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表裏の鍛治師  作者: かきす
第二章「クラス騒動編」
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第三話 「魔力と能力講座その二」

 あれから、いつの間にかグナイがいなくなっており、代わりに抗議担当で俺たちの副担任、サーシャが来たことによって、ようやく質問攻めから解放される。


「は~い、皆~、席について~!」


 サーシャは二十代前半の年で、明るく親しみやすそうな女教師だ。長い金髪を三つ編みにして肩から前側に垂らしており、下から豊かな双丘が押し上げている。服装はシンプルなローブだが、むしろそのせいで、余計に自己主張をしているW半球に目が行ってしまう男子が、チラホラと見受けられる。

 俺はというと、机に突っ伏している。


「大丈夫?」


「なんとか、な……」


 隣のゆりの安否確認に伏したままの状態で答える。

 席については特に決まっておらず、授業開始前に壁際の一番後ろの席に座り、左隣にゆり、前にディングを座らせることで、クラスメイトとの間に壁を設けた。……授業初日で自分からクラスメイトに壁を作るとか、俺はどんなボッチだ。

 なお、このクラスの総人数は27人で、席数は40あるため、右斜めには誰もいない。

 サーシャは俺の様子で何があったのかを察して同情の視線を向けると、何も言わずに授業を始める。

 特異科に所属していたものの、普通科の教師と全く面識がないわけではなく、数人は知り合いがいる。その中でサーシャとはそこそこの知り合いだ。ルトアさんの友人ということもあり、ピースに来たことも何回かある。

 そんなわけで、俺が伏していても、サーシャは俺を放置してくれる。まぁ、知り合いだからというだけが理由ではないのだが。


「知っている人もいるかもしれませんが、属性についての説明をしますね」


 俺らに配布した教材を手に持ちながらも、サーシャはそれを一切見ずに説明しだす。


「この世界で魔力を有しているモノ、人、動物、全てには属性があります。火、水、風、雷の四大属性。木、土、氷の自然属性。そして、覇属性と無属性の計九つの属性が、現段階では確認されています。このクラスの八割以上が水属性ですので、これから水属性で例え話をしていきますね?まず、水属性魔法の代表的なものと言えば『ウォーターフォール』です」


 サーシャは手のひらの上に雨粒より少し大きいぐらいの水球を作り出し、水を流す。


「これは実際の『ウォーターフォール』とは違いますが、大体こんな感じの魔法です」


 用意しておいたタオルで水をふき取る。


「さっきの様に、水属性の属性特徴は、水を魔力で生成して、それを自在に操作することができます」


「はい、先生!」


 モブ(クラスメイト)の一人が手を挙げる。


「水属性と氷属性は何で別物なんですか? 元々は氷も水ですよね?」


「簡単なようで難しい質問ですね。それは、力で生成したからです。氷は、水が冷えてできますが、魔力によって生成した水はいくら冷えても凍ることはありません。詳しく説明すると、余計にややこしくなるので、気になった人はすみませんが、各自で調べてみてください」


 サーシャは申し訳なさそうに眉を寄せる。

 一応は聞いていたので、詳しい理由を知りたそうにチラチラとこっちの様子を伺っていたゆりに、伏せたままサーシャの言っていたことの原理を説明する。


「普通、水ってのは水を構成している最小物質の動きがあって、その動きが激しいほど水は熱くなる。その熱運動が一定以下になると、凝固、氷になるんだ。で、魔力は特殊なエネルギーで、熱運動以外の動きがある。結果、魔力で生み出した水をいくら冷やそうと、密度を上げようと、氷になることはない」


 魔力は密度に限界がない。こぶし大の大きさでも、密度を高め続ければ山を吹き飛ばすことが可能なほどだ。まぁ、その前に術者がそれを維持し続けることができるかどうかが問題になるのだが。


「自然属性ってのは……ちょうどサーシャ……先生が説明し始めたな」


 俺がゆりに補足説明をしている間に自然属性についての話に入っている。

 俺が教えても良かったが、今は集団の中にいるので、できるだけ他の奴と同じ知識を共有した方がいい。そう思ってサーシャの説明に気を向けさせようと、呼び捨てでサーシャの名前を呼んだ瞬間、嫌な予感がして首を曲げる。すると、さっきまで鼻頭があった場所を何かが通過し、後ろでパシャン! と何かがはじけた音がした。


(避けなきゃ鼻の骨が折れてたな……)


 掠った右頬から。一筋の赤い液体が伝う。

 俺が避けることを想定しての水球だったのだろうが、それでもあの速度で、何の躊躇いもなく無属性の生徒に魔力物質を撃ってくるのは教師としてどうなのだろう?

 他の生徒に全く気付かせずに攻撃してきたサーシャは、冷や汗を流す俺をサラリと無視して説明を続ける。


「自然属性は魔力が通ってないものに魔力を流して操作できる属性です。今は木、土、氷しか確認されていませんが、まだ他にもあることが予想されています。人は自然属性で生まれることはありません。その理由はいまだに解明されていません」


 そこまで一気に説明してしまうと、サーシャは手元の教材に視線を落とす。


「……次は、何故属性が一つしか使えないかです」


 一瞬、口を開いたが、いう前に止めてしまい教材を教卓の上に置く。

 俺は自分の分のページをめくってみると、覇属性と無属性について書かれてあった。


「まだ魔法や魔術を使ったことのない人もいるかもしれませんが、自分の属性以外の属性を使えた人がいますか?」


 俺とゆり以外の皆がお互いの顔を見比べるが、誰一人として自慢げな顔をしている奴はいない。隣のゆりやサーシャから目を向けられるが、俺は肩をすくめるだけで名乗り出ない。

 確かに俺は、覇属性と木属性”以外の属性が使える”が、残念ながら、必要のない情報を公開して生きていられるほど平和な人生ではない。本当に残念な人生である。


「たぶんいないと思います。では、何故使えないでしょう? カキス君」


「……どの位まで言っても良いんだ? まぁ、まだそんなに詳しいことも言えないだろうから、現象化できるほどの魔力量が集まらないのと魔力密度が低いから、程度か?」


「……分かっているなら最初からそう答えてください。それと、あなたは今、普通科の生徒なんですから敬語を使ってください?」


 若干頬が引き攣っている微笑みを向けられるが、俺はそれに気づいてないかのように言葉を返す。


「今更そんな中じゃないだろ? サーちゃ……」


「さっき彼に答えてもらったことを例えるなら飲み水みたいなものです」


 ちっ、逃げたな。

 サーシャ俺が言い切る前に俺が答えたことを分かり易いように例えを出す。一瞬、彼女の額に冷や汗が一筋流れたのを俺は見逃さなかった。

 そんな俺たちのまったくもって無駄な牽制は、一般生徒には伝わらず、素直にメモを取っている。


「飲み水に土や泥が入っているととても飲めたものじゃないですよね? それと一緒なんです」


 サーシャは黒板に輪郭だけの人体図を描き、その中に、横一列に四代属性を並べる。


「実は、私達人間は四代属性すべての魔力を持っています。その中で最も魔力量と質が高い属性が、その人の属性となるんです。というより、その他の属性が微量すぎるからなんですけどね。しかも、他属性の魔法を唱えようとすると、自分の属性がそれを邪魔してしまうんです。結果、他属性が使えなくなります」


 ただ。


「逆に言えば、唱えられるほどの質と量、自分の属性が混じらないように抑制できれば他属性が扱えます。理論上の話ではありますが、本当に複数属性を扱える人は少ないながらにもいるんですよ」


 キーン、コーン、カーン、コーン……。


「ちょうどいいですね。今日の講義はここまで。それでは号令を」


「起立、礼」


「「「「「ありがとうございました」」」」」


 サーシャの計算通りに、ちょうど良いところでチャイムが鳴り、サーシャは真面目な顔を崩して教室を去っていく。サーシャは普通に美人なので、結構モテる方だ。

 満面の笑みで額に怒りマークを浮かべた状態でなければ。しかも俺を手招きしがら。

 これが見知らぬクラスメイトだったなら、無視をして終わりだが、さすがに教師の呼び出しに応じないわけにはいくまい。

 それに、サーシャは俺と似た様な人種だ。どこら辺が似ているかというと、周りのトラブルに巻き込まれることが多いという体質が似ている。逆に言えば、面倒なトラベルが起きることはまずないだろう。安心して呼び出しに応じる。


「で、何の用だ?」


「何の用だ? じゃないですよ、カキス君」


 少し歩いてから、サーシャの背中に問うと、呆れながら振り返る。


「ここは学園で、あなたと私の関係は生徒と教師。ピースにいる時みたいにため口で話さないでください。私達の関係を勘違いされてはお互いに面倒でしょう?」


 サーシャは本気で注意しているというより、一応は注意をしたという口実を作っているだけのように見える。

 実際そうなのだろう。サーシャ的に言えば、俺とそういう関係になったとしても感情面を抜かせば良いことしかないとはいえ、本人にはまったくその気がないことは三年前から何一つ変わっていないのが目でわかる。


「その言い方自体が勘違いされそうだがな。……気に留めとくよ、サーシャ先生。だが、俺にはまだ特異科の権利が一応残ってる。まぁ、一部だけだけどな」


「そう返すと思ってました。……はぁ、もう良いです。あなたに何か言っても聞かないことは三年前から知ってましたから」


 サーシャはがっくりと肩を落としながら呆れたようにため息をつく。そのあとに続く言葉は口を尖らせながらぶつぶつと零す。

 なら一々呼ばないでほしい。とは思うものの、それを口にしたら話が長引きそうなのが分かっているので言わないが。


「そうか。……で、もう帰っていいか? あんた以上に拗ねると面倒な奴を待たせてるんだ」


 もちろん、ゆりのことである。たとえ俺がゆりをいつまでも待たせてもあいつは本気で拗ねることはないだろうが、だからといっていつまでも待たせるのは悪い気がする。

 俺が暗に、子どもっぽく拗ねていることを指摘すると、素早く口をすぼめて、何故か自らの巨乳ギルティを腕で抱くように隠す。が、半分くらいしか隠せておらず、むしろ腕のせいで柔らかさが強調されてエロい。

 これが巨乳好きの人間だったら敬礼ものだろうが、そうでない俺は突然の行動にジト目になる。


「……急にどうした? 母乳でも出そうなのか?」


「ち、違います! あなたを警戒しているんです!!」


「はぁ?」


 確かにセクハラ的発言をしたが、それはサーシャがギルティ(巨乳)の存在主張をし始めたからであって、それ以前に警戒されるようなことは言ってないはずだ。

 怪訝な顔をする俺に、サーシャはじりじりと距離を取りながら睨んでくる。その眼光は鋭く、まるで性犯罪者を見るような鋭さだ。


「ルトアが、あなたは拗ねた女性の機嫌を治すとき、む、胸を揉みくちゃにするって……」


 ピキッ!


「俺さっき、もう帰っても良いか? って聞いたよな? 俺はその男日照りが続いて疼いてる身体を慰めてやるなんて言ってないよなぁ、あぁ?」


「な、何で最近ご無沙汰なのを知っているんですか!?」


 つい、いらっとしてしまったので適当なことを言ったのだが、どうやら本当のことだったらしい。聞きたくもなかった。

 サーシャは、俺が怒りによるもの以外で顔をひきつらせているのを見て、自爆したことに気づいてハッ!? とする。


「わ、私だって好きで独身をやってません!?」


 俺だって好きでお前の欲求不満だということを聞いてねぇ。

 勝手に自爆したくせに、逆切れされる。まったくもって理不尽だ。


「あなたみたいに若い人には分からないかもしれませんけど、自分で自分を慰める悲しみが、空しさが解りますか!?」


「とりあえず黙れ。でないと亀甲縛りをした後全身ローションでヌルヌルにして理事長室に目隠ししたうえに媚薬を飲ませて半脱ぎで放置するぞメス牛」


「一切の容赦なし!?」


 そろそろ可哀そうだから、という理由ではなく、そろそろピー音が入りそうなので止めさせる。なお、もうすでに授業が始まっているので人気はゼロだ。でなければ、もっと暴露させてから止めさせる。俺一人が知り合いの性事情を聞かされるという苦行を味わうのはもう勘弁だ。


「だいたいあなたは……!」


「じゃあな。溜め込みすぎは身体に悪いらしいから気をつけろよ」


「あ、こら~! 窓から外へ出ない~!!」


 これ以上相手を続けるのも億劫なので、近くの窓からさっさと逃走する。後ろでサーシャが叫んでいるが、追いかけてはこない。


(帰ったらルトアさんに『お仕置き』をしてやる……!)


 変なことをサーシャに教えた犯人への体罰を考えながら、次の授業の場所へ走っていく。

 遅刻扱いされかけたが、「サーシャ先生がご自身の生き遅れについての愚痴を無理やり付き合せたので遅れました」といったら、グナイは同情の眼差しを俺に向けながら遅刻をなかったことにしてくれた。

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