攻略って美味しい?
「貴方、コンラッド攻略したんですって?」
翠の髪を後ろで緩く編み上げたマロンが、書類の束を前にかかえ入室一番に発した言葉がこれだ。
「何故私が攻略したことになっているのだ?」
「あら、違うの? 人気度高い順番に口説いてるとか」
書類を机の上にボスンと放り出す。
「人気度?」
「これよ」
ペロッと一番上の紙を目の前に差し出す。
「婚約者がいるけどお近づきになりたいランキング?」
「二位はコンラッド。で一位のアッシュは既に貴方のシモベ」
「なるほど、三位はロバート、四位は兄上か」
「そう是非に兄上の攻略ポイントを取材しても?」
身を乗り出して来る辺り結構本気らしい。
「取材なら婚約者にして下さい。兄上が自分で選んだ方ですよ」
「するわ。とりあえずコンラッド攻略はどうやって?」
「……偏食を治すために化蛍草のスープ食べるから、寝込んだら後を頼むと」
「うわ」
身を乗り出して目をキラキラしていた彼女はため息を付いた。
「念のために聞きますが、食べてないわよね?」
「食べてたのはこいつ」
とスライムを指差すと、体内に消化中の破片がまばらに見える。
「やだ、この子、魅力アップしてるわよ? 化蛍草で魅力アップはないわよね」
「ん?」
スリスリ
「……スライムも攻略しているの?」
なんとも言えぬ視線に居心地の悪さを覚えるが、ふぅと息を吐くと足元に刷りついている狐をつかみあげる。
「そうだな、従獣をたらすのもいいかーー」
「いやぁぁ」
シュバッと狐を奪い取る。
「この子は私の!」
ガルルと本気の威嚇を見ながら、乙女の威嚇等とスキル名を少年は考える。
「徹夜明けの割に元気そうだな。それなら」
「ダメダメダメ! これから畑の見張りよ!」
独りでブンブンと顔を振り、振りすぎて気分を悪くする。
「朝見たらね昨夜は食べられていなかった子が食べられていたのよ!」
どうやら寝ている場合じゃないらしい。
「と言うことで結界の報告書。後よろしく」
☆ ☆ ☆
ビィが負けず嫌いなのは知っている。
なんでも一生懸命。しかし、頑張ってますアピールはしない。
なんでも出来て当たり前が周りが要求した期待値だった。
比較対象はいつも優秀な兄(身内)。跡取りとして教育された子と年の離れた末っ子に同じように教育したつもりでも手綱は大分違うのは仕方がなかったかもしれない。
しかし周りは今の兄たちと同じスペックを期待した。
実際、家庭教師たちも従業員たちも家族すら他の兄弟たちと違いなく特に問題もなく幼児教育は消化された。
問題が浮上したのは学園入学後、なんでもそつなくこなしていた彼が魔法が使えない事に直面した。
時々不器用な子が感覚をつかむまで苦労する場合はあるものの、大抵数ヶ月で使えるようになった。
当初意外な不器用に微笑みを覚えた教師たちは、更なる難題に直面する。
魔法以外、そつなくこなすにもかかわらずスキル獲得できなかった。
当初、家庭教育で簡単なスキルは取得済みだと思われ彼に告知音や光が出なくても気にされなかったのもある。
単位テストでスキル数に問題があることが発見された。
全く何も覚えていなかったからだ。
あの時は通常補習と特別補習が組まれ、朝から晩まで教師たちを悩ませた。
もっとも、ペーパーテストの総合点数で規定単位が既にクリアされると何処かあきらめが出た。
「足りない単位は他で頑張ればいい」と言うのも元々の学風だったからだ。
スキルがないにもかかわらず、何でもこなしていく彼を残念な子と囁かれ「残念王子」と影で呼ばれるようになった。
誰も直接そう呼べる強者はいなかったので、あくまでも影でである。
朝から彼の噂話は聞く。いつもの日常は少し違った。
「コンラッド攻略」何の話だと思えば朝の食堂で並んで食事した話だ。
もっともコンラッドにはきっちり確認した。
「ビィが化蛍草食べない様に世話した」と。壁際で涙目をしたコンラッドはビィが化蛍草を食べると半日具合が悪くなると付け足した。
食事もスキル獲得上しょうがないものがある。
彼は良く体調を崩したが、最近は安定していた。
「食育か」
何時からか「偏食大魔人」と言われ出したが、その頃から寝込まなくなった気もする。
「なるほど」
とんだ穴があったものだ。
「知らずに料理して出したな」
実習中に出された料理に手を付けなかったはずだ。
もっとも理由を言われても、他の食材調達が難しくメンバーを困らせただろう。
「ビィ」
ドアを開けると何時もは書類を手にした少年が目にはいる。
が、その日は違った。
翠の紐で何かと遊んでいる。
「何やってるんだ?」
紐の端をつまみ、反対側には透明な物体がふよふよしている。
そう言えば「コンラッド攻略」以外にも噂話があったような。
「アッシュ、ノックぐらいしてよ」
ちょっと焦ったビィが見れた。
それはやはり遊びだったらしい。