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表裏の鍛治師  作者: かきす
第三章 「狂乱を受け継ぎし者編」
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第五話 「少年と少女の確執」

今回は短めです。

「こんにちはおじさん」


「おぅ、いらっしゃい兄さん。その恰好はこの辺の人間じゃないな? 今日は観光かい?」


「まぁそんなところです」


 コルト――僕は一目でこちらを外国人だと見抜いた屋台のおじさんにあいまいな返事をする。


「研修みたいなもので、色んな国や土地の調査をしているんです」


「あぁ、魔法学校の子かい。どうだこの町は」


 僕の話に興味津々でおじさんは顔を寄せてくる。

 魔法学校の生徒が各地で魔力調査するのはよく知られいてる話だ。今回はそれを利用させてもらった形になる。


「まだ昨日きたばかりだからなんとも……。せっかくだからちょっとお話を聞かせてもらってもいいかな?」


 回りくどいのは時間がかかりそうなので、正面から話をする。


「最近この辺に新しい人の出入りがありませんでしたか? あ、もちろん僕ら以外で」


「う~、あ~、どうだっけなぁ? 言われてみれば、この町も人が増えた気がするが、具体的な言及はできないな……」


「そうですか」


 町に住む人が、人の多さを感じている。それだけでも十分な情報になる。思ったよりすぐに情報が入りそうな町かもしれない。

 そうなると、こちらの情報も筒抜けになる可能性も警戒しなくちゃいけないな……。


「ありがとおじさん。二つほど買わせてもらうよ、いくら?」


「味はどうする?」


「おまかせで」


 情報量代わりに二人分の串肉を頼む。


「後ろの……」


「妹です」


 おじさんが水谷さんに視線を向けるが、目があった瞬間僕の背中に隠れてしまう。咄嗟にカキスに言われた通りの嘘が口をついてでた。


「美男美女の兄弟か。いいねぇ、絵になるねぇ」


 おじさんは手を動かしながらそう言った。僕と水谷さんは顔を見合わせて苦笑する。


「それじゃあまた」


「何かあったら教えてやるよ」


 人のいいおじさんの屋台から離れ、念のため周囲を警戒する。怪しい気配は感じない。


「髪の色が違うのに、怪しまれるどころか逆に煽てられちゃいましたね」


 水谷さんは、さっき苦笑した理由を持ち出す。


「そうだったね。色の違いには気づいていたようだけど、勝手に勘違いしてくれたみたいだったから」


「事情があるのは確かなんですけどね。……さっきの話を聞いた感じミストレスさん以外の人も出入りしてるみたいですね」


「そうらしい。おそらく、こっちで活動するために人を呼んでいるんだと思う」


 僕にはミストレスの研究内容はわからない。しかし、彼の研究を必要としている人間がいる。カキスの情報によると、彼の研究は途中までしか進んでいないらしい。研究を完成させようとしているのは明白だ。


「できれば完成する前に止め……水谷さん?」


 ふと隣から気配が消えた気がし、横を見ても水谷さんがいなかった。


(あぁ……このパターンは、トラブルに巻き込まれたんだな……)


 気を張っていたにも関わらず、完全に気配がなくなっている。前にも、似たようなことがあったので、大きな動揺もない。


「さて……追わなくても、大丈夫か。カキスが護身用の魔道具を持たせてあげてるらしいし」


 一見して身に着けているようには見えなかったから、小さな石みたいなものを持っているんだろう。


 ○ ○ ○


 皆さんこんにちは、水谷ゆりです。ただいま絶賛誘拐され中です。私は生気がなく死人のような男性に乱暴に抱えられてお空を舞っています。

 私自身を傷つけるつもりはなさそうですが、まったく嬉しくありません。

 自分のトラブル体質が憎いよぅ……。


【誘拐された自覚があるわりには余裕ね、ゆりちゃん】


(黒ゆりちゃん、起きてたんだ)


 自分の心の独り言に入ってきたのは、もう一人の私であって私じゃない、黒ゆりちゃんだ。正確には違う人だけど、長く一緒に育ってきたのでお互いにお互いが半身のように思える。

 黒ゆりちゃんは基本的に寝ている。表に出ても寝ることが多いし、必要なければ心の奥でも寝てしまう。そんな黒ゆりちゃんが、記憶の共有もしていないのに事情を理解しているからびっくりした。


【ちょうど浚われた時だけどね。どうする? 表に出ましょうか?】


 黒ゆりちゃんは二百歳以上年上だからか、危険時に交代を提案することがしばしばあったりする。


【私の肉体なら多少傷ついても問題ないし】


 ここより治安の悪いところで住んでいたことのある経験のせいでこんな提案をしてくることがたまにある。


(ううん、自分で起こしたことだから。それに、コレがあるから)


 私を気遣う気持ちと自分を卑下する気持ちが入り混じった申し出を断る。その理由のものに指先で触れる。


【あぁ、その首輪】


(うん。これでカキス君に助けを求めようかなって)


 カキス君からもらった”チョーカー”の機能の一つに、通信機能があるはず。それを使って今の状況を説明する。


【……首輪?】


(チョーカー)


【さすがに無理が……】


(あぅ……)


 プレゼントは嬉しかった。間違いなく心のこもった品だと思う。……けど、形が。どう言い訳しても動物用の首なのが問題だよ……。

 しかし、この程度で落ち込む私じゃない!

 私はさっそくチョーカーに触れながらカキス君のことを強く思い浮かべる。


(カキス君……!)


 プッ。


 つながった!


『ザザ……どうした、ゆり。今回はどんな面倒を起こし「んぁぁ……! も、もぉゆるひてぇ……んひぅ!?』


 今、私の耳がおかしかったのかな? 何か妙にえっちな声|(女性)が割り込んできたような……?


「い、今ね、情報収集してたら、誘拐されちゃってね?」


 きっと気のせい! そうだよ、カキス君は生徒会長さんを看病してるはずなんだから!


「またやらかしやがって……。こうしてのんきに会話できるってことはすぐに手を出されることはなさそうだな。はぁ……なんつう事案だ「あ、あ、だめっ、足、震えて……! かはっ、うぅ……んんにゃぁ! ま、まだ強く……!?』


「そっちの方が事案だよぅ!?」


 何!? 何してるの!? 今の声艶っぽくなりすぎててすぐに気付かなかったけど、生徒会長さんだよね!? 後ろか前です、すごいコトやってるよね!?


「何言ってんだ?「お、お願いぃ……も、もぅ……やしゅまへてぇ……!」


 あぁ!? 生徒会長さんの呂律がまともに回ってない!? ど、どれだけ激しいコトしちゃってるんだよぅ!? わ、私は初めてもまだなのに……ってそうじゃなくて……!?


「ミリア、少し黙ってろ「んぶぅ!?」五年前にきっちり教えてただろう? そう、先の部分だけじゃなくて周りも……なんだ覚えているじゃないか。五年前と変わらない舌使いだな、ミリア」


 ちゅ、ちゅぱちゅぱ水音がするよぅ!? えっちぃよぅ!?


「で、今どこに?」


「も、もういいよぅ!? うわあぁーーーーん!!」


 それ以上私は通信を続けられずに、勢いで切ってしまう。何回でも使えるみたいだけど、つなぐ度に”つながっている”場面であって……。


「う、うわあぁーーん!!」


 私はただ恥ずかしさに大声を出すことしかできなかった。


 ○ ○ ○


「何だったんだ……?」


 最早誘拐された程度では動揺のない俺は”指”をミリアに加えさせたまま途方に暮れる。やけくそぎみに通話を切られたが、どうするつもりなんだか……。

 とりあえず、肉厚な口内から指を抜く。


「ぁ……」


 その指を名残惜しそうに見つめるミリアにゾクゾクする快感を得ながら、追い打ちをかける。


「だらしのない口だ。こんなに指がベトベトになったじゃないか」


 ツーと流れる粘液を本人の前にかざす。それを見て蕩けた瞳に羞恥が宿る。


「そんなの……みせないでよ」


 ヌラヌラした指から、視線を外せていない。光に魅入られた羽虫のように、見たくないと言った指に焦点が合う。

 口で何と取り繕うが、ミリアの体は正直だ。先ほどまであんなにみだらな反応をしていたのに、初々しさが失われていない。潤んだ瞳が魅力的で、可愛く思う。

 残念ながら、そんなミリアを愛でている場合ではなくなった。


「用事が出来たから、ちょっと出てくる。後よろしく」


 言うが早いか、数本のナイフをつかんで隠れ家を出ようとする。


「ちょ、ちょっと待ちなさない!?」


 反射的に叫ぶミリアだったが、俺を止めることはかなわない。何故なら、ミリアの腰は今抜けているせいで立つことができない。

 一応、解毒薬を置いていくことにした。


「リビングの机の上に治す薬を置いとくぞ」


「こ、こっちの部屋に残していきなさいよ……!?」


 その叫びを見送りの言葉として、俺はお嬢様を助けに出た。


「ゆりは……思ったより移動が速いな」


 普通に全力疾走するより早くゆりの魔力が移動している。街中で人攫いをしたにしてはあり得ない速さだ。

 誘拐した場合、まず裏路地など人目のつかない道に入る。対象を拘束し後、移動を始める。そのとき、裏路地であろうと対象を抱えて全力疾走などしない。単純に怪しまれる可能性が高いからだ。


「それを気にしない。あるいは気にする必要がないってことか」


 俺は魔力を追って林を駆け抜ける。できればもう少し分析をしたかったが、俺が捉えきれない範囲まで遠ざかりかけていたので、追うことを優先した。

 それにしても……。


「コルトがいながら誘拐されるって相当だな」


 もちろん、ゆりのトラブルメーカーについてだ。コルトの索敵を逃れるような奴がゆりをさらう理由がないはず。ピンポイントで人間違いを受けたら誘拐された。ゆりなら十分にありえる。


「……ん?」


 街にたどり着き一旦速度を落としたところで、ゆりの魔力が止まった。最初はアジトにでも到着したのかと思ったが、細かく動いた後、再び動き出した。

 今度は遅い動きだった。それが意味することは……。


「……急ぐか」


 俺は不審なその動きに、スイッチを切り替えた。


 ○ ○ ○


「いた」


 追いつくまでの間に、ゆりが動き回っていた。それも同じ場所を。その不可解な動きの原因は、


「…………」


 ヒュッ!


「ふっ! この子は渡しま、せんっ!」


 ゆりを巡っての戦闘だった。

 無表情で銀色の獲物をふるう少年と、気絶しているゆりを抱える女。どちらかが最初に誘拐をした犯人で、もう一方がそれを妨害している。


(……こっちか)


 俺は二人の間に身を滑らせる。どちらがゆりを誘拐したのか、一瞬の判断とともに。


「悪いがそいつは俺の雇い主なんだ。返してもらうぜ」


 ナイフを抜き、切っ先を向けたのは、ゆりを抱えている女にだった。


「なっ!? し、正気か!? 私はこの子を守って……!」


「確かにそうだろうな」


 武器を持っているのは少年で、この女はゆりを抱えて回避に集中していた。どう考えても、敵とみなずべき相手は後ろの少年だろう。

 しかし……、


「魔力を吸っている相手を奪われそうになっているんだ。そりゃあ守るだろ」


「!? こ、これは……くっ!?」


 女が動揺した一瞬のすきを突き、ゆりを奪回する。ついでに、ゆりの魔力を吸収しているツボを破壊しておく。痕跡はできるかぎり残しておきたくない。おそらくゆりの魔力には魔族である黒ゆりの魔力が混じっている可能性が高い。その魔力がどんな影響をおこすか警戒しておきたい。

 俺はスイッチを入れたまま、頭を回転させ続けることで、今後どうするか策をめぐらす。


「……さっさと消えろ。今回だけは見逃してやる」


 暗に次はないと睨みをきかせると、女は悔しそうな表情で屋根から飛び降りる。

 去り際に、


「私は、悪くないのに……」


 意味深な言葉を残していった。湿った風が俺の首を撫で掠める。


「さて……あんたはどうする?」


「…………」


 ○ ○ ○


「んぅ……」


「目が覚めたか?」


「カキス、君?」


「あぁ、見ての通り俺だ。ここは街の教会で、お前が誘拐されたのは一時間前のことだ」


 ゆりはタオルをしいた長椅子から身を起こし、ステンドガラスをぼぅっと見やる。


 ザァァ……!


 今、外は雨が降っている。女が消えてすぐ、強い雨が降り始めた。少年はハンドサインで『ついてこいフォローミー』を伝えてきた。それに従ってきたのが、この教会だ。


「お連れ様は起きられましたか?」


「ああ。悪かったな急に邪魔して」


「いえ。神は平等に愛せと言われました。私はその教えに従っただけです」


「……?」


「シスター・メイリオ。この教会のシスターの一人だ」


 まだ寝ぼけているのか、ゆりは何度も俺とメイリオの顔を見比べる。


「さて、さっさと帰ろうか」


 俺は長椅子から立ち上がり、荷物を持つ。


「あら、もう少しゆっくりして行かれても」


「集合時間がある。次来るときは、全員を連れてくることになると思う」


 まだ魔力を抜かれた後遺症が残っているゆりを立たせながら、入れっぱなしだったスイッチを切る。


「……えっと、ありがとうございました?」


「何で疑問形なんだよ」


 慣れない現地語でお礼を言うゆりの頭にチョップを叩き込む。


「いえいえ。それではまた、後日に」


「……あぁ」


 俺は灰色に染まりきっている空を見上げながら短く返事をした。憂鬱そうに”聞える”声音に、背後でメイリオが苦笑した気配がした。


 ギィ……バタンッ。


 俺は荷物から藍色のレインコートを二人分取り出す。ちなみに、平均を軽く下回るゆりは、子供用を用意している。


「次来るときって……?」


「…………」


 サァァァァ……!


「カキス君? 聞えてる?」


「ん……? あぁ悪い、少し考え事してた」


 霧雨に変わり、レインコートを叩く雨粒の音も小さいはずなのに、俺はゆりに腕をひかれるまで反応できなかった。

 俺は記憶をたどってゆりの質問を思い出す。


「次来るとき、の意味だったよな?」


「うん。シスターさんとは元々知り合いだったの?」


「違う違う。覇閃家とは関係ないぞ。シスターメイリオも、どうやらミストレスを追っているらしいんだ」


「え……?」


 フードにすっぽりと頭を収めたゆりが眉をひそめる。

 ミストレスがこの大陸に渡ったのはオリエンテーションから少し経った後のこと。俺が殺し逃した理由の転移から数日後、船に乗って海を渡った。それから時間がたっているにも関わらず、街での情報が少ない。もしミストレスが行動しているのなら、もっと情報が耳に入ってもおかしくないはずなのに、それがないのだ。


「少々、手のまわりが速いから気になっているんだ」


「……大丈夫、なの?」


「あぁ、おそらくは。ミストレスを排除したいという利害は一致している。完全に信用できるわけでもないが……話してみてからだな」


「そっか」


 ゆりは俺の手をとって、少しだけ強く握りしめた。


 ○ ○ ○


「それで、明日は全員でその教会へ行こう、と?」


「そうだ。情報と現地の協力者を手に入れられるチャンスだ」


 外から見てもボロ屋にしか見えない隠れ家に戻った俺は、早々にミリアに話を通した。ミリアは相変わらず俺の部屋にいて、帰ってきた俺をベッドに腰掛けつつ腕組みをして待っていた。チラリと入口を見やれば、出るときにはなかったバケツと雑巾があった。

 そういえば、部屋に充満していた空気というか”湯気”みたいなものがないというか……。


「喚起でもしたのか?」


「当然でしょう……! あ、あんな匂いがしたままにするわけがありません!」


 顔を真っ赤にしながらキっと睨んでくる。いつの間にか口調まで生徒会長モードに戻っている。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。今はミリアの判断を聴く方が大事だ。


「それでどうなんだ? 拒否するなら拒否するであっちに報告しなくちゃならない」


「……わかりました。他の皆が集めた情報をまとめて、交換材料にします」


 アゴに手をあて少しの間思案したミリアは割とすんなりOKをだしてくれた。もっと渋々受け入れるものだとばかりに思っていた。


「意外だな。もっとしぶるものだと思っていたのに」


 理由が気になるので声に出してみる。


「なによ、私が簡単に許可を出したことがそんなにおかしいわけ?」


「日頃の行いってのがあるからな」


 無論、俺の行いである。


「自覚があるなら少しは改善しようとしなさいよ……。話はそれだけ?」


「あぁ。それだけだ」


 結局理由は聴けなかったが、まぁ構わないか。

 話すことを話し終え、部屋に沈黙が訪れる。


「…………」


「…………」


 …………。


「……な、何で黙って立ってるのかしら?」


 どうしてか?


「……お前が俺のベッドに座ったままだからだ」


「あっ」


 こいつ、俺の部屋だってことを忘れてやがったな……?


 コンコン。ガチャ。


「カキス君ちょっといい?」


 ミリアが慌てて立ち上がろうとするタイミングで、ゆりが部屋に入ってくる。


「……生徒会長さん?」


「……水谷さん?」


 二人はお互いの姿を見て、驚いたように固まる。ミリアにもゆりにもおかしな所はない気がするが……?


「どうした?」


 ゆりに問いかけながら、その手元にある刃物に注目する。それを見て思わずつぶやく。


「……修羅場?」


「「「真っ先に刺されそうな人がそれを真っ先に言う?」」」


 三人に突っ込まれた。黒ゆりはわざわざ器を使ってまで突っ込んできやがった。


「だぁれが真っ先に刺されそうだってぇ……!」


「な、なんで私だけえぇえぇえぇ……!?」


 俺はゆりの小さな頭を鷲掴み左右前後にぐわんぐわん揺らしまくる。腰まで伸びる長髪も一緒に振られ、見ていて面白い。ゆりを狙った理由はそれだけだ。


「何をくだらないことをしているんだか……」


 ミリアは呆れたように溜息を吐くと、俺の手をとってゆりの頭から外す。


「さっきも言ったけど、日頃の行いのせいでしょ? 他人に当たらないの」


「……驚いた。ミリアが本当に年上のお姉さんのような立ち振る舞いをしている……!」


「長年やってたわよ年上のお姉さんは……!」


 口では茶化すようなことを言っているが、内心ではかなり驚いている。かなり久しぶりにミリアお姉さんを見て、俺は自然と口元が緩くなる。


「まったくもう……あんたもしかして昔より子供っぽくなってるんじゃない? 可っ愛げのない生意気小僧だったのに」


 ミリアは指をそろえてペチンと俺の額を叩いてくる。さっきまで喘ぎもがいていた女性とは思えない大人な対応だ。


「そういえば、あなたは何の用でここに来たの?」


 ゆりを助けた救世主は俺の部屋に来た理由を訊く。その表情にはまだ、お姉さんの顔が見え隠れしている。


「えっと……」


 まだ若干ミリアに慣れていないのか、ゆりは視線をまっすぐに合わせることができず視線が右往左往したのち、入口にあるバケツと雑巾に首をひねったあと、少しだけ深呼吸をしてから、ようやく口を開く。


「カキス君に昔話をしてもらおうと思って……」


「昔話?」


「昔話って言われてもな……」


 ゆりの言っている昔話というのは、童話ではなく俺の昔話なのだろうが、いまさらゆりに話すようなことなんてないと思うが?


「その……生徒会長さんと暮らしてた頃の話とか……」


「あぁ……そういうことか」


 確かに、それは話していない昔話だった。だが、


「それはまた今度な。今日はもう眠い」


 俺は大きな欠伸をこれ見よがしにみせつける。


「明日、時間があれば話してやるよ」


「絶対だよ……?」


 ゆりはあまり俺の言葉を信じていないのか、それとも明日はそんな時間が生まれない予感でもしているのか、快くはうなずいてくれなかった。


「……どう語ろうがあなたの勝手だけど、私に被害を出さないでよ?」


 五年前の話になって、少し不機嫌になったミリアはバケツを持って部屋を出ていく。


「……ああ。嘘は、語らないさ」


「…………」


 俺はゆりの頭を撫でながら、そう返した。


短い理由? 切りどころがここぐらいしかなかったのさ! ……それとちょうどモチベーションが下がってクオリティがひときわ低かったので部分だったので。

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