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表裏の鍛治師  作者: かきす
第三章 「狂乱を受け継ぎし者編」
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第十一話 「異国での休日 後」


危うく三話構成になるところでした。


 カキスが森を抜け馬車に乗り込んだ頃――


「ふぅ……これで最後ね」


「はい。本当、ミリアさんって手際がいいですね」


「孤児院では最年長だった時期が長かったから。水谷さんは家でもこんなことを?」


「いえ、私の実家では。覇閃家、あ、カキス君の実家なんですけど、そこではよく家事のお手伝いをしてました」


「へぇ~、あいつの実家ねえ……。そこはかとなく感じてはいるんだけど、あいつの家ってやっぱり大きいの?」


「私たちの国では最大級に」


 隠れ家では、ゆりとミリアが洗濯物を干していた。カキスの話題が出ても、ゆる~い会話が続いている。

 本日の天気は一日中晴れで、空気が湿りだす夕方には風もなくなる。という情報をゆりがウンディーネから聞いたので、急遽全員分の洗濯物をすることになったのだ。精霊を便利な天気予報に使うのはゆりだけだろう。

 普段は各自が少しずつ洗濯をするのだが、昨日が慌ただしい一日で今日が休日ということが相まって、寝てしまっているからだ。朝早くに起きたのはカキスとミリアだけで、コルトやゆりですらいつもより二時間は遅い時間に起床した。


「はぁ~あ、せっかく二人きりの休日を楽しもうとしたのに……」


「あなたも干すの手伝いなさいよ……」


「あはは……」


 いつの間にか仲良くなっている二人を眺める切れ長の目つきをした少女が一人。その少女は真っ黒な衣装に身を包み、見た目に反して大きな胸をぐにゅりとつぶしながら腕を組んでいる。

 もちろん、少女とは黒ゆりのことである。不機嫌そうにしているのは、昨夜の時点でカキスについていくつもりだったにも関わらず、置いて行かれたことを根に持っているのだ。ゆりが起きなかったように、黒ゆりも深い睡眠に入っていたので、気を使ったカキスが起こさなかったのだ。


「大体、生徒会長様が起こしてくれればなんとかなったのに。一人だけ新妻感を堪能してそりゃあ満足でしょうね」


「だ、だれが新妻よ! そんなこと少しも考えてなかったわよ!?」


「わわ!? 支柱が、支柱が倒れますから……!」


 バスタオルのしわを伸ばしている最中にそんなことを言われ、ミリアは思わずバスタオルを握ったまま後ろを振り返って叫ぶ。その結果、支柱ごと引っ張るせいで倒れそうになった。ゆりがそれを小さな体で必死に留めるが、すぐにミリアに助けを求めた。

 ミリアは慌てて物干しざおを押し戻す。危うくもう一度一からやり直しになるところだった。


「あらあら。生徒会長ともあろうお方が、随分と動揺されちゃって」


 動揺する現況となった少女はクスクスと小悪魔的な笑い声を発している。


「べ、別に動揺したわけじゃないから……!」


 ミリアは黒ゆりと正面から向き合わず、事実を否定した。一瞬だけ、ちらりとゆりに視線を向けたが、向けられた本人は頭に?マークを浮かべるだけだった。


「ふ~ん」


 ニヤニヤ。


「な、何よ……?」


「別に。でもここら辺ではっきりさせた方がいいかもしれないわね」


 独り言のように呟かれたその言葉に、ミリアは嫌な予感がした。

 黒ゆりは座っていた木箱から飛び降り、迷いのない足取りでミリアの眼前に立つ。身長差で、黒ゆりがミリアを見上げる形になっている。ミリアの胸は残念なので、下からでもすっきりと顔が見える。


「何を、はっきりさせるのかしら?」


 上から黒ゆりを見下ろしたミリアは、自分よりも十センチ近く低いはずの少女に、微かな威圧感を受けた。それでも、今度は目をそらすことなく視線を交わす。

 一触即発の空気に、ゆりはどうするべきかわからずおろおろしている。それを尻目に、黒ゆりは目を細めながら口にした。


「どっちがお姉さんキャラに相応しいか、よ」


 …………。


「「は?」」


 ミリアもゆりも、黒ゆりの言葉の意味が分からず、呆けた声を漏らした。


「私の口調と、あなたの口調。似ていると思わない? その原因は、お姉さんキャラが被っているからよ」


 自信満々に有る胸を張って主張する黒ゆりに、キャラって何のこと? とはさすがのミリアも聞きにくかった。ふんすと息巻いているから余計に。


「ゆりちゃんはね、妹の皮をかぶった変態幼女キャラだから私との両立が許されるの」


「何の話!?」


 突然巻き込まれた挙句、不名誉なキャラ付けをもう一人の自分にされ、涙目になるゆり。かわいそうだとは思うが、否定できないミリアは黒ゆりに一つ疑問を口にしてみる。


「キャラってかぶっちゃだめの……?」


 ミリアからしてみれば、黒ゆりはそこまでお姉さんキャラに見えない。が、そこを指摘するとかみつかれると思いその発言は避けた。


「当たり前じゃない! 愛人枠がいくつもあると思わないことね!」


「いつから愛人枠をかけた戦いに発展してるのかしら!?」


 そもそも私そんな破廉恥な枠に志望した覚えないし! と微妙にかみ合わない展開の原因を理解するミリア。ただし、愛人枠がどうとかいう話には一切納得していない。


「当然じゃない。正妻はゆりちゃんで決定として、覇閃家次期頭首なんだからいくらか側室がいてもおかしくないでしょう? ねえゆりちゃん」


「ええ!? そこで私に聴くの!?」


 正妻と断言されたことですら大きな衝撃だったゆりだが、まさか同意まで求められるとは……。しかも、カキスが数人の女性を囲うことをゆりが容認しているかのような呼びかけだった。


「そ、それは……まぁ……カキス君ならいっぱいいてもおかしくはないと思うけど……」


 もごもごと指先を弄りながら一定の同意を示したゆりに、ミリアは驚いた表情をする。

 カキスの家を知らないミリアには実感が薄いことだが、実際にそこで長年暮らしていたゆりには、具体的なヴィジョンが見えているのだ。覇閃家は大和の政治には必要以上に関わらない掟があり、政略結婚とは縁遠い。

 が、別に一夫多妻制を禁じているわけではないため、現実的にありえない話ではない。跡継ぎは重要な問題(頭首たちがどうでもよくても部下たちが)なので、保険として側室を用意することもある。

 ただ、歴代頭首たちはほとんどが一途な性格のようで、側室を作らないことが多かった。時たま、女好きの頭首もいたようで、過去最高は部下たちが記録しきれないほど関係が広がっていたようだ。

 それでも、子供ができたのは正妻だけだったらしいのだが……それすら疑われる頭首も中にはいる。

 そんな話を覇閃家で働く侍女たちから重々教え込まれたゆりは、側室の可能性を強く否定できないのだ。

 これが六年間家出をしていなければもう少し強く否定できただろう。しかし、すでに目の前にグレーゾーンに踏み込んでいる女性がいる。もはや天然ジゴロなカキスを十全に信用できなかった。

 黒ゆりの方は、人間界以上に一夫多妻制が進んでいる魔族なのだ。というか、黒ゆりの種族自体が夜の種族なので、それを受け入れられない方が死活問題である。それよりも、候補ライバルがいる中でどれだけ寵愛を受けるかが、彼女らの戦いなのだ。キャラ付けがどうとか言っているのはそこに関係する。

 ……こんな話をカキスが聴いていれば二人まとめてアイアンクローでギリギリ締め上げていることだろう。身体強化を使い、二人の足が地面から浮く程度に。


「え……? 私この非常識な話でまさかの二対一?」


 元々ぶっ飛んでいた話の流れに、ゆりが黒ゆりの意見に軍配を挙げたせいで、ミリアが孤立する形になってしまった。なお、覇閃家のことを考えれば黒ゆりの言っていることはまったくおかしな話ではなく、むしろ異を唱える|(?)ミリアの方が非常識だったりする。まぁ、そんなことは知るはずもないのだが。

 そして、話の渦中の少年も自分が作るつもりもない枠で争われていることなんて露程も知らない。ツッコミ役不在のままなのだ。


「私は気持的にミリアさん側の味方なんだけど……」


「裏切ったわね!? ゆりちゃん!」


 苦笑しながらおずおずと手を挙げるゆりは、そもそもキャラ付けの意義に疑問を持っている側であり、ミリア側なのだ。側室の可能性を否定しなかっただけで、容認はしていない。

 至極当然のゆりの行動に、黒ゆりは悲壮感たっぷりに叫ぶ。

 ミリアは段々と黒ゆりがストレス発散をするためだけに絡んできたのではないかと疑い始める。収集のがつきそうのない状況に、思わず天を仰いだ。


「んー……っと! 君らはなんだかんだ言って仲が良いよね」


 と、そこへ我らがイケメンこと、コルトが顔を出した。大きく伸びをしながら今日もニコニコとしたイケメンスマイルを顔に張り付けている。


「あ、コルト君」


「こんにちは、水谷さん」


「朝食はわかった?」


「うん。とてもおいしかったよミリア生徒会長」


 雲一つない青空と一緒で、今日も輝くようなイケメンの登場に、ミリアは内心安堵した。これでわけのわからない戦いが終わる、と。


「で、どうして黒ゆりさんが出ているんだい?」


「えっと……」


 ゴスロリ姿の黒ゆりを指さしながら状況説明を求められたゆりが、これまでの経緯を語る。


「あはははははははは!! くっくく、カキスが聴いたら青筋を浮かべそうだね……! ぶふっ……!」


 それを聴いたコルトは大爆笑だった。何がそんなにツボだったのか、彼にしては珍しく腹を抱えて笑っている。


「ふんっ。愛人枠は用意してあるけど、そこに男色が入る隙間はないわよ」


 遠慮のない失笑に、黒ゆりは冷ややかな視線で牽制する。


「そんな恐れ多いことはしないさ。僕はただ傍から見ているだけだから気にしないで」


 まだ若干笑いが収まっていないコルトは、手近な木桶を裏返し、それを椅子代わりにして傍観者アピールをする。さりげなく何が飛んできてもいいように前面の風を操りながら。


「それならよし。さ、勝負続行よ」


「どこも良くないんだけど!?」


 くるりと向き直って挑戦的な瞳を向けてくる黒ゆりに、ミリアはツッコミを入れる。


「ところで黒ゆりちゃん。どうやって決着をつけるの?」


 このまま放っておくとループに陥ると判断したゆりてゃ、勝負の方法を問いかける。


「それはあらかじめ考えてあるわ。エピソード勝負よ」


「「エピソード勝負?」」


 ゆりとミリアの声が被る。


「私たちはお互い違うカキスとの思い出がある。その中で、カキスの姉として相応しいと思う行動を披露しあう。それを、ゆりちゃんに評価してもらって、どちらが上かを決めるわ!」


 ババン! と効果音でも後ろで鳴りそうな勢いが黒ゆりにあった。普段はどちらかといえばカキスと同じで、どこかけだるそうにしているのに、今日は随分と元気がいい。そのことにゆりは何となく違和感を抱いている。


「それは別にいいんだけど、どうして水谷さんが判定役なの? 幼馴染だから?」


「幼馴染なのは私もよ。一応がつくけどね」


 黒ゆりはミリアから視線を切ったかと思えば、自らの両手を合わせ魔力を集中させる。そして、その手を広げる。

 その間には、不思議な球体が出来上がっていた。色は緑色だが、中に二回りほど小さな紅玉がある。


「……それは?」


「嘘発見器と思ってもらって構わないわ。詳しいことは説明しても人間のあなたたちには伝わらないでしょうから省くけど、もしこれに触れながら嘘を吐いた場合、中の赤いやつが青色に変化するわ。名前はそうね……『ギーマナ』ってところかしらね」


 黒ゆりが古代語で『揺らめき』という意味の名前を付けた魔術は、相手の魔力の動きに合わせて変化する玉だ。外側は魔力を読み取り、その結果を内側に反映させる。黒ゆりの説明は大まかなもので、実際には相手が嘘を吐いたという意識を反映させるだけだ。

 そのため、


「すごい魔法、ううん魔術ね。それ、私もできるかしら?」


「できなくもないだろうけど、かなりの修業を要するでしょうね。それと、これはたぶんカキスにやっても効果はないわよ」


 かけらも嘘を吐いている意識がない相手には通用しない。無意識レベルでそこまで自分を制御できるのはカキスくらいだが。

 ミリアがこの魔術を教えてもらいたかったのは、黒ゆりに指摘された通り、カキスに使うつもりだった。ミリアは正攻法ではカキスから本音が引き出せるとは思っていない。しかし、ミリアは真実でなければ納得しない。小細工をしてでもカキスの口から聴きたいコトがある。


「残念ね、本当に」


「ま、一年程度の繋がりしかない女が、カキスの嘘をそう簡単に見破れると思う方が甘いってことよ」


 ふっと、黒ゆりが笑った。その笑みに、ミリアは目を細める。


「一年程度、なんて言われ方は心外ね……。ただただ一緒に時を過ごしただけの幼馴染なんかより、深く濃厚な時間を過ごしているんだから」


「へぇ……言ってくれるじゃない」


 売り言葉に買い言葉。

 あれだけカキスとの関係性を低く評価されようとしていたミリアが、簡単に乗ってしまった。黒ゆりもまさかここまで強く出てくるとは思っていなかったので、少しだけ目を白黒させる。

 だが、それも少しだけで、すぐに好戦的な色を目に浮かべる。


「あれ、あれ……!? これって思い出を話すっていう平和的な勝負だったんじゃ……?」


 殺伐とし始めた空気に、ゆりは自分の記憶を漁り出す。


「先手はもらった!」


「甘いっ」


 頭を抱えるゆりを放置して、先に動いたのはミリアだった。ミリアは長い脚を生かした瞬発力で瞬時に黒ゆりの懐に潜り込む。そのまま下からすくいあげるようにギーマナを奪いにかかる。が、黒ゆりは覇閃家で鍛えた動体視力でその動きを見切り、ギーマナを宙に放り投げミリアの手をはじく。

 宙に浮いたギーマナは最高点でぴたりと動きを止め、手をかざした黒ゆりの元に戻っていく。


「卑怯な……!」


「だって元々私のだし」


 体勢を立て直し距離を詰めたミリアの悪態には、小悪魔少女のあかっちろい舌が返ってくるだけだった。


「それじゃあ一つ目ね。まずは最近の話からよ」


 黒ゆりは高く跳躍し、木の枝に腰掛け話し始める。楽しさを隠そうともしない表情でミリアを見下ろしながら、思い出を語る。


 △ △ △


「……ふぁ」


「あら、珍しく眠そうね」


「ああ……ちょっと考え事をしててな。気が付いたら日が明けてた」


 カキスはいつも最低四時間は睡眠をとるようにしている。傍目には寝ぼけているようには見えないが、いつもより目つきが鋭い。黒ゆりにはそれが、今にもおちてきそうな 瞼に抵抗しているように見えていた。


「若いからって油断していると、五年後ぐらいには痛い目を見るわよ。特に、あなたたち人間は脆い体をしているんだから」


「……注意している割には、妙に嬉しそうだな」


 カキスは額をつっついてくる黒ゆりの手を払いながらジト目を送る。立っていたなら届かなかっただろうが、二人ともソファに座っているので、普段はての届かない場所まで腕を伸ばせていた。ちなみに、カキスは座るというよりも体を投げ出しているという方が正しい。

 指摘通り、黒ゆりは口うるさいような言葉とは裏腹に、とても嬉しそうな顔をしている。それはそれは今まで見たことがないほど優しい目をしながら。


「だって、お疲れの方が色々と高ぶるじゃない……?」


「おいこら……!」


 す~っと妖しく伸びてくる白くか細い指を、カキスは手首を掴んで止める。伸びていた方向は、カキスの下腹部である。


 ▽ ▽ ▽


「こ、これいつからY談になったのかしら!?」


 途中まで口を挟まず黙っていたミリアだが、話の雲行きが怪しくなり思わず声を出した。


「ちょっと……まだ話の途中なんだけど?」


「このまま進むとやばい気がしたから止めたのよ!」


 顔を真っ赤にしながらミリアが叫ぶ。


「はいはい。あなたの納得のいく話をすればいいんでしょ?」


 コロコロと手の中でギーマナを弄びながら、再び口を開く。


 △ △ △


 黒ゆりの紅色の瞳に映っていたのは下腹部だけではなかった。

 だらしなくソファにもたれかかっているせいで、服の裾が腹を隠しきれていなかった。その僅かな隙間から覗くカキスの地肌は以外にも白い。

 夜を主体に活動し、日に肌をさらすことを避けてきたので、当然と言えば当然だった。

 そんなカキスの腹に、黒ゆりの視線は吸い込まれていった。呼吸に合わせて上下する腹に。だらしなくしていても、筋肉の形がうっすらと浮かび上がる腹部に。

 細マッチョ、という言葉では過剰な、けれど鍛えていないわけではない腹筋は、ずっと見ている黒ゆりに撫でまわしたい衝動を植え付ける。その不思議に抗いながらも、黒ゆりは観察を続けた。

 中心点には小さく浅い穴。それはへその穴で、特筆することもない。のだが、無性にそこへ指をつっく見たくなる。だが、片手は掴まれたままで、反対側の手では少し遠い。届かせるためには体の向きを変える必要があった。

 だが、そうするとぴったりと寄り添う形からは外れてしまう。黒ゆりにはそれが寂しく、もどかしい思いを抱えながら我慢することを選んだ。

 だから仕方なく、じっくりと、ねっとりと、カキスの肌を嘗め回す。視線だけで、そのすべてを触れ合わせた気になる。


「男のへそなんて見ても楽しくなんてないだろうに……」


「それは男の偏見よ。男性が女性の肌を見て興奮するように、女性だって男性の肌を見て興奮することだってあるわ」


「だからって堂々と視線を向けてくるな。せめてもう少し隠そうとしろ」


 呆れながらそういうカキスには羞恥心の類はなく、視姦したければどうぞお好きに、という状態である。ただその代り、貞操を狙う腕を離しはしないが。


「……お願いがあるって言ったら?」


「こ、と、わ、る。どうせ触らせろとかい言うんだろう?」


「だってぇ……とっても魅力的なんだもの」


 どこか蕩けた瞳をカキスに向ける黒ゆり。それは意識しての行動ではなく、本能に従った結果だった。


「はぁ……………………少しだけだぞ?」


「え、本当に? いいの?」


 まさか許可が出るとは思っていなかった黒ゆりは、何度も瞬きをする。その様子に苦笑いを浮かべながら、カキスは拘束していた手を離す。

 数秒ほどぼんやりとしていた黒ゆりだったが、本当に許可が出たことを認識すると……。


 ▽ ▽ ▽


「えっちぃ!? さっきより断然えっちくなってるよ黒ゆりちゃん!?」


「あなたさっきわかったみたいなことを言ってなかった!?」


「あ、あら……?」


 何故か進路を調整したにもかかわらず逆走した黒ゆりに、二人が慌ててストップをかける。それでも、若干止めるのが遅れたのは、詳細に語られるカキスのお腹を克明に想像していたからである。なんだかんだ言って、二人ともカキスの腹に興味津々だった。

 黒ゆりも別にここまでセクシャリティな話をするつもりはなく、先ほどの注意で悪ふざけは止めるつもりだった。のだが、思い返しついつい熱く語ってしまった。


「ん~、これ……カキスが返ってくるまでに一応でも区切りがつくのかなぁ……?」


 ゆりとミリアが洗濯を終了してから、かれこれ一時間も経過している。そんな現状に、思わず苦笑せずにはいられないコルトだった。


「ゴホンゴホン。ンンッ! さ、続きよ続き」


 わざとらしく喉の調子を整え今度こそ、黒ゆりは話を戻す。


 △ △ △


「ふっ……短い時間だったけど、堪能したぁ……」


「……そりゃよござんしたね……」


 ツヤツヤになった黒ゆりとは反対に、カキスは妙に疲れ果てている。ただ腹を触れさせただけであって、誓って”ナニ”もしていない。さりげなくズボンを下ろそうとしてくる黒ゆりとの格闘に疲れただけである。


「じゃあ俺はもう寝るから……」


 元々寝るために降りてきたのだ。カキス的な家族サービスを終え、瞼を閉じる。そのまま数秒もすれば、深い睡眠につける。


「まぁちょっと待ちなさいって」


 ぐいっ。


「……なんだよ?」


 その直前で肩をひかれ、カキスは不機嫌な顔をする。入眠を妨害した張本人は無言で、ゴスロリスカートに包まれたふとももを叩いている。


「ん。遠慮しなくてもいいわ」


 何を遠慮するのかもわかっていないカキスは、首を曲げた。眠気に支配されかけた頭で考えるが、思考がまとまらない。反応の鈍さからそれを察した黒ゆりは、そっとカキスの頭を抱えてひざの上に乗せた。

 ふわりと、カキスの鼻腔に甘い匂いが滑り込む。柔らかい感触が後頭部を包み込み、どこまでも沈んでいけそうな感覚に、意識を保つので精一杯になる。


「ふふ……。一度これ、やってみたかったのよね……」


 くしゃり……。


 明りを反射し輝いている銀髪に手を置いたまま、黒ゆりは微笑んだ。

 いつものいたずらチックな態度からは想像もつかない母性が、そこにはあった。カキスからは黒ゆりの顔が一部しか見えていない。半円状のモノが布を押し出し、視線を遮っているのだ。

 カキスにはただ、頭をなでる手つきと、後頭部からじんわり伝わってくる体温しか感じるものがなかった。それ以外の感覚は消え失せてしまったかのように、意識が全てを集中してしまっている。


「どう?」


「……あぁ。以外にも……安心する」


「何よ、以外にもって」


 微睡の中の呟きに、黒ゆりは半眼になってツッコミを入れる。一本だけ不細工に伸びた髪を抜いてやろうか、なんていたずらを考え出す。


「変なところで子供っぽいくせに……」


 そこへ、もごもごとカキスがしゃべり出す。


「くせに?」



「お姉さん、みた、い……な……すぅ……すぅ……」


 全てを言い切る前に、カキスは力尽きてしまった。


 ▽ ▽ ▽


「……という話よ」


 チュン……チュンチュン。


 穏やかな沈黙が辺りを包む。


「……んん? あれ……これって何の話だったっけ……?」


 そんな中、ゆりは再三記憶を洗い出す。ゆりが思っていた以上に、お姉さんに相応しい云々の話ではなかったからだ。

 膝枕程度ならゆりだってやったことがあるし、割とカキスは寝ぼけている時は適当なことを口にすることが多い。本音が漏れることもあるにはあるが……。黒ゆりの話を聴くかぎり、それとは違うように思えた。

 それなのに、


「なかなかやるわね……!」


「あれぇ……!?」


 ミリアは感心し、額の汗をぬぐっていた。まるで強敵と相対しているかのようである。

 その反応に、ゆりまで変な汗が出てきたのだった。


 ○ ○ ○


「それじゃあ、話した通りによろしく頼む」


 俺はブシュトスに頭を下げる。


「うん、了解した。すぐには取り掛かれないけど、今年中には絶対に」


 話し合いはうまく落としどころが見つかり、どうにか日が沈みきる前に終わらせることができた。途中からカンテラを机の脇に用意していたが、使うことはなかった。


「あ、そういえば報酬金の話をしていなかったな。とりあえず前払いとして500万ぐらいを……」


「いや、250万でいいよ。その代り、一部の使用する道具をそちらで集めてもらえるかな?」


「それは構わないが……どうしてだ?」


 話を聴いた限り、必要とするであろう道具のどれもが覇閃家で所有している。そろそろ一回ぐらい実家に戻ろうと思っていたので、俺としては都合がいいのだが……?


「僕が集めようとしてもお金と時間を浪費するだけだから」


 ブシュトスは苦笑しながら、窓から夕焼け色に染まった景色を見る。確かに、ブシュトスが集めようと思うと、一々山から下りなくてはならず、希少な素材は簡単に集まらないのだろう。


「わかった。過不足なく用意しよう。どこに持って来ればいい?」


「ココか、街に僕の倉庫があるからそこに。どちらにせよ、僕のところに来てもらえるかな?」


「なら、直接ここに届けよう。あー、ただ、持ってくるのはたぶん俺じゃないだろうと思うが」


 ミストレスの件が終わればリベルに戻る。いくら海上の交通機関が発達してきたといっても、まだ値が張りがちだ。なので、覇閃家の誰かに配達を頼むことになる旨をあらかじめ伝えておく。


「それじゃこれに必要なものをまとめといたから」


 そう言って渡されたメモを受け取り目を通した後、俺はカンテラに使う予定だったマッチを取り出し、火をつける。


「……燃やすのは自由だけど、忘れたりしないだろうね?」


「ああ。大丈夫だ」


 瞬く間に燃え移るそれをカンテラの中に投げ入れる。ぼんやりとした明かりが室内を満たし始める。


「今日は一日付き合ってもらって悪かったな。……また会うかどうかはわからないが、じゃあ」


「ああ。君の旅路に幸運を祈っているよ……」


 俺は特に何も入っていないバッグを手に、ブシュトス邸を出た。


(これで……一つ目の準備は整った。後は……)


 今できることはここまで。

 現状の目標、ミストレスを”始末”して学園に帰ること。


「……帰りは急いで帰るか」


 俺はバッグを腰に巻きつけ、なんの躊躇もなく崖から”飛び降りた”。


 ビュオォォォォォ!!


 木の上とは比べ物にならない風が、俺の全身を叩き付けてくる。単に落下しているだけでは突き出た岩などに突き刺さるので、空中で回避していく。暗がかりの中だが、俺は難なく”落ち”抜けていく。こうやって落ちながら岩肌を避けていると、屋敷に居た頃を思い出す。

 その昔、覇閃家の屋敷がある島は今よりもっと大きかった。それも今では三分の二程しか面積がない。その理由はとある魔法使いが覇閃家に喧嘩を売り、その喧嘩を買ったご先祖様が戦った結果、削れてしまったらしい。その削れた部分はまるで大きな罠のように、とげとげしい地面に変えられてしまった。針山のようなそこは、底だけではなく壁にも岩の槍が突き出ている。

 修行好きな我が家では、そこは修行場以外のなんでもなく、俺もよくそこへ放り込まれたものだ。落ちながら姿勢制御し、両手両足を広げることで空気抵抗を増やす。そうすることで、少しでも落下速度を落としておく。というのは基本の基本で。

 容赦なく上から降ってくる魔法や岩やら、なぜかタライやらをどうにかしなければならない。油断すればうえから、上に集中しすぎると横が危険という、なかなかにスリル溢れた修行だった。

 そんな修行に比べればよっぽど容易い山下りは、あっという間に終わりを迎える。もうすでに着地する地面が見えていた。


「流練流水麗木花すいれいもっかの型、其の一『砕氷湖さいひょうこ』」


 トッ……ドシャァ!


 あと一秒で地面にぶつかる、というところで流技を使い勢いをすべて岩に伝える。伝えた結果、岩は砂レベルまで砕け、ちょっした砂の山を作り上げた。俺はその上に着地する。


「今日の料理当番はミリアか……楽しみだな」


 ミリアの料理の腕はかなりのものだ。ミリアは俺の方が、と言うが俺はミリアの方が旨いと思う。ひそかにここ最近の楽しみだったりする。

 俺は腹の虫が騒ぎ立てる前に、強く地面を蹴った。


 ○ ○ ○


 その頃、意味不明な女の戦いを繰り広げていたミリア達はと言うと……。


「そんなうらやまけしからないことをカキスとしていたなんて……!」


「ふふん、ただの幼馴染のあなたとは比べ物にならない内容でしょう」


 まだ、続けていた。

 一度昼休憩をとってからすぐに再開し、それから今の時間までずっとエピソード勝負なるものをしていたことになる。途中からお姉さんキャラの話など出しつくし、その後はただただカキスとの思い出を曝け出すだけになっていた。昼休憩が終わった段階で、何の実りもないことを察したコルトは、適当に森で剣の修行を始めてしまった。ゆりは自室から本を持ってきて読んでいる。

 もはやゆりですら、ギャラリーでいることを放棄していた。もちろん、音として鼓膜に入ってくるので、気になる内容があれば顔を上げて聴いていた。それでも、争っている本人たちほど、飽きもせずに入られるような精神ではなかった。


「あの……そろそろ晩御飯の準備を終えてるような時間なんじゃ……」


 いい加減、というより時間つぶしの本が読めないほど暗くなり始めたので、ゆりが間に入ることにした。


「「今いいところだから!」」


 どこが? と聞き返したくなるゆり。


「えっと、じゃあ私は先に戻って晩御飯の下準備だけしてますね? カキス君もミリアさんのお料理を楽しみにしてましたし」


 付き合いきれないゆりは、さりげなくミリアが気にしそうな言葉を残してみる。


「これが、避けきれるかしら!」


「まだまだね。その程度の魔法じゃ、私には届かない」


 が、そんな策略も空しく、魔法大戦と化した二人の耳には一切届いていなかった。もういっそ声を上げて泣いてやろうかとすら思えるほど、ひどい扱いだった。


 ○ ○ ○


「ふぅ……まさか途中でイノシシの親子に追われるとは思ってなかったな」


 俺は森でばったりと出くわしたイノシシたちをどうにか振り切り、安堵の息を吐く。まさか、ちょっと珍しいキノコを見つけて足を止めたら、目の前でイノシシが鼻息を荒くさせているとは思いもしなかった。森の中でくまさんが出たとあきうレベルじゃない。結構ホラーだった。

 ちなみに、イノシシというと猪突猛進というイメージが強いが、実際はそこまで猪突猛進ではない。曲がってくるし、細かく立ち止まって軌道修正をかけてくるので、結構危険だったりする。


「ん……?」


 ふと違和感を抱き周囲の気配を探ると、隠れ家の方から激しい魔力のぶつかり合いを感じる。しかも、その魔力には身に覚えがあった。……これはおそらく、黒ゆりとミリアのモノだ。しかも、かなり激しいぶつかり合いをしている。


「喧嘩か……?」


 黒ゆりは吸血で魔力を補充しているので、俺が近くに居ないときに魔力を使ってまで喧嘩するのは珍しい。相手がミリアなのはここ最近で二人の馬が合わないことを理解している。が、それにしても黒ゆりにしては思い切った行動をしているな……。

 そうこうしている間に、黒ゆりたちの姿が見えてきた。と言ってもまだ150メートルぐらい先だが。


「本当に何やってんだよあいつら」


 ミリアが黒ゆりの掌にあるモノを奪おうとしている。ように見える。ミリアがモノの奪い合いをするのは、始めて見た。

 興奮状態の二人に気づかれこちらにシャレにならない強さの魔法を飛ばされても困るので、気配を消しながら近づいてみる。二人の会話が聞こえる程度まで近づいてから、木陰に隠れる。

 ……何故俺は知り合いの女子相手にスパイの真似事をしているのだろうか? しかも喧嘩しているところを。修羅場に遭遇した男か、俺は。


「今だ! もらったわ!」


「くっ! いいわ、話しなさいよ」


「何で盗られたくせに上から目線なのよなんちゃってサキュバスさん」


「あら、随分な物言いじゃない背伸び生徒会長さん」


 見事、ミリアが黒ゆりから球体状の何かを盗みとることに成功した。

 ……あれは、見たことのない魔術だな。魔法式の組み方が普通じゃないことから、黒ゆりが作ったものだということがわかた。


「大体、あなたが言いだしっぺのくせに、全然カキスのお姉さんっぽいことないじゃない」


 ん、俺……?


「そんなことをいうあなたは、カキスにべったり甘えまくってるように聞こえたんだけど?」


 黒ゆりがミリアの言葉に反論する。


「それを言ったらあなただって!


「何よ!」


 バチバチと火花が両者の間に散っている状況を、俺はいまだによく呑み込めずにいる。二人はどうやら俺の何かを争っているらしいが、まったく心当たりがない。


「あいつはね! ああ見えても[ピー]が小さいのよ!」


「それくらい知ってるわよ! 言っとくけどカキスのフィンガーテクニックは淫夢族の私をひいひい言わせるぐらいすごいんだから!」


「私だって経験したことあるわよ! ねぶっているのはこっちなのに、舐められているような感覚がする技を!」


「「わすれられないぐらいすごい技を!!」」


「じゃあ新しく刻み込んでやるよ……!!」


 ギリギリギリギリギリギリギリ……!!


 俺は二人から絶賛を受けた絶技を披露してやる。


「お、おおう……この人差し指がちょうど痛いところに沈み込んでくる感じ……」


「か、カキス!? いつの間に帰ってきて……!?」


「ちょうどさっきだ」


 握力では絶対に俺に勝てないと知っている黒ゆりは無抵抗に持ち上げられる。ミリアは、俺の腕を強くつかんで抵抗するが、その程度の力では振りほどけない。


「は、放して……! そろそろ頭蓋骨から変形しそうな悲鳴が聞こえてきてるから……!?」


「何を言っているんだ? お前らが喧嘩しても声をそろえるぐらい望んでいたことだろう? 遠慮するなって」


 俺は見えていないとわかっていながら、笑顔を浮かべる。さらに力を強めながら。


「…………」


「ほら、黒ゆりは抵抗してないぞ。声ひとつ上げずに俺の絶技に浸ってる」


「たぶん違うからそれ!? ていうかこれ絶技っていうか力技……!」


 ギリギリギリギリギリ……!!!


 段々とミリアの腕から力が抜けていく。そこで俺はようやくぱっと両手を放した。解放されたミリアはなんとか自分の亜知恵着地したが、黒ゆりは崩れるように地面に座り込んだ。ぺたりと女の子座りをしている黒ゆりの両こめかみには、赤い跡がくっきりとついている。


「あ、あんたほんっとに手加減をしないわね……!」


「そう褒めるな。おかわりがほしいのかと思うだろ?」


 俺はミリアの悪態を褒め言葉として受け取る。ミリアが黒ゆりの真っ赤な跡が自分にもあることを知って驚愕していると、


「あ、カキス君お帰り。二人は決着がついたの?」


「なんだ? やっぱりこの二人は何か争ってたのか?」


 エプロン姿のゆりが裏口から出てきた。ゆりはふたりの様子を見て、俺を見た。どうやら二人が喧嘩していた原因を知っているらしい。


「たぶん、知らないほうがいいと思うよ」


「……?」


 そのことを訊いてみるが、曖昧な表情で誤魔化された。

 俺は二人の会話を思い出すが、それにしたってまったく見当がつかなかった。俺の姉だかなんだかの席を奪い合っていたとするなら、余計に謎が深まる。なぜ、そんな場所を確保しようと思うのか。

 俺としては、こんな弟を持つのは勘弁願いたい。


「……まぁいいか。で、今日の夕飯は?」


 どれだけ考えても分からないことはわからない。

 俺はさっくりと推察を諦め、気持ちを空腹の胃に向けた。ブシュトスの家までかなりの距離があった。いくら普通には歩いていなかったとはいえ、俺だって年頃の男子なのだ。動けば疲れ以上に腹が減る。


「そうだった! 夕飯の支度してないじゃない!」


 勢いよく飛び上がりながら起立したミリアは、走って家の中に戻っていった。


「……まだ、できてないのか」


「あはは……。ミリアさんの料理おいしいもんね」


 人間の三大欲求とはよく言ったもので、一度意識してしまえば、それは耐え難い感情だった。

 腹が減った。

 とてつもなくシンプルだが、そのぶんストレートに訴えかけてくる。子どものようにわめくつもりはないが、それでも残念であることに変わりない。

 たぶん、夕食が用意されていなかったのは、黒ゆりとの喧嘩があったためだろう。どちらが先かわからないが、喧嘩すること自体を否定するつもりはない。意見をぶつけあうことで仲を深めることだってある。ただ、なんとなくではあるが、争いの内容は非常にくだらないものだと思っている。

 だから、この争いを始めた人物には心の中で文句を言っておくことにしよう。


(……摘み食いとか、許してくれないだろうなぁ……)


 ミリアは隠れて食べるという行為を厳しく注意する。それは教会で孤児たちの面倒を見ていた時もそうだった。過去の話でいえば、俺が作ったクッキーを勝手に食べた少年に、随分ときつい罰を与えていた。


「ふん。勝負に集中してご飯の準備を忘れるとか、どうなのかしら?」


 何やら黒ゆりが姑のようなことを口にしている。


「その勝負をもちかけたのは黒ゆりちゃんだったよね……?」


 ゆりが苦笑ぎみに黒ゆりの発言を注意する。


「……黒ゆりからすべてが始まったのか」


 それがわかっただけで、色んなことに確証が持てる。

 やはりくだらない内容であること。

 俺が関係していること。

 そして、夕食が遅くなったこと。


「……お前のせいか……」


 ユラリ……。


「え、なに……? ねぇカキス。何でそんなに怒ってるのかしら……? もしかして、喧嘩の内容を知ったから? 待って、そのゆっくり迫る感じすごく怖いから本当に待って……!」


「許さんぞ……」


「ゆ、ゆりちゃん助けて……! さっき散々痛い思いをしたのに、まだ何かしようとしてくるこのドSな獣を止めて!」


「む、無理だよぅ!?」


「食べ物の……恨みは怖いってことを知っておけぇー!!」


「あなたどれだけお腹減ってんのよぉー!?」


 ――その日の夕飯はやけ食いのように食べたが、それでも非常に美味だった。


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