩き落としたが、右目をかばうことは間に合わなかった。

 眼球を押さえ大きくのけぞる男。その顔面から不自然に生えているナイフを、俺は容赦なく蹴りつけた。ビクンッ! と一度身を震わせ、後ろ向きに倒れこむ。


(むっ。これは……!)


 その男の体から、魔力の昂ぶりを感知する。地面との口づけに満足し立ち上がりながら切りかかってきた男の胸倉をつかみ、盾代わりにかざす。


 ボバァンッ!!


 死んだ後に魔力が集まり爆発を起こしたのは、奴が体の中に爆弾を用意していたからだろう。人が死んだとき、魔力はすぐには消えない。完全になくなるまで猶予がある。それを利用し、死者の魔力を凝縮し爆発させる爆弾がある。それはとっくの前に禁忌とされた技術であり、国同士の戦争ですら、それを使用することはない。

 あまりに非人道的すぎると言われた手段ですら、こいつらは平気で使ってくる。


 サァァァァァァッ。


 血の雨が辺りを真紅に染め上げる。鉄の臭いが鼻腔をふさぎ、目につくもの全てが赤い。ばくはつの直撃は避けたが、この雨も厄介だ。

 俺はコートのフードを目深に被り口を布で塞ぐ。おそらく、この血には毒が仕込まれている。少量なら問題ないだろうが、触れ続ければ肌がただれる。あいつらがよくやる手管だ。毒がある証拠に、生き残っている者たちは口元の黒い手ぬぐいを一枚増やしている。


(随分と準備がいいことで)


 俺は資格から飛び込んでくる男たちの喉を切断しながら、意識を一番遠い男に向ける。その男の魔力は数秒前から高まり続け、今は静止している。詠唱が終了し、いつでも魔法を放てるということ。完璧なタイミングを狙っているのは、消費魔力が大きく次がないから。

 しかし、俺に察知されている時点で、次どころか今すらない。

 時間稼ぎの連続特攻が途切れた瞬間に、影身で一息に距離を詰める。まだ剣の間合いからはほど遠い。

 残像を残し姿を消した俺を全員が探す中、魔法を制御していた男の背後から、心臓をえぐる。念入りに刺したまま剣先を回すように円を描いてから、また姿をくらます。

 鏡華水月きょうかすいげつの五の型、『霊身れいしん』は影身の上位版と言ってもいい。影身は相手の動揺や反応を遅らせるためにわざと残像を残す移動方法だが、霊身は相手から姿を消す技だ。相手に気づかれることなく急所に一撃を加えることや、姿を見られたくない時に使える。ただし、影身に比べ移動できる距離が短い。今のおれでは剣の間合いより少し遠いぐらいしか移動できない。それに加え、影身と違い移動中は無防備になる。影身が足さばきのみで行うのと違い、霊身は全身を使う。ただ素早く移動すればいいのではなく、相手の意識の裏に入らなければならない。使い分けが重要だ。

 今回は見通しが悪い状況だから通用した。これがもし、ただっぴろい草原などであれば、もしかしたら接近する前に迎撃されたかもしれない。

 背後からの一撃を受け死んだ味方を見て、男たちは中央に集まろうとする。お互いに背後をカバーしあうことで不意打ちを防ぐ狙いのようだ。しかし、あと少しで集結するというところで、俺は姿を現した。

 男たちが集まろうとしていた地点に。


「流練流靭鞘の型、其の二『円剛えんごう』!」


 ブォッ! バキバキバキバキバキキッッ!!


 敵の中心に表れた俺は、すでに剣を振りぬいていた。

 ただの回転切りのように見えるその一振りは、周囲の木々をすべてなぎ倒していく。風の魔力で操り、直接剣戟を受けたような威力の風を発生させたのだ。

 それにより足場だったり隠れ蓑扱いだったモノがすべて取り除かれ、残り十一人の姿が露わになる。


「……もう夜は明けた。お前らは、消えてなくなる時間だ」


 突然視界が晴れたことに困惑する十一人を見渡し冷たく言い渡す。その瞳には十一の死だけが、映っていた。


 ○ ○ ○


「思ったより、楽しませてもらったよ……」


 俺は物言わぬ二十の死体に対して、まあまあだったとの評価を下し、剣を鞘に納める。黒かったコートはすでに変色し、毒の影響か、少し生地が薄くなっている部分もある。

 まさかそのままの格好で帰るわけには行かないので、死体を片付けるついでにそれも地面に埋める。少々高かった代物だが、別に資金に余裕がないわけではない。軽くしか埋めていないので、死体は血のにおいをかいだ野生動物たちがおいしくいただくだろう。

 味はともっかうとして、普段の彼らからすればそうそう味わうことのない獲物だ。もしかしたら、ごちそうになるのかもしれない。

 後始末を終え、スイッチを切って一息吐く。


(……少し、疲れたな)


 肉体的にではんく、精神的に。

 これだけ長くスイッチを入れたのは、かなり久しぶりのことだからだ。

 後片付けも全て終え、肩をぐるぐる回しながら帰路につく。開けた場所から獣道まで戻り、街への道と隠れ家に続く道への分かれ道で、立ち止まった。


「……こんな朝早くから散歩とは、ちょっと年寄臭いんじゃないか、ミリア」


 隠れ家への道から、ミリアが歩いてきた。


「それを言うならあんたこそ……。どこで、何をしていたの? さっき起きて散歩しているってふううには見えないけど」


「秘密の特訓ってやつだよ。ほら、俺が堂々と修行してるのは違和感があるだろ?」


 疑いのまなざしを向けてくるミリアに、俺はさらりと嘘を口にする。半分ぐらい冗談だが。


「どんな特訓をしたらそんなに血なまぐさくなるのかしら?」


 ミリアは鼻を摘み、露骨に嫌そうな顔を向けてきた。俺の鼻はすでに血の臭いに慣れてしまいきづかなかったが、どうやらなかなかきついかほりを醸し出していたようだ。


「って言われてもな。襲われたのはこっちの方だ」


 なんとはなしに腕のにおいをかいでみるが、さっぱりわからん。そこまでひどい臭いか?


「まぁいいわ。帰ったら即刻お風呂に入って」


「そうするよ。猪臭いとかまで言われたら、さすがの俺も傷つく」


 ミリアは俺が戦闘していたことを、おそらく知らない。だから、例え血のにおいがしたとしても、それが野生動物だと思っているはず。まさか、人体から出たものとは気付いていない。だから、俺はほとんど嘘をつかずに話の流れに乗った。

 人差し指を立ててそう言われては仕方ない。どちらにせよ風呂に入って全身を洗いたかった。コート越しとはいえ、あれだけの量の鮮血を浴びたのだから、さっぱりしたい。精神的に疲労を感じているのもそこらへんだな。

 俺は気を使ってミリアから少し距離をとった。朝露に濡れた草たちは俺に踏まれても力強く背を伸ばし続ける。


「……で」


「ん? どうした?」


「そろそろ正直に何があったのか話しなさい」


 ぐいっと俺の腕をつかみ引き寄せたミリアが、真剣な表情で俺に真実を問いただした。

 俺は一瞬記憶を漁りミリアが周囲にいたかを思い出そうとする。だが、そんな気配や視線は感じなかった。ミリアのこれは、カマかけに過ぎない。

 小首を傾げ、誤魔化す。


「誤魔化さないで。……これでもあんたとは一年は生活したんだから。誤魔化してるかどうかぐらいは分かるわよ」


「……よく言うよ」


 俺は肩をすくめて返す。ミリアは俺の誤魔化しにきづいてなどいない。ただ自分の直感を頼りにしているだけだ。それこそ、一年の付き合いでも見分けることができる。俺の隠蔽はそう易々と見破らせはしない。

 俺のすべてを見抜くことができるとしたら、それはゆりだけだ。少なくとも、現段階では。


「一年つっても、正確には九か月半だ。半年と少しで、そう簡単に考えを読まれてもホラーだ」


 俺はそのことを口にだして指摘する。

 ミリアは静かに首を縦に振った。


「……そうね。あんたの嘘は一級品。でも、私にとって大事なのは、あんたが隠し事をしていて、それを否定ないことよ」


「はっ。隠し事の一つや二つで……」


「一つや二つなんかじゃないっ!」


 激昂。

 激しい感情の昂ぶり。 

 ミリアは、俺に対する怒りを眼光に込めて睨みつけてくる。


「私にとっては、一つや二つじゃないのよ……いろんなものが詰まって交じり合って……」


 なんだったら胸倉をつかんできそうな剣幕のミリアを見下ろしていると、そこに怒り以外の感情が含まれているように見えた。

 もし純粋な怒りだけだとしたら、目じりにある透明な雫は何なのか。

 ミリアが自分で言っていた通り、複雑に絡み合っている。


「それが詰まって、大きな嘘を作っている。それが、一つや二つなもんですか……!」


「……嘘と隠し事は違う」


 俺は複数の嘘を”使い分けている”。だから、一方からの目線では決して深層を除くことはできない。しかし、それによって隠されていることは、シンプルだ。自分で評価しても、くだらないほど、シンプルだ。

 ゆりにひた隠しにしている『ウェポンバース』のリスクだって、突き詰めればシンプルだ。とても危険な力。ただ、それだけのこと。


「嘘は隠し事にかけるベールだ。ベールを何枚重ねようが、その下に隠された真実は変わらない。始めから一つだけだ。」


 ミリアの視線を正面から見つめ返す。ただそれは、ゆりに向けるような優しさや遠慮などない。

 無情に、無感情に事実を伝える事務作業。


「……なんでそうやって、あんたは……!!」


 ギリッ!


 ミリアの、俺の腕を掴む力が増す。爪が布越しに俺の表皮を傷つける。今見れば、きっとそこには傷跡が残っているだろう。風呂に入れば沁みることだろう。しかし、結局はそれだけだ。

 ミリアの想いは、布越しにしか俺には伝わらない。俺とミリアの間には、それだけの距離がある。

 だから届かない。

 だから、届かせない。


「……俺としてはな」


 ふっとゆりの顔が思い浮かんだ。その顔はいつも俺に向けてくれるふやけた笑顔ではなく。泣くのを我慢している顔だった。


「真剣な気持ちを向けられれば向けられるほど、悲しくなるんだ」


 だからだろうか?

 こんなこと、言うつもりはまったくなかったのに……。


「どういう、こと……?」


「……こう見えても、人付き合いは苦手なんだ」


 冗談を混ぜ合わせて、少しでも本音を薄めようとすうr。薄めようとするが、たぶん……効果はない。


「だから、否定されるのが怖くて一歩引いてしまうんだよ。拒絶されるのが怖くて、手に入れた居場所が崩れるのが恐くて……」


 ――これ以上はダメだ。


 冷静な俺が静止した時には、すでに遅かった。もう、口にだしてしまった。それは夢想でも空想でもなくなり、現実となった。それを耳にしてしまった人物がいる。

 あれだけ記録を残すことに消極的だった俺は、自我を見せようとしてしまった。


「だったら……」


 そんなことをすれば、状況は悪化する。


「私が……崩れた居場所に――」


 それは、一人の人間として生きる方向へ、修正されてしまう。


「私はカキスを拒絶なんかしない。あんたを受け止めて――!」


「――ミリア」


 ――。


「……それが、俺には怖いんだよ」


 思考が再起動されていく。

 制御から逃れた思いを鷲掴み抑え込む。二度と湧き上がってこないよう、厳重に縛り付けて心の奥底へ送る。

 そしたら、いつもの仏頂面が自然と浮かんでくる。


「中途半端な思い出だけで俺の隠し事が見れると思わない方がいい」


 俺が六年分の”ベール”を重ねた隠し事は、ゆりですら全容を知らない。ゆりには六年分のベールのはぎ方がわからないのだ。

 俺はその一部のはぎ方を知っているミリアに忠告する。


「その方が、悲しまずに済むかもしれないぞ……?」


 そう言い残して立ち去る。ミリアは何も言い返せず俺を見送る、


「――ちょっと待ちなさい」


 ガッ!


 ……というところで再度腕を掴みなおされた。


 ○ ○ ○


 ゆりはいつも通りの時間に目を覚ました。起きてすぐ、抗い難い眠気に負けぬよう上半身を起こし、しばらくそのままでいた。


「……おはよう」


 誰もいない部屋で、ゆりはおはようと言った。

 しかし実際は、一人ではない。正確には部屋ではなく、ゆりの中にいるのだ。

 自らの中ですでに起床していたもう一人の声は、ゆり本人にしか聞こえない。他人の心の声がわかるはずがないのと一緒だ。

 朝ののんびりとした静寂が少女を包む。やがて、心地よい温もりの中から抜け出し、寝間着を脱ぐ。

 ゆりはワンピースを好んで身に付けているが、別にワンピースだけという訳ではない。割合的にはワンピースや、それに属するものが九割を占めているものの、シャツにホットパンツも持ってきている。


「今日は黒ゆりちゃんどうするの? 久しぶりに一日中外に出てみる?」


 …………。


「あはは、そっか。え? 私? 私は別に気にしてないけど……」


 ゆりは着替えを終え、部屋から静かに出る。まだ朝早い時間なので出来る限り足音を立てぬように、廊下を歩く。


「……今日も一日、頑張ろうね黒ゆりちゃん」


 ふいに、ゆりが外を、それもカキスが戦闘していた方向を見た。ゆりには魔力を察することはできない。できても、視界に捉えておかなければ、簡単に見失ってしまう。

 そんなゆりがその方向をみたのは偶然か、それとも何か感じるものがあったのか。

 どちらにせよ、ゆりの表情は固かった


 ようやくヌケボーとモンハンが落ち着いたと思ったらアプリが忙しくなってきて頭を抱えている、かきすです。アプリっていうのが問題ですね。スタミナがあるのが悪い。

 次回がまだ半分ほどしかできておらず、その状態で投稿したくはなかったのですが……。はい、すべては執筆の遅い私が悪いんです……。




 最近、最近?Twitter始めました。かきすで探していただければ上がってくると思います。

 進捗をつぶやくかもしれません。まぁほとんどゲームの(というかつぶやかない)なので退屈かもしれませんが、連絡用にでもどぞ。

 それではまた次回。




 次こそは、次こそはもっと早く……!

 

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