生け贄の焚き火
シャカシャカと木を削る。
枝から削り出されたそれは目を引いた。
自分で杖を作った事もある。
巧くなるんじゃないかと思って。
だけど本職には敵わない。
本職の良い物を使ってしまえば、自分の杖との差を思い知る。
技士に進むには、果てない高みを見続けなくてはならない。
しかし、小刀で器用に削っている。
ゴロゴロと無造作に横に転がっている石は握り拳大の鉱石に見える。
純度も高い。良く見れば魔方陣も刻まれている。
石の一つを削っていた先端に適当にリボンで縛り付け少年は「ふう」と一息付いた。
「よしこれで殴ってOK」
ブンブン振り回し、にへっとにやつく。
わかるよ。自分で作った杖は最高だ。
にしても、何故殴って? 杖は棍棒じゃないよ?
「スライム、この木屑ーーもう食べてるね」
削り粉はスライムが食べている。
スライムって、変なもの食べるんだ?
使った道具をてきぱき片付け、あのカバン魔法具だ。
「♪~あ」
気付かれた。気配でというわけでなく、影に気がついたようです。
振り向いた少年は、ちょっと戸惑いを見せた。
「こんにちは」
この様子だと、誰かが教えたのだろう。
自分が探してた人だと。
「……この鉱石」
あれ、精霊の加護がついている?
「ええと、これ、最初はもっと小さいのが沢山だったんですけど、洗おうとタライに入れといたらスライムがお水と一緒に吸収しちゃって何か一つの塊にしちゃって……」
加護は学園の中の鉱山で採れる鉱石についている。もう屑石サイズしかとれないから学生の練習場だ。
スライムが一つに? スライムってそんなんだっけ?
「うわ、こら、杖まで食べちゃダメ」
うん。従獣の躾は難しいよね?
「あれ、表面ツルツルにしてくれたの?」
削ったままの木は、結構棘とかあるからーー。
何ですかね?
リボンで縛り付けたはずの石が見事に木と一体化していますがーー。
「とりあえず補習始めますよ」
気にしたら敗けです。
初等科は、まだアバウトなクラスわけだ。
自分で自分の属性に気がついて行けば良い。
三十人ぐらいの補習を受けに来た生徒に微笑む。
本当に補習の子は少なく、復習で来ている子はの方が多いだろう。
「とりあえず、何故火が最初の目標魔法なのか解りますか?」
指先に小さな火を灯しながら維持。
見てる。見てる。
二歳も年下と同じ補習を受けに来てるのは、きついと思う。
下級生の指導など面倒な事だ。
爪も指先も燃えませんよ?
燃やすへまなどーー。
真似して指先で爆発させていますね。維持は大変ですから。
「ご飯の火に困るからですね。体力維持の為に食べる必要なカロリーを生で食べるのはきついですから」
ザワザワ。
「ついでに、洞窟内の明かりに松明を灯すのに手っ取り早いでしょう? ファイヤ」
手のひらに炎を発生。
オーーと、声が上がります。
「種火を魔法で、そして燃えるものに 薪などに着火してしまえば」
ヒュンと炎を、授業前に集めるように言っておいた枝の山に投げ入れます。
生木も混じっていたので、先に水分とばす魔法も済みですよ?
ポッと炎がつきます。
「このように、焚き火はすぐできますね。ですので火魔法ははやいうちに覚えると楽ができます」
にこにこにこ
「まあ火が目的なので、雷でも良いですよ。まあぶちゃけもっと簡単なマッチを忘れないとか有りますが」
クスクス笑いが上がる。魔法じゃなくてもいいと言われたのだ。
「まあマッチが無くしたときに生肉食べる覚悟で居れば十分ですよ」
クスクスクス
「ついでにマッチ以外の用意として君たちの身近な友達が活躍してくれる場合もあります」
手をあげると従獣の鳥が飛んで来ます。
「この子は火を吹くので、マッチ要らずですがはぐれたときのために自分も魔法が使えた方が無難ですね」
クスクスクス
ぶっちゃけ自分で魔法覚えとけと、まとめておく。
「各自枝に火をつけるの頑張って見ましょうか」
炎の上がるイメージの焚き火はそこにある。イメージは大切だ。
「火の鳥、ヒトカゲ、妖狐、ヘビ……あ、しまった。全部売り払ったな。チッ」
うん。スライムが焦ってますよ?
「先生、使獣って後から火を覚えたりで来ますか?」
先生。そう呼ばれるとザワザワしますね。
「私の子は、火の他に風も操れますよ」
ニコニコ
「父上の雷竜も確か雷と風がーー」
ブツブツ
指先で爆発起こせるなら、もう少しで獲得出来そうですが……。
「アチ、ん? 熱耐性?」
おや、爆発起こして熱がらないと思ったら耐性持ちですか。
「熱」
じっと見られたスライムがプルプルしています。
「うりゃ!」
そうでした。彼は残念王子でした。
スライム焚き火にくべてどうするの?
放物線を描いて、スライムが飛んでいきます。
そう言えば他にも呼び名が……、あ、思い出しました。
魔王様でしたっけ?
「ピギャ」
焦げたスライムが飛び出してきます。くすぶってーーピカピカ光ってますが何ですか? あれ。
「お、自動回復来た」
他の子の視線が、自分達の従獣に向かってますが、ちょっと待て!
ポーン、ポーン、ポーン
「ビギャ」
「ぐぎゃ」
「ピギッ」
なんだ、これ。なんの授業だよ?
「君ね、火魔法のサポートをお願いしたが、回復魔法は本来もっと先に教えるカリュキュラムなんだよ」
「はあ」
焚き火にくべられた従獣を治療しまくることーー気がつけばそれをお手本に魔法を覚えた子がチラホラ。
実際焦げて火魔法を覚えたり、恐怖から魔法を獲得した従獣もチラホラ。
スライムは何度も火にくべられ色々覚えていた。
火を遮断するのに風魔法。
火を消すのに水魔法も覚えたが、焚き火は消せなかった。
それから追いかけつこを始め、素早さアップ。
いや魔王様、十分素早いですよ?
ハハハ。
なのに何故か最後は仲良く帰って行ったが、謎だ。
「ごめんなさい」
図書館で、謝られた。
うん。可愛い。このまま抱き寄せたら殺されるかね? 後ろの二人に。
番犬が睨んでいるよ?
残念王子。頭のスライムが花を飛ばしているよ?
いや、花の茎食べてるのか?
「そう言えばスライム、火魔法覚えたんだっけ?」
ビクンとスライムが反応する。
「えーと、覚えてないかな」
「次は雷の授業だけど、気にせずおいでよね?」
番犬! 睨む前に自分が教えると言い出せない技能を磨け!
ウケケ
はっ
次回は焚き火はやめておこう。
雷で火起こしは避けるか?
「えーと、次回も代理頼まれているのですか?」
うん?
「ーー先生は何時も代理授業だって、何回か基礎魔法出たけどみんな違う代理の方でしたから」
そう言えば、何時も押し付けていたな。
こら、番犬! 声を出さずに爆笑するな!
「あ、そう言えば、今日はいますか? ウィリスさんって方」
残念王子。そこ真面目な顔して探しまわるな!
その日、因果応報を学習した魔法使いがいたとか……。