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表裏の鍛治師  作者: かきす
第三章 「狂乱を受け継ぎし者編」
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第九話 「眩しき陽光」

作者の感覚的には前回の後編です。二話に分ける意味は特になかったですけど……。


「メイリオのメモに載っている場所はここだな」


 数時間前、話し合いを終えた俺たちはメイリオからとあるメモをもらい、昼食を済ませてから街に繰り出していた。


「……ずっと思ってたんだけど、メイリオさんのことを呼び捨てで呼ぶのは失礼よ」


「敬称をつけて呼ぶほど敬っていないからな」


「カキス君、ミリアさんはそういうことが言いたいんじゃないと思うけど……」


「わかってる」


 わかっているが、直す気はないので適当に返す。


「それにしても、いかにもな研究所ね」


 ミリアは目の前にある建物を、そう評価する。


「最初から研究所だったからな」


 聞いた話では魔力研究所だったらしい。目前にある研究所は壁のペンキがはがれている場所も多い。けれども、大きなガレージ、巨大なボイラー、幾重にも駆け巡る極太のコードに劣化はない。どころか部分的に新し場所もある。

 ここはミストレスの研究所の一つであり、メモはミストレスの研究所があるリスト代わりだ。

 ミストレスはどうやら表舞台で貴族業をする傍ら、世界中に研究所を分散し研究していたらしい。その研究は同士が多いらしく、似たようなことをしている人間がミストレス以外にもいる。

 現在ミストレス本人の居場所は特定できていないが、手足や尻尾は判明している。末端を壊しまくれば、過ごしぐらい姿を見せてくるだろう、という作戦だ。


(こんな面倒なことをしなくてもいいとは思うんだがな……)


 畑に群がる害虫に除草剤を撒くこの作業。メイリオの頼みもあってやらなくてはいけなくなった。

 ちなみに、数が多いため二組に分かれている。コルトが俺と行動をともに従っていたが、断固として拒否してやった。……まぁ、結果ミリアがついてきてしまったのだが。


「はぁ……最悪俺一人でも十分なんだがな……」


 思わず、そんなぼやきが口をついて出た。


「何言ってるの。あんた一人で放っておいたら何をしでかすかわからないじゃない」


 小姑系生徒会長。とっても邪魔です。


「いいか、ミリア」


「何よ?」


 一本指を立たせる。


「ツンデレはツンだけじゃダメなんだ。それで喜ぶのはゆりだけだ」


「流れるように風評被害!?」


「誰がツンデレよ!」


 しまった。ゆりがいたんだった。同時に二人食いかかってきた。


「ツンだけだとそれはドSでしかない。そしてそのキャラは俺だけで十分。というわけでデレをくれ、デレを」


 しかし百戦錬磨の俺に不可能はない。


「ゆりだってそう思うだろう? 二人もドSがいると腰が砕けて動けなくなるもんな」


「誰もそんなこと言ってないよぅ!?」


「私をあんたと同類にしないでくれないかしら!?」


 こいつらはどうしてこうタイミングを合わせてくるんだか……切り替えしがいがあるじゃないか。


「じゃあゆりと同類なら満足か?」


「「誰もそうは言ってないから!?」」


「どっちかはっきりしろよ」


「「もう少し選択肢を増やして!?「増やそうよ!?」


 あ、これ意外と面白いかもしれない。二人同時にいじるの。


「少しは静かにしろよ……敵地の真ん前なんだぞ?」


「そ、そうだった……!」


「……あんた後で絶対ぶん殴ってやる」


 バイオレンス生徒会長、ここに極めり。

 俺はm里い合の呪いの言葉を無視して、職員用入口のピッキングを始める。


「……よし、開いたぞ」


「私たち今、完全にチンピラよね……」


 扉の施錠事態は非常に簡単な作りだった。しかし、ドアノブに触れると自動で魔力を読み取り、正しい鍵を使ってもロックがかかるようになっていた。非常に厄介なセキュリティーだが、魔絶で綺麗サッパリ除去させてもらった。


「先に俺が入る。別に潜入任務ってわけじゃないが、見つからないならそれに越したことはないだろう?」


「また自分一人で済ませようとする……水谷さんからも何か言ってやってよ」


 研究所を破壊するといっても、研究員を殺すのが目的ではない。機材や書類をもやし、組織にダメージを与える。

 ミストレスの研究はブースターの開発みたいだが、俺にはさらにその裏で、違う研究を同時並行している予感がしている。

 ミリアやゆりが研究結果を盗み見て、万が一にも内容を理解でもされたら、余計な敵を作りかねない。

 それだけではなく、成功率の問題で俺が先行する方が都合がいい。そう思っての提案だが、ミリアは難色を示す。ミリアはゆりにも賛同を求めているが……、


「え? でも、私たち全員で動くより、カキス君が一人で動いた方が危険は減ると思いますよ?」


「…………え?」


「ゆりに同意を求めても無駄だぞ。そいつもそいつで、うちの実家に大分染まってるから」


 どうして俺を止めようとしているのかわからず、ゆりは首をひねる。

 時が止まったミリアに、俺は無情な現実を言い渡す。

 覇閃家で幼少期を長らく過ごしているので、俺の実力もある程度知っている。また、自分の実力をはっきりと見極め、引くところを知っているゆりが俺を止めたりついてくることなんかない。

 信頼してくれている、といえば聞こえはいいが実際には感覚がマヒしているに違いない。


「いや……でも、普段あれだけカキスにべったりくっついているのに、一人……じゃないけど残されたら不安にならないの?」


 若干納得がいっていないミリアは、見苦しく言葉を重ねる。まだ破壊活動を繰り広げる研究施設は多いんだから、早くしてくれませんかねぇ……。


「あはは……普通ならそうなんでしょうけど、カキス君が普通じゃありませんから」


「おいこら」


 確かに普通じゃない自覚はあるが、まるで自分が常識人みたいな言い方にはひっかかりを感じる。


「それに……」


 すっと足元に視線を下げ、


「カキス君を縛るのは、絶対にイヤですから」


 切なそうに、さびしそうに、かろうじて苦笑を保ちながらそんなことを言った。


「……そう」


 ミリアは短い返しをする。


(俺を縛る、か……)


 今の俺とゆりの関係。俺たちの過去、とりまく環境。ある意味ではゆりは俺を縛り付ける存在といえる。だが、ゆりが言っている”縛る”は別の意味だ。

 というより、これ以上縛りたくないという意味だろう。俺の人生の大半はある老人に奪われ、喪失した事実だけが残った。俺が解放されたのは六歳になったとき。

 それから、俺の人生が始まったといっても過言ではない。ゆりと出会ったのは解放されてからすぐで、感情というものを認識できる程度に取り戻せたのはそれから二年。

 だから、俺の精神年齢は実年齢の半分しかないことになる。ゆりはその二年の間ですら、俺を縛っていたと考えている。


(縛るどころか、人として大事なことを教えてもらったんだがな……)


 ここで、人を愛する心を学んだ、とかだったら恰好がつきそうなものだが、残念ながらおれはゆりの手腕をもってしても、それを得られることはできなかったが。

 そんなどうでもいいことは捨て置くとして。


「別に俺一人で全部を片づけようとはしていないさ。ざっと下見を終えたら戻ってくる。それから、作戦開始ということで」


「それなら……まぁ」


 身リアが一応の納得を見せてくれたところで、俺は研究所の中に入る。戻ってくるまでの間、二人には少し離れた場所で待ってもらうことにした。


「さぁて……蛇が出るか鬼が出るか……」


 ○ ○ ○


 研究内容を分散するというのは、想像していた以上に利にかなっていた。

 万が一に研究内容が消滅したり外部に漏れたりしても、それは一部であり、すべてではない。一点集中させていた場合と比べ、情報漏えいした事態に対応しやすい。

 レポートと環境を用意すれば、結果はほぼ変化がないということも、ヤツの研究のめんどくささが滲み出ている。また、それぞれの実験ごとの変化をまとめれば、それもそれで実験になる。どういう変化がここでは現れた。他では現れなかった。その違いは? という比較情報もつかめる。

 デメリットがあるとすれば、一度どこかで起こしたミスを他でも起こす可能性が高いことと、多額の資金を必要とされることぐらいだろうか?


(……俺の研究は、研究じゃなかったからな……)


 特異科に所属していたときのことを思い出すが、あれはおそらく世間一般の研究には入らないと思われる。あれは単に、修行の一環であり、それをレポートにしたら研究として受け止められただけだった。


「……F-8のピン」


「いや、ここはF-8のラベルじゃないか?」


「両方試してみればいい」


 施設内には今のところ、薄汚れた白衣の研究者の姿しかなく、警備員の姿ない。

 F-8のピンとF-8のラベル。ミキサーを前にして三人が話している。ピンだのラベルだの読んでいるが、傍目からはどちらも同じ液体にしか見えない。違いがあるとすれば、試験管に張られているシールの文字ぐらいだ。その文字も、ピンとラベルだけ。

 中の液体は……透明度が以上に高くわかりづらいが緑色をしている。マッドサイエンス的、いあkにもな色をしている。

 あれがどうなるのか興味はある。あるが、それを今確認するには不適切だ。


(とりあえず……内部の構造はシンプルで隠し通路的なものはなさそうだな)


 俺は下見もそこそこに、二人と合流しに戻った。


 ○ ○ ○


 カキスが合流した頃。


「これで一つ目だね。次に行こうか」


「「は、はいっ!」」


 コルトチームはすでに研究所を一つ落としていた。

 慎重なカキスと違い、コルトは正面から突入し研究者を即無力化。アルベルトたちは何もできないまま終わってしまっていた。


「ちょっとハイペースなのは我慢してもらうけど、無理だと思ったら言ってね」


 それでもコルト的に控えめだが

常識がないわけではない。どうせカキスが一つ一つじっくりと潰していくことは予想がついているため、急ぐ仕事でもないこともある。


「ううん、私たちは別に大丈夫です!」


「というか、何もできていない……」


「ごめんごめん、この研究所が小さかったらだよ。大きくなれば、手分けする必要も出てくると思う。その時はお願いするから」


 特に手柄をとってどうこうする作戦でもないが、コルトは苦笑しながら手柄泥棒を謝罪する。


「そんなっ!」


 ゴスッ!


「うごぅっ!?」


「足手まといな私たちが悪いんですから!」


「僕は二人をそう思ってないよ。それより、彼が……」


 頭頂部に肘鉄を食らったアルベルト。かなり鈍い音がしていたし、本人は今も頭を押さえてうずくまっている。


「大丈夫です! こいつ頑丈ですから!」


「……はは、そ、そうかい」


 コルトは、こういう幼馴染の関係もある……かな? と若干引き気味に思った。


 ○ ○ ○


 ゴンゴン……ゴンゴンゴン。


「……おい、あまり音を立てるなよ。ばれたらどうする?」


「だ、だって……あなたは慣れてるかもしれないけど、私はダクトを四つん這いで通るなんて初めてなのよ……!?」


「ゆりだって初めてだぞ」


 ダクトから侵入した俺たちだが、ミリアが鈍臭いせいで音がなっている。まだ入り口だからいいものの、この調子で進めばすぐにばれてしまう。

 声を潜め注意するが、ミリアは口をとがらせて反論する。


「水谷さんは体重が軽いからよ」


「……お前の体重何キロだよ?」


「いっとくけど平均だからね。このスリム思考になり始めた世の中での平均だからね」


「だから何キロかって聞いてんだよ」


 女子の肉体に関する言い訳をいちいち取り合っていては話が進まない。ので、取り合わず再度訊く。


「………………46キロ」


「ちなみに私は40キロ以下だよ?」


「余計な情報をどうもゆりお嬢様」


 ミリアの体重は46キロ。……別に言い訳をしてから話すような重量ではないと思うんだが……。


「ゆりと6キロしか変わらないじゃないか。言い訳には使えんぞ」


「う、うるさい……!」


 ちなみに、ゆりは基本的に気配を消すような技術は一通り身に着けている。足音を消したり、存在感を薄めたりできる。プロレベルとまでは言わないが、セミプロレベル程度の腕を持っている。


「さぁ、ついたぞ」


 俺は一番大きな機材がある真上で止まる。


「それじゃあ行くわよ……? 3、2、……!」


 バガンッ!!


 ミリアが、カウントダウンに合わせて魔法でダクトを破壊する。鉄製のダクトは一気に膨張しきりはじけるように穴をが空く。

 それと同時に、俺たちが狭い空間から解放される。

 俺は真っ先に機材に足をつけ、まだゆりたちが着地するので破壊はしない程度に、足場として利用する。


 トンッ!


 まるでスローにでもなったkのような空間で、おあれは一番入り口に近い照明めがけてナイフを投擲。パリィン! というガラスが割れる音が響き、輝く破片が辺りに散らばった。


「な、なんだ!?」


 ようやく一人目が以上に声を上げたとき、俺は地面に、ゆりたちは機材に着地した。


「疾れ、電撃よ!」


「渦巻け、濁流……!」


 ミリアの放った電撃は近くの機材をスパークさせ、その威力を弱めず次の機材に自動で移り、次々と破壊していく。

 ゆりはまだ行動できていない研究者たちと机を巻き込む巨大な渦を発生させる。ほとんどが立っていられず、中心に集められる。


「っく……!!」


「逃がすかよ」


「うわぁ!?」


 俺はゆりの魔法から逃れた人間を渦に投げ飛ばす。また、非常用の通信機器を破壊する。


(……伊達に生徒会長の座に収まっているだけはあるな……)


 ウンディーネの力も借りて範囲を大きくしているとゆりと違い、ミリアは自分の力だけで繊細な操作をしている。しかも、ミリアは支持を出している様子はない。


「……これで全部かしら?」


「たぶんな。下見をした限り他の部屋には誰もいなかったし、部屋数は多いが機能してるのはこの研究部分だけだった」


 鎮圧は驚くほどあっさり成功した。拍子抜け過ぎて逆に不安になる。

 まぁ、まだ鎮圧しただけで、情報を全て葬ったわけじゃない。これから紙という紙を燃やす作業が残っている。


「……ミリア。ここは任せてもいいか?」


 俺は胡散臭そうに機会を眺めるミリアへ、この場所の処理を任せる。


「わざわざいかなくても、私がまるごとこの施設を燃やしてもいいけど?」


「……それは手っ取り早いが、魔力が持たんだろう」


 なかなかに恐ろしいことを言ってくれるが、それだとミリアの魔力が持たない。少なくとも後五つは研究所を回る。


「わ、わかってたわよ」


 完全に失念していたミリアは小さな声で自分のミスを誤魔化す。


「それじゃあまた後で」


 ゆりがその様子に苦笑しながら扉に手をかけた。


 …………チィン。


「っ! 待て、ゆりっ!!」


「……え?」


 ゆりは俺の制止の声で動きを止めた。


「ミリア! 真後ろの壁を吹き飛ばせ!」


「はぁ? 急に何を言って……」


「わからないのか、この魔力の高まりを?」


 俺が指示したミリアの背後にある壁。そこには何もない。真っ白で平坦な土壁があるばかりだ。

 しかし、その壁が急激に魔力を帯び、その魔力量を増やし続けていた。

 状況を呑み込めていないミリアよりも先に、ゆりがウンディーネを召喚する。魔力が高まりすぎたあの壁に、ゆり個人の魔力だけではぶち抜けないと理解したのだ。

 しかし、もうすでに遅かった。


 ガシャンガシャンガシャンッ!!!!


「扉が!?」


「部屋の中央に!」


「……遅かったか」


 扉と窓に鉄製のシャッターが降り、逃げ場を全て潰される。端的に状況を表現するなら、まんまと囚われてしまった。


 ○ ○ ○


「……おかしい」


「え? どうしたんですかコルトさん」


「この研究所、普通の植物の品種改良しかしてないんだ。ミストレスは違法なブースタードラッグの研究をしていた。だから、こんな平和な内容のはずがないんだ」


「……それはつまり、他に何か新しい研究を始めているとかってことか?」


「いや、違う……。これは、この研究所はフェイクだ……!」


 ○ ○ ○


「な、何が起こったの!?」


「落ち着け。とりあえず、落ち着いて俺の手を離せ。俺はお前の弟じゃないんだ」


 ビィー! とけたましい警戒音を発する研究所は、明かりが消され、非常用の魔力ランプが世界を赤く支配している。

 誰がどうみても緊急状態で、何故かミリアは真っ先に俺の手を握ってきた。


「こ、これは……違うからね!?」


「はいはい。わかったわかった」


 残念ながらミリアが怖いから俺の手を握ってきたのではなく、長年身に付いた癖が行動に出てしまった結果だ。幼い子どもたちの面倒をみてきたミリアならではの癖ではある。

 俺が適当にあしらってやると、ミリアは僅かに頬を染め俺を睨んできた。何故?


「罠だったのかな?」


 ミリアと違い冷静なゆりはこの状況に陥った原因を探す。


「……たぶん違うな。罠とは別件だろう」


 机上にある一枚のレポートを手に取る。そのレポートには非常に面白いことが記されていた。


「敵対している研究組織の対処について、だとさ」


 俺はそれをひらひらと二人にかざしながら内容を音読する。


「敵対する研究組織、およびその統括者であるミストレスが我が研究所へ攻撃を行ってきた場合の対処をここに記す」


「ミストレス!?」


「ちょっとそれ貸しなさい!?」


 ミリアは、俺が読み上げていた資料をひったくるようにして奪った。そして、眼球を忙しなく動かして文章を確認する。読み進めるにつれて、その表は曇っていく。


「んん……? ふっ……!」


 ゆりもその資料を見ようとするが、背が足りなくて背伸びをしても見づらそうにしている。

 プルプルと足を震わせている姿はなんとも癒される、またはいじめたくなるものだ。そのままミリアが読み終わるのを待ってもよかったが、ゆりの足がつる前に口で説明してやる。


「元々この町では有名な研究グループがあったらしい。だが、ミストレスがこっちにきて、一部の有能な研究員を引き抜いたり、研究所を乗っ取ったりされて、怒り心頭なんだろうな。その紙はミストレスと徹底抗戦する表明とか、撃退方法とかが書かれている。


 言ってしまえば、良い科学者たちが悪い科学者に妨害を受けている状況それがあまりのも続くので対策に打って出たようだ。ただし、研究員は基本的に根っからの科学者であって、一人一人が武器を持って立ち向かえる力を持っていなかった。だから、施設の強化や狙われないような工夫をするようになった。

 そのことがさっきの文章でわかる。


「襲ってきたら当然それを退けるための装置もあるが、そもそも襲われない細工を施したようだ。それが、ミストレスの研究所であるかのように思わせる。偽装装置だった。そして、俺たちはそれにまんまと騙されたらしい」


「じゃあ、私たち……完全に強盗まがいの……」


「止めて、水谷さん。それ以上言わないで」


「そうなるな。機材や資料もダメにしようとしてたことを考えれば強盗どころじゃないが極悪犯だがな。あっはっは」


「なんであんたはそんなに楽しそうなのよ!?」


 顔色も青く額に汗を浮かべる生徒会長様は、俺の両肩を力強くお掴みになって、ぐっわんぐっわん体を揺すってくる。やってしまったことはしょうがないし、笑うぐらいしかないじゃない。


「あっはっは」


「まだ笑うか!?」


 とりあえずもう一回笑っておくことにした。


「ま、まぁまぁ生徒会長さん……。それよりもこれからどうするかを……」


 猛獣と化した年上女性に声をかけるゆり。自分から場をとりなそうとする程度には、ミリアに慣れてきたみたいだ。


「それもそうよね……ほんとどうしましょう……!」


「何もせずここから逃げればいんじゃないか?」


 ゆりの言葉で落ち着いたミリアは、俺を開放しないままがっくりと肩を落とす。

 見た目には落ち着きを取り戻しているが、まだ頭の中は想定外の事態に小パニック状態が続いている。ので、代わりに俺が一つの指針を示す。


「確かにこちらの手違いで関係のない……わけでもない施設を襲撃したが、まだ何も手をかけていないだろう?」


 手をかけるのは、これからだったのだ。被害は研究が少し遅れるぐらいなもので、大差はない。


「研究員は放っておけば意識が戻るだろうし、締め切られたこの状況だって……」


 バシュッ!


「よっと。……どうにかなる」


 途中で、魔力の高まっていた壁から小さな水球が飛んでくるが、軽く首を傾けるだけでよけられた。どうやら魔力量が多いだけで君である間方式自体は大したことがなさそうだ。

 ちなみに、こういった魔法術を使った場合、魔力の性質上間方式がなければ作用されない。魔力を送り込み制御する人間がいないのだから当然ではある。なので、間方式が単純かつ安易なものであればあるほど、しょぼかったりする。まぁ、研究所だしこればっかりに予算をかけて肝心の研究が……では本末転倒にになってしまう。


「似たような形態をしていたってことは、間違われる可能性も考慮してるはず。していなかったのなら、それはこいつらが迂闊だったまで。俺たちが気にすることじゃない」


「でも……」


「いいから。さっさとここを出るぞ」


 まだ何やら渋るミリアを押しのけると、俺は壁に手を当て目を閉じる。


「……まさかあんた、壁をぶち破ろうなんて考えてないでしょうね……?」


 後ろから、ミリアの身構えるような声が聞こえてきた。


「違う。壁なんか破壊してどうする?」


 俺が振り返ってそう返すと、ミリアは安心したように胸を撫で下ろす。


「そうよね。どっちにしろ魔法が使えないあんたじゃそんな分厚い壁は壊せない……」


「壊すのは、結界だ」


 ヒュッ、パリィパリィン!


 俺は壁から手を離すと、天井に埋め込まれた魔力灯へナイフを一本投擲する。

 ナイフが風を切ったすぐあと、ガラスの割れた音が立て続けに”二回”鳴り響いた。

 当然、一回目は魔力灯で二回目が結界を破壊した音。けっきあの基点が魔力灯の中にあったため、続けて音がしたのだ。

 最近は魔絶に頼りすぎている印象が自分の中にある。あまり魔絶ばかりに頼っていると、魔絶が通用しない魔法術に遭遇した時に対応が遅れる。特に、無属性の俺には少しの遅れでも即死につながる。

 まぁ、最近使っているのにはそれはそれで理由があるのだが。

 と、そんな内情は捨て置き、問題が一つある。

 投げつけたナイフは天井に突き刺さり、落ちてくる気配がない。どうやら力加減を間違えたようだ。


(強化ガラスのつもりで投げたのが間違いだったな……)


 結界を起動するためにも維持するためにも、重要なところなので、守りが固いだろうと思っていた。その予想はものの見事に外れてしまった。後で回収をするのが面倒だ。無駄に高い天井なのが、余計に面倒くささを助長している。

 余計な手間が増えた……と嘆息する俺に、ミリアがぐりんと首を痛めそうな勢いで向けてきた。


「さっきのは何!?」


「ナイフを投げただけだが?」


「違うそれじゃないわよ! わかっていってるでしょ!?」


 俺が呆れた表情で言葉を返したが、ミリアは怒るだけで納得はしなかった。それに対して、俺はつれない態度を返す。


「わかるが、わからん」


「喧嘩売ってるのね、そうなのね……」


「ひぃうっ!?」


 ゆりはミリアの背後で沸き立つ黒いオーラに息を詰まらせたような悲鳴を上げる。

 ……子犬と軍用犬みたいだな、この二人。

 ミリアの聴きたいことはわかる。どうして俺が、結界の基点を判別したのか、だろう。

 もともと人は魔力を見ることはできても”読み取る”ことはできない。肉体の成長と相まって不安定な魔力を持つ子供はもちろん、大人でも魔力を”読み取る”のは難しい。

 魔力を読み取るには、流れている魔力に同調しなければならないからだ。俺の場合、というより無属性の場合は無属性魔力自体が他に染まろうとするので、他属性よりも読み取りやすい。

 読み取れるようになるには特殊な訓練が必要になる。特殊すぎる家庭で育った俺は、その訓練を当然の如く叩き込まれてある。


「どうせ俺が何を読み取ったのかも理解しているんだろう?」


「だから、どうしてって訊いているのよ。魔力の流れを読みるとなんて普通じゃないもの……」


「特殊な訓練を積めば誰だってできるようになるし、俺は普通じゃない。……まぁ、その訓練方法はあまり広められていないがな」


「広められていない……? まるで誰かが意図的に情報を隠しているように聞こえるんだけど……?」


 そういう言い方をしているのだ。

 魔力を読み取ることができる。それができれば、魔方式も読み取れる。そんなことが魔法術使いたちの間で広まりでもすれば……。


「魔法具は意味を持たなくなる。何せ、簡単に高価なそれらが壊せてしまうんだ。そうなって一番被害を被るのは……」


「……王家の人間。じゃあ、訓練方法を隠しているのは王家ってこと?」


「判断は任せる。少なくとも俺の中ではそうなっている」


 現在の王家はほとんどが王宮の守りに魔法具を使用している。そのどれもが大軍で攻めいれられても三日は崩れないほど高性能な魔法具だ。しかし、魔力を読み取れれば容易く破壊できてしまう。魔法具も魔法と同じで核があり、そこから魔力が流れている。つまり、それを読み取れれば核の場所がわかることになる。

 もし魔力を読み取られるようなことがあっては、王家を守る”盾”が一つなくなる。だから、王家はそれをひた隠しにしている。


「……なんであんたはそんなことができるのよ?」


「家庭の事情だ」


 お決まりのような言葉を返し、研究所の出口に手をかけた。背後からはため息と苦笑が伝わってくる。きっと、これから先もこんな感じで俺はミリアにため息を、ゆりには苦笑を浮かばせるのだろう。


(……いつまで、そんな関係性が続くのかね……)


 俺がしようとしていること、なそうとしていること。そして、その結末。

 まだ日が昇っている時間で、照明よりもよっぽど強い日の光が、俺の目を襲う。


「どうしたのカキス君? 遠くを見るような目をして?」


「……少し、眩しくてな」


 俺はゆりから視線を外して苦笑した。


(……その時まで、こういう”普通の関係性”を楽しむとするか……)


 内心、そう自分に言い聞かせながら――

三月になりましたね! (※十二日投稿)

最近めっきり小説全体の質が落ちたこの作品に対する、ご意見ご感想をお待ちしております!

さぁ次回はまた遅れるでしょう!


……だめだ。やっぱ無駄にハイテンションな感じは合わないっすわ……

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