プロローグ
作者は男だけど女主人公が書けるのかを試した作品です。
この物語の主人公は作者の願望90㌫と妄想10㌫で完成されています。
「こんな女の子いねーよ!」と突っ込んでいただけると幸いです(幸い?)。
私は至って普通と褒められて(・・・・・)育った子供だ。
家庭環境は少し特殊だけど、久しぶりに会った友人に『相変わらず普通だね』と言われるくらいには『通常』らしい。
まあ、いつも褒め言葉として受け取っている。
いちいち怒っていてもしょうがないし、17歳になった今では流石に慣れた。
そんな私は中学生の時に一度告白されたことがある。
……『女の子』にだけどね、しかも幼なじみ。
いや、もちろん了承したよ?
私にはもったいないくらいかわいいし、私にはもったいないくらい器量が良かったし。
接吻まではいったけど、高校が別になったから別れた。
幼なじみは彼女作り直したとか聞いたけど、もう完全に他人だ。家も遠くなったし。
未練とかないように、ハサミで縁を切ったから問題はないと思う。
縁って不思議だよね。ハサミで切れるんだから。
そんな『普通』の女の子こと私、矢代夏凛は今日も元気に電車で学校に通い、教室に入った途端非難の声を浴びせられ、事情を聞くと私が濡れ衣を被せられていて、次の日には学校から退学通知を出されてしまったんですけどね。。
大丈夫、まだ完全に退学したわけじゃない。私は濡れ衣を被せた犯人を捕まえて退学を取り消しにしてやるんだという意気込みで学校敷地内に足を踏み入れて──
──警備員に入るなと言われてしまいました。退学手続きは全部書類!? ナニソレ新しい退学方法ですねってちょおおおお!
警備員に学校外へ追い出されながら私はふと思った。
──こんな人生なんて、人並みで、平々で、在り来りで、人並で、尋常で、凡庸で、普通で、一筋縄で、在り来たりな。まるでいつも昼にやっているドラマのようなものだなと……
…………私は……思った。
***
家に帰った、電車で。
私が住んでいるのはマンション最上階の一室。
4LDKとなかなか広いが、その部屋の殆どは本やゲームパッケージで埋まっている。
私はこれに書斎と名付けたが、見る人が見ればわかるだろう。
壁全面に貼られた美少女ポスター、本棚に並ぶエロゲー、フィギュアケースに入れられた無数の人形。
完全にヲタク部屋だ。
台所以外の場所はこれで埋まっている。
いやー親の財力が凄いとお小遣いが多くて、趣味に使える金額が多いんですよね。
でも、私ってば高校退学させられたから絶対に家追放されるんですけどね。厳しいから。
貯金はそこそこあるから逃げようと思ったけど、両親とも裏世界系の職業でしてね。
追跡の腕は世界一と豪語するほど標的を見つけるのが早いんですよ。
みんな小さい頃、かくれんぼという遊びをしたことがあると思う。
私はそんな親から受け継いだ遺伝子が発揮されたのか、幼稚園にいたころ見つけるのは凄く上手かった。
ってな事情で、逃亡は不可能。
諦めてパソコンでエロゲーでもするか。
え? 高校生ってことは15~19歳じゃないのかって?
……人間ってダメって言われているほどそれをしたくなるものだよね。てかこれ男性用だけど女だってこういうゲームやりた(このセリフには一部の方に対して激怒されそうな単語がありましたので自重させていただきます)
***
ようやく全イベント出したったぞー。
凄く疲れたのでジュースでも飲むか。
っておい、冷蔵庫に何も入っていない!?
冷凍庫にはキュウリとジャガイモ。
ジャガイモいやああああ! (実際にジャガイモを凍らせてみたら分かります。未成年の方は保護者様の許可を取得してから実験してください。また、それらで発生した被害におきましては私は一切の責任を負いかねますのでご注意ください)
……仕方ない、マンションの近くの自販機で買ってこよう。
寒いので厚手の上着を羽織る。靴は運動靴。
秋になってきたからか、夏の暑さが恋しい。熱すぎるのも嫌なんだけどね。
エレベーターで一階に降りて、マンションを出る。
月がまんまるだ。そういえば今日十五夜か。
さて、いつまでも江戸時代の人のように月を眺めているわけにはいかない。自販機のところまで走るか。
すっごく寒いから、とにかく身体を動かしたい。
マンションとマンションの間の大きい道路を走っていると、自販機の光が見えてきた。
これこれこれですよこの光!
まるで神や天使が舞い降りた時の後光のようだ!
でも誰かいるな。人影が二人分闇に浮かんでる。
身体の大きさから見て、男の人と女の人かな?
「えっ?」
思わず声が出てしまう。
影になっていてよく見えないが、身体が大きい男っぽい人が背の低い方に鋭いものを刺していた。
大きい人がそれを引き抜くと、女の人から吹き出した液体が自販機に付着して自販機の光が遮られ、街灯の光で照らし出された。
男の人が手に持っているのは……刃物? 槍のような細く鋭いものだ。
女の人は崩れ落ちたまま動かない。
男は首をきょろきょろと動かして私の姿を目視した。
み、見られた!
、貼りつけたような笑顔を浮かべながら、こちらに向き直った。
心ここにあらずといった感じで、目が虚ろだ。
「見たな」
「は、はいっ!」
なんで答えた私!
襲われるのは目に見えてるじゃん!
私のばかっ!
「すぐに楽にしてやるからな……」
「い、い……」
いやー!
女性独特の、一部の男性にしか出せないソプラノボイスがマンションとマンションの間を反響し駆け巡る。
深夜でも起きている人はいるだろうから、助けを……
「そんなに殺されたいか!」
距離を数秒で詰められ、私は刺された。
そこからの時間の流れが遅く感じられ、走馬灯が流れ出す。
うん、これまでの人生。悔いしかないよ!
特に中学生の時の『エンチャント吉原事件』が!
仰向けに倒れた。口の中が鉄の味で満たされる。
目を開けたまま一人で後悔した。
──外に出なけりゃ良かったなぁ。
男が逃げて行った後、しぶとく私は生きていた。
身体は動かせないが、意識はある。このままだと死にそう。
ふと、目線を動かしてみると自販機の傍に倒れた女の人と目があった。
肌は褐色で栗色の髪をしていて、とても顔が整った綺麗な人だ。外国人かな?
私に向かって、口を動かしている。なになに?
「ご……ん…………さい……まき……こんで」
自分がそんなひどい目に遭おうと、私に謝っていた。
私よりも傷は深く、よく見ると内臓が飛び出ている。声出しちゃダメだよ。
「お……びに…………」
お詫び?
その状態で一体なにが出来ると?
「たし……のかわ………………に……いきて」
それって、どういうこと……?
女の人が必死に手を伸ばし、もがき、這いずり、血を吐いてまでして私の元まで辿り着く。
ニッコリと私に向かって笑いかけると──
──不意に、私の口元に自分の唇を押し当てた。
次の瞬間、私の視界が暗転した。
眠くなり瞼が閉じ、全身の力が完全に抜けた。
そんな夢心地のまま私は意識を失った。
綺麗な丸い月が浮かぶ、初冬のことだった。
少ししてから到着した警察官は、不思議そうにこう述べている。
「確かに血痕は二人分あったんですよ。一人であんな量の血を流すなんて考えられません。でも二人分、どちらも死体が動いた後は残っていませんし、袋で死体を持ち去った形跡も見当たりません。これは調査を進める必要がありますね」
ニュースで流れたこの言葉により、様々な予測がネットやテレビで紹介されたが真実に辿り着いた者はいない。
あらすじにも書きましたが、毎月16日0時更新予定です。
更新間隔を毎年か毎月の迷どちらにしようか迷いましたが「……いや、毎年はないわ~」って自分にツッコミかましながら投稿しました。




