従獣育成進化論
捕まえたウサギ、ネズミ、ネコ、犬、もぐら、キツネ、タヌキ、リス、イタチ、ヘビ、トカゲ他。書き出すと切りがない。
スライムはいなかった。
迷子届けの依頼があった子は洗ってから事務局に届ける。
選別は鑑定で。
学園は広いからうっかり迷子になる従獣が結構いる。
ついでに名持ちも洗って事務局へ。
迷子は速やかに届けるのが決まりだ。事務局には鑑定の上位スキル持ちがいるから飼い主は判明するだろう。
悪質な場合、ペナルティがかせられる。
「器用が上がる」
鑑定で能力の高い個体も洗って納品。
従獣として貰われれば生き延びれる。
「流石、マロンの薬草食べた子は能力高いよ?」
従獣育成に効果を期待出来そうだ。
頭上のスライムがぽよぽよしている。
「お前、はしゃいで落ちるなよ?」
独り言を呟き、残りの檻を見る。
「毛皮になりそうなの」
びくびく
「肉になりそうなの」
フルフル
「ええと珍味?」
ウルウル
「素材ーー」
ピシッ
「お前、何処が素材になるんだよ」
いちいち反応するスライムに苦笑い。
「だって全部は飼えないよ」
被害が出た以上駆除をして行かないと自然も壊れて行く。
フルフル
ウルウル
もふもふが丸くなってプルプルしています。
「はあ、しょうがない」
もふもふには弱い。
一部ツルツルもいるけれど。
捕獲した責任である。
☆ ☆ ☆
市の日、隅っこに陣取ったショップが混みあつていた。
可愛いリボンを結んだペットショップである。
リボンは魅力をアップする効果がつけられていたが、それよりも売り子が人目を引いていた。
「うし、完売」
呼び込みの声にフラフラと集まったお客に相性の良い動物を進め、そして気がつけば持ち帰っていた。
「押し売り? 後で捨て子が増えたりしたら問題になるわよ?」
マロンのジト目にビィは微笑む。
「ちゃんと欲しい人に上げてるし、しつけされてるし」
「それよりリボン約束よ」
「へいへい」
リボンは外して別の個体につけても効果は発揮しない。
只のリボンになってしまう。
「ネズミが完売は絶対変よ」
とはいえ。完売は事実。
「あれだけのリボン、良く作るわよ」
「ん? いやアッシュ誘って蜘蛛玉取りに行ったら山ほどとれたし」
「蜘蛛玉」
蜘蛛玉は、蜘蛛が獲物に糸巻き巻きして動けないようした玉だ。
もちろん蜘蛛が快く盗んで行くのを見ているわけない。
「コンラッドに解すの手伝って貰ったし」
解して糸にする。
「ロバートと機織りして、兄上が染色して」
ハイハイ。染料を分けてくれと言われてピンと来たわよ。
乱入したらもふもふがすごい事になっていたわよ。
「刺繍してみたらパーフェクト?」
この残念王子は判っていない。
「薬草の被害が減ったから万歳よ」
野良の毛並みのキューティクル。
魅力のかかったリボン。
どうしつけたのか謎な躾。
ヘビとかトカゲが待てをするのよ?
そしてもらってくれた人を主と認めてついていく。
「アー、鳥は捕まえ損ねたからね。後は鳥の被害かな」
「網でもかけるわ」
「今度兄さんに鳥の捕獲頑張って貰う?」
「おほほ、またここに店開くの?」
商業ギルドの職員が徘徊する。護衛の身にもなって?
「マロン。幾らなんでも学園割り当てを連続で獲得は難しいよ」
商品代として寄付していった総額を見たら毎回出展して欲しいと思うわよ?
残念王子! 叫びたいわ!
「そうよね。きっと来月は野菜が沢山」
「うん。マロンの薬草もいっぱい取れる頃だよね」
うぐぐ。
アッシュ、貴方の苦労がわかるわ。
「アッシュたらバッサバッサ蜘蛛を倒してすごかったんだよ。絶対兄上の腹心になれるよ」
不憫なっ!
☆ ☆ ☆
「すみません」
図書館で声をかけられた。
自分に声をかけてくる強者は余りいない。
視線をあげると、スライムが頭に止まっている。
「何ですか?」
「ええと、人探ししているのですが」
人懐っこい笑顔。
「図書館で?」
「ここにいることが多いそうで」
「ふうん、誰?」
探し人は自分だった。
本人にこの人はどんな人と聞くな。
「参考までに探してどうするの?」
マナーのなってない追っかけが増えるのはごめんだ。
「あー、これなんです」
「婚約者がいるけど…………、何ですか」
女性は時々良くわからぬ事に燃える。
差し出された用紙の一行目のランキング名に頭痛を覚える。
「女性は有能な異性をかぎ分ける特殊能力があるんですよ」
嫌な能力だ。
「まあ上位陣は見た目重視みたいなんですけどね」
ミーハーだからな。
「だからな下からどんな人か聞いてまわっているんですけど、何故か女性に聞くと教えて貰えなくて」
「使獣に捜させれば簡単だろう」
「あ、僕、従獣はまだーー」
スライムが凹んでいる。
何処かから雄叫びが聞こえる。
「……探されてるみたいだが」
「うるさくてごめんなさい。見た目は最高なんですけどね」
別の雄叫びも聞こえる。
「兄上」
ため息。
「すみません。失礼します」
呪いのアイテムを山ほど付けて、それでもまだ魅了する。
「女の敵だな、ありゃ」
目眩がする。離れて行く足音。
気配。
アピールしたらまだ側にいてくれるだろうか?
いやいや。何を考えている?
「ハイハイ」
べしっ
見知らぬ女が何かを投げつけた。
「リボン?」
「あの子の手作りよ。だから叫ばないで」
「マロンさん。このリストは何ですか?」
「おほほ。有能な男リストよ?」
何時ものんびりとした外見、雰囲気。
その実態は。
「所でこれ、マロンと名入ですが」
「自分の名入が欲しいなら自分で頼んでよね」
「そうする」
「因みにあの子、魔法の実技最悪だから」
語尾にハートマークが飛んでいるのは気のせいだ。
「見てあげると、側に居られるわよ?」
おほほーーと去って行く。
あんな護衛をつけられて不憫な!
と。魔法?
「魔法なら誰にも負けない」
ニヤリと笑みがこぼれる。
剣技や武術はあのリストの上位陣には敵わない。
それでも魔法は、魔法ならーー。