朝のカラータイマー
目を醒ましましたら目の前に美形の寝顔。
はい。びっくり!
うっかりチュー(唾付け)しようとしたら、不穏な気配を発していたのか目を醒ましてしまいました。
ちっ
ええと? ベットの上です。彼は瞬きして目の前の僕を見ます。
ヤバい。とりあえずスリスリしとこう。
頬っぺスリスリ
スリスリすべすべ。
お肌すべすべ。
彼は起き上がり、頬っぺたにくっいた僕を剥がします。
「おはよう?」
なんか疑問系な言葉がかけられます。
ボーとしながら、ポイと放り投げられ枕にダイブ。
彼は身支度を始めました。
いや、男の子の着替え観察しても微妙ですか。
いや、僕は僕ですけど性別ないですけどね。
ごほんごほん。
何故かダサいメガネをかけます。
冴えない変装なのでしょうか?
変装?
ピコン
ウム。何か鳴りました。
気にしない、気にしない。
彼がじっと見てますが、気にしない。気にしたら敗けです。
ピコン
ピコン
ピコン
あの音はカラータイマー!
気にしたら敗けです。
☆ ☆ ☆
長い廊下。彼は優雅に歩いていますが、肩にスライムを乗っけています。
余り誰も気にしません。何故なら大体手乗りサイズの小さな生き物を身に付けています。
この場合、小さくした生き物が正しいのでしょうか。
手のひらサイズの馬とかも居ますから。
うん。馬が普通サイズでいたら邪魔ですね。
だから小さくしているのでしょうか?
大きくて小さく出来ないのはお部屋待機なのでしょうか?
「よう、ビィ」
彼は少し振り返り、それでもそのまま歩き続ける。
「ビィ、待てよ」
「廊下を走るな」
息を弾ませ「あはは」と苦笑いする。
追い付いてきた少年も、なかなか美形の部類でしょうか。
紺色の長めの髪。ウム。美味しそうですが、横でサラサラしている髪の方が美味しそうです。
あむあむ。
「マロン隊はがはっちゃけてたのって、お前の指示?」
視線が交差しています。
目だけで会話?
「どっちにしても今月は当番だろう。しっかり見回るよう多少は葉っぱをかけたがクレームなら計画実行した自分の隊長に言え」
「火の付いたマロンを誰が止められるんだ?」
「知らん」
あむあむ。
「虫が湧く度に大騒ぎして飛び込んでくる前に殺虫剤しとけと言いたくなる」
「いや、一応無農薬目指しているんじゃなかったか?」
「だからネズミやもぐらに狙われるんだ」
「薬草の売上はなかなか優秀だろう」
「まあな」
薬草学科のマロン。植物に命をかける乙女である。
昨夜僕を捕まえた少女だ。
「ところでビィ、髪食われてるぞ」
「ん?」
あむあむ。ん?
引っ張られてプチと髪が切れます。
身体の中に、髪が残ってます。
タラリ
「腹が空いたのか。直ぐ食事だぞ」
優しく撫でて彼は気にしません。
良かった。
☆ ☆ ☆
食堂は人が沢山いた。まあ廊下にも人が結構居たけれど。
トレーに料理を乗せ、テーブルに付く。
隣に陣取る紺髪の彼。
名前はしらない。
コンでいいや。コンと呼ぼう。
「ところでこのスライムどうしたんだ?」
「マロンをが薬草を荒らした犯人だと捕まえてきた」
「ヘエ、良かったな。その場で消し炭にされなくて」
「彼女も学習したのだろう。前回は大事な薬草毎消し炭にしていたからな」
僕をテーブルに置くと、サラダを身体の上に乗せてくれる。
身体の中に引っ張り込み、消化開始。
ご飯です。
ピコン
「ええと、じゃあこいつはマロンのもの?」
つつかれます。
「未契約だから、調査後はマロン(発見者)に戻されると思うが」
ポイポイとサラダの切れ端が沢山降って来ます。
「問題は外から紛れたのでなかった時だ」
ピコン
「隙間から入ったんじゃないのか?」
「スライムの生息地は周辺にないだろう」
「うわ、やな展開」
「……活躍して足りない単位の補習に丁度良い」
サラダの次は骨が落ちて来ます。
あむあむあむあむ
「なぁ、これさっきからピコピコ光って……あ」
ピコン
「……」
「……」
僕を持ち上げたままコンは固まりました。
「……うわ、料理スキル来たっ」
「良かったな」
「いやいやいや。料理スキル持った女の子二人ぐらい誘って次の実習に行く予定だったんですけど!」
「……前回の失敗を考慮したグループ選抜は良いが、確か女の子は非力で体力ないから嫌だったんじゃないのか?」
「消し炭の目玉焼きはもっと嫌だと全員一致した」
よほど酷い目玉焼きだったらしい。
うん。食事は美味しくあむあむ
「……それで気になる女の子誘って実習中に口説きか?」
「しねえよ。婚約者に殺される」
コンの彼女は強者らしい。
なら同じグループに成れば良いのに?
「……なぁ、ビィ。俺らのグループに来ないか?」
「お前たちの階層と違いすぎるだろう。ペナルティ払ってまで入れる利点は説明できるのか」
「お前の運MAXで十分」
デロン
「なんかスライム溶けた」
「お前が握り潰したからな」
「うひ、あれ」
うにょうにょと指の間をすり抜けテーブルで球体に戻る。
「……」
そっとコンの手が延びてくる。
ピョンピョンかわしてスープの中へ。
「ああ、水分欲しかったのか」
あむあむ
「お前、偏食治せよ」
「……化蛍草のサラダにスープ食べたら気分が悪くなる」
げふっと周りから噎せる音が。
「軽微毒だな。耐性系のスキル目的だろ?」
「私は無理だった。半日寝込んでも良いなら食べるが? 代役を頼んでも?」
コンは青くなってトレー毎持ち上げる。
「いやいやいや、無理無理無理っ」
ブンブンと顔を振り、自分に視線が集まっているのに気が付き咳払いをして座り直す。
「お前の仕事三人でやっても終わらないだろうが」
「……私一人で処理してますが」
「食べないで良いから! 食べられるのは何だよ? 魚は食べていたよな? 肉は?」
「大丈夫」
「うしゃ、食え」
と自分の皿を差し出す。
周りの視線が十分集めていたが、あれこれと世話をする。
ひそひそとざわめきに気が付きもせず、コンはすこぶる軽快にエスコートを発揮した。
ピコン
「うお、なんか来た」
「注目、敵の目を自分に集中させる。なるほど」
「ビィにも来たのか? ん? 注目?」
そこで始めて注目されていたことに気がつく。
「なんで注目されたんだ?」
はてなマークを浮かべながらコンは「まあ良いや」と呟きニコニコしている。
これが抜ける恐怖の方が勝っていた。