二日目~三日目 新人の仕事
話はそれで終わりだと言わんばかりに、立ち上がり部屋からアマメさんは出て行った。
一体、どうしてこうなったんだろう?
こんな廃れた世界に送られてきて、何をするでもなくただ七日間経つのを待つだけ。
そんなので……いいのかな?
ここで何かをしようとしても出来ないことはわかる。
ここに連れてこられたときだって、一瞬で数百メートルを移動するというよくわからない状況だったし、まず人間技じゃない。
あれは特殊能力なのかなんなのか、聞く必要がある。
それに、あれ。
黒いやつら。
お日様に当ててたら危害加えて消滅するとかわけわかんない。
「う~ん…………」
考えていてもよくわからない。
だけど考えずにはいられない。
そんな意味がないことをしながら、二日目が幕を閉じた。
「朝だ。オキロ」
風通しが良すぎる個室のベッドで目を覚ました私は、誰かに起こされていた。
知らない人だ、っていうかまあアマメさんとエリスさんしか知らないけどね。
「新人は水汲み、ハヤク」
なんかもう、すごい耳障りな声。
甲高くて、耳がキンキンする。
慌てて耳を塞ぐけど、土臭い手で腕を掴まれた。
そっと瞼を開くと、さわやかな朝の陽ざしが部屋に降り注いでいた。
天井に、穴がいくつも空いていた。
「へ?」
穴はどれも大きい。なにかで無理やり破壊しようとしたような跡だ。
生まれてこのかた、視力は数値では表せない地点にまでピントが合うように出来ている私の目は誤魔化せない。
寝ている間に、誰かに襲撃されていたんだ。
多分。
「はよ、コイ」
腕を引っ張られて、部屋を飛び出た。
何この人、力強い。
担がれて、あっという間に城から飛び出し、最終的にどこかの井戸らしき場所で降ろされた。
「これで、クンデ」
どこからか取り出した瓶。
えっと、井戸ってどうやって使うの?
「使った事、ナイノカ」
あたふたしていると、目の前で実演してみてくれた。
おお。テレビで見たあれだ。
紐を括り付けたバケツを落として、引き上げる。
紐はかなり長く、優に十メートルはあるだろう。
腕力やば。
「ほれ、ヤレ」
引き上げたバケツから瓶に一滴も残さず流し込むと、バケツを手渡された。
え~っ、マジィ?
いやいやいや。テンションがおかしい。
落ち着け、落ち着くんだ。
目を閉じて、素数を数えろ。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹、羊が五匹、羊が六匹………………。
「寝るな!」
ばちこん!
小気味よい音が鼓膜と脳内に響いた。
痛いよ。なんなのこの状況。
「はよセイヤ」
わかりましたよやればいいんでしょ!
さあ木でできたバケツを井戸に放り投げてスタンバイ。
腕の力を振り絞り、引き上げる!
「うっおおおおおおおおお!」
腕が悲鳴を上げる!
痛い! 落とした!
「つ、吊った……」
ここまで私に筋力がなかったとは、びっくり。
「お前、やるきアンノカ?」
やめて私を責めないで!
おかしい筋力をしているのは貴女たちだから!
ヘルプアマメー! ワタシイマセメラレテマス!
「す、すみませんでしたぁ……」
あれ? 私ここでは何もできなくないですか?
まさかのプー太郎?
マジかよ…………もう帰っていいですか?
よし帰ろう。
「逃げんな、ヤレ」
異世界って、辛い。
***
「あのねえ夏凛ちゃん。異世界から来たって言っても、甘えさせることは出来ないんだよ。比較的力を必要としない水汲みをあてがったっていうのに、それすらもままならないようじゃあ……」
怒られてます。
アマメさんに。
「まあ今日は腕動かないだろうし、ゆっくり休んでな」
その優しさが痛い。
本当に、痛い。
次回更新は未定となります




